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愛という形(4)

お友達がやっていたので、ちょっとマネ(ごめんね)
この小説は音楽つきで聞いてほしいな、って思いました。
でも、いろいろ著作権の問題とかでMIDIは用意できないのです。
だからもし、FF9のサントラでもお持ちでしたら曲、聞きながら読んでくださると嬉しいです。


(BGM:DISK4 消えぬ悲しみ)


しょうがなかった、

ダガーは自室の白いレースのカーテンをスルスルと開けた。
開け放していた窓からは風が舞い込み、彼女の前髪を揺らす。
その風に、目を細め、窓辺に手をついた彼女は、それで、少しでも遠くが見えるよう気がして、少しだけ窓から身を乗り出した。
眼下に広がる家々と、雲の浮かぶ空と。
そこから見える景色は、いつもと同じ。
数日前となんら変わりないアレクサンドリアの街並み。
晴れた日には、城下町のその向こうに黒々とした森さえ見ることが出来る。
魔と名付けられたその森に向かって流れ落ちる滝や、その飛沫などは、この、彼女の部屋の窓から見るのが一番美しい。
王族にのみ与えられた豪華な景色だった。
だが、既に何度となくそれを目にしているダガーには、それも束縛と退屈しか意味するものがないのだ。

一昨日の式場に、ジタンは来なかった。

小さな村の、小さな教会で。
婚儀を挙げるはずだった式場で。
森の中の木漏れ日に立ち、ダガーは開場直前まで姿をあらわさない彼を心配して待っていた。
しかし、そんな彼女の前に、ジタンの代わりに現れたのは、タンタラスのゼネロだった。
今にも泣き出してしまいそうだったダガーに、急に現れた彼は、いつものよくわからない口調で、彼女に告げたのだ。
ジタンは事情で来れなくなった、と。
その事情がなんなのか、とダガーはもちろん尋ねたけれど、用件を告げたゼネロは何か慌てていて、彼女の質問には答えることなく去っていってしまった。
結局、ダガーは花嫁御寮しか身につけることが出来ない真っ白いドレスに、一度として袖を通すことはなかった。
苦しい記憶を掘り起こしつつ、見なれた街を見下ろしながら、ダガーはその街の家々を隅から隅まで眺めた。
だが、やはりいつもと違うものは何も見つけることが出来なかったのだ。
何かが変わるはずだった。
決して正式ではない式をひっそりと挙げて。
ただ女王、ではなく、彼の妻、になることで、この窓から見える景色も、毎日も、少しは変わってくると思ったのに。
今だけは国をまとめる女王ではいられないダガーはに乗り出していた体を引っ込めた。
彼女がどんなに頑張っても、いつもより遠くが見えることなんてなかった。
そのことに拗ねたかのように、彼女は唇を尖らせる。それは彼女のくせだった。
ふぅ、とため息になってでた息が力なく消える。
哀しさとは何か違う、怒りでもないその気持ちは、一番近いものでいえば寂しさだと思う。
幸い、式を訪れてくれた人達は皆、ジタンとダガーのやりにくい関係をよく知っていたし、なによりジタンの性(しょう)をよく知っていたから、突然の式の中止について何度も頭を下げるダガーを責めることなく、むしろなぐさめてくれた。
訪れていた多忙なリンドブルムの王家一家でさえ、その中止に、ダガーのことを哀れんだほどだ。

仕方なかった、どうしようもなかった、

頭でわかっていながらも、更にそのことを何度も何度も心の中で呟いていなければ、泣き出してしまいそうだった。
ゼネロもとにかく焦っていた。
なにかとてつもなく大変なことがあったのだろう。
そう、結婚式に来られなくなってしまうほどの大変なことが。
ダガーは更に目を細めた。
はっきりと寂しいともいえないのは、寂しいというだけの理由が上手く見つけられないから。
別に、彼が自分を嫌いになったわけではないし。
きゅっと握り締めた手は窓辺の空気をむなしく掴んだだけだった。
彼は、自分だけのものではない。
彼には彼の生き方も生活もあり、ダガーにはどうすることも出来ないということも当然ある。
そんなことはとうにわかっている。
寂しいといえば、そのことが寂しいのかもしれない。
でも、ダガーはそれだけでなく、ふと、疑ってしまうことがあったのだ。
もしかすると、彼は今になって式を挙げることを嫌ったのかもしれない、と。
重くなりがちな足を引きずって彼女は窓から離れると、そっと壁に身を寄りかからせた。
その動作は、他の誰でもない、何よりも彼女が今一番会いたい彼がよくやる動作だった。
退屈なときや、面白くないことがあったとき、腕を組んで俯いて壁に寄りかかる。そんなときの彼の長い尻尾はただ規則的に揺れていて機嫌の悪さなどは如実にわかる。
ダガーがその真似をしたのは、決して偶然などではなくて。
綺麗に塗装された壁に体を預けると、だが、彼女にはただ腕を組んで突っ立つなんてことはできなくて、体を支えていた足は力をなくし、そしてへなへなと壁沿いに座り込んでしまうのだ。
一度は、ダガーを喜ばせようと挙式を提案しては見たものの、やはり正式ではないとはいえ、もしかするとその婚儀が結局はそれが自分から自由を奪うかもしれない、と彼は怖気づいてしまったのではないだろうか?
事情で来られなくなったなんていうのは口実で、本当は式を挙げたくなくなっただけなのではないだろうか?
その不安にだけではなく、そのことを疑ってしまう自分に嫌悪感を抱き、ダガーは自分自身を締め付けていた。
だが、それでも疑わずにいられない。
胸が冷たくなる。泣きたくなる。
ダガーは壁に背をつけたまま膝を抱えた。
王女たるものが床に直接座るものではない、と受けてきた教育も、いつかの冒険でとっくに書き換えられてしまった。
王族は外の世間を知らぬもの知らずである。
その常識を根底からひっくり返したような女王を作り上げたのも、その冒険であった。
それは彼女の運命を大きく変えて、同時に世界をも大きく変えたのだ。
そしてダガーは最近になってよく思うようになった。
あのときのように、自分も解放されてずっと彼のそばにいられたら良いのに、と。
今では忙しくて、一緒にいることが出来る時間さえままならない。

彼は優しいから。
式を挙げることでダガーを喜ばせようとした。
だが、彼は優しいから。
はっきりと式の中止を彼女に伝えることが出来なかった。
急用が出来てこられなくなった、という理由をつけて?

「ダガー、おるか?」
そのとき、ドアをノックする女性の声に、床に座り込んでいたダガーは慌てて立ちあがった。
こんな姿を人に見せるわけにはいかなかったのだ。
泣きそうだった顔を整えると、彼女はどうぞ、と部屋のドアを開けた。
変り身は、早いほうだと思う。
女王、という職業柄、私的なことを引きずったまま人前に姿をあらわすわけにはいかないことが多かった。
つらいときも、苦しいときも人々の前に出るときは笑顔でなければならない。
そうでなければ、民に余計な心配の種をまいてしまうことになるから。
最初はそれも大変だったが、今ではそれにもある程度慣れてそれほどの苦にはならないのだった。
だから、今も、平気な顔をして来客に応じるつもりだったのだ。
しかし、いざ来客を迎えようとドアを開けたダガーにはそれが出来なかった。
「フライヤ、、、、」
よく見知った、心の許せる友人の前に、彼女の変り身は、一瞬のうちにとけてしまったのだ。
「どうしているかと思ってな、やはり、元気ではないようじゃのう」
赤い服の竜騎士は、憂いのこもった瞳でドアの前に立っていた。
今は竜騎士だが、彼女こそが、ダガーの憧れた花嫁であり、そして中止されてしまったジタンとダガーの結婚式に来てくれた者の一人でもあった。
彼女は、ブルメシアの城に仕える騎士の仕事にわざわざ休暇までもらい、ダガーを訪ねてきたのだ。
ダガーのことが心配だったから。
婚儀のあとに来客に謝罪するダガーは、今日のように落ち込んだ様子を見せる様子は微塵もなかったけれど。
やはりその内心がどれほどまでに落ち込み悲しんでいるかは、あの状況では誰の目にも明らかなことであった。
「そう?元気よ私は」
「そういう風には見えぬがな」
全く嘘だと見破れる女王の態度にフライヤは首を傾げて見せる。
ダガーはそれでも、そんなことないわ、を繰り返す。
自分でも元気があるようには見えないだろうことをわかっていながら。
そうでもしていなければ、何かに負けてしまいそうな気がしたのだ。
「全く、おぬしも、、、、、、、、、、。、、、、、、、、、とにかく、部屋に邪魔させてもらってもよいか?」
「えぇ、どうぞ」
呆れたのだろうか、フライヤは一瞬、なにか言葉を呟きかけ、しかしそれを最後までは言わなかった。
そして、言葉を続ける代わりに部屋に上がらせてもらうことを乞う。
もちろん、快く彼女を部屋に招き入れたダガーに、一応は女王の部屋にあがるということで、フライヤは形式にのっとり、恭しく一礼してから部屋に足を踏み入れた。
何もそれは不思議なことではなく、むしろこのように、城に仕える騎士と一国の女王とが部屋の前で立ち話をしていることのほうが普通ではないのだ。
この国では、そんなことも暗黙のうちの了解とはなっているが。
どこをどう見ても位の高い者の部屋ということは一目瞭然であり、常人ならもう少し恐縮してもよいものなのだが、何度もこの部屋を訪ねているフライヤはそんなそぶりを見せないし、女王当人でさえフライヤのような友人が訪ねてきたときはそんなこと、すっかり念頭から消えてしまっている。
「いつ見ても良い景色じゃな」
部屋で一番大きな窓、ダガーがさっきまで外を見ていた窓にフライヤは近づいた。
この部屋に入った者が最初に目にして感嘆の声をあげるのがたいていこの窓の景色だった。
フライヤもその例外ではなく、彼女はこの部屋にくるたびにまずこの景色に感心する。
ダガーは何度も来ているフライヤならそろそろこの景色にも飽きてきたのではないかと思うのだが、元々高いところが好きであり、そこで風を読むことを宗とするフライヤには飽きるなんてことはないのだろう。
ダガーの予想を外し、今日も景色に感動するフライヤ。
その彼女の隣に並ぶようにして、今度は腰をかがめるようにして窓辺に両肘をつくと、ダガーは笑った。
「そうね、私みたいに見飽きたりしなければ」
だが、言った直後、見飽きる、という表現はもしかすると不適当かもしれないと、ダガーは思った。
飽きるというほどこの景色が嫌いなわけじゃない。
ただ、幼いころからここで育ち、見慣れていると言うのが適当だろう。
ずっとここを離れていたら、いつかは帰ってきたくなるだろうし、慣れ親しんでいないわけでは決してないのだ。
贅沢じゃの、と冗談口調で笑うフライヤに、ダガーは、そうでしょ?と冗談口調で返した。
特に仕事も入っていない貴重な時間。
一人でいて、いろいろなことを考えて、落ち込んでしまっているよりも、こうして人と話をしていることのほうが、この若き女王には良いようだ。
冷えて硬くなっていた心も、いくらか和みダガーはやんわりと微笑んでいた。
おそらく、今フライヤのような心の許せるもの以外の客人が訪ねてきていたとしたら、ダガーは微笑んでいても、それは作り笑いでしかなかっただろう。
客人が、その笑顔が偽物だと気づくことがなくても、ダガー自身は暗い気持ちを引きずりつづけることになる。
訪ねてきてくれたフライヤの意図はしっかりと果たされたのだ。
そんなダガーの笑顔に気がついたフライヤは、少し安心したような表情を浮かべ、しかし次の瞬間に彼女はその声色を暗くした。
「それで、あの後ジタンとは会えたのか?」
視線の先はフライヤに向けることなく、窓の外を見たままダガーは口元を微笑ませるようにした。
窓辺に並んで二人、ふとすれば途切れがちになるその会話が、瞬間に動きを止める。
ジタンは、会いになんて来なかったのだ。
ダガーは、彼の顔が見たかったのに。
会って、式に来なかった彼を咎めたいわけではない。
ただ、彼に会って、安心したかった。
それだけなのに。
悲しげに微笑んだまま、ダガーはフライヤの質問に首を横に振った。
そこで、沈黙の風が二人の間を駆け抜けて行く。
本当は、聞かなくても、フライヤにはジタンがあの後ダガーの元に来たことがないということなどわかっていた。
そこを敢えて聞いたのは、話を切り出すためだったのかもしれない。
フライヤは、なにか自嘲でもするかのような表情のままのダガーを眺めた。
お調子者で、無礼きわまりないジタンのペースにいつもかきまわされている哀れな少女。
そこにあるのは国を治める女王の表情では決してない。
「無理のし過ぎじゃ」
「え?」
「おぬしは無理のし過ぎなのじゃ」
ダガーには意味深にしか聞こえない言葉だった。
彼女は思わずフライヤを見た。
普段は俯いて隠しがちな翠の綺麗の瞳が、なだめるかのごとくダガーを見据えていた。
ヒトよりも一回り体の大きいネズミ族。
そのなかでもフライヤは小柄なほうではあるのだが、ダガーよりはずっとすらりと背が高い。
どういう意味?というダガーの視線は自然と見上げるようになる。
フライヤは少しだけ微笑んで見せた。
「寂しいのなら寂しい、とそう言えば良い。己の感情を隠すことほどつまらぬことはないぞ?ジタンもあの性格じゃ、自分からは顔向けできんのだろう。おぬしから会いに行けば良いではないか」
ダガーは無意識のうちに眉根を寄せた。
いつからだろう。
自分と彼との間に距離を切実に感じるようになったのは。
もともと同じ場所になんかいなかったことはわかっているけれど。
自分が王家で、彼がそうではない限り、仕方がない。
だが、
それも承知の上だった。
一緒に旅をして、助け合ったり笑ったりで、そんな身分の距離なんて忘れて。
彼が、たった一人で死線を乗り越え王女から女王になった自分のところに帰ってきてくれた時、ダガーは身分の差なんて関係ないと確信したはずだったのに。
最近では、どこか常に彼が遠い気がして。
「出来ないわ」
女王と、少女と、二つの顔を持つ彼女の唇からこぼれたのは否定の言葉だった。
なに、という表情を向けるフライヤに彼女はやはり平気そうな笑顔を見せる。
「駄目なの。私からは会いに行けない」
自分には入っていけない領域がある。
そんな気がして。
「何故じゃ?」
「なんでも」
彼に、煩わしく思われたくなくて。
風のように、空気のように、そんなふうに自然に、近くにいられるだけでいい。
一緒にいても違和感なんてないように。
自分は彼の重荷になりたくなかったから。
だからダガーは今回のことをジタンに追求することが怖かった。
寂しいから、といって彼に会いに行くのが怖かった。
「仕方のない娘じゃの」
いつもは大きな槍を握る戦士の手が、優しい仕草でダガーの肩を叩いた。
ダガーは窓辺についていた肘を取り除けて、曇りがちな瞳を上げた。
いつも大人びた眼差しをした竜騎士の横顔に、彼女が花嫁だったときの少女のような笑顔を重ねて。
「何を思ってそう言うのかはわからぬが、おぬしは少し深読みのし過ぎのようじゃ。おぬしとジタンと、互いの心をもっと知り合え。奴はつける薬のないほどのバカではあるが、おぬしの思うほど頑な(かたくな)な男ではない。」
「…………」
「もっとも、他人に言われたからといって奴の心を知ることが出来るわけではないのかもしれぬがな」
フライヤが笑った。
どういうことだろう。
ダガーには、彼女の言っていることの意味が、本当はよくわからなかった。
心を知るということのあまりの漠然さに、フライヤの言いたいことはダガーの胸には届かなかった。
だが、なぜだかひどく気持ちが揺すぶられたのだ。
心をぎゅうと強く掴まれたかのような、そんな感覚を覚えさせる力が、フライヤの笑顔にあった。
よくわからないのに、自分を解放してくれそうな優しさが、フライヤの言葉にあった。
だから、思わず、本当に衝動的に、ダガーは体を預けるようにしてフライヤに泣きついてしまっていたのだ。
自分より頭一つ分くらい背の高いフライヤは、ジタンと同じくらいで胸を借りるにはちょうどよかった。
そのせいかもしれない。
ダガーは声をあげて泣いていた。
フライヤは、急なことに驚きつつもその年下の、それでもとても大切な友人の肩を、励ますように抱きしめてやった。
どんなに彼女が女王という肩書きを着せられていても、国民全員が口をそろえて彼女を立派だと言っても、フライヤには彼女の本性が見抜けていた。
彼女は乙女。
か弱い乙女。

この国の女王は、ただの一人の若くか弱い娘なのだ。



(BGM:DISK2 タンタラスのテーマ)

「で、結局あんたは一体なんやの?」
存在が邪魔だ、とでもいいたげにルビィはジタンを睨みつけた。
実際邪魔だったのだ。この狭いプリマビスタの動力室で何もしないで突っ立っているジタンが。
霧の動力から蒸気機関で動くようになったこの飛空挺には燃料が不可欠。
炎を燃やし、蒸気を発生させなくては船は飛べない。
その大切な燃料となる薪をくべに来たというのに。
いつものニヤニヤ笑顔を浮かべる尻尾男が邪魔でボイラーの蓋が開けられないのだ。
「手伝いもせんと、あんたウザいで?はよ退きぃ!うちが燃料いれな船が落ちるやろ!」
ルビィはちょうど壁に立てかけてあった竹箒を振りかざしその尻尾男をボイラーの前から追いたてた。
追い立てられた彼は、おいおい箒かよ、、、、などと言いながらしぶしぶボイラーの前から退く。
そんな退かした彼を睨み付け、ルビィは燃料を放り込み始めた。
しかし、追いたてられてもなおジタンは燃料をいれるルビィの後ろに立って、立ち去ろうとはしない。
ごうごうと激しく燃えるかまの真っ赤の色がルビィの顔をも赤く照らす。
彼女は額に浮く汗をぬぐいながら次々と燃料をほうっていた。
「なんか用があるんやろ?黙ってないでなんとか言ったらどやの?」
追加された燃料のおかげで真っ赤なかまが更に火力を増す。
熱さに拍車がかかり、灼熱地獄となったかま。
燃料を全部入れ終わり、その重い鉄の蓋を、鉄棒を使ってぎぃぃという音を立てて閉めると、ルビィは再度額の汗をぬぐった。
凄まじい熱さに、顔が火照る。
これだから燃料くべは嫌いだ、と文句を言いながら火傷防止の厚手の皮手袋を外すと彼女はそれを壁のフックにかけた。
そしてようやく何も答えないジタンを振り返る。
「用がないならさっさと出る!うちみたいなかわいい子がこないに大変な仕事すんのを見てるだけやなんて、、、、、、ムカつくわ!このアホ!手伝え!」
しっしっ、と睨みながら狭い動力室をジタンとすれ違い、彼女はドアを出る。
彼女をよけてやったジタンは思わずふっと笑った。
安心したのだ。
この前のバーのこともあったのに、自分に以前と変わらないような対応をすることが出来るルビィの強さに。
ルビィのこんなさばさばとした性格と思い切りのよさが、ジタンは彼女のいいところだと思っている。
ほぼ男所帯となっていたタンタラスで、女性としての団員は彼女たった一人だった。
そんな中でもしっかりとその団員をやっていけたのは、彼女のその女性らしくも、男盛りとも取れる豪快な性格のおかげだろう。
それに加えて、しっかりしていたルビィは、だらしない男どもをひっぱ叩きながら引っ張っていく、ムードメーカー的な存在だった。
だが、今回ばかりは彼女がこんなにも平然としていることが出来るのは、彼女のそんな性格だけが理由ではない、ジタンにはそんな気がしていた。
あっついわ、、、と手で顔を仰ぎながら動力室を出たルビィの後を、ジタンは何も言わずについていく。
廊下をずいずい歩くルビィ。
そのあとにつづくジタン。
しばらく二人は黙々と歩いていたのだが、耐えきれなくなって先に立ち止まったのはルビィだった。
「ホンマなんやの!?!?用があんならはっきり言いや!!!!!!」
ジタンに黙ってついてこられて、気分が悪かったのだ。
振り返った彼女にひどく睨み付けられ、ジタンは苦笑いした。
彼女の顔が怖かったのと、それと、彼女の顔に煤(すす)がついているのに気がついたからだ。
たぶん、薪を入れていたときについてしまったものだろう。
自分を睨み付ける目は鋭く怖くても、その煤でなんだかルビィが滑稽だったのだ。
「黒くなってるよ」
ジタンは自分の鼻の頭を指した。
ルビィのそのあたりに煤がついていたのだ。
文句ありげに振り返ってしまったルビィはばつが悪そうに顔についた煤を擦る。
しかし、それで煤は落ちず、むしろ擦ったせいで広い範囲に伸ばしてしまったようになった。
だが、ジタンはそこまでは彼女に知らせなかった。
面白かったので、そのままにしておこう、という悪戯心だ。
「用はそれだけ?」
擦って煤はすっかり落ちたと思っているルビィはやっぱりジタンを睨む。
睨まれた彼はそれに対して笑わないように心がけるのみ。
「いやいや、聞きたいことがあるわけさ」
どこかつかみどころがない態度にルビィは機嫌悪くしかめた顔を崩さないまま、またジタンに背を向けて廊下の続きを歩き出す。
「聞きたいことって?」
コツコツとヒールの鳴る足音の後をぎしぎしと木の床を鳴らす足音が追いかける。
ジタンは早足のルビィと同じ歩調で、しかし、隣には並ばず、彼女の後ろをついていくようにして歩く。
隣を歩くと、拳が飛んできて、危ないのだ。
「いやぁ、どうなのかなぁ?って思ってさぁ、、、。奴とはいいカンジなんだ?」
「奴って誰や?」
ルビィは早足のまま、声の調子も変えずに聞き返してくる。
しかし、その様子にさえもジタンは危険を感じ、ちょっと歩いている彼女との距離を開けた。
声の調子は変わらなくても、後ろを歩いていて、彼女の拳が固められるのが確認できたからだ。
「わかってるくせに、、、しらばっくれんなよ、、、。空白のことさ」
「は?」
「ブランク=空白」
「、、、ジタン、気づいてるか知れへんけど、あんた最近、親父化してきたで?ホンマ、寒」
おやじ、という言葉に眉を反応させるものの、ジタンもひるむわけにはいかなかった。
自分の式の約束を蹴ってまで助けてやったのだ。
もちろん、ルビィの口から感謝の言葉は聞いた。
だが、それだけでは彼の腹の虫は治まらなかったのである。
ブランクとの事情は、絶対聞かせてもらう。
自分にはその義務がある、とジタンは思っていた。
だから今日は、ルビィが口を割るまで諦めない、と意気込んできたのだ。
「話しの路線を変えようとしても無駄だぜ、ルビィさん」
「……」
「シカトかよ?教えてくれるまで追いまわすよ?」
「それ以上しつこいと、、、、どうなるかわかっとるやろ?ジタン?」
ビュッ、とルビィの拳が空を切った。
ジタンがもし今、彼女の隣を歩いていたとしたら、その拳は確実にジタンの顔にヒットしていただろう。
タンタラスに所属する男性であったならば、一度は必ずルビィに殴られたことがある。(ルビィは女性は殴らない)
ジタンも例外ではなく、どんなときに殴られるかは既に学習しているつもりだ。
「ボコボコにされたなかったら、さっさと諦めたほうが身のためやで?」
自分の鉄拳を見せつけた後、ルビィは後ろを歩いていたジタンをほんの少し振り返って不適に笑った。
ひぃぃ、と思わず苦笑いするジタンだが、彼はそれでも引き下がる気がない。
既にルビィとの距離はある程度あいていたのだが、ジタンは更にその距離をあけ、ルビィの拳が届かない場所に下がる。
「ふ〜ん?殴ろうとするってことは、アレか。認めるってことだな?ブランクとの仲を」
「オレがどうしたって?」
ルビィの周りの空気が急にぐんと重くなり、本格的に危ない、とジタンが感じた瞬間、急に横にあった扉が開いて、噂のブランクが顔を出した。
そこはブランクの部屋だったのだ。
ブランクが部屋にいると、ドアの向こうからルビィとジタンの会話が聞こえ、その会話に自分の名前が聞き取れたため、彼は気になって顔を出したのだ。
「おぅ、ブランク。いいところに来た。助けてくれよ。ルビィが殴ろうとするんだ」
ブランクの登場によってルビィの怒りに水がさされ、殺気立っていた彼女の気配が静まった。
ジタンはほっと胸をなでおろすと共に、いい機会だ、とブランクをも会話に誘う。
この際だ、二人の目の前で、その関係をはっきりしておこう、と。
「お前がまたなんかルビィに言ったんだろ?自分で何とかしてくれ、とばっちりはごめんだ」
自業自得だ、とでも言いた気なブランク。
むむむ、とそんな彼の台詞に対し、鼻に皺を寄せるジタンの極めつけの一言。
「お前の女だろ、ちゃんと面倒見とけよ」

「……………」

「……………」

その場の空気が凍りついたようにとまった。
唯一、緊張感をさほど感じていなかったのは、空気を凍らせた言葉を吐いたジタンのみ。
それというのも、彼は言葉を言う時点で、この状況を予想していたからなのだが。
ブランクはいき場をなくした視線をさまよわせ、背を向けたままのルビィも握り締めた拳をどうしていいかわからない。
大方二人とも自分に対しては否定したくてしょうがないのだろうとジタンは思う。
しかし、ブランクはルビィがいるため、自分の気持ちに偽ったことを言うことが出来ない。
また同じくルビィもブランクがいるため露骨にその否定ととれる鉄拳をジタンにくらわせることができないのだ。
互いに、相手に否定できないほど想いあっている。
これは確信してもいいだろう。
「はっきりさせておこうじゃないか、お二方」
ジタンは得意げに言い放った。
だが、
「お前はどうなんだよ?ジタン」
「え?」
「人のことばっか構ってないで自分の方なんとかしろよ」
逆に訪ねてきたブランクの言葉に、ジタンは思わず黙り込むこととなった。
式を挙げるはずの約束を破り、ルビィを助けに行ったジタン。
彼はその後、ダガーに会いに行ってはいない。
タンタラス団員全員に、謝りに行くべきだ、と散々叩かれたというのに、それでも行かないのだ。
その理由をなぜか、と問うと、彼が必ず答えるせりふ。
「だって、あわせる顔がないだろ」
ちゃんとした事情があるのだから、ダガーにはきちんと行くことが出来なかった理由を説明すればいいものを、ジタンは言い訳みたいで嫌だ、といって聞かないのだ。
そして彼はまた今回もブランクの質問に同じ答えを返し、それに対してさっきまで気まずそうだったルビィとブランクが躍起になる。
「まだそないなこと言ってんの?!アホやろジタン!」
「そうだぜ、ダガーに嫌われんぞホントに」
「、、、、うるせー。っつーかオレが行かなかったらお前らどーなってたと思うよ?ベヒーモスの連中に潰されてたぜ、絶対!!それを感謝もせずにアホだのなんのって、、、」
「バッカだなぁ、そう言う問題じゃないだろ。参戦しに来てくれたことには感謝するけど。ジタンが姫んとこ謝りに行かないのはいただけねぇよなぁ。」
「ホンマやな。ジタンには感謝してるけど。ダガーに会いに行かないのは、うちも感心でけへんわ。早く行ってあげないととり返しがつかなくなるで?」
二人に顔をのぞきこまれて、さっきまで優位に立っていたはずジタンは体を縮めた。
ブランクとルビィの関係を、言葉になるほどはっきりとした形として聞き出そうと思っていたのに、気がつけば、何故謝りに行かないのか、と自分が問い詰められている。
こんなに責められるのなら、よけいな聞き出しなんてしなければよかった。
まったく、間が悪い。
ジタンは不服そうに仏頂面をした。
「なんで、そないに意地張るんかなぁ?」
意地?
別に、意地を張っているわけじゃない。
ただ、怖いだけ。
事情があったとはいえ、結果的には彼女を裏切る形になってしまったこと。
彼女は傷ついているだろう。
それに、怒っているかもしれないし。
「あんなべっぴんさんをほっとけるジタンの精神状態がオレにはわからねぇな」
一番怖いのは、自分の勝手さに彼女が愛想を尽かしてしまうのではないかということ。
結婚式に来ないと思ったら、その数日後にひょいとあらわれて、結婚式にくることが出来なかったことの言い訳を始める、なんて、勝手にもほどがあると思う、自分でも。
いい加減、ダガーも自分のことを迷惑だと思い始めしまうのではないだろうか。
そんなことばかり考えて。
だからダガーに会いに行くのが怖いのだ。
「、、、、、、、、、、、、、別に意地ってわけじゃないさ、、、、、、」
臆病だと思う。
ルビィのことにしても、ダガーのことにしても。
はっきりと出来ない自分が。
「そういうとこ、不器用だよな、お前。」
ブランクが呆れたように呟いた。
よく、ナンパがご趣味と嘯くジタン。カッコつけているつもりなのかもしれないが。
だがしかし、本当に大切な者に対しては、ここぞと言うときには、傷つけるのが怖い、と言って。
ジタンは口を結んで子供のように不機嫌そうにしている。
ルビィもブランクもその後のジタンの反応を待っていたが、相変わらずジタンの変わらない表情。
大袈裟に眉をそびやかして、はぁぁ、とため息をついたブランクは諦めたようにして口を開いた。
「軟派野郎のくせして、、、なんでダガーの前では素直になれないかなぁ?ま、別にオレには関係ないけどな」
「、、、、、、、、」
「、、、、、、、、」
「ところで、さっきから気になっていたんだが、、、、」
その場の雰囲気をがらりと変えるようにブランクが呟いた。
矛先が自分ではないところに向けられたことに気がついたジタンは顔を上げる。
特に、窺うようにしてブランクに顔を覗き込まれたルビィは怪訝そうに首をかしげた。
「なんや?」
随分とからかいを含んだような笑みを浮かべたブランクが、いや、、、、と口元に手を当てて何か悩むようにする。
それに気がついたジタンは、彼と同じように口元に笑みを浮かべた。そして、それを隠すように顔を俯けた。
彼が何を悩んでいるのかを察したのだ。
ブランクよりも先に、それに気がついていたのはジタンだったから。
「なんやねん二人とも」
たまらずくつくつと笑い出したジタン。
彼を尻目に、ルビィははき捨てるように言う。
二人もの人間が、なにやら笑いをこらえている。
なのに自分だけはその笑っている理由がわからない。
そのために、彼女は馬鹿にされたような気分になったのだ。
いや、実際に彼女は一人、からかわれていたのだが。
「おー、こらこら、待て待て」
機嫌を悪くしたルビィがふん、と踵を返し立ち去ろうとしたため、ブランクは慌てて彼女の腕を掴んだ。
いい加減、これ以上彼女をからかうと後が怖いのだ。
なんや?と怖い顔で振り返ったルビィはブランクに掴まれた腕を振り払う。
だが、それを見て、男二人はやはり吹き出しそうになる。
「なんやねん!ホンマに!!!」
ブランクがルビィの頭を抑えた。
からかわれて腹を立てていたルビィは、呼びとめられて腕を掴まれただけでそれを振り払おうとしていたと言うのに、今度は急に頭を抑えつけられ、なにすんねん!と激しく暴れる。
ジタンは彼女の拳がいつブランクの顔にヒットするだろうかとひやひやした。
だが、彼女よりも先に手を伸ばしたのは、ブランクのほうだったのだ。
「ここ、真っ黒で狸みたいなんだよ」
「あ」
ジタンは思わず目を見張っていた。
自分のことではないのに、思わずどきりとしてしまった。
ブランクの色黒の手がルビィの顔に伸ばされて、彼女の顔の煤を擦ってやったのだ。
「、、、、、、、」
ジタンよりも胸をどきりとさせていたのはルビィ。
女性の顔に男性が触れるというのは。
そう気安く許されるものではない。
「あー、、おおきに」
だが、照れたように笑ったのだ、ルビィは。
わかっていたが、ブランクにそこまで心を許していたなんて。
誰もが羨むような幸せそうな笑顔が、なぜか今はジタンの癪に障った。
ブランクに落としてもらって煤の落ちたルビィは、彼に礼を述べた後、なんでさっき教えてくれなかったのかといいたげにジタンを睨んだ。
だが、睨まれた彼は、ルビィの文句をくみ取ってはいなかった。
というよりも、ルビィの睨んでいることにさえ気がつかなかったのだ。
全く別のことを考えていたから。
「どうしたジタン?」
変な顔をして口を結んでしまった彼に気がついてブランクが尋ねる。
なかなかダガーとの距離を上手く保つことが出来なくて頭を抱えるジタン。
今回はずっと睨まれっぱなしだった彼が、ブランクを睨みあげた。
「、、、、っつーか、オレが今こんなに苦しいのに。お前ら、、、、、、、、、、」
ジタンはアッカンベー、とやはり子供っぽく舌を出した。
「仲良さそうで、、、、、ムカつく!!!」
ブランクを睨むそんな彼の目に、ちっとも凄みはなかったが。



               To be continued


やぁーっとできたぁ、、、、(−−)えぅー、駄目だ。もう、スランプスランプ。
いやはや、、、常にスランプって言ってるけど、やっぱり今日もスランプ。そして、明日もスランプ。
まったく、もう、、、文章が出てこないわ出てこないわで、ホンマに困ったー(><)
一作品が完結するのに、アタシったら時間かかり過ぎよね。
それはともかく、ジタンちゃんったら、、、、なんっか、、、女々しいなぁ。
私が書くジタンは常に女々しいけど、今回は特に女々しい。
自分で書いていて泣けてきた、なんか、情けない、、、、、。
やだなぁ、もう。本当のゲームのジタンはもっと格好よかった気がする。私もかっこいい方が好きなのに、、、
なんで、こんな女々しいんだろうと考えて思い立った。
ゲーム中で、ジタンが女王になったダガーになんだか近づけなくてうじうじしている印象が非常に濃く染み付いて、、、
なんだか、ジタンと言うキャラがうじうじキャラみたいな感じが私の中に強く残ってるみたいで、やなかんじ。
次は格好のいいジタンを書きたいわ!
ところでタンタラスの仲間って、よさそうな感じがしませんか?
ジタンと気まずい立場になったルビィが数日後にはその気配を微塵も感じさせなかったり、
ルビィを傷つけたジタンに腹を立てたブランクも、その後はそのことをすっぱり忘れてジタンとじゃれあったり、
そんな嫌なことを引きずりつづけない奇抜さ、が彼らにはあるきがします。
今回はそんなタンタラスからピックアップしたブランクとルビィを意識して書いてみたりもしました。
で、今回もここまで読んでくれてアリガトウゴザイマス。
続きも頑張って書きますので、ぜひ、次もよんでやったくださいね!



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