K26.寿都比較観測の課題
著者:近藤純正
	26.1 はしがき
	26.2 ルーチン用通風筒に及ぼす放射影響(シリーズ3の解析)
	26.3 ルーチン用通風筒に当たる直射光の計算
	26.4 気温ジャンプの偶然性の検討
	26.5 2006年データによる解析
	26.6 気温ジャンプの夏と冬の解析

	26.7 通風式温度計の試作
	要約
	文献と参考資料
更新記録
2006年10月02日: 26.2節の解析
2006年10月05日: 26.3節の計算
2006年10月10日: 海洋の影響は独立させて、「28章」に移動
2006年10月15日: 26.4節の追加
2006年11月16日: 26.7節(通風筒の試作)を追加
2007年1月8日: 26.5節(2006年データ)、26.6節(夏と冬)を追加

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北海道寿都測候所における2003~2005年の気温ジャンプの原因を探る方法の 一つとして、アスマン通風乾湿計2台の温度計をすべて乾球にしてルーチン 観測の気温との比較観測を行ない、ルーチン観測値は0.2℃程度高め (暫定的な値)であることがわかった。しかし、これは制限された条件下で 実施した結果であり、いくつかの検討課題が残っていた。 この章はそれらの課題について検討したものである。 (2007年1月9日完成)


26.1 はしがき

寿都測候所が現在地へ移転して、ごく最近、2002年に比べて2003年以後の 年平均気温が約0.2℃ジャンプしている。 その原因を探る方法の一つとして、アスマン通風乾湿計2台の温度計をすべて 乾球にしてルーチン観測の気温との比較観測を行なった。 その観測の結果と今後の検討課題は「K25.北海道寿都の 気温ジャンプ問題」に示した。

比較観測の結果に対して、次のような検討すべき課題がある。
(1)連続1時間の観測を1シリーズとしたとき、5シリーズのみであり、 しかも制限された厳しい条件下で行ったため、確証するのにはサンプル数が 少ない。
(2)気温測定における太陽放射と赤外放射の影響の評価が難しい。 シリーズ3(夕方のもっともよい条件下、アスマン温度計は庁舎の日陰に 入り直射光の影響が無視できる)では、ルーチン用通風筒には直射が当たって いたため、その影響を0.06℃と仮定した。その前のシリーズ2では日射量 が多いので、ルーチン用に及ぼす日射の影響はもっと大きいのではないか?
(3)アスマンに及ぼす放射影響の見積りはできないか?
(4)ルーチン用とアスマン共に、日射の当たらない日没後も観測してみる 必要がある。
(5)寿都は日本海沿岸にあり、海洋変動の影響を受けて気温ジャンプが 生じている可能性はないか?

課題(5)については、「K28.海水温と 陸上年平均気温の関係」の章で検討する。

これら課題や質問に対する回答(追加観測も含む)は、今後進めていく予定 であるが、2006年9月13~14日に行ったデータから、検討できる課題もある。 まず、ルーチン用に及ぼす直達光の影響から検討しよう。

26.2 ルーチン用通風筒に及ぼす放射影響(シリーズ3の解析)

シリーズ3は夕方の観測であり、気温は観測の始めから終りにかけて 2.5℃程度下降した。観測開始の頃、露場の大半は庁舎の日陰に入りアスマン 温度計は直射光を受けない位置にセットしたが、ルーチン用通風筒には直射 光が当たっていた。しかし、観測の後半には、ルーチン用通風筒は日陰に 入った。平均の気象条件は表26.1に示した。

表26.1 2006年9月13日のシリーズ3の気象条件
風向、風速、日射量(全天日射量)は庁舎屋上に設置されたルーチン用測器に よる値である。露場での風速はこの風速より弱く、また露場における日射量 は庁舎の陰(シリーズ3)に入っていたために小さい。
                  シリーズ   時  刻         気温  風向  風速  日射量                  
                                             ℃          m/s   W/m2
                      3    16:20-17:05      18.8  W-NW  1.31   108


シリーズ3のデータから、ルーチン用通風筒に及ぼす直達光の影響を知る ことができる。

その理由の1は、この観測時の地面(芝生面)の放射温度は1℃程度の差で 気温にほぼ近く、ルーチン用とアスマン温度計ともに、その設置場所付近 一帯は日陰であったので、放射に及ぼす影響は直射光のみとみることができる。
理由の2は、散乱光と天空からの赤外放射(気温より低温からの放射量に相当) の影響は相互に打ち消しあって、ぼぼゼロと見なされる条件である。

ルーチン気温は前1分間の平均気温であるのに対し、目視によるアスマンの 示度は瞬間値であるため、時定数の違いも含めると、アスマンを30秒だけ 早く読み取った値がルーチン気温に近いことがわかっている(前報の 「K25.北海道寿都の気温ジャンプ問題」の 図25.3を参照のこと)。

それゆえ、ある時刻=0におけるルーチン気温と対応させるために、時刻=0 とそれより1分早く読み取ったアスマンによる気温の平均値を対応させる。 ここでは4本のアスマン温度計による値の平均値を用いる。

図26.1はルーチン気温とアスマン用の4本の温度計で測った平均気温との差 の時間変化である。

ルーチン誤差時間変化
図26.1 ルーチン気温とアスマンによる気温の差(誤差)の時間変化
横軸の時間の基準ゼロは17時20分(2006年9月13日)である。


プロットは1分ごとのルーチンとアスマン気温の差である。ルーチン用 通風筒に直射光が当たっている初期の頃の誤差に比べて直射光が当たらなく なった終りの頃の誤差が小さいという傾向は見えない。

つまり、直射光の有無によらず誤差は0.06~0.39℃の範囲にあり (平均+標準偏差=0.22±0.06℃)、いずれも誤差は正の値であり、 直射光の大きさにほとんど依存しない

注:
前報の表25.2で示したシリーズ3の誤差=0.26℃に比べて今回の30秒前で対応 させた誤差の平均値=0.22℃となり、若干小さい。その理由は、シリーズ3 では気温変化は最初と最後で2.5℃程度下降するトレンドがあったからである。

26.3 ルーチン用通風筒に当たる直射光の計算

前節では、夕方における直射光の有無によってルーチン用センサーの温度 上昇はほとんど無視できることが推定された。その時の直達光の推定から、 通風筒の鉛直断面に当たる日射量を見積もってみよう。

ルーチン用通風筒は円筒形が鉛直方向に立った構造であるので、その 断面に入射する日射量は次式で表される。直達光を I 、太陽の天頂角をθ とすれば、

  J=I × sin(θ)

水平面日射量(全天日射量)は、

  S=I × cos(θ)+散乱光

快晴条件を仮定したときの直達日射量 I、水平面日射量 S、M=1/cos(θ) などは「地表面に近い大気の科学」、p.304、付録Eの計算プログラムを参照 すれば計算できる。


参考:計算に用いる公式
水平面日射量 S を計算する際にcos(θ)[=1/sec(θ)] が付録Eの計算 プログラムにも表示されている。円筒の鉛直断面へ入射する日射量を求める 上記計算式には sin(θ)があり、太陽の天頂角θが必要である。 参考のために、θを求めるには次の公式を用いる。

Arccos(θ)=Arctan[(1-θ2)1/2 / θ] , θ>0

なお、Arccos(θ)=cos-1(θ) 、Arctan(x)=tan-1(x) の表示である。

θは通常ラジアンで計算するが、度に換算したい場合には、次式を用いる。

θ度=(180/π)θラジアン


与える条件:
9月13日(DAY=256)、寿都の緯度=42.8度、気圧=1018hPa、日平均気温= 17.4℃、日平均水蒸気圧=14hPa、日射の地面反射に寄与する周辺一帯の 地表面アルベド(天空からの下向き散乱光の計算に必要なアルベド)=0.15、 大気混濁係数(当日、大気はかなり清澄)=0.03 とする。気圧、気温、水蒸気 圧は寿都測候所における9月13日~14日の平均値である。

図26.2は上記条件について計算された日射量の各成分の時間変化である。 寿都の経度=140.23度、旧東京天文台の経度=139.75度から計算すると、 寿都の南中時(地方時12時)は日本標準時で11.6時である。

日射量は地方時12時(南中時)を軸とした対称分布となるので、 日本標準時6時の日射量は17.6地方時の、7時の値は16.6地方時の、8時の値は 15.6地方時の、・・・・・・・12時の値は12.4地方時の、13時の値は13.4地方 時の、・・・・・16時の値は16.4地方時の、17時の値は17.4地方時の縦座標を 読み取ればよい。

通風筒に当たる直射光
図26.2 日射量各成分(直達光 I、水平面日射量 S、散乱光、垂直面 直射光 J)の時間変化。
赤丸印と赤線はルーチン用通風筒の鉛直断面に当たる直射光の強さ J、ただし 快晴日の寿都、9月13日を想定してある。日本標準時の17時は図中に赤矢印で 示し、地方時の17.4時である。


シリーズ3の観測は16:20-17:05(日本標準時)に行ったので、この時間内の 日射量は16.6地方時~17.5地方時の値を読めばよく、J=620~375W/m2 である。露場では後半にはルーチン通風筒は日陰に入ったので、直射は 前半には600~500W/m2程度が当たり、後半はゼロと見なしてよい。

前出の図26.1によれば、この程度の直射光の変化による、ルーチン気温 センサーへの影響はほとんどなかったと推測できる。つまり、ルーチン用 通風筒は放射の影響をほとんど受けないと見なされる。

参考
上では快晴を想定した場合、日平均水平面日射量=231W/m2、 大気放射量=319W/m2として計算された。現実には薄雲もあり 寿都測候所の観測データでは日平均水平面日射量(全天日射量) =225W/m2(=19.5MJ/m2)である。
寿都の9月13日~14日は薄雲がかかっていたが清澄であり、現実の散乱日射量 は上記快晴日の値の2~3倍程度、直達日射量は上記快晴日の値より若干 小さめであったと推定される。それでも直達光は散乱光に比べて圧倒的に 大きい。

26.4 気温ジャンプの偶然性の検討

「K25.北海道寿都の気温ジャンプ問題」の図25.1 に示したように、寿都と周辺観測所平均の気温差のグラフにおいて、2003年に ジャンプが見えたが、これは年々の気温変動の大きさからして偶然 かもしれない。

図26.3に赤丸印で示す観測所について、同様に気温差のグラフを作成して みよう。

北海道南部の地図
図26.3 北海道南部の地図、赤丸の地点について図26.4に解析結果 を示す。


図26.4によれば、1990年以前はアメダス開設の初期であり、観測装置の トラブルなどのためにプロットのバラツキが多少大きいように見える。 1995年以後に注目すると、寿都(真ん中の図)における気温ジャンプは プロットのバラツキの範囲内とも解釈でき、微妙なところである。

平均的な傾向からはずれたプロットを探してみると、1番上の図(小樽)では 1995年、2番目の図(倶知安)では1990年、4番目の図(せたな)では1984年 と1989年がある。これらはいずれも1年間のみである。

気温差5ヶ所
図26.4 年平均気温の差の経年変化。
上から順番に小樽と21地点平均の差、倶知安と19地点平均の差、寿都と19地点 平均の差、せたなと19地点平均との差、江差と19地点平均の差。 小樽の図に用いた21地点は新篠津、支笏湖畔、石狩、山口、浜益、札幌、滝川、 美唄、長沼、岩見沢、寿都、倶知安、江差、今金、せたな、八雲、長万部、 黒松内、蘭越、岩内、余市。 他の4箇所に用いた19地点は小樽、寿都、倶知安、江差、今金、せたな、八雲、 長万部、黒松内、蘭越、岩内、余市、神恵内、木古内、川汲、松前、熊石、 大間、今別、小田野沢。


図示していないが、寿都に一番近く、同じ日本海から風が吹く岩内においては 気温ジャンプは見えない。また、噴火湾に面した長万部、八雲についても 気温差の年々変動は小樽、倶知安、せたな、江差におけるバラツキ と同程度である。

これらのことから、寿都における気温がジャンプ状に変化しているのは 偶然の可能性もあるが、偶然とするには少し大きい。2006年のルーチン資料 が統計された段階で、引き続きジャンプしているか、それとも2002年以前の 傾向にもどるかを確かめる必要がある。さらに、再度の現地における比較観測 を行ってみなければならない。

このような微妙な問題に、なぜ筆者がこだわるのか。それは、寿都が 気候変動を監視できる数少ない観測所の一つ であるからである。

26.5 2006年データによる解析

2007年1月に入り、気象庁から昨年2006年のルーチンデータの統計値が 発表されたので、寿都の年平均気温と周辺12地点平均気温との差を新しく 追加して解析し、図26.5に示した。

寿都気温差12地点2006
図26.5 寿都と周辺12地点の年平均気温の差の経年変化。
12地点は江差、今金、せたな、八雲、長万部、黒松内、蘭越、神恵内、 岩内、余市、倶知安、小樽である(図25.1に2006年データを追加した図)。


2006年のデータは2002年以前の長期的な傾向に戻ったように見え、 2003~2005年は3年間連続して長期傾向から外れていたことになる。 現段階では、この気温ジャンプは偶然によって生じたものと見なしておく ことにしよう。2007年以後についても注意することにしよう。


図26.5の作図に際して、これまでと同様に精度をあげるために、 寿都の年平均気温は毎月の月平均気温の12ヶ月平均値を 0.01℃の単位まで求め、これと周辺観測所平均気温(0.01℃単位) との差を計算してある。
次の図26.6(a)(b)も同様に、暖候期5ヶ月、厳寒期5ヶ月、年平均についても 同様に0.01℃単位まで考慮して作図したものである。

26.6 気温ジャンプの夏と冬の解析

2003~2005年の寿都における気温ジャンプの偶然性を確かめるために、 暖候期(4~9月)と厳寒期(前年11月~3月)に分けて解析してみる。 寿都に近くて日本海沿岸近くにあり、北方の岩内アメダスと南方のせたな アメダスの2地点の平均値を用いて調べる。

図26.6(上)は、前述の12地点を用いた図26.5の再現であり、岩内とせたな の2地点を用いても殆んど同じジャンプが2003~2005年に見える。

ところが、厳寒期(青の折れ線)と暖候期(赤の折れ線)に分けて示した図26.6(下) では、気温ジャンプらしい現象はまったく見ることができない。それらの 平均値(緑の折れ線)でも同様に見ることができない。

寿都気温差夏冬
図26.6 寿都の気温と岩内・せたな平均気温の差、1998~2006年。
(上)年平均気温の差、(下)青線:厳寒期5ヶ月、赤線:暖候期5ヶ月、 緑:暖候期と厳寒期。
暖候期は4~9月の平均、厳寒期は前年11月~当年3月までの平均。


図26.6(上)(下)に示された結果から、3年間(2003~2005年)の気温 ジャンプは偶然によって生じた可能性が大きいと考えられる。

26.7 通風式温度計の試作

アスマン通風温度計は、特に日中、放射の影響を受ける可能性があるので、 日中も比較観測ができるように強力なブロアー を付けた通風式温度計を試作した。ブロアー(日立工機、FRB 40VA)は AC100ボルト用であり、通常、機械類に付いたホコリの吹き飛ばし・集じん 作業に利用されるもの、消費電力が550ワット、1分間当たりの風量は 0~3.8立方メートル(可変)である。

通風装置の部品はホームセンターで入手できるもので組み立てた。 水道管の配管に用いる硬質塩化ビニールパイプ、その分岐つなぎ材、 及び断熱材、断熱シート、その他の小部品を用いた。

アスマン用の水銀温度計は0.2℃目盛りであり、長時間連続観測で気温を 読みとる作業は神経が疲れるので、長尺で0.1℃目盛りの標準水銀温度計を 新規購入し、それを使用する。

標準水銀温度計の器差は0.05℃単位で記されており、それを検定した基準 温度計の器差決定の精度は0.03℃となっている。したがって、この標準水銀 温度計による観測誤差は±0.03℃以内となる。

通風温度計各パーツ
写真1 通風式水銀温度計の各パーツ
左側の上から、ブロアー、水銀温度計の保護用パイプ(硬質塩化ビニール、 取っ手に吊り紐が付いている)、水銀温度計(青色の背景)、30cmスケール。 右側の上から吸引ホース(黒)、2m延長ホース(青)、つなぎ用パイプ (この部品のみガス配管用材、黒いゴムシートを巻いて寸法が合うように した)、曲管、通風主要部の完成品。


通風筒と温度計
写真2 通風筒先端から見た内部(左)と、通風式水銀温度計一式(右)
(左)通風筒先端から見た内部、中心に水銀温度計の球部があり、それを挟む ように両側に縦の放射遮蔽板。放射遮蔽版の外側と通風筒(内径43mm)の 間は3mmの隙間がある。 (右)鉛直の筒の中に0.1℃目盛りの水銀温度計が入っている。通風筒右側の ホースはブロアーに接続している。


(1)通風部
通風筒の内側は内径43mm(肉厚2mm)の硬質塩化ビニールパイプ、 その外側に断熱シートを巻き、さらに内径56mm(肉厚2mm)の硬質 塩化ビニールパイプ、肉厚10mmの断熱パイプを重ねる。断熱材は白色 で、太陽光を若干透過するので、それを防ぐためにその上に黒いシートを巻き、 さらにその上に白色断熱シートを巻き、太陽光を反射させる。

雨水などが浸透しないように、外壁に肉厚0.2mmのポリポロピレン-シート を巻き、接着剤で固定する。仕上がりの外径は80mm、重量は400グラム である。

通風筒内壁(内径43mm、長さ230mm~290mm:上側になる部分が60mm 長い)は日射の乱反射を防ぐために黒色塗装してある。

前記ブロアーの規格にもとづけば、内径43mm内の通風速度は0~44m/s (可変用ダイヤル付き)となる。通風筒とブロアー間には長さ2mの延長 ホースを用いるので、実際の通風速度はこの値よりも小さくなると考えられる。 利用に際しては、可変用ダイヤルを中間位置にセットして運転する。この ときの通風速度は10m/s 以上と見込んでおいてよいだろう。

(2)水銀温度計保護部
内径43mm(肉厚2mm)の硬質塩化ビニールパイプに窓を開け、温度計の 目盛り(-30℃~50℃)のうちの-10℃~40℃範囲(長さ210mm)が読める ようにした。

この硬質塩化ビニールパイプの両端にはゴムのクッション(テーブルの足に 取り付ける各種の品の組み合わせ)とゴムシートを使って水銀温度計を振動 などのショックから保護する。硬質塩化ビニールパイプの下端の位置に 差し込んだゴムクッション中心には水銀温度計が通るように直径9mmの 穴を開けた。仕上がりの重量は440グラムである。

水銀温度計の全長は490mm、温度目盛り部分のガラス直径は12mm、水銀 球部の直径は6mm、長さは27mmである。これと温度目盛り部分までの間隔は 20mmあり、ガラスの直径はしだいに太くなって12mmとなる。それゆえ、 通風筒内には水銀球部とその付近のみが入ることになる。

この温度計保護部の硬質塩化ビニールパイプには直射光が当たって昇温して もよいが、温度計の目盛り部分には直射光が当たらないほうがよい。 直射光で水銀球部の温度よりも概略5℃以上も昇温すると、目盛り板と 水銀糸の熱膨張係数の違いにより生じる指示値の誤差を補正しなければ ならない。

(3)通風筒内の水銀球部付近の構造
通風筒内壁からの長波放射の影響を防ぐために、水銀温度計の球部付近は 通風速度が増すように二重通風構造とした。二重通風構造は球部を左右から 挟む形状になっており、通風筒内壁との間に3mmほどの隙間があり、この 隙間も通風がある。

全体の重量
通風部------------- 400グラム
水銀温度計保護部-------- 440グラム
延長ホース----------- 360グラム
ブロアー(5mケーブル付き)----1,800グラム
合計重量=3キログラム

要約

1.2003~05年(3年間)に北海道寿都測候所で生じた約0.2℃の気温ジャンプに ついて検討した。周辺の観測所における年平均気温との差について、この程度 の大きさのずれは1年間では時々生じているが、寿都では3年間連続していた。

新しく、2006年のデータを追加してみると、年平均気温の差は2002年以前の 元の状態に戻っている。

それぞれ5ヶ月間の暖候期と厳寒期のわけて、周辺観測所との気温差を調べ たところ、気温ジャンプはみることが出来なかった。 以上の解析から、寿都における3年間の年平均気温のジャンプは 稀に生じた偶然による可能性が高いと考えられる。

2006年9月13~14日、アスマン通風乾湿計を用いた比較観測では、ルーチン 観測値が約0.2℃高かめであった(「K25.北海道寿都 の気温ジャンプ問題」)。
これとの整合性はどうなるか?

その比較観測は、快晴の微風という悪い条件下で行ったこと、ルーチン用と アスマンの両センサー間の距離を短く出来なかったこと、放射の影響の 少ない良好な条件は僅か1シリーズであったことによる。

これを克服するために、新しく基準となる通風式温度計を製作した(下記の 3を参照)。これで比較観測を再度行ないたい。その際、ルーチン用 と基準の温度計は1m以内の近距離に設置させてもらえるようお願いしたい。

2.偶然による気温ジャンプ・ダウンなどの異常変動の解析方法として、
(1)少なくとも20~30年以上の気温時系列を用いて解析すること、
(2)20~30年以上の期間について、隣接する観測点との比較を行うこと、
(3)季節ごとに検討し、季節変化パターンの年々変動を考慮すること、
を提案する。ただし、これらの検討でも確定的な結論は出ないので、 現地における比較観測は重要性である。異常変化に気づいた場合、 2~3年以内に比較観測は行うべきだろう。

3.アスマン通風乾湿計による比較観測では、放射やその他の影響によって 誤差を生じる可能性があるので、よい気象条件(適当な風速があり、 放射の少ない曇天時)を選んで行うこと。

気温は時間的にも空間的にも変動しており、基準とする水銀温度計の 読みは1回では不十分である。1分ごと連続1時間程度の比較観測 を行う必要がある。この方法は気候変動監視を目的とする観測所に適用 するもので、一般の気象観測所(検定公差0.3℃)では、従来法で十分である。

長時間の連続比較観測に利用できる、水銀の標準温度計(最小温度目盛は 0.1℃、精度は±0.03℃)と強力なブローアーを用いた基準となる通風式 温度計を試作した。

文献と参考資料

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用ー.東京大学出版会、 pp.324.

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