写真道>写真表現の視点
<前 次>

ノートリミングにこだわろう

 デジタルカメラの高解像度化により、トリミングしても画質が低下しにくい状況となってきました。それでも、ノートリミングにこだわって撮影している人がいますし、私もその一人です。なぜノートリミングにこだわるのか、その本当の理由を、そして非常に重要な理由を解説してみましょう。

トリミングしても画質低下が問題ない状況になった

 デジタルカメラの進歩は、凄まじいものがあります。コンパクト型でも、1000万画素を越える機種が登場し、解像度だけならライカ版の銀塩を越えてしまいました(さらに凄いことに、この差は今後ますます広がるでしょう)。こんな状況なので、必要な解像度は、トリミングしても得られます。

 では、トリミングしたときとしないときで、得られる画像に違いはあるのでしょうか。具体的な条件を決めて、細かく比べてみましょう。

 機種は何でも構いませんが、レンズ交換できるデジタル一眼レフを用い、50mmレンズを付けて撮影したとします。写した画像をトリミングすれば、より望遠側のレンズで撮影したのと近い画像が得られます。ここでは仮に、70mmレンズで撮影した範囲をトリミングしたとしましょう。少し大きくトリミングした状況を比べたいので。

 比較の対象となるのは、70mmレンズで撮影した画像と、50mmレンズで撮影したものをトリミングした画像です。写る範囲、遠近感などは同じになるはずです。同じ絞り値で撮影したとすれば、被写界深度に少し差が生じます。50mmレンズで撮影した方が、少しだけ深くなります。しかし、その差は絞り値の選び方で調整できるので、なくすことが可能です。

撮影時に最適フレーミングを求めることが、ノートリミングの本質

 こうして比べてみると、トリミングして何も問題ないように思えます。確かに、画質だけを比較するなら、そういう結論に達するでしょう。でも、ノートリミングにこだわるのは、画質に関係のない点を考えてのことです。それは、写真表現に大きく関わる点です。

 トリミングで消える範囲が大きいほど、トリミング前とトリミング後で、写真の持つ雰囲気が変わります。その程度は被写体によって異なりますが、トリミング前に(つまり、撮影時に)予測するのは、雰囲気が変わる度合いが大きいほど(通常は、トリミングで消える範囲が多いほど)難しくなります。

 また、トリミングした後で、撮影する方向などを変えたいと思うことが多くあります。主役を写す方向とか、主役と背景の重なり具合とか。このような点が気になるのは、完成度を少しでも高めたいと思うからです。でも、トリミングでは、撮影する方向まで変えることができません。

 以上のようなことを防ぐためには、ノートリミングを前提として撮影するのが一番です。撮影後にトリミングするのではなく、トリミング後の範囲を撮影時にフレーミングしてみて、その場で調整するのです。そうすることで、細かい点まで最適な条件で撮影した写真が得られます。ノートリミングにこだわるのは、作品の完成度を少しでも高めたいからなのです。

仕方なくトリミングする状況もある

 ノートリミングにこだわっていても、それができない状況もあります。その代表例は、次のようなものです。

・持っているレンズでは、必要な距離まで寄れない
 (最短撮影距離が足りない、望遠が不足するなど)
・被写体やカメラが安定せず、狙いより広い範囲を写しておきたい
 (被写体の動きが早すぎる、手持ちの超マクロなど)

 すべてのレンズを毎回持って行けるわけではありませんから、手持ちのレンズで、必要な距離まで寄れない状況が生じます。最短撮影距離が足りないときと、近づけない被写体で望遠が足りないときです。これらが何度も発生するなら、持って行く機材の見直しが必要でしょう。マクロレンズを持つなどの機材に変更するか、クローズアップレンズやテレコンを加えることで対処できますので、仕方なくトリミングする状況を減らすことが大切です。

 被写体が激しく動いたり、フレーミングが安定しない場合も、トリミングを前提として撮影することがあります。蝶のように予測しにくく動く被写体は、きっちりとフレーミングして撮るのは極めて大変です。狙いより広い範囲を写し、後でトリミングするのが現実的な撮り方でしょう。また、当倍以上のマクロでは、風で被写体が動いたり、手持ちでフレーミングが安定しません。同様に、超望遠の手持ち撮影でも、フレーミングが安定しません。このような撮り方でも、狙いより広い範囲を写すことで対処しがちです。できる限り、三脚や一脚を使うとか、手持ちでも安定する持ち方を見付けるとか、フレーミングを安定させる工夫をしましょう。

 以上のように、トリミングを前提としなければならない状況もありますが、それが、ノートリミング前提の撮り方を否定する理由にはなりません。トリミングを前提としなければならない機会は、それ以外に比べて圧倒的に少ないですし、ノートリミングにこだわるのは、作品の完成度を少しでも高めるためですから。ノートリミングを否定するのではなく、仕方なくトリミングしなければならない撮影をできるだけ減らすように努力すべきです。

ノートリミングにこだわって撮影しよう

 私の知る限りですが、写真の上手な人ほど、ノートリミングにこだわる傾向が強いです(ただし、ノートリミングにこだわっているからといって、写真が上手だとは限りません。逆は成り立たないようです)。その基盤として、ここまで解説したような考え方があるのだと思います。

 ノートリミングにこだわるほど、撮影時に細かな点まで考えるようになります。主役の目立たせ方、背景との重なり方、構図などなど様々な点を。これこそ、写真表現で重要な点であって、撮影後にはどうにもならない点です。

 ここまでの内容から分かるように、ノートリミングにこだわるというのは、単にトリミングしないだけではありません。作品として仕上げることを“撮影時に考え尽くすこと”なのです。それを理解したうえで、ノートリミングにこだわって撮影してください。写真が“本気で上手になりたい”のなら。

余談:一眼レフのファインダー視野率が100%でないなら

 多くの一眼レフは、光学ファインダーの視野率が100%ではありません。その場合でも、視野率が100%だと思って撮影することをお薦めします。そうしないと、写真表現以外の余計なことを考慮しなければならないからです。撮影時には、写真表現に関わることだけを考えるようにするのが、極めて重要です。

 デジタル一眼レフの場合は、得られるのが画像ファイルなので、視野率の範囲外を削除するのが容易です。Photoshopのような画像処理ソフトに、アクションなどの処理として登録すれば、最小限の手間で削除できます。このように環境を整えると、表現に集中して撮影できるでしょう。

(作成:2007年1月19日)
<前 次>