その参(日色ともゑの巻/朗読)

湯淺隆

 9月2日、劇団民藝「明石原人」主演にて日色ともゑさん、来阪。前日1日「ルル」あたりに来ていないかと待ち受ける。予想的中で、夕食に来られる。この時点で「ALGO」への参加協力依頼は、アイデアが固まらず未だ言えず。むしろ、3日が新井さんのライブ故、ご両人の「ルル」鉢合わせなどはないかと、捕らぬタヌキのファン心理である。

 それにしても「明石原人」はみごとな出来だった。日頃、日色さんとは個人的なイベントでお付き合いさせて頂いているが、民藝の俳優のトップとして主役をはり、本領の舞台で至芸に輝くとき、我が頼みごとの瑣末さに気後れは隠せない。

 さて、その後いくつか曲が出来始め、日色さんの朗読が「ALGO」にはなくてはならぬ響きとして、日毎強く聴こえてきた。私情において、機は熟した哉やとは不遜な合点ながら、意を決し電話をする。やはり、ふたつ返事で承諾。「新井さんとの共演にもなるのね、断るわけはないでしょ」と。超多忙の日程の合間をぬって、神戸での本番楽屋入り前の数時間を割いてもらい、短文を二編録音。美しい日本語の響きは、優しく品良く、しかし力強く心の芯に降りてゆく。

 さて、特上別格の朗読は録音できた。あとは、中身だ。


朗読テクスト1

絢爛たる孤独 SAUDADE/サウダーデ

大地から湧き上がったのではない 
空から降りて来たのでもない 
海から生まれたのでもなく 
まして 風が運んだのでもない 
あらゆる事象を凍らせて 
万有引力にも逆らい 
はじめて触れるのに懐かしく 
すでに知っていたような
「しみじみとした、この世のものでない休息」
SAUDADE(サウダーデ)よ 
宇宙に吊るされた絢爛たる孤独よ 
破裂寸前の銀河のように 
危険で美しい

〜「 」は梶井基次郎「愛撫」より〜



朗読テクスト2

FADO/アマリア・ロドリゲスに捧げる

果たせぬ思いはその港で立ち止まり
嘆きは天に向かって歌われた
やがて思いは大地に深く宿る霊となり
しかしその深さとはまた祈りの高さでもあり
まさにそのまなざしは神にふれている
声なき声に導かれて
運命(さだめ)を歩んできた者だけが
歌うことを許される
その時彼女は彼女ではなく
祈り歌う魂となり
哀しいよろこびのようなその祝福は
神の瞳をも濡らすであろう
果たせぬ思いはその港で立ち止まり
嘆きは天に向かって歌われた


その四(阿木燿子の巻/詩)