K19.最高・最低気温平均と平均気温
著者:近藤純正
	19.1 はしがき
	19.2 最高最低気温の平均値から年平均気温を求める際の補正量
	19.3 補正量における地点間のばらつき
	要約
	資料
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アメダス観測網が整備される以前には、気象官署以外の区内観測所などでは 1日に1回の気象観測と毎日の最高・最低気温が観測されていた。 毎日の最高・最低気温の年平均値から、観測所によって異なる値(0.1~0.8℃) を引き算すれば年平均気温が推定できる。この際の補正量は気温の日較差の 関数で表すことができる。 (2006年7月20日完成)


19.1 はしがき

地球温暖化量を正確に評価したいのだが、最近の多くの気象官署では都市化 の影響により気温の長期的上昇率が大きめに出ている。そのために、田舎に 配置されたアメダスの前身の区内観測所等において得られたデータも解析 し補足する必要がでてきた。

アメダス観測網が整備される以前の区内観測所その他では1日に1回の 気象観測と毎日の最高・最低気温が観測されており、最高・最低気温の平均値 をもって日平均気温として利用されることもあった。

しかし、最高・最低気温の平均値は24時間平均気温よりも平均的に0.1~0.6℃程度も 高いので、日平均気温や年平均気温の算定に際しては、補正して利用しな ければならない。

筆者が当初見積りをしていた、この補正量(=年平均気温-最高・最低気温の 平均値、すなわち年平均気温=最高・最低気温の平均値+補正量)はマイナス の値であったが、その後最近のアメダスデータから調べていると、この補正量 がプラスとなる地点が多く出てきて、気になっていた。

よく調べてみると、昔の観測では百葉箱内に設置されたガラス棒状の最高温度 計と最低温度計の示度を読み、それぞれを最高気温、最低気温としていた わけである。 つまり、数分間の時定数をもつガラス棒状温度計(非通風式)で測った1日 のうちの最高、最低気温であった。

1978年以後のアメダスでは通風による電気式温度計によって1時間ごと毎正時 に観測された、24回の観測値のうちの最大値を最高気温、最小値を 最低気温と定義していたので、昔の定義と異なり値も0.2~0.5℃程度ずれる ことになる。

ここでは昔の区内観測所時代のデータを利用したいので、 百葉箱内で非通風によって観測されていた時代の気象官署(気象台、 測候所)の約20箇所における毎時24回観測が行なわれた1930~1940年のデータ (中央気象台年報)を用いて補正量を調べることとした。

次の章 「K20. 1日数回観測による平均気温」で示すように、1日6回(2, 6, 10, 14, 18, 22時)の観測による6回平均気温と日平均気温の差は、全国 どこでも、無視できるほどに小さく、

24回観測平均気温-6回観測平均気温=0.006±0.018℃

であるので、6回観測の気象官署におけるデータも用いる。

(注1)当時は3回観測の気象官署もあり、これは解析しない。 6回観測の気象官署でも、時代によっては3回(6, 14, 22時)観測となった こともある。1940年には毎時 24回観測所(台北、那覇、鹿児島、福岡、高知、大阪、名古屋、東京、前橋、 金沢、新潟、仙台、青森、札幌、根室、米子、稚内の17ヶ所)以外では 3回観測となっている(中央気象台年報、1940年)。

(注2)気候表「日本気候表」(開設当初から1945年までの統計)、 および「日本各地の気候表」(開設当初から1955年までの統計)に掲載された 月・年平均気温、毎日の最高気温の月・年平均値、毎日の最低気温の月・年 平均値を利用して上記の補正量を求めることができるが、これら気候表の 月・年平均気温は3回観測と6回観測を区別せずに統計された値である。 そのために、(1)補正量は1945年までの統計と1955年までの統計が異なる こと、さらに、(2)今回この章で求めた補正量とずれる。つまり3回観測に よる年平均気温が0.1~0.3℃低めであることにより、その頻度のぶんだけ 約0.1℃ほどマイナス側にずれる(後掲の図19.2で説明する)。
最初、「日本気候表」と「日本各地の気候表」は、すでに統計されたデータが 掲載されているので、たいした手間をかけないで補正量を求めていたのだが、 (1)の事実が判明したことから統計がきちんとされていない疑いをもち、 この章の解析を行うこととなった。解析してみて3回観測の頻度のぶんだけ ずれることが確認できた。

19.2 最高最低気温の平均値から年平均気温を求める際の補正量

図19.1は1930~1940年の中央気象台年報に掲載された24回観測所と6回観測所 から年平均気温、毎日の最高気温の年平均値、毎日の最低気温の年平均値を 解析し、補正量と気温日較差との関係を示したものである。

図の縦軸に示す補正量は次式で定義する。

年平均気温=毎日の最高・最低気温の年平均値+補正量

ただし、左辺の年平均気温は毎日の毎正時 24回観測から決めた年平均気温、 または毎日6回観測(2, 6, 10, 14, 18, 22時)から決めた年平均気温である。

最高最低平均の補正
図19.1 最高・最低平均値の補正量と気温日較差との関係
(左)内陸や海岸の観測所(山岳以外の全観測所)、(右)山岳観測所
平均的な関係は赤の線で表され、左図の線は式(19.1)、右図の線は 式(19.2)である。


山岳観測所(箱根山、筑波山、岩手山)を除く観測所の年ごとのデータ(左図)では、ばらつきの標準 偏差は約0.15℃である。このばらつき0.15℃には地点ごとの違いと、各地点 における年ごとのばらつきの両方を含んでいる。

右図の山岳データでは、ばらつきが小さいのはデータ数が少ないことに よると考えるべきだろう。

左図における各地点における年によるばらつきの標準偏差は0.06℃(熊本では0.03℃、那覇では 0.05℃、大阪では0.08℃、・・・・・)程度であるので、0.15℃はおもに 地点間のばらつきによるものである。つまり、気温の日変化パターンは 同一地点の年による違いよりも、おもに地点による違いが大きい。

したがって、ある観測所で観測された最高・最低気温の平均値に補正を ほどこして年平均気温を求め、それらを数地点で平均した年平均気温 に期待される推定誤差は0.1℃以下になると考えてよいだろう。

具体的に述べると、アメダス以前の区内観測所時代に観測されていた毎日の 最高・最低気温の年平均値に補正をほどこして年平均気温を求める。 これを1978年以後に開始された毎時観測のアメダスデータから求めた 年平均気温とつなぐ場合、±0.15℃程度の不連続が生じる可能性がある。 そこで、数地点の区内観測所等のデータを平均してつなげば不連続は 0.1℃以下とすることができる。

データ間のばらつきが正規分布をなすものとし、地点数を N とすれば、 期待される誤差=(0.15℃/N0.5)と見込むことができる。 ただし、各地点は互いに近くに位置し、年平均気温の年々変動は高い相関関係 にあるものとする。N として4~5ヵ所以上を選ぶことが望ましい。

図19.1の左図に入れた赤の折れ線は次の式で表される。

補正:
⊿Tmaxmin=-0.02(Tmax-Tmin), ただし 0≦(Tmax-Tmin)<8.6℃・・・・(19.1a)
⊿Tmaxmin=1.2-0.16(Tmax-Tmin), ただし 8.6℃≦(Tmax-Tmin)・・・(19.2b)

ここに、気温の年平均値=(毎日の最高・最低気温の年平均値)+補正、
(Tmax-Tmin)は気温の日較差の年平均値である。

同様に、右図に入れた赤の線は次式で表されるが、データが少ないので 参考値である。

補正:
⊿Tmaxmin=0, ただし  0≦(Tmax-Tmin)<5.4℃・・・・・・・・・・・・・・・・(20.1)
⊿Tmaxmin=1.57-0.29(Tmax-Tmin), ただし  5.4℃≦(Tmax-Tmin)<8.5℃・・・(20.2)

図示されるように、補正は-1~0℃のマイナスの値であるので、 年平均気温は最高最低気温の年平均値よりも低温となる。

19.3 補正量における地点間のばらつき

図19.1では1年ごとのデータをプロットしたものであり、前述のように、 年によるばらつきと地点の違いによるばらつきを含んでいる。 地点による違い、つまり気温日変化パターンの違いによって生じる補正量 のばらつきを見るために、図19.2には気候表から求めた結果をプロットした。

「日本気候表」と「日本各地の気候表」には、それぞれ観測所の開設当時 から1945年までと1955年までの統計値が掲載されており、本来なら、10年間の 期間の違いから統計値に大きな差が生じないはずだが、年平均値の算定が 3回観測と6回観測などが不規則に混じったものを区別しないで統計したと見え、 毎日の最高気温と最低気温の差(気温の日較差)の年平均値が大きく違う観測所 が多い。

気温の日較差の年平均値が両統計表で1.5℃以上違う26観測所を除き、1℃以内の 観測所のデータから図19.2に示す関係を求めた。

最高最低平均の補正、気候表
図19.2 気候表から求めた最高・最低平均値の補正量と気温 日較差との関係
(左)内陸や海岸の観測所(山岳以外の全観測所)、(右)山岳観測所(伊吹山と筑波山)
赤の折れ線は図19.1に入れたものと同じ(式19.1、式19.2)である。


図19.2にプロットのばらつきが気候学的な地点間のばらつきと解釈でき、図19.1 におけるばらつきよりも小さいことがわかる。図19.1ではプラス側のプロット があったが、図19.2ではすべてマイナス側にプロットされている。

赤の折れ線は式(19.1)(19.2)であり図19.1の折れ線と同じである。 左図を注意深くみると、赤の折れ線より下(マイナス側)にプロット されている観測所が多い。 その理由は、気候表に掲載された年平均気温は3回観測も含むために年平均 気温が低めとなっており、そのため補正量(マイナス)の絶対値が0.05~ 0.1℃程度大きくなるのである。

これを補正量の定義から説明しよう。
つまり、図19.2の縦軸に示す補正量は次式で定義される補正量である。

年平均気温=毎日の最高・最低気温の年平均値+補正量

ただし、左辺の年平均気温は3回観測(6, 14, 22時) から決めた年平均気温と、6回観測(2, 6, 10, 14, 18, 22時)から決めた 年平均気温が混じっており、図19.1で用いた年平均気温よりも、全体として 低温となっている。

気候表から求めた、このプロットの不正確さを考慮すると、気候学的な ばらつきの大きさ、つまり毎日の最高・最低気温の年平均値から年平均気温 の長期変動を見積る際にほどこす補正量の地点間の誤差は図19.2(左)に おけるばらつきよりも小さく、標準偏差で±0.1℃程度とみなしてよいだろう。

ただし、その他の原因(都市化や陽だまり効果)によって生じる誤差は 除外した場合のことである。

参考: 今回の補正値は年平均気温に対するものであり、1930年代の「中央気象台年報」 に掲載された資料をもとにしている。補正値の季節変化に関しては同年代の 「月報」に掲載された資料から、上記の方法で解析すれば求めることが可能 である。1940年の年報に限り、年平均値のほか月ごとの毎時平均気温も掲載 されている。

要約

(1)非通風のガラス棒状の最高温度計と最低温度計(時定数は数分間) で観測された最高・最低気温の平均値は日平均気温よりも0.1~0.8℃程度 高めであり、気温日較差が大きいほど違いが大きくなる。

(2)最高・最低気温の平均値から年平均気温を推定する際の補正量を求め てみると、補正量は気温の日較差(最高気温と最低気温の差)の年平均値 による関数(式19.1)で表される。

(2)この方法による年平均気温の数年間以上の長期平均値における期待される 誤差は0.1℃以下となり、気温の長期変動の解析に十分利用することができる。

資料

中央気象台編、1950:地点別「日本気候表」、pp.127, 気象協会(昭和 25年5月25日発行).

気象協会、1959:日本各地の気候表、pp.110, 気象協会(昭和34年2月5日発行).

中央気象台、1930~1940:中央気象台年報.

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