Q04 「植物群落内の葉の日射透過は?」(MH), 2006/4/16
―「水環境の気象学」の第9章の式に関して―
葉の日射透過をどう考えるか、の問題です。
第9章に示してある植物群落内の日射の高度による変化を表す式において、
rf を個々の葉のアルベード、F を放射に対する葉面の傾きを表す
ファクター(放射の向きに対して葉がすべて垂直ならば F=1、すべて平行
ならば F=0、等方的ならば F=0.5)として、
下向き:(dS↓/dz)=FaS↓-FarfS↑・・・・・・・(9.5)
上向き:(dS↑/dz)=-FaS↑+FarfS↓・・・・・・(9.6)
の a は葉面積指数としてありますが、本来は遮光係数の意味ではないで
しょうか。
この式で想定したモデルでは、
モデルA :葉は、日射を透過させない金属板のようなもの、
モデルB :葉は、くもりガラスのように日射の一部を吸収し、残りを透過させる、
いずれでしょうか?
というのは、植物の葉には、落葉樹の葉のように光を透すものと照葉樹の
ような厚手のものがあって、一概には決められないかも知れません。
葉の日射遮断透過過程は、葉面積だけでは記述できない、つまり葉面積が
同じでも葉の厚さの影響がでるのではないでしょうか。
― 回 答 ―
式(9.5)の直前に、”葉の透過は無視する”と説明してあるように、モデル
では簡単化のために上記の”モデルA”を想定しています。植物群落内の日射伝達は
複雑で、正確にモデル化しようとすると複雑になるので、群落内のある
水平面を横切る日射を鉛直下向成分 S↓と鉛直上向き成分 S↑の2方向の
成分だけで表現してあります。
ここでは植物群落全体と、その上の大気間で交換される熱エネルギー(放射、
顕熱・潜熱輸送量)を主な目的とするものです。
直達光や葉からの赤外放射量の単位面積当たりの大きさは、
400~1,000W/m2 の程度であるのに対し、普通の葉の透過エネル
ギーはそれよりも十分に小さいと考えたからです。
私たちの目は、明るさが数桁違っていても感じます。
日射エネルギーの大きさからすると数W/m2、またはそれ以下の
微弱な時でも明るいと感じます。
葉による日射の透過を考慮する場合は、渡辺・大谷(1995)が参考になり
ます。参考までに、桑形恒男博士の調べによれば、イネの葉の透過率は0.2程度、
反射率は0.3程度です。透過率が0.2としたとき、続く2回の透過率は
0.2×0.2=0.04となります。
前記のように植物群落全体と大気間で交換される熱エネルギーを主目的と
する場合、群落上端で放射量のネットフラックスを与え、群落全体からの反射
分を最初から差し引いておいて、群落内では個々の葉のアルベド=0、赤外
放射に対する黒体度=1と置き換えて計算を簡単化する方法もあります
(Kondo and Watanabe, 1992)。
なお参考までに、現実的な森林など植物群落では、葉面は水平的にも不均一
な分布をしており、個々の樹木・枝ごとに集中的に存在していますね。
積雲状の雲の分布に似たところがあります。
このような場合、群落の上に向かう放射量の測定は工夫が必要になって
きます。その測定方法の例がYamazaki et al.(1992)の Fig.13に示されて
います。また林床での日射量は、固定した日射計によるよりは、日射計を
持って歩きながら空間平均を測定するほうがよいでしょう。
文献
Kondo, J. and T.Watanabe, 1992: Studies on the bulk transfer coefficients
over a vegetated sueface with a multilayer energy budget model.
J. Atmos. Sci., 49, 2183-2199.
Yamazaki, T. J.Kondo, and T.Watanabe, 1992: A heat-balance model
with a canopy of one or two layers and its application to field experiments.
J. Appl. Meteorol., 31, 86-103.
渡辺力・大谷義一、1995:農業気象、51, No.1, 57-60.