K67.露場風速の解析ー宮古


著者:近藤 純正・豊間根 正志
岩手県三陸海岸に設置されている宮古観測所で露場風速を観測した。この露場は複雑な 斜面にあり、南東側の眼下に宮古湾を見下ろすことができる。南東-北西方向の傾斜角 が17°の単純な斜面を想定し、この基準斜面からの仰角を用いれば、露場通風率と 仰角分布はよく対応する。ただし、露場通風率は平坦地で得た実験式と比べると20% 程度小さめである。その4要因は、(1)現実の斜面は単純ではなく庁舎・駐車場の 平坦地―斜面―露場―旧宿舎跡の平坦地―斜面からなる複雑地形による摩擦抵抗、 (2)仰角を定義する地物より近傍に存在する背丈の低い樹木・竹やぶによる摩擦抵抗、 (3)露場フェンスの網目構造の防風効果、(4)風速は斜面に沿う斜めの風である のに対し、観測された風は水平成分である。(4)の示す割合は2%程度であり、 20%の大部分は(1)~(3)によると考えられる。 (完成:2012年12月25日、付録に加筆:12月27日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

トップページへ 研究指針の目次


更新の記録
2012年12月18日:素案の作成
2012年12月25日:露場南東側斜面の傾斜角の測量値を追加
2012年12月27日:付録に加筆

  目次
        67.1 はしがき
        67.2 風速計と露場周辺の環境
        67.3 仰角の測量
        67.4 風速比と風向差
        67.5 露場広さと露場通風率
        67.6 まとめ
        付録 風向が南南西のときの露場通風率(考察)


67.1 はしがき

重要な気候観測所近傍の環境を維持・管理する方法として2つがある。その1は、 露場から周辺地物の仰角を方位5°間隔で全方位について測量すること。これにより 露場の周辺、概略30~400mの範囲の環境変化がわかる。その2は、露場内の高度 1.5~2mで風速(露場風速)を長期間にわたり観測すること。露場内および露場 フェンスの外側に雑草・灌木が生えれば、風速比(=露場風速/測風塔風速)が変化し、 露場内から近傍50m程度までの環境変化が分かる。

仰角αの変化、すなわち1/tanα=X/h(X:露場空間の広さ、h:地物の高さ)の30%の 変化と、風速比の10%の変化が注意すべき環境変化であり、これ以上の変化が生じ ないよう管理しなければならない。

重要な気候観測所の一つである宮古観測所(宮古特別地域気象観測所)は複雑な地形 の斜面にあり、平坦地における露場風速と異なることが予想される。複雑な斜面を 表すパラメータ、つまり斜面の傾斜角としてどの空間範囲の平均傾斜角が適している かを見出したい。

解析に用いる資料
大気安定度の影響を除くために、測風塔における10分間平均風速が3m/s 以下の資料 は除外する。解析に利用した資料と条件は次の通りである。

露場風速計の設置場所:宮古観測所の露場へ入る階段の角
測風塔風速>3m/s(この条件のデータを全資料とよぶ)
測風塔風速計の高度:ZA=20.1m
ゼロ面変位:d=0
露場風速計の高度:Zr=1.5m(階段踊り場、コンクリート面からの高さ)
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m
風速比理想値=6.21/8.81=0.705

67.2 風速計と露場周辺の環境

露場風速は超音波式風速計(ウインドソニック、PGWS-100-1、乾電池式)で観測する。 観測は1秒間隔で風速・風向をデータロガーに収録する。このデータから10分間平均の 風速・風向および風速変動と風向変動の標準偏差を求める。測風塔の10分間平均の 風速・風向と比較し、風速比(=露場風速/測風塔風速)と風向差(=測風塔風向- 露場風向)、露場通風率の方位角依存性などを求める。

宮古観測所の露場は、南東方向から北西方向に向かって高くなる斜面にある。 露場面とその西側の旧宿舎跡地は平らに整地されている。露場より一段上の平坦敷地内 には庁舎とウインドプロファイラ・ドームと駐車場がある。

露場の南東側斜面の傾斜角は、国土地理院地図(1/25000)から読み取ると25° 程度あり、その下は住宅・市街地の平坦地となっている。2011年3月11日の 大地震津波で建物の多くは流されている。

より正確に知るために、津波後の区画整理を行うために作成された土地利用計画図 (1/3500、等高線1m間隔)から、南東側斜面の傾斜角を次のようにして求めた。

津波がきて住宅被害があったところ(区画整理するところ)の境と、露場フェンスの 標高差=35mである。この水平距離=80.5mである。したがって、 傾斜角=23.5°となる。

屋上から東方向
図67.1 庁舎屋上から東方向を見下ろした写真。白い半球はウインドプロファイラの ドーム、その下の半円の白色フェンス内が露場、赤丸印は超音波風速計受感部。 露場の右方の一段低いところ(写真外)に旧宿舎跡地がある。

露場門扉から
図67.2 露場入口の門扉の上側から見た露場。赤丸印は超音波風速計受感部(階段踊り 場コンクリート面からの高さ=1.5m)、宮古湾の遠方に見える山が月山 (方位=128°、標高=456m)。

月山から
図67.3 月山から眺めた宮古湾と宮古観測所(写真中央、樹木に囲まれて見える)、 震災前の撮影(望遠)。

出先埠頭から
図67.4 南東方向の出先埠頭から撮影した宮古観測所(望遠)。手前から吹く南東の 風のとき、測風塔風速は強い(図67.11参照)。

竜神先の展望台から
図67.5 東南東方向の竜神崎の展望台から撮影した宮古観測所(望遠)。 観測所の左寄り背後に見えるのは中里団地。

67.3 仰角の測量

風速計を設置した手すりから水平距離約1mの地点において周辺の樹木・庁舎の仰角αを 方位5°間隔で測量した。測量に際して、簡易セオドライトを置くコンクリート面 には鉄製の蓋(マンホールの蓋)があり、磁石の狂う可能性があるので、方位の基準 は月山(方位=128°)及び十二神山(方位=176°)の方向に合わせた。

水平面を基準とした仰角の測量値(カッコ内は傾斜面を基準とした補正値、 67.5節参照)
 仰角の平均:<α>=7.7±12.2°→(7.7±6.4°)
 露場広さ1:1/<tanα>=5.34 →(6.87)
 露場広さ2:<1/tanα>=15.95±13.34 →(12.85±10.71)
 パラメータ比:露場広さ2 / 露場広さ1=2.99 →(1.87)

ただし、<>は全方位の平均値を表し、パラメータ比が大きいほど方位による空間 広さが一様でないことを意味している。これらの数値は後で説明するように、傾斜面を 基準とした補正仰角によって置き換えられる(67.5節を参照)。

仰角分布
図67.6 仰角 α の方位角分布。プロットは測量値(水平面基準)、曲線は SE-NWの傾斜角が17°の単純な斜面の基準面(67.5節を参照)。

露場は斜面にあるため、東~南の仰角はマイナスの値、逆に西~北の仰角は正の大きな 値となっている。図67.6に記入した曲線は後で説明する露場通風率と露場広さの関係 を調べるときに用いる仰角の基準面を表す関係である(67.5節)。プロットと曲線の 縦軸の差が斜面を基準とする補正仰角 α’となる。

67.4 風速比と風向差

10分間平均の露場風と測風塔風を比較する。図67.7(上)は風速比(=露場 風速/測風塔風速)の風向依存性である。風速比の平均値(赤四角印)は0.25~0.57の 範囲に分布している。仰角分布との関係は後述する。

風速比が年によって大きく変化しないよう、周辺環境の維持管理を行うことになる。 その際の目安として、風速比の10%の変化が大きな環境変化である。それが、 周辺の樹木等の成長によるものであれば、伐採・剪定など行わねばならない。

宮古観測所の場合、南東側斜面(観測所敷地外)の笹やぶと南側の旧宿舎跡地に 生えている樹木(モミジなど)の成長に注意しよう。南東側斜面の観測所敷地外の 土地所有者には、笹竹や雑木が成長し観測の邪魔になれば、伐採してもよいとの 許可は得てある。

風速比と風向差
図67.7 風速比(上)と風向差(下)の風向依存性。小プロットは10分間値、 赤四角印は平均値である。

図67.7(下)によれば、風向差は測風塔風向が西~北北西(270°~337.5°)で正、 北~北東(0°~45°)と南東~西南西(135°~247.5°)で大きなマイナスと なっている。これを図67.8に模式的に示した。測風塔の風向(実線)と露場風向が 大きく違う場合を破線で、ほとんど風向差がない場合はそのまま長い実線で表した。

図68.8では上側が北西方向(高い標高)、下側が南東方向(低い標高)である。地面近 くでの風向(露場風向)は斜面の傾斜の少ない方向に曲げられる傾向にある。すなわち、 NNEの風は東寄りに、Sの風は西寄りにずれて、等高線に並行に吹くように曲げ られる。つまり、平均的に安定な成層状態にある大気中では、風は上昇・下降する にはエネルギーが要るので、なるだけ楽な方向に吹こうとする。

風向差の模式図
図67.8 風向のズレの模式図。矢印の中心の小赤丸印は露場風速の観測地点、実線は 測風塔風向。露場風向が殆んどずれない場合は実線で、露場風向がずれた場合は破線 で露場風向を示す。
赤長方形は庁舎、その南東~東は駐車場、黄緑半円形は露場、 左下隅の変形四角部分は旧宿舎跡地で平らな部分(露場より一段低い)、露場の右方 に伸びた部分は一段低いほぼ平らな地形、その他は傾斜地形である。

風速比は露場風速計と測風塔風速計の高度(Zr, ZA)によって変わるので、次節では 露場通風率について調べる。

66.5 露場広さと露場通風率

これまでの他の章で解析した平坦地についての定義によれば、

定義(平坦地):方位別の露場広さ=X/h=1/tanα

森林など樹木群の場合、仰角αを測る高さ h は各方位の視界内に見えるもっとも 高い樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離がXである。
方位は0°が真北、90°が東、・・・である
X は水平距離(m)
h は樹高・建物などの高さ(m)
α は h を見たときの仰角(°)

注1:はるか遠方に障害物があっても、X/h>30~40の距離つまり α<1.4°~1.9°の角度のとき、露場通風率は1となるので(あるいはα=0 のとき X/h=∞となり発散するので)、X/hの計算を行う場合に限りα<1.8°はα=1.8°と 置き換えて X/h=1/tanα を計算する。したがって、α<1.8°のときの X/h=1/tanα =31.8(最大値)となる。ただし、αの全方位の平均値は測量値のαを用いる。 傾斜地の標高の低い方位では一般にα<0となる。

注2:測量時の仰角αは瞬間値ではなく、視界内の方位2°範囲の平均値を読み 取る。なお、測量に用いている簡易セオドライト(牛方式ポケットコンパス=レベル トラコンLS-25、望遠鏡倍率=12倍)の視界は2°40’であり、気象台が使用して いるレーザー距離計(トゥルーパルス360、望遠鏡倍率=7倍)の視界=6.5°である。

注3:露場通風率と露場広さ X/h の関係を表す場合、X/h は方位±20°範囲の平均値 を用いる(方位5°ごとに測った仰角9点の移動平均値)。その理由は、風向は10分間 程度の短時間でも左右に変動し、それら方位にある障害物の影響を受けるからである。

傾斜地では、露場風は斜面に沿って吹くので、仰角の測量値 α は傾斜を考慮して 補正しなければならない。傾斜角としてどの空間範囲(露場からの半径何mの範囲) の平均値を用いるべきかが問題となる。

微風時のデータは除外してあり、高度1.5~2mの「露場風」は水平スケール 50~100m程度の平均的な傾斜面に沿って吹くと予想される。仰角の基準となる 仮想斜面の傾斜角をいろいろ変えて、露場通風率と露場広さとの相関関係がもっとも 高い傾斜角を見つけることにした。

基準斜面の傾斜角=12°、15°、17°、20°の4通りの計算を行い比較すると、 17°の場合がもっとも高い相関関係となった。露場周辺を見渡してみると、17°は 露場を中心とする半径50~100m範囲の平均的な傾斜角に相当する。

前記のように、露場フェンスから下の南東側斜面の傾斜角=23.5°、露場の上側の 傾斜角はしだいに小さくなっているので、17°は合理的な傾斜角とみなしてよい。

その計算方法は次の通りである。基準斜面の傾斜角をφ、その傾斜の下がる方位を θとすると、ある方位βの補正仰角 α’ (β)は、

補正仰角α’(β)=仰角測量値α(β)+φcos(β-θ)

によって計算する。宮古では傾斜角はφ=17°、 その下がる方位はθ=135°(南東)である。

(例1) 東(β=90°)、仰角測量値α(東)=-7.5°
補正仰角α’(東)=-7.5°+17°cos(90°- 135°
=-7.5°+(17°×0.7071)=4.5°

(例2) 南東(β=135°)、仰角測量値α(南東)=-3.2°
補正仰角α’(南東)=-3.2°+17°cos(135°- 135°
=-3.2°+(17°×1.00)=13.8°

以上によって補正仰角 α’ を求め、露場広さの方位角分布を計算した。図67.9は 露場広さの方位角分布である。

露場広さ分布
図67.9 南東―北西の傾斜角φ=17°として補正された露場広さの方位角分布。 赤実線は±20°範囲(5°間隔で測った9方位)の移動平均値、縦軸の計算に用いた 補正仰角α’ は図では α で示してある。

図67.9は補正された露場広さの方位角分布である。傾斜面に対して、西南西~北西 (247.5~315°)の方位は開けており、無次元の露場広さは30以上である。北北東 (22.5°)は樹木により、東南東~南南東(112.5°~157.5°)はおもに密な笹竹と 疎らな雑木の存在により露場広さは10以下である。

測量のまとめ(傾斜補正後):
 仰角の平均:<α’>=7.7±6.4°
 露場広さ1:1/<tanα’>=6.87
 露場広さ2:<1/tanα’>=12.85±10.71
 パラメータ比:露場広さ2 / 露場広さ1=1.87

ただし、<>は全方位の平均値を表し、パラメータ比が大きいほど方位による空間広さ が一様でないことを意味している。当面の解析では「露場広さ1」を用いるが、 今後、各地での観測結果を総合するときには「露場広さ2」「パラメータ比」を用いる 予定である。

露場通風率
図67.10 露場通風率と露場広さとの関係、上図は横軸を直線目盛、下図は対数目盛で 表してある。緑破線は林内開放空間における実験式、下図の細い黒実線は破線より 縦軸が20%小さい関係である。

詳細は他所における今後の観測からも明らかにされるだろうが、現段階における結論 として、次のようにまとめることができる。

複雑地形の宮古観測所における露場通風率は、平坦地で得られた関係よりも20%程度 小さい。
その4要因:
①露場周辺の斜面は単純ではなく、庁舎・駐車場の平坦地―斜面―露場―旧宿舎跡の 平坦地―斜面からなる複雑地形が露場風に対して大きな摩擦抵抗として作用する。
②仰角を定義する地物より近傍に存在する背丈の低い樹木・竹やぶが露場風に対して 摩擦抵抗として作用する。
③露場フェンスの網目構造の防風効果により露場風速が弱められている。
④風速は斜面に沿う斜めの風であるのに対し、観測された風は水平成分である。 この割合は20%のうちの2%程度である(備考1を参照)。

20%のうちの大部分は①~③によるものである。②の典型例は北の丸露場で 観測された( 「K63.露場風速の解析ー北の丸と大手町」の図63.3の緑色プロットを参照)。

備考1
頻度の多い測風塔風向(図67.10の緑の丸印)の方位はβ=135°、157.5°、225°、 247.5°、270°である。この方位について傾斜角度φ=17°の成分 {=17°cos(β-135°)}は17°、16°、0°、-6°、-12°。それぞれに対する 余弦関数のコサイン(cos)は0.96、0.96、1、0.99、0.98、これらの平均値=0.98で ある。したがって、斜面に沿う風の98%が水平成分(観測値)であり、2%の違いで ある。


表67.1 風速比と露場通風率のまとめ、2012年10月11日~12月10日(宮古)
  X/h=1/tanα’:各方位の露場の広さ(±20°範囲の平均)
   ただし全資料の平均値のX/hは「露場の広さ1」(=1/<tanα’>)
  風向:測風塔風向(ZA=20.1m)
  資料数:10分間平均値の資料数、ただし測風塔風速>3m/sのみの数
 資料数が20未満の場合、露場通風率は示していない

        風向  風速比 露場通風率 資料数
    X/h  (°)       (%)

    4.8      0      0.256       36.3      85
   10.7     22.5    0.301       42.7     73
   13.9     45      0.360       51.1      56
   12.1     67.5    0.280       ----       1
    9.9     90      0.339       ----      6
    6.2    112.5    0.343       48.7      27
    5.7    135      0.281       39.9     114
    9.3    157.5    0.439       62.3     117
    9.4    180      0.504       71.5      40
    4.4    202.5    0.512       72.6      66
   14.1    225      0.534       75.7     266
   28.4    247.5    0.542       76.9     948
   27.9    270      0.570       80.9     197
   22.3    292.5    0.548       77.7      38
   17.3    315      0.396       56.2      47
    9.4    337.5    0.316       44.8      24

    6.87 全資料平均 0.489       69.4    2105


67.6 まとめ

宮古観測所の複雑な斜面上において露場風速を観測し、方位別の露場通風率 (風通しの良し悪しを表すパラメータ)を求めた。斜面の傾斜角は17°、南東が低く 北西が高い単純斜面を基準面として仰角測量値を補正して用いた。

1.斜面に沿って流れる風「露場風」は、等高線に沿うような向きに曲げられる 傾向にある(図67.8)。

2.露場通風率の全方位平均値は69.4%であり、林内開放空間で得た実験式とほぼ 一致する(図67.10の赤四角印)。

3.方位別の露場通風率は、平坦地で得られた関係よりも20%程度小さい。この風速 弱化の要因は、
①斜面は単純ではなく、高い方には庁舎・駐車場の平坦地があり、 その下は斜面、さらに露場と旧宿舎跡の平坦地、そして斜面が続く複雑地形で ある。
②仰角を定義する地物より近傍には背丈の低い樹木・竹やぶが存在している。
③露場フェンスの網目構造の防風効果により露場風速が弱められている。
④風速は斜面に沿う斜めの風であるのに対し、観測された風は水平成分である。
この④は20%のうちの2%程度である。

したがって主な要因として、①~③が「露場風」を弱めるように摩擦抵抗として 作用している(図67.10)。①~③のそれぞれの割合は今後の他所における観測から 目安が得られるであろう。

4.例外として、測風塔の風向がSSWのときの露場通風率が特に大きい。 このことに関する考察は付録で行う(付録を参照)。

付録で3要因を考察した結果、SSWの方位の露場広さ(傾斜を考慮して補正した 露場広さ)は狭いにもかかわらず、その方向から吹いてくる風は窪地(旧宿舎跡地など) の上を通ってくることと、水平方向が開けているために、開けた空間からの風が吹 き込みやすいためと考えられる。


付録 風向が南南西のときの露場通風率(考察)

(1)測風塔風速に及ぼす風上側の影響
測風塔風速は観測所近傍の地物の影響をほとんど受けていないという仮定のもとに、 露場通風率を評価している。しかし、観測所の測風塔は理想的な場所・高さにある わけではなく、測風塔風速がすぐ近くの障害物の影響を受ける場合もある。測風塔 風速が弱めに観測されていれば、露場通風率は大きめに計算される。

図67.10において、宮古観測所ではSSW~Sの風のときの露場通風率が大きめにでている のは、測風塔風速が弱めに観測されているのではないか?

微風条件を除外するために、露場風速>1m/sのときを選んで、風向別の平均風速 を求め、図67.11に示した。観測時間が十分長い場合のプロット(大きい記号)の 傾向をみると、測風塔風向が南と南南西のとき、風速は僅かに小さいようだが、 顕著ではない。

測風塔風速風向特性
図67.11  露場風速が1m/s以上のときの測風塔風速の風向依存性。10分間のデータ 数によって記号分けしてある。

測風塔から南南西
図67.12  測風塔から南南西方向を撮影した写真、手前の細長い台(先端に日照計) が南北方向に取り付けられている。赤矢印は高い樹木(ほぼ南方向)、南南西方向に ある小山地形が測風塔風速に影響を及ぼしている可能性がある。

図67.12は測風塔から撮影した写真である。南南西方向の小山が測風塔風速に影響を 及ぼしている可能性がある。しかし、小山の右側に見える切通しの右方には北西方向 まで小山が続いている。

図67.11において、観測時間が十分長い場合のプロット(大きい記号)の 傾向、すなわち、風向=180~315°の測風塔風速が弱めであるのは、これら小山の 影響によるものと思われ、特に南南西の風向に対して影響が顕著とはいえない。

(2)窪地の上を吹いてくる露場風
露場風速の観測地点の南~南西側には、露場面よりも一段と低い平坦なく窪地 (旧宿舎跡地:図67.8の左下の変形四角)があり、風はこの窪地のかなり上を吹いて 露場へくる。そのため露場風速が強め(露場通風率が大きめ)になる と考えられる。

つまり窪地の上を吹いてくる空気塊の風速は大きく現れる。図67.11(測風塔風速) においても、南東風(135°)が強いのは眼下の旧宿舎跡地が窪地となっている効果も 含むからであろう。

さらに、窪地の上を吹いてくる吹く風にとって水平方向は開けているので、開けた 空間からの風も吹き込みやすい。

(3)露場風速計の見かけの高度による風速比理想値
複雑地形における露場風速計の高度 Zr の定め方によって風速比理想値が少し 変わる。

本文中での計算はZr=1.5m、ZA=20.1m、
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m

により、風速比理想値=6.21/8.81=0.705

としてあった。露場風速計の設置場所は階段踊り場の角、踊り場コンクリート面からの 高さ1.5mを Zr としたが、特に南~南西風に対して見かけの高さは高い。 仮に Zr=4mとして計算すると、

風速比理想値=7.20/8.81=0.817

となり、Zr=1.5mの場合に比べて1.16倍(=0.817/0.705)大きい。それゆえ、 露場通風率は 1/1.16 倍になる。南南西の風に対して露場通風率は72.6%/1.16= 62.6%で大きく変化せず、図67.10に描かれた緑の破線より下にプロットされない。 したがって、 見かけの高さの効果だけでは観測値を説明することはできない。

以上の考察から、ここで取り上げた(1)~(3)の効果が重なって露場通風率を 大きくしており、とくに(2)の効果が大きいと考えられる。

トップページへ 研究指針の目次