69. 岡山県の倉敷アメダス
著者:近藤 純正
岡山県倉敷市内にある倉敷アメダスを訪ねた。ここは中都市・倉敷の都市化に
ともなう気象への影響を調べるのに適していると考えられる。
(2007年5月20日:完成、5月24日:最後に(3)を追加)
もくじ
(1)はしがき
(2)倉敷アメダスの周辺環境
(3)都市昇温の経年変化
(1)はしがき
倉敷アメダスは岡山大学の倉敷市内にある資源生物科学研究所の広い圃場内
にあり、気象観測露場のごく近傍の建物などの変化による影響はほとんど
無しと考えられる。
それゆえ、倉敷市街の拡大・発展にともなう都市化の影響を見るのに適してい
る。さらに、アメダス以前から同じ場所で気象観測が行われてきたので、
より適当と考える。
今回、内陸の旧津山測候所を見学する際に、この観測露場の周辺環境を
見ておきたいと連絡し、2007年5月16日午後、訪問することになった。
なお、岡山地方気象台次長・岸田泰寛氏に調べていただいたところ、倉敷における
気象観測所の移転等は次の通りである。
1891(明治24)年3月1日:甲種区内観測を開始、窪屋郡倉敷町=北緯34度36分、
東経133度46分
1928(昭和3)年:倉敷市倉敷(住居表示の変更)=同上
1965(昭和40)年2月1日:県立農業試験場へ移設、倉敷市西冨井1074=北緯34度
34.2分、東経133度45.6分
1968(昭和43)年3月1日:岡山大学農業生物研究所へ移設、倉敷市住吉町736-1=
北緯34度35.2分、東経133度46.3分
1972年:住居表示変更、倉敷市中央2丁目20-1
1988年:名称変更、岡山大学資源生物科学研究所
(2)倉敷アメダスの周辺環境
お会いできないかもしれないと思っていたのだが、この3月に定年退官され
た岡山大学名誉教授・米谷俊彦氏と准教授・田中丸重美氏にお会いでき
た。
倉敷のこの露場における古い気象記録があることがわかった。
研究棟の南側にある圃場内の観測露場に案内してもらった。昔、倉敷市街は
この研究所の北側にあり、南側は遠方に見える山まで人家は
ほとんどなかったのだが、近年は住宅地になってしまった、という。
図69.1 倉敷アメダスの露場から撮影した北方向(左)と東方向(右)
図69.2 倉敷アメダスの露場から撮影した南方向(左)と西方向(右)
この露場には気象庁アメダス(気温は通風筒:写真には写っていない)
と研究所の気象観測機器がある。
図69.3 倉敷アメダスの南から北方向を撮影した写真
横に3枚を合成したため歪んでいる。中央にアメダスがあるが写真内では明瞭
ではない。遠方の建物は研究所の庁舎である。その手前に温室群が見える。
図69.4 資源生物科学研究所研究棟屋上から南方向を撮影した写真
横に3枚を合成したため歪んでいる。圃場よりむこうは、近年住宅が
建てられるようになり、遠方の山麓までのかなりの面積が住宅地である。
ごく近くの眼下に写っているのは温室群である。
(3)都市昇温の経年変化
前日の岡山地方気象台において、次長・岸田泰寛氏に手伝っていただき、
1947年~1965年の倉敷区内観測所における毎日の最高気温と最低気温の
月平均値を書き写した。
なお、1966年以後のデータは気象庁の「観測所気象年報」と気象庁ホーム
ページから入手した。
詳細は「研究の指針」にて述べる予定であるが、内陸の津山測候所については
桜並木の生長にともなう日だまり効果(約0.2℃)を補正し、それを
バックグラウンド温暖化量とする。
図69.5 倉敷と津山の年平均気温の差
はしがきで述べたように、1965~1967年の3年間の倉敷データは岡山県立
農業試験場(現在のアメダスの南西方向にある)における値である。
図69.5は倉敷と津山における年平均気温の差である。ただし、~1978年まで
の倉敷区内観測所では毎日の最高気温と最低気温(日界9時)が観測されて
おり、このデータから次の方法で日平均気温を推定してある。
(1)毎時24回観測時代の1980~2006年の資料から年平均値を求めると、
日平均気温(24回観測)=15.36℃
最高気温(日界24時)=19.73℃
最低気温(日界24時)=11.18℃
最高・最低の平均=(19.73+11.18)/2=15.45℃
最高・最低の平均-日平均気温=15.45-15.36=0.09℃
(2)気温日較差(日界24時)=19.73-11.18=8.55℃
「K23. 観測法変更による気温の不連続」
の図23.1から読みとれば、
9時日界の気温日較差の誤差=0.5℃
この誤差は主に最低気温が高く観測されることによる。
ゆえに、9時日界の最高・最低の平均値-24時日界の最高・最低の平均値=
0.5/2=0.25℃
(3)~1978年までの日平均気温の推定式:
日平均気温=(9時日界の最高・最低の平均)-
(0.09℃+0.5/2℃)
(4)~1978年までは、気温センサー(最高、最低温度計)は百葉箱内に
設置されており、現在の百葉箱外の通風筒による値に比べて、年平均気温
は0.1℃高めに観測されている(
「K23. 観測法変更による気温の不連続」の表23.4と表23.5による)。
したがって、現在の通風筒による観測を基準にするならば、それ以前の~1978年
までの年平均気温は0.1℃低くなるように補正する。
以上の(1)~(4)の順序で補正した年平均気温を図69.5にプロットしてある。
図69.5によれば、倉敷の都市化による気温上昇率は1960年代と1990年代に
大きい。ただし、この図は内陸にある1地点の津山との比較から求めたも
のであり、沿岸平野(倉敷)と内陸における地域的な気温変動の違いによる、
10年程度の時間スケールの変動が存在する。
この図は、今後「研究の指針」で述べるように、沿岸平野の多度津(香川県、
日だまり効果の補正が必要)や室戸岬など多地点から求めるバックグラウンド
温暖化量を基準にした評価ができるまでの間の予備的結果とみなしておこう。