光 る 石



 学校の帰り、少し遅くなったので、ぼくは近道になっている神社の中を通り抜けようとした。
 すると、大きい木の根元で、何かきらっと光るものが目に入った。
 拾い上げてみると、直径三センチほどの石だがなぜだかうすく光っている。
 ぼくはその石をポケットにしまった。
 そのとき、拝殿のかげから白い装束を着た人が現れた。ここの神主さんだ。
 すると、とつぜん神主さんの声がぼくの頭の中に聞こえた。
『この子やな、この前、拝殿の中でかくれんぼをしていたいたずらっ子は』
「ぼくとちがうで」
 思わずいってからはっとした。
神主さんはまったく口を動かしていないことに気がついたのだ。と、いうことは神主さんが心の中で思ったことがぼくにわかったのだろうか。
「ちょっと待ちなさい」
神主さんが呼び止めるのにかまわすぼくはあわててその場を逃げ出した。
 うちに帰ると、母さんが夕飯の支度をしていた。
『ジュンッたら、ちっとも勉強しないんだから。やっぱり伸ちゃんといっしょの塾に入れたほうがいいかしら』
 母さんの口も動いていない。
 ぼくには人の考えていることがわかる超能力が……いや、ひょっとして、これのせいかな?ぼくはさっき拾った光る石をポケットの中でにぎりしめた。

 次の日の朝、教室に入ると伸一がふりむいた。
『なんや、寝ぼけた顔してるな。昨夜おそうまでゲームやってたんやろ』
 頭の中に伸一の声が聞こえてきたが、口は動いていない。
「おはよう」
 伸一が声をかけたがぼくはかまわず自分の席へいった。
『やっぱり止めようかな』
 また、頭の中で声がしたので後ろを見るとクラス一美人の由美だ。
『どうせジュン君に何を聞いてもわかれへんやろから』
 ぼくは、それを聞いてちょっとがっくりした。
 チャイムが鳴るまでまだ時間がありそうなのでぼくは教室を出た。
 階段を下りると、くつ箱のところに先週転校してきた岡田洋一がいた。
 洋一はまだなんとなくクラスにとけこめない感じだ。
 この間も、いっしょに帰ろうと誘っても「用事があるから」と、ひとりで帰ってしまった。
『上靴がない。やっぱりこの学校でもいじめが始まったのかな』 とつぜん、ぼくの頭の中に洋一の声が聞こえた。
(こいつ、前の学校でいじめられていたんだな。だから、用心していたのか)
 ぼくは近づいて声をかけた。
「どうしたんや」
「買ったばかりの上靴がないんだ」
 洋一は小さい声で答えた。
「さがすの手伝ってやるよ」
 ぼくたちはまず、他のくつ箱のふたを全部開けて回った。しかし、洋一のくつはどこにも入っていなかった。
 そうしている間にチャイムが鳴ったので、ぼくたちはとりあえず、教室に帰ることにした。
「みんな、岡田君の新しい上靴がなくなったんやけど、だれか知らんか」
 ぼくは大声でみんなに呼びかけて、みんなの心の中で考えていることばを聞き取ろうとした。しかし、だれも知らないようだった。
 休み時間になると、伸一をはじめ四、五人がいっしょにさがしてくれることになった。
 ぼくたちはくつ箱の後ろや。掃除用具入れをのぞいた。
 洋一は運動場の端の排水溝の中をのぞいていた。ぼくは前にそんなところにかくされたことがあったのかもしれないと思った。 そのとき、ぼくの前に用務員さんの姿が見えた。
『おや?何をさがしているのかな。ひょっとして、昨日の新しいくつ……』
「それや!おっちゃん。そのくつ、どこにあるの」
 何もいってないのに、とつぜんぼくが声をかけたので用務員さんは目を丸くした。
 結局、洋一のくつは、洋一が昨日、くつ箱の前にぬぎ忘れていたのを用務員さんが、落し物入れの箱に入れておいてくれたのだった。
 それからあと、洋一は少しずつクラスのみんなに打ち解けてきたようだ。
 ところが、残念なことに、ぼくの超能力はその日のうちになくなってしまい、あのふしぎな石も光を失ってただの石ころになってしまった。

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