今出河院近衛 いまでがわいんのこのえ 生没年未詳

摂政師実の裔。大納言藤原伊平の娘。亀山天皇の中宮、今出河院嬉子(西園寺公相女)に仕える。『徒然草』六十七段に歌道執心の逸話を伝え、「人の口にある歌多し。作文詩序などいみじく書く人なり」と称賛されている。続古今集に「中宮権大納言」の名で初出か。勅撰入集計二十六首。『和漢兼作集』には和歌と漢詩句と両方を載せている。

恋の歌の中に

見ずもあらで覚めにし夢の別れよりあやなくとまる人の面影(続千載1529)

【通釈】逢えなかったわけではないが、逢えたと言うほどでも無しに目覚めてしまった夢での別れ――それ以来、あの人の面影が目に焼き付いてどうしようもない。

【本歌】在原業平「古今集」
見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなく今日やながめくらさむ

題しらず

我が涙かかれとてしも黒髪のながくや人にみだれそめにし(新千載1215)

【通釈】おびただしい涙が、長い、乱れた私の黒髪にかかる――こんな有様になれと思って、長く人に思い乱れる恋を始めてしまったのだろうか。そんなつもりではなかったのに。

【本歌】源融「古今集」「百人一首」
みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにし我ならなくに
【参考歌】源頼政「頼政集」「続後拾遺集」
わぎもこが裳裾になびく黒髪のながくや物を思ひみだれむ
  藤原家隆「正治初度百首」
山ふかみしられぬ恋をすがのねのながくや人に思ひみだれむ

【補記】「かかれ」は「(涙が黒髪に)かかれ」、「かくあれ」の両義。「黒髪の」は涙がかかる対象を言うと共に、「ながく」を導くはたらきをする。「ながく」「みだれ」は髪の縁語。

題しらず

恨みてもなほ慕ふかな恋しさのつらさに負くるならひなければ(新拾遺1355)

【通釈】恨んでもなお慕ってしまうなあ。恋しさが辛さに負けた例(ためし)などないので。

【補記】「つらさ」は、相手の冷たい仕打ちや態度に対する苦しさ。いくら辛いと言っても、それによって恋しさが打ち消されてしまうことはない、という恋の定理。

【参考歌】在原業平「新古今集」、「伊勢物語」六十五段
思ふにはしのぶることぞ負けにける逢ふにしかへばさもあらばあれ
  よみ人しらず「後葉集」
恋しさのつらさにまさる物ならばいままでかくはなげかざらまし
  「平親清五女集」
思ふには負くるならひをよしやそのしのぶといふもつらさなりけり


公開日:平成14年10月27日
最終更新日:平成21年01月24日