兼藝 けんげい(けむげい) 生没年未詳

『古今和歌集目録』によれば伊勢少掾古之の二男で、大和国城上郡の人かという。左大臣源融の孫占の子とも。即位以前の光孝天皇と親しかったことを窺わせる歌を古今集に残している(巻八離別歌)。勅撰入集は古今集のみ四首。

題しらず

もろこしも夢に見しかば近かりき思はぬ中ぞはるけかりける(古今768)

【通釈】遥かに憧れていた唐の国も、夢で見れば近かった。思い合うことのないあの人との距離こそ、遥かに遠いものだったのだ。

【語釈】◇夢に見しかば 夢で見たので。「しか」は過去の助動詞「き」の已然形。◇思はぬ中 思い合わない二人の仲。この「中」は「間柄」「ふたつのものの距離」という二重の意味を帯びる。

【補記】異国との距離と、恋人との距離。夢で計れば、前者が近く後者が遠い、というパラドックス。古今集恋五、恋人と逢えないことを歎く歌のグループにある。

【他出】古今和歌六帖、定家八代抄、六華集、歌林良材

【主な派生歌】
唐も夢みぬ程や遠からんこはよるかたの道とこそきけ(藤原公任)
遥かなるもろこしまでもゆくものは秋の寝覚めの心なりけり(*大弐三位)
うたた寝にもろこしまでも見つるかな夢はうつつに猶まさりけり(源季広[続後拾遺])
もろこしもちかのうらわの夜の夢おもはぬ中に遠つ舟人(藤原家隆)
心のみ唐土までもうかれつつ夢路にとほき月の頃かな(藤原定家)
もろこしも夢に見しかばとばかりを夜な夜なごとにたのむはかなさ(宗尊親王)
夢ならでまたもろこしのまぢかきは月みる夜半の心なりけり(*二条為子)
君ぞ憂きわたらずしらぬもろこしも夢に見るよの秋つ島人(正徹)
いづれとも声きかまほし夢にだにみぬもろこしの山時鳥(肖柏)
近してふ夢にはあらでもろこしの梅咲く山を壁に見るかな(木下長嘯子)


公開日:平成20年02月06日
最終更新日:平成20年02月06日