第4回 ピックについて




 最もよく尋ねられることの一つに、「どんなピックを使ってるんですか?」という質問があります。マンドリンを弾いている人なら、他人がどんなピックを使っているか多少なりとも気になるものです。
 本来プレイヤーなら、むしろ「どう」使うかということを問題にすべきだと思いますが、「どんなピックを使うか」によって音が変わるのは事実であり、極めて小額の投資で自分の演奏が改善されるかもしれないという甘い期待を抱かせてくれる点で、多くの人が興味津々になるのは当然のことだと思います。
 とはいえ、使っている楽器の個性やそれぞれの奏者の弾き方などによって条件が変わるので、ピックだけを取り上げて議論することには限界があります。同じピックを使っても必ずしも同じようにならないのが面白いところです。
 結局は自分でいろいろ試してみるしかありません。

 マンドリンのピックといえば、細長いハート型をしたべっこう製のものが専用として広く流通しています。べっこうは適度に堅く、粘りもあり、ピックとして最高の素材の一つです。若干雑音が多く磨耗しやすいのが欠点ですが、華やかで深みのある音が出ます。
 べっこう以外の主な素材は、セルロイド、ナイロン(ポリアセタール、デルリンも同じ)などです。セルロイドは磨耗しやすく割れることもありますが、明るく華やかな音がする古典的素材です。ナイロン系は雑音が少なく、弦との当たりも滑らかですが、セルロイドと比べ、音に華やかさが乏しいようです。
 素材はそれぞれ一長一短ですが、形や厚みによっても個性は大きく左右されます。多くの教則本では、先の少し丸みを帯びた小さめのもの、薄すぎず重みのあるものを良いとしています。
 マンドリンのピックとして売られているものは数多いとは言えませんが、ギターのピックは多種多様で、普通の楽器屋に行けば様々なピックが売られているのでいろいろ試してみても良いと思います。そのままマンドリン用に使えるものも少なくありませんが、爪切りで切ってサンドペーパーで整えれば自分の好きな形にできます。

 自分の手に合った上で、次のような条件を満たせば、間違いなく良いピックだといえます。
 「機敏に反応し、音色やニュアンスに変化をつけやすいもの。無理なくスムーズに演奏できるもの。安定していて雑音の少ないもの。」
 先の尖った薄めのピックで弾くと澄んだ美しい音がしますが、深みのある力強い音を得るのは困難です。一方、分厚くて先の丸いピックは深く力強い音がしますが、軽やかに転がるようなトレモロを弾くには不向きです。一般にはこれらの中間的なところで選択します。
 また、瞬発力を求めるときは少し薄めの固め、ふくよかな音を求めるときは厚めの柔らかめ、張りの弱い楽器には薄めのピックといった感じで使い分けることもあります。ピックの肩の部分で弾くことも可能です。
 新品より、先が少し減って丸みを帯びてきたものが、音色に変化をつけやすくベストです。先に丸みのあるピックはまっすぐ使うと素直な音色ですが、斜めに当てて弾くとくすんだような音色になります。柔軟な力で弾くのと、固く持って叩くように弾くのでも音は変わります。スル・タストなど弾く位置による音色変化と組み合わせればさらに面白い効果が出ます。
 ピッキングに関して語るべきことは多いのですが、良い音を出すために最も大事なことは「弦を弾くときに表面板に向けて力が加わるようにする」ということです。弦楽器は構造上、そう弾いたときに最も良く鳴るというのが事実です。



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