18.温暖化・食糧危機への警鐘


これは、産経新聞2011年10月23日付朝刊の読書欄に掲載されたもので、
田家康著「世界史を変えた異常気象ーエルニーニョから歴史を読み解く」
(日本経済新聞出版社、2011年8月発行、241ページ)についての書評である。

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評者:近藤 純正(東北大学名誉教授)

本書に先だって上梓された『気候文明史』(日本経済新聞出版社)が気候変動と歴史の 関わりについて通史的に紹介されたのに対し、本書では、エルニーニョという現象に 由来する異常気象が世界の歴史を動かした5つのドラマに、340余の文献に基づき 構成されている。

十六世紀のスペインによるインカ帝国征服、イースター島伝説、十九世紀のアジアの 大飢饉と植民地支配、ドイツ軍のスターリングランド敗北、1972年の異常気象に よる世界食糧危機で持ち上がった食糧安全保障の課題。さらに、エルニーニョと、 それが地球規模の気象に及ぼす仕組みについても触れている。エルニーニョは太平洋 の東部熱帯域において、海水温度が気まぐれに変化する自然現象である。

スペイン人が黄金郷への執念として、ペルーを征服すべく挑戦しているうちに、 3回目の遠征がエルニーニョの年にあたり、それまで航行を困難にしていた海流が 弱まるという幸運があった。

ドイツ軍が1941年のロシア侵攻作戦において、酷烈な冬期に対して、あらかじめ 何の準備もせず膠着状態に陥っていたところに、ロシアは極東に配備していた兵力を この戦線に戻し、ドイツへの反撃を始めた。こうしてドイツ軍は敗退する。

エピローグでは、今後の異常気象による食糧危機に対して人類への問いかけがある。 気候予測の開発が進展し、エルニーニョ由来の異常気象が1年以上も前から高い確率 で予測されたとしても、社会はそれに十分に対処できるだろうか。

十九世紀のインドで、国内は飢饉にありながら農産物は購買力のある欧州諸国に輸出 された。1960年代のペルーで、アンチョビの乱獲に警鐘が鳴らされたが、外貨獲得 が優先され漁獲量が激減。2006年の米国でバイオエタノール戦略が脚光を浴びると、 シカゴの穀物相場が急騰、食糧を輸入する途上国に危機をもたらした。

本当に人類は賢くなったか。危機に対する社会のあるべき姿を考えさせられる。

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