8.体験した病室内の気象
=近藤純正=
この短文は、2006年3月8日付高知新聞朝刊の
『所感・雑感』に掲載された内容と同じです。
昭和天皇崩御の冬、私は急性心筋梗塞で140日間
入院したことがある。そのときの病院は新築されたが、
当時は古い建物だった。
手術後の大部屋の病室で、私はほかの患者より20
cm低いベッドに寝ていた。高いベッドの人は暑いと
話しているのに、私だけ夜は寒いと感じていた。そこ
で、こっそり病室内の温度分布を測ってみると、私の
ベッドの高さの所がもっとも低温になっていた。
その原因はこういうことだ。病室の窓ガラスで冷え
た冷気が窓ガラスと窓のカーテンのすき間を流れ降り
たのち、床の上をゆっくりと流れ、部屋の出入り口近
くにあった私のベッドへ漂ってきて、ちょうどベッド
の高さの位置が極小低温になっていたのである。
極小低温の層は、野外では地面から少し離れた高さ
にできる。静かな晴天夜間に、運動場のような裸地面
上で観察できる。それは、運動場の周囲にある草地な
ど冷えやすい場所で発生した冷気が、冷えにくい裸地
面上に流れてくるからである。
この現象は、私が大学で最初に研究した課題であっ
た。当時、極小低温層の成因が不明だったので、世界
の気象学界で問題になったが、分かってしまえば、あ
りふれた現象ということで一件落着した。
それはともかくとして、前述の病室では、寝たまま
で見える高さの所に寒暖計を取り付けて、エアコンの
入・切に伴う室温変化を測定し、その寒暖による自分
の動きや変化に注意した。
四日間、観察した。それによれば、日中の安静時に
おいて、体が暑くなって二重毛布を外す温度は平均2
3.8℃であった。この温度からのずれの最大値はプ
ラス・マイナス1℃以内である。もちろん、このへんは
着ている下着の厚さなどによっても違う。
エネルギー消費を節減する目的で、エアコンの調節
温度を夏は上げ、冬は下げるようにいわれている。試
みに、同じ状態でいるとき、温度を1℃ずつ変えて、
快適であるのと、そうでない限界を探ってみると、私
たちは、この1℃程度の変化に敏感なことがわかる。
温暖化などによって起きる年平均気温の1~2℃の
変化の影響は小さくはない。
この50年間の気温上昇は、東京で1.8℃、高知で
1.3℃である。これを熱帯夜(寝苦しい夜、定義で
は最低気温25℃以上の日)が増加し、冬日(結氷の朝、
定義では最低気温0℃未満の日)が減少することから
調べてみよう。
寝苦しい夏の夜の日数は、東京では10日から31
日に、高知では3日から15日に増えた。結氷の朝の
方は、東京では51日から3日に激減、高知では44
日から20日に減った。
コメの豊凶への影響という点からみると、夏の3カ
月間の平均気温が気候平均値に比べて、1℃以上低温
の年は大凶作となっている。80年ぶりに発生した平
成大凶作の1993年は2℃も低温であった。