21.地球温暖化の議論、まずは精確な気象観測を


これは、朝日新聞2021年1月7日付朝刊の「私の視点」に掲載された
「地球温暖化の議論、まずは精確な気象観測を」の内容と同じです。

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著者:気象学者 近藤 純正(こんどう じゅんせい)

 いま世界的な問題になっている地球温暖化については、長期の気温上昇率は 大きく、地球環境に大きな影響を与えるという「脅威論」とともに、 逆に長期の気温上昇率は小さく、影響もさほどでないとする「懐疑論」も 存在し続けている。懐疑論に対しては「非科学的だ」といった論評が つきまとうが、相反する論が生まれる理由の一つには、簡単そうに見える 気温の観測が実際は非常に難しく、気温上昇率を精確(せいかく) に知ることができていないことがある。

 昨年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、 気温上昇を産業革命前の「1.5 度以内」に抑える目標が合意された。 二酸化炭素の排出量を減らす「脱炭素化」や、温暖化が進んでも適応できる ようにする「適応策」も各国で進んでいる。わずかな観測誤差は、 さまざまな政策や取り組みに大きな影響を及ぼすだろう。

 気象庁の発表によれば日本国内の年平均気温は100年に1.2 度の 割合で上昇している。しかし、この値には気象観測所の環境変化によって 生じる誤差が含まれているはずだ。

 例えば、気象観測所の無人化にともない、敷地の一部は不要として売却 され狭くなった。また、周辺に樹木が成長する環境変化もある。温度計が 置かれている場所が狭くなるほど風通しは悪くなり、平均気温は高く観測 される。これは「日だまり効果」による誤差と呼ばれる。私はこの20年、 気象庁や各地の公園管理者、地域住民らの協力を得て気象観測所や公園で 気温を調べ、日だまり効果による誤差が無視できないと知った。

 この誤差を小さくする一案として、私は風速を測っている測風塔に 温度計を設置して観測する方法を提案したい。日本の気象観測所では、 地上1.5 mの低い高度で気温を測っているため、環境変化の影響を 受けやすい。一方、測風塔は低いものでも10メートル以上、高いもの では数十メートルの高さがある。北海道から南西諸島までの数カ所、 高い測風塔にも温度計を追加するだけでいい。

 私が公的機関の気温観測資料を調べてわかったことだが、長期観測を 精確に行うことは100年以上の経験と気象測器を検定するセンターを 持つ気象庁という組織だけが実現できる。観測環境が影響しているのは、 もちろん日本だけではないだろう。アメリカでは、気候変動の精確な観測 を目的として、樹木や建物などの直接的な影響を受けない、つまり広い 場所にある観測所からなる「気候基準ネットワーク」の運用を2005年 1月からすでに開始している。気象庁もぜひ、観測方法の見直しを検討 して欲しい。

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