ユーラシアン狂詩曲/録音日記

1998年

5月6日(水) 曇り

 録音初日。午後0時半にスタジオ入り。今回は初めての大阪での録音。市内中央区の某スタジオを使用。初日のため、楽器や器材関係など持ち込みが多くある。
 午後1時、東京から、ディレクターの原澤氏とエンジニアの佐藤氏が到着。早速、ブースや器材のセッティングを開始。スタジオは結構ローテック。とりあえずこのスタジオでは録音だけを行ない、トラックダウンは別のスタジオを使う予定。我々は2月にリスボンの青い空(NHK土曜元気市テーマ曲/今回のCDにも収録予定)の録音でこのスタジオを使ったが、佐藤氏はもちろん初めて。持ち込み器材も多く、一からのセッティングで時間がかかる。
 午後3時、いよいよ録音開始。「プール帰りの午後」から。約50分かけて3テイク目でOK。順調なスタート。
 午後4時、2曲目、新曲をレコーディング(曲目は後日のお楽しみに)。5時10分ころ、完成。終了後、原澤氏持参のエレアコのベースをテストするも、DIの不調で音が出ず、とりあえず使うことをあきらめる。
 午後5時50分、3曲目、「裸の王様」。この曲は人形劇団プークの現代版イソップ物語/約束のエンディングテーマで使用した曲。今回は新たにレコーディングをやり直す。録音は多少手間取るも、7時40分頃終了。1日目は3曲を録り終え、まずまずのスタート。
 この後スタッフで、今後の録音の無事を祈って一杯。2日目以降が楽しみである。

5月7日(木) 曇り

 録音2日目。
 今日から集合は午後0時。セッティングの後、0時半、録音開始。まずは「ファドの夜」から。独特の揺れと乗りの曲のため、多少手間取る。特に、オーバーダビングのベースを重ねる際に奏法と音質の決定で時間を要する。検討の結果、事前に用意していたものとは違うやり方を採用。3時10分頃完了。
 20分休憩。その間に甘いものを買い出し。
 3時半、マンドリンの曲へとセッティング替え。使用するマンドリンとマイクの選定のためのテスト後、4時過ぎから「虹色の空へ」開始。この曲は92年公開のアニメーション映画「パッチンして!おばあちゃん」のクライマックスシーンに使われた後、あまりライブでも演奏していないが、ようやくCD収録となった。マンドリンとギターの部分は比較的すぐにOKとなる。オーバーダビングのマンドリュートを重ねるも、弦が新しいため、ノイジーな音となり、この部分だけ後日とることにする。
 5時、「蘇州夜曲」を録音。ファド以外では初めてのカバー曲。ゆったりした曲は、録音に際してかなり神経を使う。予想通りというか、かなりの苦戦を強いられる。気持ちよく聴けるノリを決定できないのだ。録音に苦戦している最中、5時半頃、今回のCDのジャケット等のデザインを頼んでいるT氏とF氏が陣中見舞いに訪れる。2人は、実はマリオネットと高校時代の同級生。今回は8月のコンサートのチラシなどと併せて、同級生チームとして無理をお願いしている。今日はディレクターの原澤氏との顔合わせのため、多忙の2人を呼び出しての引き合わせである。2人が来た後もなかなかうまく行かない。オーバーダビングのベースも苦労して、7時過ぎにようやく完成。ただ、何か音を重ねたほうが良いかという意見もあり、保留の部分も残しての終わりである。とりあえず、2日目も一応はノルマは達成ということで、ここまでで終了となる。
 この後、全員の顔合わせも兼ねて、ミナミのすずなり堂にて打ち上げ。明日は、今回の録音の最初の難関が待っている。

5月8日(金) 曇り時々晴れ又は雨

 録音3日目。
 今日は、ベースの岩田晶さんとパーカッションの山村誠一さんが助っ人。まずはマリオネットだけで「海/イントロダクション」を録る。これは「海」のライブバージョンのイントロ部分だけ。後でパーカッションを重ねる予定。3テイク録って良いものを採用。
 午後1時、続けて岩田さんが入って「夢は黒潮に乗って」を録音。ゆったりした雰囲気を作るまでに時間を要する。
 3時、セッティングを代え、山村さんも入って「ラティーナの誘惑」。この曲、96年秋の一心寺シアターでの公演「ネオ・マンドリニズム宣言」で初公開して以来、なぜかお蔵入りになっていた曲である。パーカッションが入って、俄然ラテンのノリが出てきた。何度かのテストでの検討の結果、吉田のマンドリンは仮録音で、先にそれ以外のベーシックを先に録ることにする。結局5時までかかってベーシックが完成。ここで岩田さんは本日終了。お疲れさま。ここからは山村さんにがんばってもらわなければならない。オーバーダビングで更に別のパーカッションを加える作業である。結局さらに2つの音を重ねて6時半に終了。
 続いて、「夢は黒潮に乗って」のパーカッション入れ。おおむね順調にいき、7時20分ころ終了。
 しばし休憩の後、「海/イントロダクション」にパーカッションを重ねる作業。8時50分ころ終了。
 最後に、前日録音した「蘇州夜曲」のイントロにパーカッションを重ねる作業をして、9時20分終了。長時間の録音作業、お疲れ様です。
 ディレクターの原澤氏は明日帰京。慰労も兼ねて、焼き肉で遅い夕食と一杯。

5月9日 (土) 晴れ

 録音に入ってから初めての快晴。
 家を出る直前に原澤氏からTEL。原澤氏は今日帰京。後は我々と佐藤氏に全て任される。責任重大。
 0時にスタジオ入りして20分から録音開始。まずは前日ベーシックが完成している「ラティーナの誘惑」のマンドリン部分のオーバーダビングから。1時終了。改めて聞き直して、ずいぶんカッコ良く仕上った。
 続いて「遠い海の記憶」。この曲も独特の揺れのある曲のため、まずはギターとベースのベーシックを作る作業から入る。ベースは、吉田が演奏する場合は大型のアコースティックベースを使っているのだが、この曲にはどうも音色が合っていないような感じ。ここで原澤さんが東京から持参したエレアコのベースを使ってみる。この楽器は、実は前日までも散々テストしたのだが、どうもラインのジャックが不調で、うまくいかなかった。ここでは使い方を変えて再トライである。2時40分、ベーシック完了。ここで吉田持参のフラットマンドリン(ギブソンのオールド)をテストするも曲に音色が合っていないため、使うことをあきらめる。というわけで、普段通りジェラのマンドリンを使用してメロディーを乗せる作業。普段のライブとは異なった録り方のため、表現を変える必要があり、時間を要する。
 4時、「リリー・マルレーン」。これもファド以外のカバー曲。今回のアルバムには、実はファドのカバー曲を入れる予定がない。マリオネットにとってはちょっとした冒険である。とりあえず今日はギターとベースだけでベーシックトラックの作成。ベーシック終了後、マンドリンのメロディー部分だけオーバーダビング。ポルトガルギターは明日以降に録ることにする。6時半終了。
 早めに終わったので、明日使用するドラムのセットと、今まで録音したテープのコピーを取る作業。湯浅、吉田は早めにお疲れさんで引き上げ。海井と佐藤で、テープコピー終了後、一杯やって引き上げ。

5月10日(日) 曇り時々雨

 日曜日のオフィス街は閑散としている。スタジオに入っても、何か普段とは違う感じだ。録音はここまではかなり順調にスケジュールを消化。予定より早く終わりそうだ。
 今日はベースの岩田さんとドラムの竹田達彦さんが1曲だけの助っ人である。曲目は「夜気に触れる時」。ちょっとジャージーな仕上りを目指している。「ラティーナの誘惑」同様、マンドリンの音は仮録音で、それ以外のベーシックを録音する作業から。回線にノイズが乗ってしまい、対策を講じるのに手間取る。1時半録音開始。2テイクで問題なくベーシックは終了。続けてマンドリンの本録音。3時45分、終了。
 続いて、「リリー・マルレーン」にポルトガルギターをオーバーダビングする作業。ところが、やっているうちにアレンジの問題で議論となり、ベーシック以外はすべてやり直すことにする。結果、湯淺・吉田共に表現に手間取り、7時までかかって終了。

5月11日(月) 雨

 今日はまず「リスボンの青い空」の録音準備から始める。この曲はご存知の通りNHKテレビ「土曜元気市」のテーマ曲で使われている。当然すでに録音されているのだが、今回はポルトガルギターとマンドリュートを録音し直す予定なのである。前回のテイクはそのまま残しておきたいので、新たにトラックを確保する作業である。
 終了後、新曲「ユーラシアン狂詩曲」の録音に入る。最近のライブにお越しの方は、ひょっとしてお聴きいただいているかもしれない。これはアルバムタイトルの候補でもある。メインのポルトガルギターとマンドリュートはノリも良く、2時15頃、無事終了。続いてベースのオーバーダビング。3時40分終了。
 次にこれも新曲の「こほろぎ」の録音に入る。今回の録音曲の中で、最も難航が予想される。湯淺がんばって、7時半、無事終了。この日は最も気がかりであった2曲が無事に終わって、最大の山場を越えた。録音日程も当初予定より1日早まり、明日には終われそうである。

5月12日(火) 曇り時々雨

 今日は、まずは「リスボンの青い空」から。昨日用意したテープを使ってポルトガルギターとマンドリュートのオーバーダビング作業である。おおむね順調にいき、2時終了。
 続いて、「夢は黒潮に乗って」を一部やり直す。
 3時、残っていた「虹色の空へ」のマンドリュートのオーバーダビング作業。
 4時、今回予定していた最後の曲(予備として予定)「奇妙な城」の録音。検討の結果、ライブバージョンよりサイズを短縮して録音することにする。やや苦労するも、6時終了。これで、ようやくすべての録音作業が終了した。
 持ち込んだ機材等の片づけと撤去の作業。明日は休みを取って、明後日から神戸のスタジオに場所を移して、トラックダウンの作業に入る。

5月14日(木) 晴れ時々曇り

 昨日1日を休息にあて、いよいよ今日からトラックダウンの作業だ。トラックダウンとは何かについては『「ぽるとがる幻想」録音日記』をご覧いただければと思うが、かなり神経質で時間のかかる作業である。
 今日からは神戸のスタジオ、佐藤さんはすでに昨日のうちに三宮のホテルに移っている。
 ちょっとゆっくりめで、午後1時半集合。音の基準を決定するのに多少時間を要して、3時、1曲目の「プール帰りの午後」から。この後、「いちめんの菜の花」「裸の王様」「ファドの夜」「ユーラシアン狂詩曲」と5曲トラックダウン。8時終了。
 神戸初日を祝って(?)、三宮で食事をということになり、店を物色。「愛園」という上海料理店に入る。安くて美味しく、全員この店は当たりと満足する。

5月15日(金) 晴れ

  トラックダウン2日目。今日からは1時集合。
 まず「こほろぎ」から。今回のメイン曲の一つでもあり、慎重に細部を決定。この後、「奇妙な城」を落とす。昨日よりはややペースが遅い目だ。
 3時、少々休憩を取って、お菓子などを買い出し。
 3時半、作業再開。「夢は黒潮に乗って」「リスボンの青い空」と続く。楽器の多い曲はやはりバランスを取るのが大変である。曲のどの部分でどの楽器をどう聴かせたいかということを細かくつめなければならない。
 8時20分、ようやく終了。

5月16日(土) 雨

 昨晩から佐藤さんが風邪をひいたようで調子が悪い。夕べはどうも熱があったようで、今朝も多少ボーッとしているとのこと。ここまで相当緊張と集中力の持続が必要であった。そういう意味で、全員疲れは相当溜まっているはずである。あと2日、何とか乗り切りたい。
 今日からマンドリンの曲のトラックダウンに入る。まずは「夜気に触れるとき」から。かなりハイペースに、順調に落ちて行く。「ラティーナの誘惑」「遠い海の記憶」「リリー・マルレーン」「虹色の空へ」「蘇州夜曲」と一気に終わってしまった。
 6時、最後に残った「海/イントロダクション」をどうするか議論。曲順を考えていて、CDからカットしたほうが良いかという意見もあり悩むが、とりあえず落とすことにする。
 7時半、これで全ての作業が終了した。もう1日の予定であったが、トラックダウンも予定より1日早く終了した。総じて今回の録音は順調であった。この後はジャケットやブックレットのことでいろいろと悩まなければならないが、何はともあれ、秋の発売が楽しみである。終了後、打ち上げで再び「愛園」へ。いい酒であった。