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すれ違い(2)




うそだ。

うそだよ。

そんなわけ、ないじゃない。

空気は冷たかった。そして、苦しかった。

うそだもの。

暗く、冷たく広い部屋。明かりもつけず、暖炉も焚かない。
ダガーはベッドの上で一人、寝具をかぶってうずくまった。彼女は両手で耳を覆い、
頭を振った。

全部全部、夢なんだ。

目がさめたら、きっと、なにもかもがなかったことになっているに違いない。今日
あったこと全部が、ただの儚い夢。

そうよ、目がさめたらすぐジタンに会いに行って、嫌な夢を見たと言いに行こう。
きっと彼ならそんなことあるわけないだろうって言ってくれるに決まってるわ。

頭の中をぐるぐると回る甘い考え。
凍りついて、ひたすら続く静寂した空気ごしにきこえる心配そうなノックの音が
、彼女をそこから引き剥がした。

『具合が悪くなってしまったわ。今日は一人にしておいてください』

逃げるようにして帰ってきて、そんな理由をつけて部屋から追い出した女将軍は
きっと、暖かい飲み物と風邪薬を持ったまま部屋のドアの前でオロオロとしているこ
とだろう。

お願い、今日は本当に一人にしておいてほしいの。

どんなに耳をふさいでも、実際の音ではないその声が聞こえなくなることはなかっ
た。それはまるで悪魔のように低く静かに彼女の耳元で何度もその言葉を呟く。
必死に、そんなわけはない、と思ってみても、涙が溢れて止まらなかった。

大好きだったのに。

からかうようにいつも浮かべられたジタンの笑顔。
ダガーの大好きな笑顔だった。
ずっと、ずっと自分だけに向けられているものだと思っていたのに。

違ったんだ。
私だけじゃない。きっと、たくさんの女の子にあの笑顔を向けていたのね。

ジタンがいろんな女の子に声をかけたりしているのは知っていたし、多少嫌な気
がしても、それほど気にはかけなかった。
  なぜなら、自分だけが、特別な、存在だと、思っていたから。
彼が女の子に声をかけたりするのはタダノ冗談。彼にとって一番大切なのは自分
の存在であるはずだったのに。
本気でそう信じ込んでしまっていた自分がばからしくなった。
結局は、自分の存在でさえ彼にとって、彼が冗談で声をかけるそこらの女の子達
と、そうかわりのあるものではなかったと言うこと。
それはひどく悲しく、そしてむなしかった。
からかうようなことを言っているようで、実はいつでも勇気付けてくれている彼
のその優しさが大好きだったのに。
ダガーは涙で濡れた手をシーツにこすりつけ、ひどくくしゃくしゃになっている
であろうその顔を枕に押しつけて目を閉じた。
痛いくらいに冷たい空気が彼女を静かに包み込む。意識が深い眠りのそこに沈ん
でいくまで、彼女の涙がとまることはなかった。



「申しわけありません。ガーネット様は只今お仕事中でございまして、お部屋へお通しすることは出来ません。」
嫌なくらいに整った口調でアレクサンドリア兵が首を横に振った。ジタンは不機嫌に口元を歪め、ついには怒鳴ってしまった。
「なんでだよ!この前まではいれてくれたじゃんか!!」
最後にダガーと会ったのは1週間も前のことになる。ブランクと一緒に飲んだあの日以降、彼はダガーの部屋に入れてもらえなくなっていた。
彼女の部屋の前に立ちはだかるようにしている二人のアレクサンドリア兵はため息をついた。
「重要なお仕事なのですよ、ジタン様といえどもお通しするわけにはいきません」

わかってるさ。仕事だってことくらい、ちゃんとわかってる。オレが邪魔なんかしちゃいけないってこと、わかってる。

彼の尾はいらだたしげに床を打っていた。ちゃんと理解しているつもりなのに、ダガーに会えないのはこの二人の兵士が邪魔をしているせいだ、という気さえしてしてしまう。
一度捕まえたはずの小鳥は、彼の手を離れ、またどこか遠くに飛び去ってしまったようだった。
「わかったよ、、、、」
ジタンは肩を落とした。
自分がなんとも惨めだった。愚かだった。
仕事で忙しいのは仕方ないのに、会うことが出来ないのは誰のせいでもないのに、誰かに腹を立てたり、誰かのせいにしたり。

これじゃあまるで、ストーカーじゃないか。

「ん、、、わるいね。ダガーに伝えといてよ、いつでも会いに来いってさ。」
自己嫌悪にかられながら彼は背を丸めた。冬の冷たい風は城の中までも容赦なく襲う。
「じゃ、ヨロシク」
ゆっくりと立ち去るその後姿に兵士二人はため息をついた。
「いいのかなぁ?メチャメチャ寂しそうですよ?」
「仕方ないだろ。ガーネット様が部屋に入れるなっておっしゃったんだから」
「ん―――、ですけど、、、」
ジタンの足音が聞こえなくなると、彼が兵士二人をふりきって開けてしまわぬよう、裏側からドアにもたれていたダガーはその場にズルズルと座り込んだ。
本当に重要な仕事をしていたわけではない。
ただ、彼の顔が見たくなかった。無理もなかった。
彼女は膝を抱え込んだ。
寂しさは決して消えない。そんなにすぐに嫌いになんかなれない。
でも、悲しい出来事が事実なのは確かなのだ。
嫌いになれない代わりに悲しくなる。

時間が戻ってくれればいいのに、なんにも知らなかったあの頃に。本当のことなんて知らないほうが幸せだったわ

開け放された窓から入ってきた風が透明のレースを静かに揺らす。冬の乾燥した空気はなぐさめるように彼女の周りを渦巻いてから消えた。

いいえ。いいのよ。本当の事を知らずにただずっと信じてしまっているよりは。事実を受け止めるのは正しいことだわ。

彼女は立ちあがって窓に近づいた。
金髪のシッポ男が城門をくぐって去っていくのが見える。
思わずその名を呼んで笑顔で手を振ってしまいそうになるのをおさえながらダガーは目を細めてその姿を見ていた。

久しぶりに、本でも読んでみようかしら。

ジタンの姿がここからは見えない船着場に消えるとダガーは図書室に向かった。
多くの書物が並ぶ図書室。
街が破壊された時、ここの本はみんな消失してしまったが、人々の協力でこの図書室には多くの本が提供され、今では街の人々にも公共の図書室として開かれている。
「『君の子猫になりたい』………『君のモーグリになりたい』………………
………………………………………
……………………………………………………………」
ダガーは肩をすくめた。
「『君のチョコボになりたい』『君のフクロウになりたい』『君の、、、、、』……
…………………………………………………………………………………………………………
随分と偽物がでているのね、有名な作品にあやかろうだなんて、なんて卑怯なのかしら」
「そんなことはありませんよ」
半ばあきれながら大好きな本を探していたダガーは、声をかけられて振りかえった。
「名前が似ていても、作品がもとより優れていれば問題ありませんよ」
そこには背の高い成年が得意げに立っていた。誰かさんと同じような綺麗な金髪をツンツンに逆立てて。
彼はようやくダガ―が見つけて手に取ろうとしていた本『君の小鳥になりたい』をひょいととり、
「僕もこの本は嫌いじゃないですけどね」
表紙を眺めてダガーに渡した。
「ガーネット女王様でいらっしゃいますよね?あなたとは色々とお話が出来そうだ。どうです?一緒にお食事でも」
「あの、、、悪いんですけど、、、、、」
断りかけてダガーは口をつぐんだ。
男性からのお誘いを受けるのはよくないことだと思ってきた。

ジタンがいる限りは。

   でも、

        でも、今は

               もう
                         関係ない

「えぇ、行きましょう」
ダガーは微笑んだ。




「くっそー、ルビィのやつ、パシリにしやがって、、、」
ずっとトンカチを握らされていた腕はやたらとだるく、ジタンは肩をグルグルと
まわした。
どうせ、ひまなんだろう、とブランクに連れていかれたのはルビィの経営する劇場。
何かと思えばやらされたのは明日からの上演に使うセットの組み立て。バイト代
は頂けたので文句はそれほど言わないが、おかげですっかり遅くなってしまった。
「ちぇっ、どうせだったら夕食代も請求してくりゃ良かったなぁ、、、」
見上げた真っ黒な空に星はなかった。
冷たい風を体に受けて、さすがに袖なしの服はちょっとな、、、と思っていると
、前から二つの影がやってきた。
寄り添うみたいに歩いてくるカップル。
そんなもの、今は見たくなかった。
ため息をつきながらジタンは道を外れようとゆっくりと左の道へと曲がろうとする
と、そのカップルも同じ道に曲がってきた。
「あっ、、、、、!?」
鉢合わせのような状態になって、彼ははじめてその影が誰だか知ることになった。
夢だか幻だか、その一瞬に現実であることを信じたくなかった。
ジタンは睨むように目を細め、カップルの男のほうを見た。

誰だお前

長身の男だった。
深い暗い色の衣装は夜闇に混じり入り、その姿を隠そうとしているようだった。
信じ
られないほど大きな剣を背中にしょっていて、髪の毛をツンツンに逆立てて、身
なりは見るからに怪しい。
見覚えのある男。
リンドブルムの役者だ。
だいぶ昔、劇場にいったときに見たことがある。
エンギは確かに上等だった。オンナノコに人気があった。

スノウだかクラウドだか、そんな名前だったな。

だが、名前なんてジタンにとって関係なかった。
無意識のうちに長い尾が、威嚇する猫科動物の如くピンと伸びる。

なんでお前がダガーと歩いてるんだよ

この怪しげな長身男と一緒に、まるでカップルと間違えてしまうくらいによりそ
って
一緒に歩いてきたのは間違いなくこの国の女王。
夜道をこんなに近い距離で一緒に歩いている。それではまるで恋人同志ではない
か。

自分だって最近はダガーと仲良く歩くなんてことしていないのに。
なぜこの男が???

フザけるな、離れろよお前。
だいたい、なんなんだよ、そのドデカイ剣は、ほんとに使えんのか?

「お知り合いですか?」
男が口を開いてダガーに尋ねる。

なにぃ?

髪の毛が逆立つ思いがした。
いまにもその男の顔面に殴りかかりそうな勢いでジタンが少し身をかがめる。
そうしながらも横目でダガーの表情をうかがった。
どうやら、この展開に動転しているのはジタンだけではなかったようだった。彼
女もビックリしたように目を見開いて、同時にどうしよう、という困惑の色がうかがえる。
そしてその口から飛び出したのは思わぬ言葉であった。
「い、いいえ」

な…っ…

ジタンは愕然とした。力をこめて握り締めていたこぶしがゆるゆると降りる。
頭の中は真っ白だった。体の中は空っぽだった。体温が全部なくなって、その存
在自
体消えて行くような感じさえ覚えた。
「わたくし、このような方は存じません」
「    っ   、、、」
声も出なかった。
どういうことだよ、
叫びたいのに叫べなかった。
言いたいのに言えなかった。
口の中や喉がカラカラになって、その場に座り込んでしまいそうだった。
「さぁ、行きましょう?」
自分から男に微笑みかけて、ダガーはジタンの前を通りすぎ、さっさと向こうの
闇へ消えていってしまった。
一体、彼女はどんなことを考えたのだろうか。
本気でわかろうと試みたが、まったく見当もつかなかった。
頭の中が、ぐるぐると回ってしまい何がなんだかわからない。もう、なにかを考
えること自体困難な状態だった。よろめく体を支えながらジタンは道端に座り込んだ。


「今日はありがとうございました。こんなに楽しく過ごせたのは久しぶりですよ
。あなたのおかげだ、ガーネット女王様」
街に5軒あるかどうかというくらい豪華なレストランの出口で、役者だと名乗る
青年が笑った。大きなピカピカに磨かれたドアが後ろで音を立てることなく閉まり、ダ
ガーは空を見上げた。
厚く重なった真っ黒な雲から、霧のように細かく糸のように細い雨が降っていた。
まったく遅くなってしまった。早く帰らなければまたスタイナーに説教でもされ
かねない。遅くなったときに一緒にいた男がジタンでなかったと知ればベアトリクス
でも黙ってはいないかもしれない。早く帰らなければ。
「ガーネット様?」
「えっ、、?」
知らず知らずのうち眉をひそめていたダガーは青年の声で我に返った。
「聞いてましたか??」
「あ、ごめんなさい、なんておっしゃいましたの?」
「また一緒にお食事してくださいますか?って」
「また?」
ダガーは、再び眉根を寄せた。
全くいい気分ではなかった。
青年は『楽しかった』といったが彼女にとっては全然。話した内容など、ほとんど覚えていなかった。たぶん、青年の話に曖昧な返事を返していてばかりだっただろう。
それでも『楽しかった』といったのは、おそらくただのご機嫌取り。別に、機嫌
なんてとって欲しくない。
それどころか、今ははっきりいって気分が悪い。
「ご、めんなさいね。忙しいの。そんなに遊んでなんかいられないわ」
どれだけ失礼な言葉だっただろうか。いつもの彼女なら物腰柔らかくいったであろう。
でも今は、そこまで頭を回すことは出来なかった。
考えなければならないことがいっぱいで。
「、、、雨、降ってますね。お城までお送りしましょうか」
考えたくないことがいっぱいで。
「結構です!!」
雨の中ダガーは駆けだした。城に向かって必死に。来るときに「存じない男」と
会った道を避けながら。
気づかない間に雨は少し強まっていた。
生まれたばかりの水たまりに街灯がうつる。足元で揺らめく光の渦をばしゃばし
ゃと踏みつけながら、ダガーは城にたどり着いた。
バタンと、城の裏門から中に入ったダガーは木のドアを乱暴に閉めた。木のドアは湿気ていた。それに触れた手はじっとりと冷たい。
重い足をひきずり、彼女は自分の部屋へ向かうため階段を上がった。
赤い絨毯に濃赤の足跡がつく。
「あ」
しまった、とダガーはため息をついた。雨を払うのを忘れてしまった。
こんな形跡を残してしまえば、自分がおかしな時間に帰ってきたということを知らせてしまうことになる。
どうしたものかと少し考えたが、結局どうでもよくなって彼女は階段を駆け上がった。
しかし、さっさと着替えて寝てしまおうと考えていたダガーは自分の部屋の前で再び立ち止まることとなった。
「遅かったね」
真っ暗な夜。月も星もない。
窓から見えるそんな空が、今日は哀しいくらいに遠かった。雨の流れる音は城内によく響いた。
「待ってたんだけど?」
ぎこちない微笑を浮かべた男のフラフラと揺れる尾が雨雫を絨毯に落とした。
「じっ、、ジタン、ど、、っして!?」
城門はとっくに閉まっているはずの時間だ、一般人は入れない。
ダガー自身は小さい頃に見つけた隠された入り口から、自分しか知らない入り口から帰ってきたというのに。
「オレを誰だと思ってるのかな?元盗賊だぜ?」
ダガーの部屋のドアに寄りかかって腕組みをしている彼の指先が自身の二の腕に強く食いこんでいるのはたった今気づいたことではない。軽くうつむくようにしているため影で見えない彼の目がこわかった。
「あの男は、誰だい?」
口調はいつもと変わらないのに。声の調子もほとんど違わないのに。
でも、すごくこわかった。
彼の気配に背中が冷たい。逃げ出したい気分にもなった。
でも、逃げるわけにはいかない。

逃げるべきなのは、私じゃないわ。ジタンが、わるい

ぐっと一瞬だけダガーは歯を食いしばり、口を開いた。
「言う必要がある?あなたには、関係ない」
ジタンの、揺れていたシッポがぴたりと止まった。
「どういうんだよ、それ」
いつになく低い声だった。
一度しか口にされていないはずの言葉は広い廊下で響いた。
ジタンはゆっくりと顔を上げた。
窓を打つ雨は強さを増す。
「オレってダガーにとってそんな軽い存在?」
「……」

                    そうよ

ダガーは無理やり唇を歪めた。

どうせ、ジタンにとっても私、そんな存在でしょ?

冷たい記憶は蘇る。
お洒落で綺麗なあのバーで彼は確かに口にした。
「オレが一生懸命になって恋してるの、楽しんでた?」
「……」
「へぇ、さすがは女王様って感じだね」

                    なによ

「恋人ですって顔して、いろんな男と遊んでたワケ」
「……」
「サイテーだね」
一瞬、ダガーの瞳が細められる。
横殴りの風がふいたのか、不意に窓が激しくバラバラとなった。
ダガーの小さなこぶしが、きつく握り締められる。手のひらに爪の跡がくっきりとついた。
「なによ」
絞り出すような声が言った。
何か言い返すつもりなんてなかったのに。自分で遊んでただけの男なんかには、文句さえ言う価値がないのだから。
でも、泣きたかった。
悔しかった。
そして、悲しかった。
なぜ、そんなことを言われなければならないのか。
「、、、、本気じゃないくせに」
「え?」
赤い絨毯の廊下は豪雨の音で満たされて、暗い空気を湛えている。
いつも明るい雰囲気をもった城の中が、こんなにも暗い陰を落とすことを、ダガーはこのとき初めて知った。
「ただの遊びだって言ってたじゃない。だったら、、、、」バーでのジタンのその言葉に、大切に想われていると思っていた気持ちが、どれだけ叩きのめされたか。
悲しかったけど、それを強調してしまうのはいやらしいと思っていた。
でも、もう、言わずにはおけなかったのだ。
「だったら、私が何してたっていいじゃない!!」
最初は霧雨だったのに、今は窓の向こうは雨で真っ白だった。
ジタンの顔が凍りついていた。
「ど、、、、、、」
背中に氷水でも入れられたような、そんな心持ちがしながら彼は組んでいた腕をだらりとした。
「ち、違う」
彼はダガーを責めた自分を悔いた。
彼女に浴びせかけた言動を悔いた。
自分を本当にバカだと思ったのは今、この瞬間だったかもしれない。

タダノ遊ビ。

言った。確かに言った。
なぜ、ダガーがその事を知っているのか。瞬間的には疑問に思ったりもしたが、そんなことは問題ではなかった。
理由はどうあれ、彼女は知っている。自分が本気じゃないと認めたことを。
でも、でもそれはその場のノリだった。本当にそんなことを思ったわけではない。そんなことを思うはずがない。
ただ、一生懸命になりすぎて惨めになっている自分を友人に見せたくなかっただけ。

少しだけ、カッコつけたかっただけ。
そう、ただそれだけ。
「違うんだ、それは、、、」
「理由が聞きたいわけじゃない、、、。いいの、理由なんて要らない。ただ、わたしは、遊びの恋なんてしたいと思わないよ」
ダガーは睨みつけるつもりでジタンの顔を見た。
困惑したような彼のその表情が、急にぼやけて歪んだ。
目の奥がじわりと熱くなる。
泣かずにはいられなかった。
悔しく思わずにはいられなかった。
悲しくないわけがなかった。
大きく見開いた瞳から、大きな水粒が駆け下りた。
その哀しい顔が見ていられなくなって、ジタンはガクン、とうつむいた。
「ごめん」
別に、謝って欲しいとかそういうわけではなかった。
信じている者に裏切られた時ほど深い傷はない。謝られたからといってその傷が
浅くなることなどないのだ。
ただ、その裏切られた、という事実がなくならない限りは。
「すまなかった」
「いいの。ごめん、もう、いいから」
ダガーは駆け出していた。
いたたまれなくなった。
もう、何も信じられないと思った。
もう、一生恋なんて出来ないと思った。
降りしきる雨。
ジタンの耳に届くのは、その音だけ。
目の前から消えていった彼女の泣き顔が離れない。
自分は、何がしたかったのだろうか。

ダガーを泣かせたかっただけか?オレは

大切に想ってきた女の子の濡れてついた足跡は、まだ乾ききっていない。
ジタンは壁に立てかけておいた自分がさしてきた青い傘をぐっと掴んだ。
そして、彼は燃えるような絨毯を強く蹴りだして城を飛び出した。

             To be continued



リンドブルムの役者って、誰だかわかるべ?
ジタンがさリンドブルムの武器屋で言うんだよね。
壁に飾ってあるでっかい剣にむかってさ



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