第5回 演奏場所の話




 今月はマンドリンにこだわらず、演奏場所の話をいたします。
私は主にポルトガルギターの湯淺隆とのデュオ「マリオネット」として各地で演奏していますが、今まで実に様々な場所で弾いてきました。通常の音楽ホール以外には、美術館、ギャラリー、公民館、教会、お寺、神社、学校、幼稚園、体育館、病院、飲食店、酒蔵、能舞台、野外ステージ、個人の家、ホテルや結婚式場の宴会場、船の上など実に様々です。
 撥弦楽器のデュオなので、比較的身軽にどこでも演奏できるわけです。それでもやはり気持ちの良い場所とそうでない場所はあります。お客さんの立場で言えば、「素敵な場所だな」と思えるような、何かしら雰囲気のある場所が望ましいと言えますが、奏者にとってもそれは同じことです。もちろん、(PAの有無を問わず)音が良くて弾きやすいことが第一です。

 良い場所で気持ち良く演奏できたことは印象に残るものです。98年リスボン万博でのステージは最も気持ち良かったものの一つです。空気が乾燥していて、楽器自体が気持ちよいくらい良く鳴ってくれました。野外ステージだったのですが、川からの爽やかな夏の夜風を受けて、非常に気持ちの良いひとときでした。
 反対にひどい目や辛い目にあったことも少なくありません。悪条件が予測できる場合は対処のしようがありますが、なかなか難しいこともあります。以前弾いたときは良く響いていたギャラリーが、染物の展示のため布だらけで全然響かなかったこともあります。
 一番ひどかった経験は、2日続けて違う場所で催されたイベントで、1日目がお寺の野外ステージなのに土砂降りの雨で、屋根代わりに張ったビニールシートから雨水が滝のように流れる中、楽器を気遣いながら演奏しました。翌日は打って変って炎天下の住宅展示場の野外ステージ。あんまり暑いので用意していた衣装をやめてTシャツ1枚で演奏。弾いていない時は楽器にできるだけ日が当たらないようにしましたが、何せストレスのたまった二日間でした。
 また、テレビの仕事も荒っぽいもので、視覚優先ですから仕方ありませんが、船の甲板で弾かされた時は調弦がどんどん狂い大変でした。しかし、後で放映を見るとさほど気にならず驚いた覚えがあります。また、ある時、某テレビ局から出演依頼があったのですが「雪の降りしきる中で」という指定だったので、いろいろ考えた末、断りました。画像としてのイメージはわかりますが、最初からわかっていてそんな過酷な状況に身を晒す勇気はありません。



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