124. 北関東の館林
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夏になると熱中症で病院に運ばれる人数が報道される。北関東で最高気温の高い所として群馬県の館林
と埼玉県の鳩山がある(「研究の指針」の「K80. 地域を代表する
気温の分布」の図80.1を参照)。
最高気温は気象観測所の環境悪化により、ある意味では観測誤差による場合
がある。国民は正しい情報を知る権利があり、そのためには、地域住民の理解と協力によってアメダス
の環境が良好に維持されなければならない。
2013年10月8日、群馬県の伊勢崎アメダスと隣の館林アメダスを見学した。過去の気温データ
を調べてみると、晴天日の館林における最高気温は伊勢崎に比べて1℃ほど高いことが多い。
アメダスの環境を観察するために、JR湘南新宿ラインで高崎、前橋を経て伊勢崎駅で下車する。
伊勢崎アメダス
伊勢崎アメダスは伊勢崎市の滝宮浄水場に設置され、広い芝地にあり、都市観測所としては環境が
よく、館林より最高気温が低いことが納得できた(写真124.1)。
写真124.1 群馬県の伊勢崎アメダス。
このアメダスはフェンス無しで設置されており、写真中央に見える白色ボックスの周辺に雨量計と
気温計、鉄塔の上に風向風速計と日照計がある。
見学後、伊勢崎駅から東武伊勢崎線の館林駅へ向かう。
館林アメダス
館林の消防本部の許可を得て屋上に登る。見下ろすと、アメダスは消防本部の駐車場の北西隅に設置
されている(写真124.2)。
写真124.2 群馬県の館林アメダス。消防本部駐車場の左上の隅(写真中央)の四角の生垣内が
アメダス。
駐車場は幅の厚い生垣に囲まれ風通しが悪い。アメダス付近のみ刈り取られて、フェンスで囲まれて
いたが、1年前にフェンスに接して新しい生垣が植えられ、風通しがいっそう悪くなった。館林
アメダスの最高気温は周辺都市のアメダスと比べて1℃ほど高めであることが納得できた。
以前にも書いたように、平均気温1℃の違いは東北地方における米作の平年と大冷害年の気温差に
相当し、無視できない大きさである。
館林アメダスの周りに新しい生垣を植えた理由について、気象台に尋ねると、駐車場も周辺道路も
アスファルト舗装であり、それからの熱波を防ぐためだという。
多くの学者たちも同様に、間違った常識が通用しているのは困ったことだ。なぜ間違ったのだろうか?
夏の樹木の下が涼しいのは、日陰の効果によるもので、樹木は太陽熱を受けて、その熱エネルギーが
周辺の空気を暖めているのだ。
20年ほど前のことである。東北学院大学の菊池立先生らが仙台の定禅寺通りで、9月の晴天日に
地上からけやき並木の上端までの気温を測った例によれば、人間の高さの気温は低いが、葉の茂る
高度5~15mでは地上より2℃も高温となっていた。
人間の高さの気温が上層より低温なのは日陰のためであり、植物の蒸散活動が空気を冷やしている
わけではない。多くの学者は、夏の樹木が周辺の空気を冷やしていると間違って理解している。
樹木は大気を加熱する
樹木があると気温が高くなる事実を分かってもらうために、私は現在、内藤玄一さんと共に、
いろいろな実験観測を行なっている。
平塚市内には大小合わせて200か所ほどの多数の公園がある。市役所のみどり公園・水辺課の許可
を得て、公園で気温を測っている。
湘南海岸公園は、南北約250m、東西約300mの広さがある。南側の幅約60mは松林であり、
遊歩道が整備されて林内を散歩できる。残りの西半分は広い芝地のほか駐車場やプールなどがある。
東半分の大部分は裸地の運動場となっており、休日には少年たちのサッカーが見られる。真夏の
シーズンにはこの公園の南側の相模湾沿岸が海水浴場やビーチバレーの会場となり駐車場が不足し、
この運動場が駐車場になる。
この公園の芝地には、手頃な大きさの生垣がある。これは、館林アメダスの生垣が繁茂し過ぎた
状態を連想させる(写真124.3)。
写真124.3 湘南海岸公園の生垣。
気温計をこの生垣の中へ、他の気温計を生垣の外側にそれぞれ設置して気温を3時間にわたり測った。
生垣内の気温計は生垣の上端から上に出ており、外の風が通り過ぎる状態に設置してあっても、生垣の
外に比べて、0.94℃も高温であった(5月7日)。
ホームセンターでツツジの苗木を9鉢買い、桜ケ丘公園で台に並べて、風下の気温がいくら上昇するか
を測った(写真124.4)。この実験は、アメダスの周辺に小さな植木を植えたばかりでも、
気温のデータに誤差が生まれることを理解してもらうためのものである。
写真124.4 桜ケ丘公園における苗木による実験風景。
苗木が無い場所の気温に比べて、苗木のすぐ近くでは0.5℃、1m離れた風下では0.2℃の気温上昇が
ある(5月29日)。この実験中の平均風速は秒速3mであった。樹木の風下の気温は風速が弱いほど
上昇量が大きくなるので、微風時は2℃ほども上昇することになる。そして苗木が成長すると、
熱源(葉面)も増えるので、風下の気温は加算されて遠い距離まで影響が及ぶことになる。
防風林や生垣は、風を防ぎ気温を上げるために作られ、大昔から知られている。それにもかかわらず、
最近の多くの識者(と呼ばれる人々)の知識が不正確であることが問題である。
余談になるが、30年ほど前のこと、雪関係の学者は春の融雪を気温の積算値で予測していた。
私はその方法に不満を持っており、雪国の農家がどのような気持ちで春の雪解けを待っているかを
尋ねると、「たくさん積もった雪も、春の大風で一気に解ける」という。春の融雪は気温に依存
するというよりは風に依存するというのが優れた自然観である。
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