50. 合掌造り世界遺産

近藤 純正

2005年8月23日~25日、富山県五箇山相倉集落と岐阜県白川郷荻町集落 を訪ねた。これらは1995年12月に「白川郷・五箇山の合掌造り集落」 として世界遺産に登録されている。

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五箇山相倉合掌集落(ごかやま  あいのくら がっしょう しゅうらく)
富山県高岡からの支線JR城端(じょうはな)線の終点・城端駅前にて、 加越能バス五箇山(ごかやま)線に乗車。約25分で五箇山相倉(あいのくら) 口に到着。 民宿「勇助」のおかみさんから電話で、”下車して右に坂道を8分ほど登ると 相倉集落に入り、大きな松の木のある家が「勇助」です”と教えられていた。 その通り、宿はすぐにわかった。

城端駅

(左)城端駅、(右)相倉口の近くから見下ろした庄川 沿いの集落

相倉道標
(左)相倉合掌集落への道標、(右)集落入り口の案内板

勇助
(左)相倉集落、手前右端は民宿「勇助」、(右)民宿「勇助」

勇助
(左)勇助の玄関、(右)いろり

民宿「勇助」のご主人はプロの写真家・池端滋さんであることをはじめて 知った。池端さんは1942年、この相倉で生れ、東京や富山にて カメラマンとして活躍。現在は生家に戻り民宿を営む。作品として 「相倉の四季」(1995年)、「環海」(2003年)などを発表されている。

ご主人に指摘されて、囲炉裏(いろり)のある大広間の屋根裏を見上げると、 屋根の板裏を支える垂木(たるき)を支える大きな梁(はり)が数m間隔に 並んでいる。この梁の窓側は、いずれも自然に曲がった木材が用いられて いる。ご主人によれば、昔の大工道具の手斧(ちょうな)の形であるという。 この曲がりは積雪域の斜面に生えている樹木の根本によく見る形 であり、積雪が斜面をゆっくり流下する際に受ける毎年の荷重によって できたものである。

普通なら、この曲がった部分は建築材として使うのが難しく切り捨てるよう に思うのだが、この合掌造りには、わざわざ活かされていた。 梁の高さは窓側で低くなり屋根の勾配になじむ形となり、力学的にも合理的 な構造のように見え、美的にもよい。 冬の厳しい自然環境で育った地元の材が、厳しい自然に耐える合掌造りに 活かされている。昔の人の合理性、無駄のない暮らし方に感心した。

この日(8月23日)の宿泊客は、一家5名の家族、夫婦連れ、私の8名で あった。一同でいろりを囲み、ご主人のお話しを聞きながらの夕食。 風呂は昔の大きな桶造りであった。間取りや造作は、私の母方の実家の ものとよく似ており、子供のころを思い出した。私は、こうした間取り・造作 は江戸時代に流行ったのかなと想像したのだが、ご主人によれば、 この間取りは機能的に造られているので、富山の山間部と四国・土佐が遠く 離れていても、自然と似てきたのではないかという。

この家の現在の台所は、昔は紙すき場であったという。こうぞや、みつまた が和紙の原料としてこの集落に植えられていたのだろう。養蚕は二階で やっていたという。そのほか、この集落では火薬の原料となる塩硝(焔硝、 硝酸塩)が一階の床下に掘られた穴で造られていたという。

この家には皇太子殿下や秋篠宮殿下などの写真が掲げられている。 聞けば、両殿下は学習院高等科在学当時、この五箇山にこられ 寺の住職・図書恒遠さんの母屋で宿泊されたという。住職のお宅の表札に 図書の姓があるので、”珍しい姓ですね”と尋ねると、”売店をしている 分家も図書です”と教えていただいた。

図書家
(左)図書家(皇太子殿下と秋篠宮殿下が学習院高等科の ときに宿泊された宿)、(右)図書家の分家(昔は雑貨屋、いまはみやげ物店)

この集落の神社境内に建立された皇太子殿下御歌碑には、

  五箇山をおとづれし日の夕餉時(ゆうげどき) 森に 響かう こきりこの唄

と刻まれていた。「こきりこ」は、越中五箇山・上梨の山里を中心に 伝承された古代民謡である。

相倉民家3景
相倉集落の民家3景

合掌造りの屋根はほぼ15年程度のサイクルで葺き替える。一度に屋根半分づつ を葺き替えるという。民宿「勇助」の近所で、ちょうど葺き替え作業が 始まっていた。



白川郷荻町合掌集落(しらかわごう  おぎまち がっしょう しゅうらく)
翌朝8月24日9時16分発のバスに乗車。 富山県から日本海へ注ぐ荘川沿いに上流へと走る。途中に五箇山の菅沼 合掌造り集落を通り過ぎ、やがて庄川上流の岐阜県へ入った。

およそ40分後、白川村役場のある鳩ヶ谷で下車。村役場産業課の小坂奈緒美さん に気象観測所(アメダス)が設置されている白川中学校への道順を教わる。

アメダスの見学を終え、歩いて荻町(おぎまち)合掌造り集落へ向かう。 旅館「白川郷の湯」に荷物を預けて観光に出かける。役場の小坂さんに 教わったように、まず荻町城址の展望台に登ると眼下に合掌集落が一望 できた。

白川郷案内
(左)白川郷合掌造り集落への道標、(右)道標近くの花壇

荻町望遠
荻町城址展望台から、(左)荻町集落を望む、 (中)望遠1、(右)望遠2(国指定重要文化財和田家)

荻町城址から下山すると、ふもとに「日本ナショナルトラスト合掌文化館」 があり無料なので入ってみる。この家は旧松井家であり、有志からの募金に よって取得し運営されている。100円をカンパした。
この家の一階には機織り(はたおり)機が備えられ、78歳の木下(きした) こうさんが観光客に機織りを教えていた。 指導・材料費1,300円で1枚の敷物が1時間ほどで仕上がるという。

松井家
(左)旧松井家(日本ナショナルトラスト合掌文化館)で観光客に機織り を指導する木下こうさん、(中)仕上がった織物、(右)旧松井家の二階

長瀬家
(左)長瀬家の正面(最大級の合掌造り)、(右)長瀬家の 切妻

明善寺
(左)明善寺(みょうせんじ:白川村で一番大きな合掌造り、 本堂は築300年、高さ15m、面積100坪、葦面積108坪)、(右)売店小屋

荻町集落の南端近くに白川八幡神社がある。神社の境内には 「どぶろく祭りの館」(白川村郷土文化保存館)がある。この館(やかた) では白川郷に伝わるどぶろく祭りを人形や模型を使って再現し、祭りに関する 資料や遺物が展示されている。見学後、受付けで「どぶろく」のお神酒を いただく。どぶろくと白酒の製法・原料の違いなどについて尋ねたが、 まるでエンドレス・テープを回転させているかのようで、 よく理解できなかった。

白川八幡
(左)白川八幡神社、(右)神社の展示館「どぶろく祭りの館 内の展示

宿泊した旅館「白川郷の湯」の外観は、この集落にマッチさせるためか、 古式造りに見えたが、入ってみると内部は近代的造りのホテル 並みであった。

白川郷の湯
(左)旅館「白川郷の湯」、(右)せせらぎ公園・合掌造り 民家園へ渡る「であい橋」

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