早梅 そうばい(さうばい) Early plum-blossom

早梅 鎌倉市二階堂にて

早咲きの梅、特に立春前に咲く花を早梅と言う。梅の中には冬至梅・寒紅梅など季節を先取りして咲くよう作り出された品種もあるが、品種の別を言うのでなく、普通の梅で、いちはやく咲いた花を言うのである。和歌では「早梅」のほか「年内梅」「歳暮梅」などの題で盛んに詠まれた。もとより梅を殊更好んだ万葉歌人もこれを愛でている。

『万葉集』巻八  大伴宿禰家持が雪の梅の歌一首

今日降りし雪に(きほ)ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり

春を待ち切れないのか、雪と白さを競い合うように咲いた梅。早梅に対する賛美は、天地の改まる浄らかな新春への憧れだった。

『松下集』  早梅開  正広

消えずとも皆淡雪ぞ天地(あめつち)にこぬ春ひらく園の梅が香

「消えないと言っても、皆淡雪だ。まだ来ぬ春を、天地に向けて広げる園の梅が香よ」。
積もった淡雪など何のその、開き始めた梅の香りが、一足早く春を天地に向けて解き放つ。正広は室町時代最大の歌人と言うべき正徹の一番弟子。師の難解な作風とは異なり、大らかな丈高い詠を得意としたが、この歌はその最良の一例だろう。

**************

『万葉集』巻八(紀少鹿女郎の梅の歌一首)
十二月(しはす)には沫雪降ると知らねかも梅の花咲く(ふふ)めらずして

『拾遺集』(しはすのつごもりごろに、身のうへをなげきて)紀貫之
霜がれに見えこし梅は咲きにけり春には我が身あはむとはすや

『風雅集』(歳のうちの梅をよみ侍りける)紀貫之
一とせにふたたび匂ふ梅のはな春の心にあかぬなるべし

『拾遺集』(詞書略)三統元夏
梅の花にほひのふかく見えつるは春のとなりの近きなりけり

『拾遺愚草』(十二月早梅) 藤原定家
色うづむ垣ねの雪の花ながら年のこなたに匂ふ梅が枝

『紫禁和歌集』(早梅) 順徳院
雪降ればこと深山木も咲く花を春のものとて匂ふ梅が枝

『草庵集』(雪中早梅) 頓阿
うづもるる垣ねの雪ににほふなり春のとなりにさける梅が枝

『宗良親王千首』(年内早梅) 宗良親王
難波津や冬ごもりせぬ御代なればいまも此の花春にかはらず

『冷泉為尹千首』(年内早梅) 冷泉為尹
今ははや春のへだてや程ちかき花になりゆく庭の梅垣

『草根集』(早梅) 正徹
ふる雪の木の間の月の笠にぬふ梅ならなくの冬の一華

『草根集』(冬早梅) 正徹
年のうちの春やうれしき梅が枝の今朝はほほゑむ花のかほばせ

『卑懐集』(早梅) 姉小路基綱
さそはるる鳥の音もなし咲く梅の春にさきだつ風のたよりに

『松下集』(早梅開) 正広
()きつくせ一の花に初春を冬よりひびく天が下かな

『拾塵集』(早梅) 大内政弘
枝かはす木は冬がれて咲く梅の此の一もとに春やきぬらん

『雲玉集』(古寺早梅を、ある所にて) 馴窓
今も世につたへて梅や一ふさの花のさとりを先づひらくらん

『柏玉集』(早梅) 後柏原院
とく咲くもあやにくなれや冬の日の嵐にをしき梅の初花

『黄葉集』(早梅) 烏丸光弘
花ぞとき鶯さそへ年の内の春に先咲く梅の冬木に

『後十輪院内府集』(雪中早梅) 中院通村
春待たでほほゑむ梅の花の香にふかさおよばぬ枝のしら雪

『霊元院御集』(早梅) 霊元院
冬ごもる窓のみなみに咲く梅や春とほからぬ日影をもしる

『芳雲集』(早梅薫風) 武者小路実陰
いづこぞと梅が香さがし年の内も立枝たづねて春風や吹く
雪に吹く風に匂ひは宿してもなほ冬ごもる窓の梅が枝

『柿園詠草』(早梅) 加納諸平
わがせこが春のいそぎに衣たてば朝北さえて梅かをるなり

『調鶴集』(社頭早梅) 井上文雄
広前にはやきを神の心とやいがきの梅のはるも待ちあへぬ


公開日:平成22年02月27日
最終更新日:平成22年02月27日

thanks!