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明暗差の小さい被写体でRAW現像補正

 RAW現像で露出ミスをどれぐらい救えるかは、被写体の特徴によって異なります。ここでは、明暗差の小さな被写体、つまり露出ミスが救いやすい被写体に限定して、救える程度を調べてみました。

 なお、この実験は、あくまで1つの例でしかありません。明暗差が小さい被写体といっても、それぞれの被写体で特徴が異なります。だとしても、今回の例と近い特徴を持つと思います。こうした点を理解しながら読んでください。

第1段階:露光量による単純な補正

 最初に、適正露出について考えましょう。明暗差が小さい被写体の場合、各色8ビットのダイナミックレンジに、余裕を持って収まります。そのため、暗部の黒つぶれや明部の白飛びが発生しない露出範囲が、広くなります。その中から適正露出を選ぶわけですが、たいていは撮影者の主観となります。

 ただし、今回のような実験では、主観を入れたくありません。そこで、カメラの自動露出が決めた露出を、適正露出としました。適正露出というよりは、基準となる露出という意味合いが強いため、基準露出と表現します。

 ±2EVの5段階の写真を、RAW現像プラグインの「露光量」だけで補正してみました。補正量も、機械的に決めた値です。撮影時の露出が-1EVなら、露光量の補正を逆の+1EVにするという形で。その補正結果は、以下のとおりです。

補正後 補正前 露出
-2EV
-1EV
基準
+1EV
+2EV

 補正後の画質を見比べると、-1EVと+1EVは基準露出とほとんど同じです。-2EVの画質は、コントラストが少し高くなっています。+2EVの画質は、コントラストがかなり高く、明部の白飛びが強く出てました。

第1段階:ヒストグラムを見ると、より明確に分かる

 画像を目で見るだけでは、補正の効果を正しく把握できません。こんなときは、ヒストグラムで調べるのが一番です。RAW現像プラグインが表示するヒストグラムを使って、補正前と補正後の様子を比べてみました。

補正後 補正前 露出
-2EV
-1EV
基準
+1EV
+2EV

 こうしてヒストグラムを見ると、露光量だけの単純な補正でも、かなり整っていることが分かります。露出アンダーを補正した-2EVと-1EVでは、基準露出とほとんど同じ形です。明部で青色が少し飛んでいるのが目に付くぐらいです。青色だけ飛んだのは、被写体の特徴から生じたもので、この被写体固有の現象だと思われます。

 露出オーバーを補正した+1EVも、ヒストグラムの形は基準露出とほぼ同じです。予想どおり、明部の白飛びが少し生じました。やはり、露出オーバーだと、補正しても白飛びが生じるのでしょう。

 もっとも悪かったのは、露出オーバーの+2EVを補正した結果です。ヒストグラムの形が完全に崩れています。暗部の黒つぶれも、明部の白飛びも大きく発生しました。露出ミスの補正としては、完全な失敗です。

第2段階:2EVオーバーだけ、より細かく補正

 第1段階の結果を踏まえて、さらなる補正を試してみました。明らかに問題なのは、露出オーバーの+2EVの補正だけなので、これだけを取り上げます。

 より良い補正を求めるのには、ヒストグラムを見ながらの作業が適しています。そこで、ヒストグラムの形を基準露出に近づけるようにと、補正してみます。

 第1段階で補整した画像は、コントラストがかなり高くなっていました。そこで、コントラストの値を変更することにします。コントラストを低くする方向で。また、第1段階のヒストグラムは、頂点の位置がアンダー側に移動しています。露光量の補正が強すぎたことを意味しているので、露光量の値も弱めに変更します。

 こうして試行錯誤した結果、次のような補正値が得られました。露光量は第1段階の-2.00を-1.75に、コントラストは初期値の+25を-30に変更。補正後のヒストグラムは、以下のようになります。「細補正後」が第2段階での補正状態、「細補正前」が第1段階での補正状態です。

補正後 補正前 露出
基準
+1EV
+2EV
細補正後
+2EV
細補正前

 細かな補正を加えることで、ヒストグラムの形が基準露出に近付きました。しかし、暗部の黒つぶれと明部の白飛びは、+1EVよりも大きくなっています。露出オーバーの度合いが大きいので、仕方がないでしょう。これ以上の補正は非常に難しいと思います。

第2段階:補正後の写真で効果を確認

 ヒストグラムを見ながら補正した結果を、画像でも確認してみましょう。コントラストが低くなって、第1段階の補正結果よりも明らかに向上しています。

補正後 補正前 露出
基準
+1EV
+2EV
細補正後
+2EV
細補正前

 今回は、ヒストグラムを見ながら補正してみました。しかし、実際の写真を補正する際には、適正露出と比べることはできません。ヒストグラムと画像の両方を見ながら、最適と思われる補正値を見付けることになります。

 ただし、今回のような実験を、自分のカメラとRAW現像ソフトの組み合わせで試しておけば、補正の傾向を大まかに掴むことが可能です。そして、基準露出のない画像を補正するとき、実験結果と同じ補正方法を利用することで、良い補正値が素早く見付けられます。

まとめ:-2EV~+1EVなら大丈夫で、+2EVでは白飛び発生

 ここまでの実験結果をまとめてみましょう。“明暗差の小さい被写体”では、露出ミスをかなり救えることが分かりました。

 露出アンダーなら2EVまで、露出オーバーでも1EVまでなら、ほぼ問題ない画質が得られます。1EVの露出オーバーでは、明部の白飛びが少し発生しますが、かなり軽い程度です。どの場合でも、RAW現像時の補正が、露光量の変更だけで済みますから、非常に簡単です。

 露出オーバーが2EVになると、露光量だけの補正では、コントラストがかなり高くなります。コントラストを低くしながら、露光量の補正も弱めにすると、画質が適正露出に近付きます。ただし、暗部の黒つぶれ、明部の白飛びが発生して、良い画質は得られません。

 画質を重視するなら、-2EV~+1EVの露出ミスまでは大丈夫となるでしょう。黒つぶれと白飛びが少し我慢できるなら、+2EVも何とか使えます。というわけで撮影時には、露出アンダーよりはオーバーのミスを防ぐように心掛けましょう。

補足1:暗部のレベル補正も、RAW現像時に行う

 明暗差の低い被写体では、撮影したままの画像だと、コントラストが低く感じることがあります。その際には、Photoshopのレベル補正と同じ処理を加えて、よりメリハリのある写真に修正しなければなりません。

 こうした処理も、RAW現像で可能です。PhotoshopのRAW現像プラグインでは、「シャドウ」の値を変更して、メリハリのある画像に修正します。ヒストグラムを見ながら行えるため、画質低下を最小限に抑えながら補正できます。「シャドウ」の適切な値は、「露光量」の値にも影響されるため、両方を交互に変えながら調整する必要があります。

 この種の処理もRAW現像時に行うことで、生成するJPEG画像の質の低下を最小限に抑えられます。上手に生成したJPEG画像は、各色256階調を目一杯に使っているはずですから。

補足2:高感度撮影時は、露出アンダー補正でノイズが乗る

 以上の実験は、E-1を用い、ノイズの少ない感度ISO 100で行いました。そのため、露出アンダーを補正しても、ノイズがほとんど気になりませんでした。しかし、もっと感度を上げたときは、ノイズが気になるはずです。

 ちょっと簡単な計算をしてみましょう。ISO 100で撮影したとき、2EV分だけ露出アンダーになったします。RAW現像で2EV分だけ補正すれば、正しい露出で撮影した明るさになります。しかし、撮影で使った光は、ISO 100より2EVも少ないのです。ISOだけで光の量を換算すると、ISO 400の光で撮影したことに等しくなります。当然、ISO 400で撮影したときに近いノイズが現れます。

 同様の計算を、高感度撮影時に適用してみましょう。ISO 400で撮影したとき、2EV分だけ露出アンダーになったとします。光の量は、ISO 1600の適正露出で撮影したときと同じです。より多くのノイズが現れるのは、誰でも予想できるでしょう。

 以上のように考えると、高感度撮影時に限っては、露出アンダーを救えるといっても、ノイズが多く現れることに気付きます。高感度撮影時には、露出アンダーを防ぐように心掛けましょう。

(作成:2004年3月2日)
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