梅の実 うめのみ Japanese apricot fruits

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漢語「梅雨(ばいう)」を借り、五月雨(さみだれ)を古くから「梅の雨」とも称した。《梅の実を熟させる雨》の意だ。梅雨は、青々と肥え緊まった梅の実が、黄に紅に熟してゆく季節でもある。

『通勝集』 梅雨  中院通勝

花ならぬ香もなつかしみ袖かけん色づく梅の雨のしづくに

「色づく梅の」と「梅の雨」とを言い掛けている。梅は花ばかりでなく実も芳ばしい。その実から落ちる雨のしずくを袖にかけて、香を賞美しようとの風流心。作者は織豊時代から徳川時代初めまでを生きた人。

『三草集』 五月雨   松平定信

梅の実は緑の中に色わきて紅にほふさみだれのころ

こちらは江戸時代も後期の歌。
梅の実の()り初めは若葉と同じ色。初夏の梢に埋れているが、五月雨がしきりと降るうち、紅の実は緑の中に際立ってゆく。そこに降りそそぐ雨だけは、色も香もにおいたつかのようだ。

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  『万葉集』巻三(藤原八束が梅の歌)
妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなばかもかくもせむ

  『草根集』(山新樹) 正徹
花ならぬ山の林になる梅の実さへ若葉の色に匂へる
  (梅雨)
雪と見し花にたがひて梅が枝の実を紅にそむる雨かな

  『芳雲集』(梅雨) 武者小路実陰
降る雨の絶えぬ雫に落ちそひて実さへ数ある梅の木隠(こがくれ)

  『霞関集』(さみだれ) 石野広通
かぞふれば年をふる木の梅の実の色づく雨もここに久しき

  『省諐録』(感情歌) 佐久間象山
我ほしといふ人もがな梅の実の時し過ぎなば落ちや尽きまし

  『志濃夫廼舎歌集』(梅子) 橘曙覧
雨つつみ日を経てあみ戸あけ見れば()ちて梅ありその実三四(みつよつ)
  (梅酒たまはりけるよろこび)
梅のみのいとすき人と言はば言へえならぬ味に酔ひぞ狂へる
  (五月)
梅子(うめのみ)のうみて昼さへ寝まほしく思ふさ月にはや成りにけり

  『つきかげ』 斎藤茂吉
くれなゐににほひし梅に()れる()は乏しけれどもそのかなしさを

  『冬びより』 谷鼎
つぶつぶと葉交(はがひ)に見えて梅の実の口酸く思ふまでになりたる


公開日:平成22年07月17日
最終更新日:平成22年07月17日

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