76. 根室、納沙布岬、釧路の観測所
著者:近藤 純正
地球温暖化など気候変動の実態を調べる目的で、都市化の影響の少ない
北海道の根室測候所、納沙布岬アメダス、厚床アメダスを視察した。
また、都市化の影響を含むと考えられる釧路地方気象台の露場の周辺環境も
観察した。
(完成:2007年8月27日)
もくじ
(1)はしがき
(2)納沙布岬アメダス
(3)根室測候所
(4)厚床アメダス
(5)釧路地方気象台
(1)はしがき
日本における気候変動(温暖化)についての予備的解析によれば、
ほとんどの気象台、測候所(現在無人化された特別地域気象観測所含む)では
都市化の影響と日だまり効果によって年平均気温が高めに観測されている。
そのため、都市化等の影響を含まない気温のバックグラウンド温暖化量を
見積るためには、それらを補正しなければならない。
今回、2007年8月19日(日曜日)から22日にかけて北海道東部の根室、浦河
などの観測所周辺環境を次の日程で視察した。
19日:東京羽田空港7:55発、釧路空港9:30着
JR釧路駅11:01発、快速「ノサップ」にて根室13.08着
観光タクシー(2時間、10,800円)にて納沙布岬、納沙布アメダス、ほか巡回、
根室にて宿泊
20日:根室測候所訪問、周辺環境の変化について根室市役所ほかで聞き取り調査
JR根室12:24発、厚床13:15下車、厚床アメダス見学
JR厚床14:42発、釧路16:13着、釧路地方気象台見学
JR釧路18:42発スーパー大空12号にて帯広20:12着、宿泊
21日:帯広駅前6:30発十勝バスにて広尾8:48着
広尾9:50発JRバスにて襟裳岬10:50下車、襟裳岬アメダス見学
襟裳岬13:35発JRバスにて様似駅前14:28着、JR様似14:34発浦河14:57着
浦河測候所見学、浦河にて宿泊
22日:浦河測候所訪問、セミナー
JR浦河12:31発苫小牧15:21着、苫小牧16:27発にて東室蘭17:28着
室蘭で宿泊
23日:室蘭地方気象台見学とセミナー
JR東室蘭13:37発スーパー北斗12号にて函館15:31着
函館15:42発スーパー白鳥にて八戸18:40着
八戸18:56発はやて32号にて帰途
この章では前半の納沙布岬~釧路までの内容であり、後半の襟裳岬~室蘭
までは次の章「77.襟裳岬、浦河、室蘭の観測所」で説明する。
まず、上記の日程にて、北海道東端の納沙布岬を観光したのち、その西方に
ある納沙布岬アメダスを見学した。
図77.1 北海道東端の納沙布岬公園
南寄りの風があり、視程はあまりよくなく、北方領土はおぼろげにしか
見えなかった。
(2)納沙布岬アメダス
前もって根室測候所業務課長・松崎克彦
さんから送ってもらってあった地図を頼りにタクシーで西方向へ向かう。
アメダスはすぐ見つけることができた。
アメダスの北側と東側は崖となり、東方約60mは根室湾である。
地形的にはアメダスは適地にあるが、西側から南にのびる範囲にイタドリが
生い茂り、これが観測環境を多少悪くしているように思った。
注:イタドリの刈り取りについて
後述の厚床アメダス見学の滞在予定時間(3時間余)が少なくてよかったので、
帯広までの途中、急遽、納沙布岬アメダスを管轄する釧路地方気象台に
立ち寄ることができた。気象台次長・山内博行さんほかの担当者にイタドリ
の刈り取りが可能かどうかを尋ねたところ、敷地の所有者と相談してそれは
可能であるとのことである。納沙布アメダスは環境がよく、根室測候所の
気温データを補完できるので、今後の管理では毎年イタドリの刈り取りを
行うことが望ましい。
なお、釧路地方気象台管轄のアメダスのうち、中標津アメダス(道立根釧農業
試験場)の環境はよいとの情報を得た。
図76.2 納沙布岬アメダスの南西からの眺め、手前の砂利を敷いた空地は
漁具の置場となっている。
左手の背丈の高い雑草はイタドリ、毎年決まった時期に刈り取ることが望ましい。
図76.3 納沙布岬アメダスの西からの眺め、左手と前方が崖(横3枚の合成
のため歪んでいる)。
図76.4 納沙布岬アメダスの北からの眺め、左手と後方が崖(横3枚の合成
のため歪んでいる)。
(3)根室測候所
8月20日の午前中に訪問し、業務課長・松崎克彦さんほかに案内されて屋上
から周辺環境を観察した。ここでの卓越風向はNW(11~4月)とS(5~8月)
である。
根室における年平均風速の経年変化を見ると、1965年~
1985年にかけて9%の減少があるので、この時代に周辺数km範囲の
環境変化がなかったかどうかに注意する。
また、1991年6月26日に標石と露場が北西方向へ52m移設され、
1993年8月26日に新庁舎(合同庁舎)に入居している。これらにともなって、
広い駐車場が舗装されたので、1993年以後に気温がずれた
可能性がある。
図76.5 根室合同庁舎の南側からの眺め、気象観測露場は赤矢印の下方にある、
横2枚の合成のため歪んでいる。
図76.6 根室合同庁舎の東からの眺め、気象観測露場は赤矢印の下方にある、
露場の手前は崖である。横2枚の合成のため歪んでいる。
図76.7 西方から見た気象観測露場(中央の遠方)、手前は広い駐車場、
左側の一段低い敷地にある建物は警察署、右手の4階建てが合同庁舎である。
横3枚の合成のため歪んでいる。
図76.8 合同庁舎屋上から見下ろした気象観測露場(駐車場の右手の緑色
の部分)、露場の向こう側(北側)の一段低い敷地に警察署の建物と駐車場
があり、左寄りの遠方に海が見える。横3枚の合成のため歪んでいる。
根室の卓越風向が北西と南寄りであることを考慮に入れて、次の聞き取り
調査を行った。測候所から西~北西方向に見える大きな建物は根室市役所と
旅館大野屋であり、南方向には根室グランドホテルがある。
1961年:北海道根室支庁、現在の3階建ての大部分を建設
1960~1970年ころ?:根室グランドホテル建設、1987年9月14~15日に天皇皇后ご宿泊
1985年:駅前のホテル三洋館、2階建てから現在の3階建てに建替え
1993年:旅館大野屋、元2階建て民家を3階建てホテルに増築
1993年8月:測候所、合同庁舎に入居
1997年2月:根室警察署の建替え
根室市役所総務部情報管理課広報公聴係長・高瀬茂さんを訪ね、
古い建物から現代風に変化したおもな建物について教えてもらうと、
1968年1月:成央小学校落成
1969年11月:根室郵便局庁舎落成
1971年10月:釧路地方裁判所根室支部庁舎落成
1972年7月:根室商工会館落成
1973年7月:根室市役所庁舎落成(3階建て)
根室の市勢要覧2007(全27ページ)に掲載された高所から撮影された
市街域の写真によれば、根室市誕生・市制施行当時(1957年)は古いタイプ
の平屋が多く、主要道路沿いに2階建てが多く、3階建ての小さなビルは
数棟しか見えない。
以上の情報からすると、根室は日本の他の都市と同様に、1960年代から
現代風の大型建築物が増えてはじめ、年平均風速の減少が始まることと
矛盾しない。
(4)厚床アメダス
JR厚床駅で下車。44号線に沿って東へ歩いて行くと、明治乳業K.K.根室工場が
右手にあった。草刈り作業中の男性に聞くと、以前のアメダスはこの敷地の
道路沿いの場所にあったという。
根室測候所業務課長・松崎克彦さんからもらった地図によれば、
現在のアメダスはその東方向、道路左手(北側)にある根室市厚床中学校に
設置されている。道路から測風塔が見え、アメダスの位置はすぐに
わかった。
きょう(8月20日)は中学校の始業日、訪問した13時30分ころは職員会議中
であった。会議中であることを知らずに尋ねると、明治乳業K.K.根室工場内の
旧アメダスは周辺の樹木が生長し、風速データがおかしく
なってきたので、公共用地(中学校)へ移転したのだという。
図76.9 厚床の旧アメダス地点、左:中央に見える道路脇の樹木の向こう側に
旧アメダスがあった、右:かばぼこ型建物の左手に旧アメダスが
あった。
図76.10 北側から見た厚床アメダス
図76.11 東側から見た厚床アメダス
図76.12 厚床アメダス、左:南側の運動場からの眺め(測風塔の右手に
中学校の職員宿舎がある)、右:西側からの眺め(右方に運動場がある)
(5)釧路地方気象台
厚床アメダスの見学が短時間で終ったので、2時間ほど早い
列車に乗車でき、釧路地方気象台を見学することができた。
突然の訪問であったが、次長・山内博行さんに案内されて合同庁舎屋上から
周辺環境を見ることができた。南側の広い空き地は駐車場となっている。
図76.13 釧路地方気象台の観測露場(合同庁舎の玄関から南西方向を撮影)
図76.14 北側から見た露場(写真中央に白く見えるのが露場のフェンス)、
横3枚の合成のため歪んでいる。
図76.15 合同庁舎屋上から見た釧路の周辺環境、左から東方向、南方向、
西方向(遠方に海が見える)