9.地球温暖化問題 市民向け
	著者:近藤純正
		9.1 問題の発端
		9.2 地球の温度の決まり方
		9.3 温室効果とは
		9.4 気温は上昇しているか
		9.5 温暖化問題の難しさ
		9.6 温暖化がなぜ問題か
		9.7 暮らし方の選択

大気中に含まれる二酸化炭素(炭酸ガス)濃度は現在0.03%程度であり、 地上における世界平均気温は約15℃となっています。もし、水蒸気や 二酸化炭素などがなけれな地球の平均温度は氷点下19℃になりますが、 水蒸気や二酸化炭素などのおかげで生命生存に適した約15℃に なっているのです。 ところが将来、二酸化炭素が2倍の濃度になると、地球の平均気温は2~ 5℃上昇することが予想されています。地球の温暖化はなぜ起きるのか、 その仕組みについて学ぶことにしましょう。
これは2005年6月13日と15日、高知県南国市と、いの町 で一般市民向けに講演した内容です。このページでは、使用した図表は 省略してあります。

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9.1 問題の発端

大気中の二酸化炭素の濃度が増加すると、地球の気温が上昇するだろうと いうことはかなり以前から言われていました。

さて、ハワイ諸島には西からカウアイ島、オアフ島、モロカイ島、マウイ島、 そして東の端には一番大きなハワイ島があります。ハワイ島は地図では 小さく見えますが、四国の55%ほどの面積であり、標高4千m級の マウナケアとマウナロアがそびえています。

南側のマウナロアにはアメリカ海洋大気局の観測所があり、大気中の二酸化 炭素濃度の測定が1958年から開始されました。

この観測は米国人化学者チャールズ・キーリング博士の提唱によるものです。 石油や石炭などの消費が急激に進んだ二十世紀前半には、大気中の二酸化 炭素の増大が心配されだしたので、それを実証するための十分なデータを 蓄積しなければなりません。それには、人間活動から遠く離れた場所で観測を 続ける必要があり、マウナロアが選ばれたのです。

ここでの観測記録を見ると、二酸化炭素濃度は季節変化を繰り返しながら、 年々増大していることが分かり、世界中から大きな注目が 集まりました。最近では世界の各地で二酸化炭素濃度が観測されるように なりました。

南極では太古の昔から積もった雪が圧縮されて、氷の大陸を形成しています。 その氷の中には、昔の大気中に含まれていた二酸化炭素が閉じ込められて います。ボーリングをして氷の中に閉じ込められている二酸化炭素を測り、 過去の大気中の濃度を調べることも行なわれています。その結果と比較する と、現在の大気中の二酸化炭素濃度は、過去の何十万年間に起きた変動幅を はるかに上回り、急速に増加しています。

大気は主に窒素と酸素から成りますが、水蒸気、二酸化炭素などの少量気体 も含みます。水蒸気や二酸化炭素などの働きにより、地球の表面近くは生命 の生存に適した温度に保たれています。この作用は、温室内が高温になる ことに似ていることから「温室効果」と呼ばれています。

ところが二酸化炭素が増えすぎると、温室効果が効き過ぎて、地表面付近の 温度が現在よりも上昇してしまいます。これが「地球の温暖化」なのです。

9.2 地球の温度の決まり方

温室効果や地球の温暖化問題を理解する前に、現在の地球の温度はどのように して決まっているか、学んでおきましょう。

地球は太陽から受けるエネルギーの大きさによって、その温度が決まります。 皆さんのお宅では屋根に取り付けた太陽光温水器をお持ちですか。何度ほどに なりますか? 「70℃・・・・」。
「そうですか。その温度から直感的に地球の温度が何度になるか考えてみ ましょう。」

太陽光線に垂直な面積1平方メートルにつき1360ワットのエネルギー が地球に注がれています。もし、地球が回転せず大気も動かずに、同じ 昼半球が太陽の方に向いたままだとすれば、太陽直下の地域は120℃に なります。また、夜半球に近い地域は太陽光線が斜めに入るので受け取る エネルギーは少なく低温になります。昼半球を平均すると58℃になり ます。いっぽう、夜半球は限りなく低温に近づいていきます。

今度は地球が自転する場合を考えてみましょう。地球には大気があり、 熱的な慣性をもっていて、夜になっても急速には冷えないので、仮に昼夜の 温度が一定として計算してみます。最初に、地球が黒くて、太陽エネルギー を反射しないとします。つまり、1平方メートル当たり340ワットを 受け取る場合を想定します。公式によれば、球の表面積は断面積の4倍で あることから、1360を4で割り算して340ワットが出てきました。

地球が全球面の平均値で340ワットを受け取る場合、「平衡になる地球 の温度」は5℃になります。

現実の地球では雲があり、また氷で覆われた地域や砂漠などがあり、太陽 エネルギーの30%は反射されています。したがって残りの70%が地球 に取り込まれています。すると、地球の昼夜・全面積で平均すると1平方 メートル当たり238ワットのエネルギーを取り込んでいることに なります。

この場合の「平衡になる地球の温度」はマイナス19℃ となります。この値は大気と地球表面を平均した温度を意味しています。

地球は太陽エネルギーを受けると温度が上昇していきますが、地球自体は その温度に応じた赤外放射を宇宙に向かって放出します。地球から 238ワットを放出すれば平衡になるわけで、その温度がマイナス 19℃というわけです。

赤外放射は目に見えないので、普段は感じないのです。皆さんも体温に 応じて赤外放射を出しています。また、部屋の壁からも赤外放射が私たちに 向かって出ています。そのため、差引きゼロに近いので私たちは体感的には 気付きません。

9.3 温室効果とは

みなさん、温室を想像してください。温室はガラスやビニールで覆われて います。そのため、太陽エネルギーは透過して温室内へ入ってきます。 しかし、ガラスやビニールは赤外放射を透過しないので、地面から出た 赤外放射は温室の外へは出て行かず吸収されてしまいます。同時にガラスや ビニールからは赤外放射を地面に向かって出しています。その結果、 温室内は高温に保たれているわけです。なお、温室では外の冷たい風を 中に入れないという風防作用も重要です。

大気中に含まれる水蒸気や二酸化炭素は、温室のガラスやビニールに似た 働きをするために、地球の表面近くは高温に、逆に上空の大気は 低温に保たれます。この働きを温室効果と呼んでいます。

大気の成分は主に窒素と酸素からなり、少量気体の水蒸気は0.5% 程度、二酸化炭素はさらに少なく0.03~0.04%ほどしかあり ません。そのほか、オゾン、メタン、フロンなど極微量の気体によって 温室効果が起きているのです。われわれ地球に住む動物植物にとって、 温室効果はなくてはならぬものなのです。

近年、問題となっているのは、人間の活動で二酸化炭素などが急激に増えて おり、温室効果が強くなり過ぎて地球の気候が変わってしまうことが心配 です。

大気中の二酸化炭素の濃度は確実に増加しています。そのため温室効果が 強まるのですが、地球の気象・気候は単純ではないのです。

9.4 気温は上昇しているか

世界平均の地上気温を見てみると、この百年余の間、10~40年の 短い周期の上昇・下降を伴ないながら、全体として約0.8℃の上昇 傾向が現われています。しかし、気象観測所の多くは都市にあり、この 数値には都市化の影響も含まれています。

都市化の影響を調べてみましょう。東京における年平均気温は、この 百年間に約3℃も上昇しています。都市化にはいろいろな作用があります。 そのうち、最重要と考えられるものは、次の2つです。(1)人為的な熱 の排出量の増加、(2)コンクリートやアスファルト舗装などに伴う 蒸発量の減少による効果があります。森林や田畑、あるいは水面であれば 蒸発が盛んですが、これらがなくなると高温になります。

つぎに、高知の資料を見ておきましょう。高知市は太平洋戦争のとき空襲で 焼けましたが、終戦後は復興し、住宅も増えてきました。年平均気温は、 明治時代や昭和初期に比べて約1.5℃も高くなっています。

ところが都市化の影響のない室戸岬測候所では、東京や高知で見たような 一方的な気温上昇の傾向は明瞭ではありません。

人為的な原因のうち都市化による都市温暖化と、温室効果ガスの増加による 地球温暖化はそれぞれ異なる原因によるものです。観測データから、これら を区別することは難しい問題です。

9.5 温暖化問題の難しさ

将来、地球の温暖化が進むと都市では両方が重なりあって、異常な温暖気候 となるでしょう。すると、冷房に使うエネルギーが増え、温暖化がますます 進むという悪循環が起きることになります。

プラスのフィードバック
(例1) 二酸化炭素の増加によって(1)温暖化が起き気温が高くなると、 (2)大気中に含まれる水蒸気量が増えます。(3)水蒸気は温室効果が 強いので、温室効果が強化されます。(4)その結果、より温暖化が進み ます。この過程が繰り返されると(5)ますます温暖化します。

(例2) 二酸化炭素の増加によって(1)温暖化すると高緯度や高山にある 氷雪域の面積が縮小します。すると、(2)地球全体として、太陽光の 吸収量が増加する。(3)その結果、より温暖化、(4)ますます温暖化 します。

マイナスのフィードバック
(例3) 二酸化炭素の増加によって(1)温暖化すると対流活動が盛んに なり雲量が増加する。(2)太陽光が反射され、地球に入るエネルギーが 減少する。(3)その結果、寒冷化して温度の上昇は抑えられる。

例を示しましたが、フィードバックのうち、プラスの作用とマイナスの作用 の効き方は現在のところ正確にはわかっていません。そのため将来、 温暖化によって地球の温度がいくら上昇するのか、正しい予測はできません。 とくに注意すべきは、海洋は地球の気候変動を決めるのに重要な働きをする のですが、その応答に千年程度の時間がかかるのです。つまり、気候予測は たいへん難しい問題です。

気候変化が正しく説明・予測できるまで対策をしなくてよいのでしょうか。 取り返しのつかない事態になる前に、手遅れにならぬよう対策をとっておく ことが重要です。

9.6 温暖化がなぜ問題か

地球の温暖化によって、どういうことが起きるのでしょうか。 皆さんからの発言をお待ちします。・・・・ 「氷が融けて低地が水没・・・。」「台風の頻発・・・。」「病気の 発生・・・。」「生態系・・・。」

その通りですね。まとめておきましょう。

海水面の上昇=水温上昇によって海水が膨張します。さらに極地などの 氷融解が起きると海水面上昇が予想されます。

水資源量の変化=降水量が変化し、洪水地域と干ばつ地域が広がるかも 知れません。その結果、穀物生産への影響が心配です。

異常気象の頻発=集中豪雨や熱暑日の増加、台風の発生数の変化などが 考えられます。

植物の高温障害=コメなどは低温による冷害が知られていますが、気温が 高すぎても障害が起こり、収穫量・品質が低下すると言われています。

病気の発生=これまで熱帯で発生していたマラリアなどの感染が拡大、 夏の熱中症の増加などか考えられます。

生態系の変化=気候変化によって、ある種の生物は絶滅するかも知れません。 地球上では食物連鎖によって生態系が保たれているのですが、これに 影響が及ぶと、食糧・生存の危機となるかもしれません。

9.7 暮らし方の選択

地球の温暖化は、二酸化炭素の排出量の増加によって起きるのです。 二酸化炭素の増加は、結局は私たちが贅沢な消費を増やしたことから 生じたのです。石油・石炭の直接的な消費のほかに、いろいろな物・設備 などを作るのにエネルギーが使われています。まだ使える物を捨てて、 新製品を購入することも私たちはエネルギー・地球の資源を消費している ことになります。

今後の私たちの暮らし方を選ぶために参考となる数値を示しておきましょう。

私たちは生きるために、一日に約2000キロカロリーの食物を摂らねばなり ません。この熱量は換算すると約100ワットです。このエネルギーは、 最終的に人体から周囲の大気へ放出することによって体温がほぼ一定に保たれ ています。つまり、昼夜平均して人体は100ワットのエネルギーを放出して います。この放出エネルギーは、皮膚から汗を出す際に失われるエネルギーと、 周囲に伝えて空気を温める熱エネルギーとなっています。

馬は人間の7~8倍の馬力があります。具体的には、1馬力は76kgの ヒトが鉛直方向に毎秒1mの速度で階段を登るときのエネルギーに相当 しますので、私たちは瞬間的には1馬力は出せそうです。

昔の貴族は二頭だて、あるいは四頭だての馬車に乗っていましたので、 数馬力の車を利用していたことになります。ところが、最近の乗用車は、 数十馬力もあります。私たちは、いかに大きなエネルギーを使うように なったのか、おわかりかと思います。

私たちは、みんなの努力で文明の利器を獲得し、豊かな生活ができるよう になりました。いま地球は、急激な温暖化へ向かうかどうかの分岐点に あります。環境保護を意識し、贅沢をしない暮らし方をしようではあり ませんか。

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