Toddler Penguin's Place >> 今月の言葉 >> 2002
いままでの言葉:2002年
- 12月の言葉:「ピエロ[・ディ・コジモ]の世界が空想的なものに思えるのは、それを形成している要素が非現実のものであるからではなく、むしろその反対に、彼の解釈の真摯さそのものがわれわれの経験不可能な遠い時代を、われわれに納得させるだけの迫力をもって、想い起こさせるからである。」from エルヴィン・パノフスキー『イコノロジー研究』
- 浅野徹ほか訳. 筑摩書房, 2002.11 (上) p. 137
- こういう古典は大学生の時に読んでおかなくちゃいけないし、我田引水しちゃいかんのですが(^^;;
- アルゴナスのブックエンド欲しさにamazon.comから"The Lord of the Rings : the Fellowship of the Ring"のCollector's DVD Gift Set"を購入。10,098円だったので日本語公式ページからブックエンドだけついたエクスパンデット・エディションを買うより安い上に、National GeographicのDVDまでついています。とは言え、本編とおまけ映像の物量にへとへとでまだナショジオは見ていないんですが。でも、完全版になった本編はほんとうに良かったです。これを大画面で見たかったなぁ。
- 11月の言葉:「図書館と金をいっしょにして考えるのは好きじゃない」from リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』
- 青木日出夫訳, 早川書房, 2002.8
- 私も「委任経理金」とか「再配分」とか「謝金」とか一生知らないで過ごしたかった……。
- とはいえ、この小説の語り手も図書館を運営する財団への寄付を集めるようになるわけで。だからってヒロインのいうように(そして当人が言っているように)幸せになったとは到底みえないのが、この手の(この時代の?)小説のミソなんでしょうか。
- 10月の言葉:「どの対決も知っていたが、そのうんざりするほど知りつくしている感覚が心地よかった」by リチャード
- チャールズ・ストロス 金子浩訳「<トースト>レポート」(『SFマガジン』2002年10月号 )
- Apple vs IBM、SUN vs Intelといったシリコン・ヴァレーの闘いのパネルディスカッション。原題は"Toast : a Con report"という、ハッカー(正しい意味)はじじいになってもハッカーだという短編です。リチャードというのは記者の名前。フルネームは不明。ハッカーだから(笑)
- そういう知りつくした日々の幸せはいつかは終わるものなのだと、わかっていてもその日まで忘れているもの。仕事上ではぁという状況になっちゃったので今月はこれだけ。
- 9月の言葉:「お客さんが見慣れちゃってる顔はSFには向かない。」by 押井守
- 押井守インタビュー「現実から遠く離れて : ぼくのつくりたいSF」『SF Japan』Vol. 05(2002)
- だから東映戦隊シリーズや仮面ライダーのヒーローたちは常に新人が起用され、藤岡弘は警視総監になり、宮内洋は偉大なわけです、ってそれは違う(^^;
- このインタビュー(聞き手:堺三保)がいつ行われたか書いてないんだけど、『ロード・オブ・ザ・リング』(The Lord of the Rings : The Fellowship of the Ring)が何回も言及されていて、「羨ましい気持ち」がありありと出ています。
- なんて書くと先鋭的押井ファンからかみそりメールとか来そう。でもつくりたいSFが光瀬龍にバラードですよ。山田正紀だって『神狩り』(*1)じゃなくて『宝石泥棒』(*2)。ことごとく今の日本の映画事情じゃ無謀でしょうってものばかりなんだもの。
- 『SF Japan』は2号までで買うの止めていたんですが(高いし版型が大きくなって邪魔だし)、小中千昭の『デジモン』前日譚が載っていたので買ってしまいました。でGAINAXのインタビューに不覚にも笑ってしまいました。楽しかったよねぇ、“エヴァンゲリオン祭り”。
(*1):神とは何か?陰謀小説とみせかけて実は思弁SF。でも映像化はけっこういけると思う。高校時代の回し読みで「神は己以上の神を作れない。故に全知全能ではない」なんてセリフに(速攻で否定される詭弁だけど)痺れたものです(28年前に高校生だったって意味じゃないぞ)。美青年と美少女が登場。傑作。今秋『神狩り2 : リッパー』刊行に合わせて加筆版が出るとのこと。うーみゅ。
(*2):失われた宝石「ムーン」を求める異世界秘境探険小説と思わせといて実はすごく素直なSF。美少年と美少女が登場。大傑作。ラストシーンが最高。故に『宝石泥棒2』の印象は薄い。
- 8月の言葉:「……SFファンにはマントが型通りになびくのはつまらないんじゃないかなと思うのね。」by ひかわ玲子
- 「象徴としてのユニコーン」『季刊幻想文学』64号(2002年7月)
- ピーター・ジャクソン監督は「マントの翻し方ひとつにしても、こういう時にはマントがこういうふうに翻って欲しいんだ(笑)というのを出してくる」に続けてのお言葉です。ゆ〜こんの指輪物語の部屋でも「よくできた挿絵」という見解とともに話していらしたのでお気に入りらしい。
- そっか、だからいかにもホラー映画おたくが喜びそうなドゥク伯爵大活躍のエピソードIIはファンにいまいちなのか(ぽん)って、スターウォーズがお約束!の集積。酒場でハン・ソロ登場、は踊る小馬亭なんだけど(それをまたなぞってみせるピージャクって奴は、というのはまた別の話)。
- 映画館で見た最初の「大人の映画」(*1)が「スターウォーズ」(無印)だった人のわりには楽しめましたけどね、エピソード2。とくにドゥク伯爵の宇宙船のデザインなんか最高でした。どこかのページで見た「クリストファー・リーと戦えるのはヨーダ様だけ」(*2)、というのはほんとうでした。
(*1):これは「東映マンガ祭り」ではない、という程度の意味であり、『スターウォーズ』が大人の映画か、というのもまた別の話。ちなみに次が『スタートレック』。エイリアンの正体はSF者になりつつあった子どもには「おおっ」でした。
(*2):ガンダルフが戦っているのはサルーマンだから。自分のものだから好きにできるルーカスと、大好きな原作を映画化しているピージャクの立場の違いですね。
- 7月の言葉:
:「結局のところ勝ち目はギャップにある。」by 星野スミオ
- 「星野スミオのラヂオブロス」『TV Bros.』 vol. 16, no. 13 (2002/6/22-7/5)
- というわけで、特撮ファン騒然の『ウルトラマンコスモス』打切り。「あんな怪獣も殺せないムサシ隊員が……」です。なんか報道されていない複雑な背景(*1)があるらしいんですが、マスコミなんてそんなもの、でしょう。。
で、総集編みちゃいましたよ。コスモスのあまりに率直な御挨拶に苦笑し、1年たっても棒読みのシノブ隊員に頭を抱え、「怪獣保護とは軟弱なっ」と初回で見切ったのは失敗だったかな、なんて。
- それじゃワールドカップでもこの法則?があてはまるかっていうと、いかにもGK、いかにもゲルマンのオリバー・カーンが注目を集めたわけで。でも、決勝の後、他の選手が一人づつ声をかけにくる間はゴールポストに寄りかかってそれでも立っていたのが、とうとうずるずる座り込んでしまう、強い男の弱い姿で人気沸騰(一部女子のみ?)って面もあるから、あてはまっているかも。1969生まれだから次のドイツ大会でも見られるかな、「走れ、グズ共」。
- 自国開催で初めて物語性に気付かされたといいましょうか。1次リーグから毎日1試合、ハイライトまで見つづけてなかったら「カーンさま」はなかったし、トルコが実は強い上にけっこういい奴でイケメン集団(イルハンの髪型はほとんど少女漫画)とスポ根ライバルのお手本のようだってことも知らないままだったと思います。そもそも、サッカーの見方を知らないから、身体能力とか顔(笑)に目がいくんですけどね。ま、金髪でこキャラ(*2)にも弱いのが露呈しただけと言われればそれまでです。
- それにしても、エムレ・ベロゾグル(ベロゾール?)@トルコといいノイビル(ヌヴィル)@ドイツといい、相対的に小さくてちょこまか動く選手が気になったのはなぜだろう……はっ、黒髪で小柄な選手はみんなフロド=イライジャ・ウッドに見えている!? <だめじゃん。
(*1): 冤罪か、って話もでてきました。それでもコスモスは「打切られたウルトラマン」として特撮史に残ってしまうのでしょうね。(6/29追記)
起訴猶予で大阪府警の勇み足のような雰囲気が濃厚に。(7/3追記)
(*2): ルトガー・ハウアー、クリストファー・ランバート、ジュリアン・サンズ。仕事を選んで欲しい俳優でもあり(^^;;
更新履歴: 7/1 WorldCupネタ追記。7/2あまりにカーン様だったのでちょっと修正。7/3再修正。だから推敲しろって。
- 6月の言葉:
「だから道具立てが時代おくれだからって古い作品が必ずしも一読の価なしと見捨てられまい。いいものはいつまで経ったっていいにきまっている。」佐藤春夫「探偵小説小論」
- 日下三蔵編『佐藤春夫集 : 夢を築く人々』(筑摩書房, 2002.5) (怪奇探偵小説名作選 ; 4)
- 『怪奇探偵小説傑作選』の好評を受けて始まった『怪奇探偵小説名作選』、いつのまにか「第1期」になってる……調子に乗ってるな、編集者。でもホラーよりは怪奇、推理小説より探偵小説の人にとっては嬉しいことです。「西班牙犬の家」を初めて読んだのは小学生の時。おそろしく鮮明なイメージとともに佐藤春夫の名前を記憶し、でも他の作品は読む機会もなく幾星霜(笑)これはSFだ!「のんしゃらん記録」幻想都市小説「美しい町」。どんな悲惨な話でも全編にただよう多倖感はなんなんだろう。
- 5月の言葉:
「ある種の人々――おそらくはとりわけ英国の人々――は、少年少女向けのがらくたに対して息の長い興味を有しているものなのだ。」by エドマンド・ウィルソン
- 「ああ、あの恐ろしいオークたちよ!」 高橋くみこ訳,『ユリイカ』2002年4月臨時増刊号「総特集『指輪物語』の世界」
- ウィルソン先生、日本人もで〜す。だからといってイギリス人と日本人が似ているということには絶対ならないけどね。
- これは最初期の指輪批判としてつねに槍玉にあげられるエッセイ。子ども向け(とされる文学形式)で何が悪い、という人に対して「やーい、ガキ」と言ってるようなものなんで。ところで、ウィルソン先生がほめているジェイムズ・ブランチ・キャベルってどんな話なんだろう。
- 『ユリイカ』は生誕百年の1992年7月号で「濃い」トールキン特集を組んでいて、こちらではJ・R・R・トールキン研究会「白の乗手」の方が執筆していたり、トールキンと『指輪物語』を色々な面から扱っていて読みごたえたっぷり。ちなみに鶴岡真弓はC.S.ルイスにトールキン追悼文を書かせています(それは無理、っていうか編集者は何やってる、ですね)。
- 重箱の隅をもうひとつ。『鳩よ!』No. 216の巻頭折り込み「お山とホビット村」の絵。この表紙の文庫本(旧版)を学校の図書館に寄贈してしまった身には嬉しいものでした。ただし、解説で「お誕生祝いの木」を「栗の木」としていますが、原典にはどこにも樹種は書いていないと思います。井辻朱美さん、マローン樹と混同されたのでしょうか?それにしても栗ではないし……。
- 4月の言葉:
「……つまり、本に狂うということは、だれにでも簡単に実践できる“日常の狂気(エブリディ・マドネス)”なのだ。」by 荒俣宏
- 『本読みまぼろし堂目録』pp. 69-70 (工作舎, 1994)
- 美本に対する愛書狂にはなれない気がするのだけれど(自分の心理なんて信用できないので保留して置く)、『指輪物語』だけは。はい、狂乱は続いています。
- しかしそれも中身に対してであって、もしかすると『華氏451度』のように赤表紙本になって生きたいのかもしれない。できれば某国秘密倉庫には集納されているという“完全な”赤表紙本のワンセットに。
- 3月の言葉:
「魔法の指輪というものは―――さよう、魔力がある。」by ガンダルフ
- J.R.R.トールキン ; 瀬田貞二、田中明子訳『指輪物語 ; 1. 旅の仲間』(評論社, 1992)
- 先行上映を見てから、半分くらい中つ国に住んでる状態が続いています。ピーター・ジャクソン、あんたは偉い。おたくの鏡だ。
- 関連書籍等々への散財も続き、調子にのってアマゾンにリストを作る始末。あと2回は見て、贈り物のシーンがあるっていうDVD早くでないかなぁ。
- 私、原理主義者ですから訳が古いなんていう奴は読まんでよろしいとか思っちゃう。LOTRはガキのものじゃないんだよ、って最初に読んだのは12歳の時だから充分、ガキでしたが。ていうか、そのくらいに出会わないとだめなものって世の中にたくさんある筈。そう、本なんか読まない人生という運命|選択だってね。
- (2002/3/7 追記)ちなみに、原作未読の人は絶対に吹き替え版(日本語版)で見てください。誤訳を云々する能力も気持ちもありませんが、こういう目からも耳からも情報を浴びせかけられる映画を字幕で理解しようというは無理です。
#でもほんとに決定的な(観客の理解がまったく変わってしまうような)誤訳がいっぱいあるらしい。いくら英語の聞き取れない私でも最後の「友情があるだろう」は変だと思ったし。それに“レンジャーの韋駄天”は許せないし(“野伏の馳夫”でいいじゃない、字数はずっと少ないし)、『ロード・オブ・ザ・リング』という変な邦題を考えたのも、The Fellowship of the Ringに字幕を入れなかったのも戸田奈津子だとしたら、ほんとに「逝ってよし」だ。<私は2ちゃんねらーではないが……。
##ついでに書いてしまうと「日本では興行成績振るわず」になったら、最大の戦犯は「大長編の第1部ですよ」と宣伝しなかった配給会社に決定でしょう。呆然としている観客、けっこういました。で、今年アカデミー賞をとったら(まずとれないと思いますが)、絶対に「もうアカデミーは信用しない」とか「裏工作だ」とかいう無知蒙昧な輩が出現する、と予言しちゃおう。
- 2月の言葉:
「こうした古墳の存在から漠然と考えられていた超自然的なものの存在に対する感情や、そこがかつてどんな場所だったのかといったことなどを、多くの人々にはっきりと再認識させたのは、J.R.R.トールキンだった。」
- シャックリー ; 鈴木公雄訳『石の文化史』(岩波書店, 1982.3)
- この後、「旅の仲間」の塚人のくだりが紹介されます。3月映画第一部公開記念(^^)v
でも、なんで邦題『ロード・オブ・ザ・リング』(単数)なんでしょう。格闘技との混同を恐れた?
- "Impact Factor"(インパクとは略さない)という、「ある論文が何回他の論文に引用されたか?」を測る数値があります。この価が高い論文は、みんなの役に立つ立派な研究であると解釈されるわけです(とても乱暴な説明)。『指輪物語』インパクトファクターは測りしれないものがある、というのはファンの欲目じゃないと思います。
- ちなみに、この本の訳注がまた「J.R.R.トールキン オックスフォード大学教授として中世イギリス文学を研究するかたわら、三部作からなるファンタジー「指輪物語」(The Lord of the Rings)を著わし、欧米の読者を熱狂させ、とくにアメリカにおいては指輪物語の愛好会が多数生まれた」というつぼを心得たもので、初めて読んだ高校生の時にやりとしたのを覚えています。原典にも翻訳書にも容易にたどりつけるものでなきゃ註の意味はないのです。>原書房版『ホビット』の訳者。
- 1月の言葉:
「「できなかった」という言葉は、一括変換で「今後の課題とする」と書き直すのが普通である」
- 山内志朗『ぎりぎり合格への論文マニュアル』(平凡社 , 2001.11.)
- 遅ればせながら読みました。大笑い。これで合格論文が書けるかは疑問だけど。とりあえず、この「書き換え文例」はもう禁じ手になったということで、かなりの学生が不幸になったんじゃないでしょうか。
- こうして課題が累積していってもリセットという手がまだ残されていると、信じて生きていくしかないわけで。
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