土筆  つくし Horsetail

 鎌倉市二階堂にて

土筆は羊歯植物である杉菜の胞子茎。ちょうど桜の咲き始める頃、川の堤や原っぱの土の中から、筆先に似た頭をもたげる。和え物や酢の物として春の食卓に上る。
古くは「つくづくし」あるいは「つくつくし」と言った。語源は「付く付く子」とも「突く突く子」とも言うが、何本も仲良く並んでいる様子は如何にも「つきづきし」(調和している意)、おそらくこの形容詞から来た語であろう。「つくしん(ぼう)」「つくしんぼ」「筆の花」「つくづくし花」とも。

源氏物語(早蕨)に宇治山の阿闍梨が傷心の中の君のもとへ「蕨、つくづくし、をかしき籠に入れて」贈ったとあり、蕨などと共に春の旬の食材として古人も貴んだことが知られる。しかし和歌では早蕨ほど人気がなく、万葉集にも勅撰集にも土筆を詠んだ歌は見つからない。たびたび歌材として取り上げられるのは近世に入ってからである。
比較的早い時期の作例としては、鎌倉初期の為家の歌がある。

『夫木和歌抄』 土筆 藤原為家

佐保姫の筆かとぞみるつくづくし雪かきわくる春のけしきは

残雪をかき分けるように頭を出した土筆を、佐保姫のための筆かと見た(「かき」は「書き」の意を帯びて筆の縁語になる)。与謝野晶子は土筆を「金色」と言っていて(下記引用歌参照)この人の色彩感覚に感嘆させられるけれども、私には淡い褐色を帯びた肌の色に見える。若々しくなまめかしいばかりに美しい色は雪間に映え、春の女神への捧げ物にこれほど似つかわしいものはあるまい。

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  『元真集』(つくつくしを十三にて) 藤原元真
雲かかる浦にこぎつくつくし船いづれかけふのとまりなるらん

  『秘蔵抄』 伝大伴家持
片山のしづが(こもり)()ひにけり杉菜まじりの土筆(つくづくし)かな

  『挙白集』 木下長嘯子
花ざかりとはではすぎな君をのみ待つに心をつくづくしかな

  『漫吟集』 契沖
あさぢふの菫まじりのつくつくしまだ野辺しらぬをとめ子ぞつむ

  『琴後集』(つくづくしの絵に) 村田春海
つくづくし春野の筆といふめれば霞もそへて家づとにせむ

  同上(桜の枝とつくづくしを籠に入れたるかた)
一枝の花にまじへて山づとのあはれを見するつくづくしかな

  『浦のしほ貝』(人のもとに土筆をおくるとて) 熊谷直好
霞たつ野べのけしきもみゆるまで摘みつくしたる初草ぞこれ

  『草径集』(土筆) 大隈言道
ゆく人を田舎(ゐなか)(わらは)の見るばかり立ちならびたる土筆(つくづくし)かな

  『明治天皇御集』(土筆)
庭のおもの芝生がなかにつくつくし植ゑたるごとくおひいでにけり

  『竹乃里歌』(詞書略) 正岡子規
くれなゐの梅ちるなべに故郷(ふるさと)につくしつみにし春し思ほゆ

  『長塚節歌集』
つくしつくしもえももえずも大形(おほがた)の小松が下に行きてかも見む

  『心の遠景』 与謝野晶子
金色のいとかすかなるものなれど人土筆摘むみづうみの岸


公開日:平成22年05月01日
最終更新日:平成22年05月01日

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