大和宣旨 やまとのせんじ 生没年未詳

中納言平惟仲の娘。母は藤原忠信女(陽明本勘物)。左京大夫藤原道雅と結婚し、子をもうけたが、その後離婚して、三条天皇中宮(藤原道長女)に仕えた。のち、大和守藤原義忠の妻となる。永承四年(1049)の「六条斎院歌合」に出詠した「大和」と同一人かともいう。勅撰集入集歌は後拾遺集に三首のみ。

中納言定頼がもとにつかはしける

はるばると野中にみゆる忘れ水たえまたえまをなげく頃かな(後拾遺735)

【通釈】目も遥か、野原に見える忘れ水。途切れ途切れに流れて、人に忘れられています。そのように、いつもあなたに忘れられて、お逢いするのも途絶えがち、ため息ついて過ごす今日この頃です。

【補記】古く是則の歌に詠まれた「野中の忘れ水」に寄せて、訪問の途絶えがちな恋人に嘆きを訴えた歌。

【他出】古本説話集、無名草子、定家八代抄、色葉和難集、世継物語

【参考歌】坂上是則「是則集」「新古今集」
霧ふかき秋の野中の忘れ水たえまがちなる頃にもあるかな

【主な派生歌】
忘れ水たえまたえまのかげ見ればむらごにうつる萩が花ずり(藤原定家)

中納言定頼がもとにつかはしける

恋しさを忍びもあへぬ空蝉のうつし心もなくなりにけり(後拾遺809)

【通釈】恋しさを我慢しきれずに鳴く蝉のように、私も声をあげて泣いてしまって――正気を失ってしまったのでしたよ。

【語釈】◇空蝉(うつせみ) 蝉。蝉の抜け殻のこともいう。また、はかないものの喩えにされる。「うつせみの」は「世」「人」などに掛かる枕詞であるが、ここでは「うつし心」を導く序詞的な枕詞のはたらきもしている。◇うつし心 現実をしっかりと認識できる心。正気・理性。

【他出】古本説話集、無名草子、定家八代抄、世継物語

【参考歌】作者不明「万葉集」
うつせみのうつし心も吾はなし妹を相見ずて年の経ぬれば


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成22年09月16日