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愛という形(3)

お友達がやっていたので、ちょっとマネ(ごめんね)
この小説は音楽つきで聞いてほしいな、って思いました。
でも、いろいろ著作権の問題とかでMIDIは用意できないのです。
だからもし、FF9のサントラでもお持ちでしたら曲、聞きながら読んでくださると嬉しいです。


(BGM:DISK4 それぞれの戦い)


結婚前夜は、一人でいたかった。
とても大切で、ずっと一緒にいたいダガーではあるのだけれど、やはり、前夜は一人になって、明日は彼女と式を挙げるのだ、ということをしっかりと実感しておきたかった。

だから、あえて、今夜はダガーに会いに行くことはせずにプリマビスタに泊まることにしたのだ。

が。

翌朝の大事件。
誰が予想しただろうか。

結婚式当日の朝、飛空挺プリマビスタの、長年使ってきたベッドの上でジタンは目を覚ました。
目を覚ましたと言うよりも叩き起こされた。
「ジタン!ルビィがいなくなったズラ!」
プリマビスタは昨夜のうちに既にジタンの式場となる教会のある村近くに降り立っていた。
ここから徒歩で30分、今日は時間までに式場にたどり着ければいいだけのはずだったのに。
舞い込んだ一大事は、その予定をひっくり返しかねなかった。

今朝、ルビィがいなくなったというのだ。

ブランクが一番最初にそのことに気がついたらしいが。
しかも、彼女はなにやら自室に誰かと争ったような跡を残していったとか。
「たぶんルビィは攫われたズラ」
「はぁっ!?」
目覚め一発、まだ夢の続きでも見ているのではないかというようなシナの台詞にジタンは混乱した。
知らず知らずのうちに頭の寝癖に手をやって、ジタンはうーん、と唸った。
どこぞの世間知らずのお姫様じゃあるまいし、あの肝っ玉姉御のルビィが攫われた、というのが信じられなかったのだ。
「多分、ベヒーモスの奴らズラ」
「マジかよ、、、」
猛獣の王の名を欲しいままにするモンスター・ベヒーモス。
だが、シナが言うベヒーモスというのはモンスターのことではなく、そのモンスターの名をもつ盗賊団のことだ。
盗賊団ベヒーモス。
奴らはタンタラスと違い、無差別に町や村を襲い、金品とともに人の命をも奪い去っていく。
とにかく大人数で構成された盗賊団で、ときには同業である盗賊を対象とした盗賊狩りを行うことさえあるのだ。
その恐ろしさはベヒーモスの名によく合っているとは思う。
「なんで、、、、、、」
ジタンは、やはりまだ夢を見ているのではないかと疑いながらシナを見上げた。

なんでよりにもよってベヒーモスの奴らにルビィが攫われるのか、と。


とんでもないことになった。

会議室に集められて、夢ではないということがだんだん確定してきて、ジタンはようやく焦ってきた。
「やっぱ、昨日のがマズかったんだろうなぁ、、、、」
一番心配しているだろうブランクが、わざとなのかそうでないのか、全然平気そうな、まるで冗談みたいな口調で呟く。
内心は焦りつつも、ジタンもそれに習って平静を装うことにした。
「『昨日の』って何だよ?」
「え?あぁ、、、」
ブランクが言う『昨日の』とは。
昨夜、三人でバーを出た後のことらしい。
ジタンとブランクはそのあと直接プリマビスタに戻ったのだが、ルビィだけは自分の経営する小劇場に寄っていく、とかで、その場で二人とは別れた。
その後。
彼女はみちなかで出会ったベヒーモスの女団員に喧嘩を吹っかけたらしい。
明日のために、と早寝をしていたジタンは知らなかったが、遅くに帰ってきたルビィは、その喧嘩の様子をなぜか得意げにみんなに話していたという。
おそらく、その因縁か何かでルビィは夜中のうちに攫われたのだろう。
「な、なんで喧嘩なんか吹っかけるわけ?」
「知るかよ。ただ、、、、酒も入ってたし、なにより精神的にきてたんだと思う」
心なしか、ブランクは言いながらジタンを睨んだようだった。
「それで、奴らに目をつけられたッスね」
「おいおいおいおい、、、、、まさかもう殺されてるなんて可能性もあるんじゃ、、、」
ブランクに睨まれたことは気づいたが、ジタンはあえて気がつかないふりをしながら顔をしかめた。
またその気づかないフリに対して不満そうな顔をするブランクは、ジタンの不安を否定する。
「縁起でもないこというなよ。多分、ただの嫌がらせだろうからそれはないとは思うんだ」
ベヒーモスが義賊でないとはいえ、彼らも人。
盗むこと以外の目的で人を殺すことはしない、とブランクは踏んでいた。
どちらにしろ、タンタラスの面々は人を殺すベヒーモスを許す気にはなれないが。
「だといいけど」
一抹の不安を感じながら口の中でジタンが呟いたとき、会議室のドアがバタンと開いて、べネロが入ってきた。
彼は今までベヒーモスのアジトを探しに行っていたのだ。
彼が帰ってきたということは、ベヒーモスのアジトを見つけたということ。
「さて、ベネロも戻ってきたことだし、助けに行くズラか」
誰もがシナの言葉に頷き、会議室の席を立つ。
だが、その中、ジタンだけはどうしても躊躇して頷くことが出来なかった。

ルビィを助けたくないわけでは決してない。断じてない。絶対ない。

当然だ。だが。

今、ベヒーモスからルビィを救い出しに行く、というのはおそらく一日がかり大仕事になる。

それが意味することは何か、といえば。

結婚式に間に合わない。

「………」
ひとり、また一人と会議室を出て行く。
優先すべきは結婚式ではなく、人の身の危険のかかったほうなわけだが、わかってはいるわけだが、それでダガーはどんな顔をするだろう、と、どう思うだろう、とそう考え始めてしまうと、自分が行かなくてもルビィのことはみんなが何とかしてくれるのではないか
、という方向に考えが行ってしまう。
どっちをとるべきか、どうするべきか、思案にくれている間にも他の仲間たちはもう部屋を出て行き、残っていたのはジタンと、そしてブランクだけだった。
ブランクは他のメンバーとは違い、部屋を出て行こうとはせず、その場に突っ立ってジタンを眺めていた。
「お前は、先に教会行ってろよ」
無表情で、気まずそうな雰囲気を漂わせながらも、ジタンの心中を悟ったブランクが言った。
「でも、、、、、、、」
「心配はいらねぇよ。ジタンがいなくてもルビィのことはオレ達でなんとかする」
ぐっとこぶしを握り締めて見せるブランク。
「そう言われてもな、、、、」
だが、どんなに言われても、ジタンは引け目を感じずにはいられなかった。
「大丈夫だって。間に合えばお前の式にもちゃんと行ってやるから。」
「……………」
「ダガーまでも泣かすなよ!」

『ダガーまでも』

ルビィも泣かしたっていう意味か?

かなり強引だ。
ジタンが納得するまもなく、ブランクはにっと不適な笑みを浮かべると、乱暴にジタンの肩を叩いて部屋を出ていった。
みんなの足音が遠ざかり、ぼろい木の椅子に座ったままのジタンは低く唸った。
問題が山積みで頭の中で処理しきれない。
今、一番すべきこと、したほうがいいこと、がなんなのか、判断しかねる。
その間にも仲間達は遠ざかり、追いつけなくなる、という焦りもがかきたてられる。
「くっそ、、、どうすりゃいいんだよっ、、、!?」
ジタンは渦を巻くジレンマに、思わず拳を机に叩きつけた。




まいったな、、、、、

ベヒーモスのアジトの飛空挺にて。
ブランクはその曲がりくねった木の廊下で立ち尽くしていた。
今回の任務はルビィを救出すること。
普通の任務と何ら変わらないようなものではあるが、だが、それには条件付だった。
それが、今の彼を追い詰めている。
その条件、とは。
ベヒーモスの奴らには姿を見られてはならないということ。
その理由が、奴らに顔がわれてしまうと、再び狙いの対象にされてしまう可能性があるから、だという。
基本的には、それによって無駄な争いを避けるためであるのだが。
実質、無駄な争い、などになる前にタンタラスのほうが簡単に潰されてしまう。
だから、カッコ悪いことではあるのだが、ベヒーモスの奴らに見つからないことは、自分達の身を守るただの防衛策なのだ。

しかしながら、今のブランクには危機的状況が迫っていた。
他のメンバーはベヒーモスの団員がこないかどうかを見張るために入り口のほうに残っている。
そのため、背後から敵がやってくる心配は少しもない。
だがしかし。
彼が今立っているこの一本道の細い廊下。
ドアも分岐点もなく、身の隠し場所がほぼないに等しいこの場所、直角に曲がった廊下の先から、こっちに向かって誰かがやってくる。
足音がどんどん近づいてくるのだ。
今、彼の姿を敵から隠しているのは、廊下の直角な曲がり具合のみ。
背後の心配はすることがなくても、目前の心配をする必要がなくなったわけではなかった。

さて、どうするか。

顔を見られる前に殴って気絶でもしてもらうか。

いや、それで気絶をしてくれればいいのだが、、、、、、。

ごっつい奴だったりしたら嫌だな。

ブランクは唇をかんで、知らず知らずのうちに汗を握り締めていた拳をゆっくりと緩める。
だが、ブランクの判断が降りる前に相手はもうすぐ先に来ていた。
もう一歩でも踏み出せば、鉢合わせの状態になる。
「やべっ、、、、!」
「息止めてろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
だが、身構えてもいないブランクが目前に迫ったベヒーモスの団員の影に思わず声を上げてしまったその瞬間、背後から誰かが叫んだ。
息を止めろ、など敵か味方かもわからない者の叫びではあったが、充分に鍛えられてきた反射力で、ブランクはほぼ自分の意思とは無関係に息を止めた。
「!?」
目がつぶれるかのではないかと思うほどの閃光が走った。
かと思うと小さな爆発音のようなものが響き、もうもうと真っ白な煙が広がる。
視界が奪われ、息を止めたままのブランクが何事か理解するまもなく、急に彼の腕が何者かによってぐっと掴まれた。
びっくりして混乱する彼をよそに、その腕をつかんだ主は彼を引っ張るようにして走り出した。
真っ白な煙の中、ブランクはわけもわからず腕を引っ張られ走る。
そして、煙が届かない場所まで走りつき、立ち止まって、彼は自分の腕を引っ張っていたのが誰だか、ようやく確認することが出来たのだ。
「ジタンじゃねぇか!」
そこで得意げににっと白い歯を見せて笑っていたのはジタンだった。
その彼が片手で玩んでいるのは閃光弾。
「みてくれよ、これ。ただの閃光弾じゃないんだぜ?投げれば催眠ガスのオマケつきさ。ベヒーモスの奴らはトロイって聞いてたからな。今ごろガス吸いまくってぐーすか寝てるところだろうよ」
ジタンがあまりにも得意げに、早口に喋るものでブランクは呆気にとられていた。
なぜ彼がここにいるのか、と漠然と考える。
確か、ジタンはここにくることが出来ないないはずだったのだ。
それはなぜだったか。
ぼんやりと急に現れた男の、手の中の閃光弾を見ていたブランクだったが、次の瞬間その理由を思い出し、はっとしてジタンの顔を見た。
「お、おい、お前、式はどうすんだよ!?」
「ん〜?あぁ、、、、なんとかなんだろ」
ジタンは軽い返事をした。
式をどうするか、といわれても、、、、どうしようもなかったのだ。
ルビィを助けるためにこのアジトに乗り込んできた、という時点で、ジタンは式のことはほぼ諦めていた。

式を挙げよう、と言い出したのは自分なのに。
だが、ジタンには大切な盗賊仲間を見捨てることはできなかったのだ。
恋人という肩書きのついた女も大切だが、やはり恋人ではなく仲間という肩書きをつけたルビィも違う角度で、同じくらいに大切だった。
たとえ自分がいなくても他のタンタラスの奴らがルビィを助け出してくれるだろうことは確実だったが、やはり、その救出作戦に参加せずにはいられなかった。
だが、やはり、ダガーはあんなにも楽しみにしていたのに、と、それを思うと絶えがたいほど胸が痛み、そのことについて考え出すと彼はもうそれ以上一歩も動けなくなってしまう。
だから、ジタンは、なるべく先のことは考えないようにして、ここまでやってきたのだ。
「『なんとかなんだろ』って、アホ。なんともなんねぇよ!」
「、、、、、、、、まぁ、いいさ。今はルビィを探すんだろ?居場所の目星はついてんのか?」
「、、、、、ジタン、、、よくはないと思うぞ、、、。」
「………」
「でも、そうだな、もうここまで来ちまったんだ。ルビィ優先だな。」
「で?ルビィはどこにいるんだ?」
「予想くらいつくだろ?誘拐した人間を閉じ込めておく場所ったら倉庫くらいしかない。」
そういいながらブランクは一本道の廊下の続きを走り出す。
ジタンもその後に続いた。
確か、いつかにプリマビスタが墜落したとき、賊だ賊だと小うるさいおやじを閉じ込めておいたのも倉庫だった。
だいたいほとんどの倉庫には鍵がついていることが多い。
大切なものを保管するのはもちろん、人間を閉じ込めておくのにも好都合な場所なのだ。
「ジタン、ほんとによかったのか?」
走りながら、振り返ることなくブランクが言った。
なにが、とは言わないがなんのことだかすぐに察したジタンは僅かに俯いた。
いいわけがない。
式場で楽しみにして待っている女を残してきていいわけなんて全然ない。
考えないようにしているのに、しきりにそのことを尋ねてくるブランクをジタンは少なからずうるさいと思った。
心配してくれている、ということはわかる。
だが、やはりそれを考えないようにしている彼には嫌な感じを覚えずにはいられないのだ。そしてこぼれた言葉がこれだった。
「、、、、、、、、、、、式に間に合わなかったら、ブランクのせいな」
「おいコラ、ちょっと待て。お前が勝手に来たんだろ?オレはお前に『来てくれ』なんて言ってないぞ」
「、、、、、、、、、、、、、、オレの性格知っててそういうこと言うなよ。攫われた仲間をほっとけるわけないでしょ」
「ほんと、無駄にお人好しだよな、ジタンは。このダガー泣かしが」
「『無駄に』とか言って、恩人に言う言葉じゃないよね、それ」
ジタンは走りながら肩をすくめた。
せっかく閃光弾で助けてやったのに、と。
だが、その文句をよそに、ちらりとジタンを振り返ったブランクがぼそりといった。
「それに、オレ一人で助けてルビィに惚れさせるつもりだったんだぞ」

ぶっ

ブランクの柄にもない言葉だった。
思わず吹き出したジタンをブランクがすごい形相で睨む。
それに対してジタンは首をすくめるが、そのあとも含み笑いがかくせない。
あまりに純情過ぎた彼の台詞は、決して冗談などではなく本音だったのだろう。
ブランクが純粋な姿を自分に見せてくれたことが嬉しくて、ジタンは吹き出すのをこらえることが出来なかった。
「そういうのは必要のない技巧だな。」
なんとかこみ上げる笑いを抑えつけたジタンは言った。
なに?とブランクが表情を変える。
ジタンはそれに満面の笑みを浮かべた。
「ま、いろいろあるさ」
「なんだよそれ、意味わかんねぇぞ?」
安心した。
一人で行く危険までおかしてルビィを助けたい、とブランクは願う。
それだけの想いの強さがあれば、ほうっておいても二人はくっつくとジタンは思ったのだ。
たとえ、それで実際ブランクが一人で助けに行かなかったとしても。
「楽しみだね、こりゃぁ」
そして、ジタンはその時が来たらどんなにして二人をひやかしてやろうか、と既に考え始めてさえいた。
「なんだよジタン。ニヤニヤして、きもいよ」
「失敬な。ブランクのがよっぽどいつもニヤニヤしてっぞ」
酒場で飲むときのこと。
ダガーの話になればいつもいつもブランクはにやにやにやにやと笑みを浮かべては彼のことをからかった。
それを思い出して不服そうなジタンも、ダガーの前ではニヤニヤしていることが多い。
「ほっとけよ。あんまり幸せそうだとからかいたくもなるさ」
「はぁん、ブランク君。やっぱり妬いていたねェ?」
「うるせ」
そんな会話を交わす後、二人はようやく廊下の突き当たりにたどり着いた。
いったい何のためなのか、はたまた船の作りのために仕方がなかったのか、異様に長い廊下だった。
その廊下の突き当たりにあたるのがここ。
まさに倉庫、といった感じの扉がそこにはあった。
「あー、やっとついたなー」
「マジ、厳重だな。こんな船の中心部にある倉庫なんて」
ブランクは頭を掻きながら後ろをついてきていたジタンを振り返った。
自分達の船、プリマビスタでも確かに倉庫は乗り口から一番遠いところに位置している。
だからこそ、彼らにはこの飛空挺の、倉庫の場所の見当がついたわけだが。
ここまでただ長い廊下が続いているとは思いもしなかったのだ。
「、、、?、、、、あんだよ?」
廊下の長さについて、同意してくれるだろうと思って振り返って見たジタンの顔が再度にやにやと笑みを浮かべていた。
ブランクはその、ニヤニヤ顔のジタンの鼻先をまじまじと見つめた。
「ほれ、早く行ってやれ」
ジタンが倉庫の扉をこつこつと叩く。
それで、ようやくジタンの真意を悟ったらしく、ブランクは怒ったような顔をした。
だがしかし、彼は怒っていたわけではない。それはただの照れ隠しだったのだ。
ジタンもそのことはよくわかっていた。
そして、怒った顔のブランクは、ゆっくりと扉のノブに手をかけてピッキング用の鈎針を取り出す。
「ジタンはどうすんだ?」
「オレ?オレならここでベヒーモスの奴らがこないか見張ってるさ」
閃光弾を片手に、ジタンは言った。
窮地に立たされたルビィを助けに颯爽と現れるブランク。
少なからず二人は良い雰囲気になるだろうことが予想される。
ジタンは、それを邪魔するようなバカをするつもりはなかった。
そんな彼の粋な計らいに対して、余計な気遣いを、などという風に仏頂面をするブランクだったが、彼は横目でちらりとジタンを見た。
「……」
そして、極めて小さな声で呟いたのだった。
「ありがとな」
「いいってことよ。」
ジタンが閃光弾を持たないほうの手をひらひらと振って見せ、さすがは忍び屋、と感心するばかりに簡単な音を立てて倉庫の鍵が開いた。



(BGM:DISK3 とどかぬ想い)

「うわ、汚ねぇっ」
ブランクは倉庫の物の乱れように顔を歪めた。
どうやらそこはかなり大きな倉庫らしく、そこに収められている物の量も半端ではないのだ。
しかも、乱雑で汚い。
タンタラスの倉庫も、綺麗ではないが。
だが、こんなに汚くも、ない。
こんなところにルビィが閉じ込められている、というのが可哀想にさえなってくるほどだ。
「おーい、ルビィいるかー?」
何が詰め込まれているやら、よくわからない箱の上を跨ぎ、頭上の蜘蛛の巣を払う。
呼びかけた声に反応しない、というあたり、ルビィは気絶でもしているのだろうか。
「お、いたいた」
案の定、縛られたルビィは意識がなく床に転がっていた。
それが本当に気絶しているだけなのかどうなのかはわからない。
「おい、死んじゃいないだろうな?」
ルビィをぐるぐる巻きにしているロープを切ってやるとブランクは彼女の肩をゆすった。
殺されることはないだろう、と言ってはみたものの、それが本当に現実であってくれるかどうかは不安だったのだ。
だが、その心配を打ち破り、埃だらけの床に放置され、埃だらけになった彼女は、うぅ、と低くうめくと、しっかりと目を覚ました。
「大丈夫か?」
「………」
「だいじょぶじゃないって?」
「………」
「なんかされた?」
「………」
「………」
しきりにルビィの顔をのぞきこんで尋ねるが、上半身を起こして座った彼女は、顔をしかめて自分の鳩尾に手をやったまま何も答えない。
多分、当て身でもくらわされたのだろう。
鳩尾が痛むらしく、この上なく不機嫌そうなルビィに、ブランクは何も言えなくなってしまった。
「……」
ルビィがようやく顔を上げてブランクを見る。
彼女はつりあがりのきつい目でブランクを眺めた。
ひどく怒ったような目にじぃっと見られることにブランクは居心地の悪さを覚える。
「そ、そんな睨むなよ。ちゃんと助けに来たんだからさ」
こんな風に機嫌の悪いルビィを苦手とする彼は、思わず後ずさりかけた。
だが、ブランクは次の瞬間、肩透かしでもくらったかのように目を丸くすることとなった。
「、、、、、、お、おい、、、、」
不機嫌な彼女の目が見る見るうちに潤んだのだ。
怒っているみたいな顔はくしゃくしゃに崩れ、ついにはルビィは嗚咽し始めてしまった。
紅の爪の手はブランクの裾をつかんだまま。
「遅いやんか!う、うち、こわかったんやで!?どうしてもっと早く来てくれへんねや!?」
「い、いや、だからさ、、、、、」
「もう、殺されると思たわ!ひどいやんか!あんまりやないか!アホ!アホアホアホアホ!!!!!」
ひしとしがみつかれて、ブランクは慌てる。
ルビィがヒステリックに金切り声を上げることはあっても、声をあげて泣くなんてことには慣れていなかったし、驚いた。
「あーごめんごめん。悪かったって、オレが悪かった」
それに、意外だった。
ルビィほどの女が、恐怖に泣くなんてことが。
だからといってブランクがルビィの涙を見るのはこれが初めてのことではない。
確か、前回彼女が泣いていたのは、自分ではジタンの心の隙間に入っていけない、ということがわかり、失恋に涙を流したときだ。
恋愛に敗れて泣くのはまだわかる。
だが、こんなにも心の強いルビィが、恐怖に泣き出してしまうことにはやはり意外性を感じずにはいられなかった。
やはり彼女も、か弱い女性であったのだ、とブランクは深く実感した。
「と、とにかく、泣くのは後にしようぜ。みんなお前のこと待ってるんだ。脱出するのが先」
「………」
「な?」
「………」
ブランクが、未だ自分の服の裾を放さないルビィの顔を覗き込むと、真っ赤の目の彼女はかすれた声で訴えた。
「…で」
「は?」
だが、彼女が何を言ったのかがよく聞こえなかった。
すっかり怯えきってしまったルビィは、どうやら気も声も小さくなってしまったようだ。
可哀想なことだ。
だが、もしかすると、これでルビィも少しは淑やかな女性になるかもれぬ、とブランクはひそかに思った。
そうして彼は立ちあがろうとしていたところを中断し、中腰になって、座った彼女に耳を寄せることとなる。
「もう絶対一人にせんといて!!!!!!」
「☆」
わざとだったのだろうか。
耳打ちでもするようなそぶりを見せておいて、耳の近くで大声を出す。
ブランクの予想は大外れだった。
淑やかになるかと思えば、仕返しだかなんだかそんな不意打ちをくらわしてくれるなんて。
ブランクは耳鳴りのする耳を抑えて仏頂面をした。
だが。



「お」
ジタンはようやく倉庫から出てきたブランクを認めて、笑いとも驚きともとれぬ声を漏らした。
不機嫌そうな顔をしたブランクを足元から頭の天辺まで眺めて、彼はやはり口元に笑みを浮かべる。
そして、その時点で悟ったのだ。
不機嫌そうな目の前の男が、内心ではどれだけ嬉しそうな顔をしているかを。 「なんだよ、、、?」
ジタンが笑ったことに、声まで不機嫌そうなブランク。
だがそれも偽装された感情。
「中でなにがあったんだろうな」
やはり中途半端に笑みを浮かべてジタンは言った。
ブランクに横抱きにされたルビィを眺めながら。
「腰が抜けて立てないって言うから仕方なく、、、」
ブランクはルビィをお姫様抱っこしていることの言い訳をはじめる。
だが、ジタンはまるでそれを聞いている様子はなかった。
かわりに彼は呟くのだ。
「野郎、嬉しそうだな」
「うるへー」
ルビィの腰が抜けて立てないから横抱きにしている、というのは嘘ではない。
だが、嬉しいのも嘘ではない。
ブランクは、結局ジタンの言葉を否定しなかった。
「なんでもいいだろ、さっさと脱出だ」
照れているのか何なのだか、ルビィはさっきから何も言わない。
ブランクが、自分を抱きかかえて嬉しそうだ、というジタンの指摘に怒りを表すこともない。
ルビィのその様子に気がついたジタンは目を細めて彼女を眺めた後、ブランクをもう一度眺めた。

、、、、なんだよ、お前ら、もう出来てたんならオレに心配なんかかけさせんなよな、、、、、



              to be continued





あわあわ、、、
なななななんか、こんなんでよかったのかなぁ?
わけわからなくなってしまったわ(またもや)
うーん、10もクリアしたし、久しぶりにまた9やりたいよーっ
っつーか、まだジタガネファン、いるかしら?
これ、読んでくれてる人、いるかしら?



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