A54.宮古特別地域気象観測所
ー地球温暖化監視の重要な観測所ー


著者:近藤純正
岩手県三陸沿岸に設置されている宮古気象観測所は、周辺環境に変化がほとんどなく、地球温暖化 など気候変化を監視する重要な気候観測所である。 (完成:2011年5月20日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

これは、宮古気象観測所の見学会(2011年5月27日)において参加者に配布する資料である。 なお、宮古観測所に現在設置されている気象観測機器については、 「A53. 宮古観測所の観測機器」に掲載してある。


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1.概要
現在の宮古気象観測所(旧宮古測候所、正式名称は宮古特別地域気象観測所)は、北緯39度38.8分、 東経141度57.9分、標高は43m、宮古港を見下ろす位置にあり、130年の歴史をもち日本有数の重要な 観測所である。

1883年3月の創立当時は、港のすぐ上の標高29mの鏡岩にあった(南部藩砲台跡地、現在は漁業協同 組合の建物がある)。

その後1939年1月から現在地に移転した。旧測候所の平屋建て庁舎は、1991年から二階建て新庁舎と なったが、露場は階段の付け替えなどの変化はあったものの 同じ位置のままで移設はなかった。2007年に無人となり、名称は「宮古特別地域気象観測所」と なった。

宮古市役所などのある市街部から国道 45号線を登ると右手に現在の観測所がある。この国道は、 それまではなかった道路だが、1973年に開通したものである。

2.重要な観測所
日本の多くの気象観測所は、観測所周辺が舗装され、ビルが増えるなど都市化されて都市独特の 気候が現れ、地球温暖化などの地球規模の気候変化を正しく観測できなくなっている。

観測所周辺の環境変化が少なく、長期の気候変化を正しく観測できる気候観測所は、北海道日本海 沿岸の寿都、岩手県三陸沿岸の宮古、高知県東部の室戸岬の3か所である。ほかに鹿児島県屋久島と 沖縄県最西端の与那国島も環境に恵まれているが、観測期間が短い。

これら3か所は、環境に恵まれた気候観測所であり、将来にわたり観測環境を大事に守っていか なければならない。

重要な気候観測所
図1 日本の重要な気候観測所、赤印に丸記号で囲んだ観測所は環境に恵まれた特に重要な気候観測 所(寿都、宮古、室戸岬、および屋久島と与那国島)

宮古観測所など基準となる観測所の資料をもとに作成した「日本の気温の長期変化」を図2に示した。 これは都市化などの影響を含まない気温の変化である(様々な誤差の補正済み資料)。過去127年間 (1881~2007年まで)の気温上昇率は100年間当たり0.67℃である(破線)。

この図は日本全体の 平均気温を示しており、地域によって変化の様子は異なる。気温ジャンプは緯度が高いほど大きく、 たとえば1988年の気温ジャンプは、北海道や東北地方で0.8~1.2℃の大きさ、沖縄など南西諸島では 0.2~0.4℃である。

地球温暖化など長期の気候変化は100年間当たりわずか0.67℃で、誤差に匹敵する大きさである。 それゆえ、今後の気候がどのように変化していくか、高い精度で観測しなければならない。

気温の長期変化
図2 日本の気温の長期変化、赤矢印は気温が急激に上昇する気温ジャンプを示す。

3.重要な周辺環境
気象観測所は、(1)日常の気象・防災の目的と、(2)長期的な気候変化を知るという2つの 目的がある。後者の目的では特に高精度の観測が必要であり、観測所の周辺環境は可能な限り一定に 保たれなければならない。

近藤純正が2006年6月12~13日に宮古観測所を訪問したとき、気温などを観測する露場の南東側に クルミの大木が成長していた。観測値に影響を及ぼすこと、暴風時に折れた枝が観測機器を破損する 恐れがあることを指摘したところ、当時の測候所長・豊間根正志氏が、持ち主(小田善一郎氏)から 理解を得て、クルミの木は2007年3月に伐採された。

クルミ
図3 露場の南東側のクルミの木、右手の遠方に宮古湾を望む(2006年7月12日撮影)。 「写真の記録」の 「58. 宮古測候所と周辺アメダス」の写真7と同じ

4.観測環境の維持
気象観測所で重要なことは、(1)風通しがよいこと、(2)日当たりがよいこと、(3)周囲の 環境が時代によって変わらないことである。

現在の宮古観測所は時々盛岡地方気象台が見回りしているが、日本の各地で観測環境の悪化の例が あるので、「気候観測を応援する会」のメンバーも互いに連絡しあいながら、私たちの大事な観測所 を守っていこう。



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