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撮影直前の整理と最終判断

表現の難しい被写体の方が、圧倒的に多い

 表現意図を重視しながら考える撮影で、一番最初に行うのが、表現意図である主役と表現方向の明確化です。続けて、脇役と背景の特徴を調べ、表現意図に適した構図を探します。最後に、これらの要素を総合的に検討し、フレーミング、露出、ピントなどを決めます。この決定が、シャッターを切る前の最終判断です。

 こういった考える撮影を試すと、写真の特徴ともいえる大きな問題にぶつかるはずです。思い通りにならない被写体(状況)の方が、圧倒的に多いという問題に。そうなのです。邪魔な脇役が排除できない、表現意図と背景が合っていない、主役への光の当たり具合が悪い、最良の方向から撮影できない、被写体に近づけない、などなど。

 こういった場合には、どうすればよいのでしょうか。残念ながら、上手に解決できる方法はありません。しかし、写真を少しでも良くするレベルの方法ならあります。別な表現をするなら、限られた条件の中で、一番良い写真を目指す方法です。これこそ、シャッターを切る前に使う現実的な方法です。最終判断で何を考えればよいのか、簡単に紹介しましょう。

表現意図に合わない要素を何とかする

 何度も繰り返しますが、写真による表現で大事なのは表現意図です。それを最初に明確化しました。その後、脇役、背景、構図などが、表現意図に合っているか判断したはずです。すべて合っている場合は、何も悩まずにシャッターが切れるでしょう。

 大変なのは、表現意図を邪魔する要素が含まれているときです。対処方法としては、次のような3段階で考えます。

・邪魔する要素を外す
・邪魔する要素の影響を少なく
・邪魔する要素を逆に利用する

 フレーミングを工夫して、邪魔する要素が写らないように外すことを考えます。それが無理なら、少しでも影響が減るように、写る面積を少なくするとか、目立ちにくい形で入れるとか考えます。

 こうすると、被写体の要素がどんどんと削れらます。残った要素の数が減ることで、表現意図が伝わりやすい写真に近付きます。昔から「写真は引き算」と言われているのは、このような考え方が基礎にあるからです。

 以上の方法がダメなら、無理して利用できないか検討します。主役を引き立たせるように、対比する要素として入れるとか、視線を主役へ誘導する役目に使うとか、いろいろな方法を考えてみます。とはいうものの、こういった形で利用できることは、非常にまれでしょう。

要素の重要度を考慮しながら、妥協点を見付ける

 邪魔する要素の影響を排除できないときは、排除しない状態で撮影するしかありません。排除できないことを前提にし、その中で最良の写真を目指します。つまり、排除しない制限の中での妥協点を探すわけです。

 妥協点を見付ける際には、写真に含まれる要素の重要度を理解する必要があります。当然、一番重要なのは主役です。次に重要なのは、重要な役目を持った脇役です。次に背景が続き、重要でない脇役が最後です。

・主役
・重要な脇役(重要な=表現意図上で役目を持った)
・背景
・重要でない脇役

 この中には、構図が含まれていません。構図だけは、特殊な要素だからです。強いて入れるとすれば、主役の次か、重要な脇役の次でしょう。どちらになるかは、表現意図や被写体の状況によって異なります。

 上記の順番は、フレーミングを考える際のガイドになります。まず、主役の位置や撮影アングルを決めます。続けて、重要な脇役の位置を決めます。残りの背景や重要でない脇役も考慮しますが、どうにもならないなら妥協して無視します。構図は、主役の位置を決めるあたりから並行して考え始め、最後まで考え続けます。構図を妥協することはなく、最悪の状況では構図が目立たないように工夫します。

 以上のように、上の重要な要素ほど考慮して、下の要素ほど無視するわけです。このように考えながら、いろいろな方向から被写体を見て、表現意図に一番合っているフレーミングを見付けてください。それが妥協点です。

妥協点が低ければ、表現意図の変更を考える

 いろいろ探して見付かった妥協点が、かなり悪いこともあるでしょう。そのまま撮影しても良い写真は期待できません。

 妥協点の良し悪しの判断も、表現意図が基準です。妥協点が低いということは、狙った表現意図を実現するのに、その被写体が難しい相手だということです(もちろん、撮影者の表現能力が低い場合もありますが、ここでは考えないでおきましょう)。だとしたら、表現意図を変えるのが一番の方法です。その被写体に合った表現意図に。

 最初の表現意図は、その被写体を見たときに明確化したはずです。それが適切だったのか、あらためて考えてみます。その被写体には、本当は違う点に惹かれたのではないのか、別な面白い点はないのかといった視点で。最終判断の時点では、被写体に関してかなり観察しているはずですから、最初とは違った特徴が見付かりやすくなっています。だからこそ、この時点で考える価値があるのです。

 新しい表現意図が見付かったら、また最初からやり直します。主役と表現方向を明確化することから。

最悪の場合には、撮影しないという判断も

 考える撮影の経験を積むと、全部ではありませんが多くの状況で、仕上りが予測できるようになります。手も足も出ない被写体だと、「このまま撮影しても、良い写真にはならないな」と思ってしまいます。そんなときは、撮影しないという判断もあり得ます。

 実際には、どの程度良くないのか、被写体によって異なるはずです。本当にダメな被写体以外は、試しに撮影しておきましょう。デジカメならフィルム代が余計にかかりませんから。予想外に良い出来だった場合は、自分の予測が外れたわけで、その原因を考えます。

 数多く撮影していると、本当に手も足も出ない(妥協点が相当に低くて、撮りようがないという感じの)被写体に遭遇します。そんな対象でも、被写体にしようと思ったわけですから、感じたものが何かあるはずです。手も足も出ない理由を後で探れるように、被写体の全体が写る形で撮影しておきましょう。

 こうした写真が、普通に撮影した写真と区別できなくなると心配なら、撮り方を工夫します。手も足も出ない写真だけ、自分の指を大きく入れるなど、後で見分けられるように撮影します。被写体の様子を思い出せればよいので、指が入るぐらいは問題ありません。

撮影後の画像編集で救う手もあり

 私はやりませんが、撮影後の画像加工処理で、何とか救う方法もあります。ここでいう画像加工処理とは、トリミングではなく、複数の画像の合成、ぼかしなどのフィルター加工を指します。Photoshopなどの画像処理ソフトを用いれば、意外と簡単にできます。

 表現意図を実現するための加工として、もっとも有効に使えるのが、背景のぼかし処理でしょう。たとえば、背景が邪魔で消せなかった写真があるとしましょう。背景だけ選択して、背景をぼかすように加工します。すると、背景に写っている被写体が見えなくなり、主役が浮き出てきます。

 もっと積極的な加工も可能です。背景だけモノクロに変更し、主役と脇役をカラーのまま目立たせるとかです。ただし、このような加工は、写真のリアリティを大きく低下させるため、その点を理解して用いなければなりません。

 リアリティの低下は、複数の写真の合成でも頻繁に起こります。合成する写真で光源の方向が揃ってないと、合成後の写真に違和感が生じます。一般の人はあまり気付きませんが、写真に詳しい人なら合成だと一発で見抜きます。実際、光源の方向が揃っていない合成写真は、かなり多く見かけます。

 これら以外にも、画像を加工して写真を救う方法はあります。こうした後処理で救う癖が付くと、撮影時に表現を考えなくなりがちです。そんな意識は、表現能力の向上を邪魔しますから、よく考えて行ってください。

(作成:2003年5月23日)
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