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構図の影響と使いこなし

構図は、形としての印象を作る

 フレーミングする際に意識するのが、構図です。構図は、写真よりも歴史が古い絵画で発展しました。写真も、絵画と同様に、含まれる要素を長方形の平面に押し込めます。そのため、絵画の構図がほとんどそのまま利用できるのです。

 写真でも絵画でも、構図の役割は同じです。抽象的な言い方となりますが、役割は「形としての印象を作ること」です。写っていたり描かれているモノに関係なく、単純に形だけで見た印象を作り出します。形だけの印象なのですが、写真の仕上りに大きな影響を及ぼします。主なものは、次のとおりです。

・安定度:全体が安定したり、不安定に見えたり
・力強さ:力強く見えたり、落ち着いて見えたり
・美しさ:バランスを整えて美しく見せる
・遠近感:一部の構図は遠近感を強める
・要素の強弱:特定の要素を強く見せる
・要素のつながり:要素間の関連を伝える

 こうした影響があるため、構図を無視することはできません。知らないうちに特定の構図を使っていて、狙った表現意図から外れた写真になる、といった失敗があり得るからです。現実的には、どのような構図ならどんな仕上りになるのか理解して、上手に利用するしかないのです。利用する目的の中には、意識的に構図を避けることも含まれます。

 構図と一般的に考えられている内容ですが、大きくは2つに分けられます。全体の形を決める内容と、構図に影響を与える細かな要素に関する内容です。ここでは、前者を「全体構図」と、後者を「構図要素」と呼びましょう。

・全体構図:全体の形を決める定石例
・構図要素:構図に影響を与える細かな要素とその特性

 これらを分けて考えた方が、構図を理解しやすくなります。それぞれについて、簡単に紹介します。

代表的な全体構図を知る

 絵画は歴史が長いので、いくつもの全体構図が生み出されました。写真でよく使われるものも含め、代表的なものをいくつか挙げてみましょう。構図名のタイプで分類しながら。

・構図名を線で表現
   対角線(/)、交差対角線(×)、放射線
・構図名を図形の形で表現
   円(○)、三角形(△)、逆三角形(▽)菱形(◇)
・構図名をアルファベットで表現
   I字、Y字、S字、C字、Z字、W字、逆さW字、H字

 これらの構図は、それぞれが別の特徴を持っています。たとえば、写真でよく使われるS字の構図なら、縦構図(縦長の構図)として使われることが多く、S字に沿った流れと美しさを生み出し、全体の安定感も比較的あります。個々の構図の特徴に関しては、構図に関する書籍などで勉強してください。

 代表的な構図の特徴を知ると、狙う表現意図に適した構図が使えるようになります。被写体の形を見ながら、表現意図に合った構図を探し、最適と思う構図を選ぶのが、上手な使い方といえます。

主な構図要素も知る

 構図要素は、写真全体ではなく、その一部の要素に関するルール集です。もっとも有名なのは、美しく見える比率である黄金比でしょう。他にも、いろいろな内容があって分類しづらいのですが、あえて分類し、代表例を挙げると次のようになります。

・長さの比率に関して
   比率例:1対1、黄金比、1対2の平方根
   比率の対象例:背景内の区切り、主役の重心の位置
・配置に関して
   例:主役の位置、脇役との位置関係
・人間などの視線に関して
   例:被写体自体の視線、被写体を見る視線
・遠近感に関して
   例:近景や遠景の組合せ方、天と地、風景の広がり
・全体の印象に関して
   例:余白の多さ、明暗の比率や対比

 かなり無理して分類してみましたが、実際には、分類しづらい要素がいくつもありました。この分類は、こんなものがあるという程度の参考にしか役立たないと思います。

 構図要素の具体的な内容も、構図を解説した書籍に載っています。該当する資料を読んで、全体構図と一緒に勉強してください。数多く知るほど、表現の幅が広がるでしょう。

 構図要素の多くは、安定して見えたり、美しく見えることに重点を置いています。狙う表現意図がそれに合っている限り、そのまま使えば良い結果が得られるはずです。しかし、表現意図が不安定や醜さなら、構図要素に反する状態を作り出します。そうすれば、表現意図が実現しやすいはずです。

決まりすぎる構図の欠点

 構図を勉強した直後は、どうしても構図を使いたくなります。そして、構図がビシッと決まった写真を撮るでしょう。出来上った写真は、確かに構図が決まっていて、良い写真だと感じると思います。

 でも、待ってください。その写真の表現意図は何でしょうか。ビシッと決まった構図を見せることなのでしょうか。そうではないはずです。写されている被写体の方を見せたかったのではないでしょうか。だとすれば、出来上った写真は、狙った表現意図を達成していないことになります。

 そうなんです。これこそが、決まりすぎる構図の欠点です。構図がビシッと決まった写真とは、被写体そのものではなく、構図自体を見せる写真になるのです。そんな写真の表現意図をあえて文字にするなら、「写っている被写体ではなく、構図を見せる」となるでしょう。つまり、構図を前面に押し出すことで、表現意図が「構図を見せること」に変わったのです。

 さらに、次のようなことも言えます。「構図を見せるのが表現意図なら、被写体は何でもいいのでは」と。これは当たっていて、同じ構図をビシッと決めた写真は、被写体の影響が少なくなるため、かなり似た写真になってしまうのです。

決まりすぎる構図を避けてフレーミング

 以上のような点に気付くと、構図の使い方にも変化が現れます。最大の変化は、決まりすぎる構図を意識的に避けたフレーミングです。具体的な避け方としては、主に次の2つの方法があります。

・構図を崩す(少しずらすなどして)
・構図を邪魔する(何かの要素を入れて)

 被写体の位置などを少しずらして構図を崩す方法は、かなり簡単です。バランスを崩せばよいだけですから。たとえば、対角線(/)の構図なら、対角線に相当する被写体を、対角線の位置からずらすだけです。ずらす量が大きいほど、構図の崩れ具合も大きくなります。

 何かの要素をれて構図を邪魔する方法では、主役や脇役を使います。構図を邪魔する形で配置し、ビシッと決まるのを防ぎます。邪魔する要素を大きく入れるほど、邪魔の効果が大きくなるとともに、邪魔として入れた要素も目立ちます。こちらの方法の方が、構図自体がある程度決まった状態として残るので、写真全体の印象が崩れにくい利点があります。

 構図を理解すると、構図を採用するときも崩すときも、構図を大きく意識するようになります。しかし、写真表現においては、構図を大きく意識しない方がよいでしょう。それよりも、表現意図が達成できているかを重視して考えます。達成できていないときに、その原因の1つとして構図の影響を考えればよいのです。もし構図が邪魔しているようなら、上記の方法で構図の影響を減らします。このように、表現意図を強く意識しながら撮影することが重要です。

構図ごとに、視線集中点と視線集中度が異なる

 構図を考える上で欠かせないのが、写真を見る人の視線の集中です。上手に撮られた写真の多くには、見る人の視線が集まりやすい箇所があります。

 全体構図も同様です。構図の中には、見る人の視線が特定の箇所に集まりやすいものがあります。交差対角線(×)の構図では、交差する中心点です。三角(△)の構図なら2箇所あって、上の頂点と底辺です。このような集中点を、ここでは視線集中点と呼びましょう。

 視線集中点では、視線が集まる度合いも考慮する必要があります。この度合いを、ここでは視線集中度と呼びましょう。視線集中点の視線集中度は、構図によって異なります。また、視線集中点が複数ある構図では、視線集中度に差があります。三角(△)の構図なら、上の頂点が底辺よりも視線集中度は高めです。

 実際の写真では、被写体の配置などから、構図を完璧に実現するのは不可能です。多かれ少なかれ、理想の構図から崩れた状態で撮影します。この崩れ具合が視線の集中にも影響し、崩れが大きいほど視線集中度も低下します。以上をまとめると、以下のようになります。

・構図ごとに、視線集中点がある
・構図ごとや視線集中点ごとに、視点集中度が異なる
・構図を崩すほど、視点集中度が低下する

 このような考え方は、特定の全体構図を用いなくても考慮します。どんな写真でも、視線を集めるのはどの箇所か、どの程度の強さで視線を集めるのかは、表現にとって重要ですから。

視線集中点に主役を配置するのが基本

 視線集中点が理解できたら、それを写真表現に利用します。基本的な考え方として、視線集中度が一番高い視線集中点に、主役を配置します。もっと簡単に表現するなら「主役が視線を一番集めるように、写真を仕上げる」ということです。そうすれば、主役に視線が集まって、表現意図を達成しやすいからです。

 全体構図を構成するのが何かによって、実現の容易さが異なります。I字やS字の構図なら、主役となる被写体がIやSとなりやすく、特に工夫しなくても主役が視線集中点となります。しかし、対角線交差(×)や三角(△)の構図では、背景や脇役が構図を作る場合もあります。そんなときは、主役の位置を変更するか、変更が無理ならあきらめるしかありません。位置を変更できるときでも、表現意図から外れないことが条件となります。

 主役が視線集中点に配置できないときは、構図の視線集中点で、視線集中度を低下させることを考えます。次の2つの方法があり、両方を併用することも可能です。1つは、構図を崩す方法で、崩す度合いが大きいほど視線集中度も低下します。もう1つは、別な視線集中点を作る方法です。主役を大きく入れるなどが考えられます。

 以上は、あくまで基本です。主役を必ず、視線集中点に配置するのがベストとは限りません。たとえば、視線集中点に脇役を配置し、そこから視線を誘導することで、主役にたどり着くという方法もあります。これは、見て考えさせる写真に適した方法です。

 つまり、主役を視線集中点に置くかどうかも、表現意図に大きく関係するのです。表現意図を重視した結果として、主役が視線集中点に配置されたりされなかったりします。

分かりやすい簡単な例を紹介

 ここまでの話を理解するには、分かりやすい簡単な例を見るのが一番でしょう。I字の構図を使った例を、1つ紹介します。

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 I字の構図は、縦に1本の線を置くもので、その縦線が力強く見える特徴があります。視線集中点も、I字の縦線です。この例の表現意図は、噴水から出た水の力強さです。当然、主役は噴水の水です。その水が1本の線であり、それが力強く見えるようにと考えて、I字の構図を採用しました。視線集中点であるI字の縦線に、主役の水を割り当てられるので、表現意図からみて最適な選択です。

 I字の理想的な構図では、大きな1本の縦線を真ん中に置きます。それだと構図が決まりすぎるので、縦線を左右どちらかに移動させ、I字の構図を崩しました。右側を選んだのは、水の姿を考慮してです。縦線の水の形は、左側に膨らんでいます。また、水が落ちた水面の白も、左側に伸びています。それを全部入れるためには、水の縦線を右側へ移動するのが妥当となります。

 難しいのは、どれだけ右へ移動するかです。このようなときは、構図要素である比率を用い、黄金比などを選ぶのが一般的です。しかし今回は、水面の白が左に伸びているので、黄金比は適しません。黄金比にすると、水面の白が途切れるからです。仕方がないので、カメラのファインダーを覗きながら、収まりの良いと思う位置を探しました。最終的には、自分の好みで決めました。

 以上のように、全体構図を意識しながらも、それを崩して使います。また、必要に応じて構図要素を利用しますが、被写体の形や位置は様々なので、利用すべきかを個々に検討し、必要なときだけ用います。最終的には自分の好みで決めましたが、その前までは、かなり論理的に考えて決めています。

 もちろん、実際に撮影するまでには、シャッター速度や背景の処理など、他の要素も考えます。しかし、話題が異なるため、構図に関する点だけを説明しました。

(作成:2003年5月18日)
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