98.09.12
Tシャツの文字
今回は今朝の「朝日新聞」の記事からのいただきなので、何の工夫もありません。リビングルームの新聞を見てくださったほうが早い。
国際面に、香港で日本語のTシャツ(日文T恤)を着た若者があふれているという報告が載っていました。
「ムダ毛撃退法」「専属モデル募集中」「おかげさまで十周年」「キッチン道具選手権」「好きです 北海の味」といった日本語をあしらったTシャツが九竜・旺角の女人街で売られていて、記者も「人生は何ガさガしますか?」と書いたシャツを勧められたそうです。「キーホルダー」とプリントされたシャツを着た女子高生は「文字の意味はわからないけれど、そこが英語よりも格好いい」と言ったそうな。
いろいろ見方はあるでしょうが、僕は記事を読んで素朴にうれしかったですね。日本語が好まれるということは、日本文化が好感をもって迎えられている一番の証拠だろう。建物や風景など、その国の文化を代表するものはいろいろあるけれど、そこに暮らす人々の精神のもっとも深い部分を表現するものはことばだと思う。
もっとも、「人生は何ガさガしますか?」ではあんまりだから、ひとつここはだれか日本人が安く文案を考えてあげたらどうでしょうか。
これで思い出すのは、マーク・ピーターセン氏が、『日本人の英語』(岩波新書)のなかで指摘していたことです。
明治大学の学生が「University of Meiji Tennis Club」と書いたクラブ・ジャンパーを着ていたのを著者は見た。そして、正確な名称はMeiji Universityのはずだ、これでは「明治の大学」になってしまう、または、気持ちの上ではむしろ「明治な大学」などというような、わけの分からぬ気味の悪いニュアンスがある、と論じています(p.82以下)。
なるほど、これは恥ずかしいなあ、と反省したことでした。ところが、先のように香港で不思議な日本語Tシャツが人気を呼んでいることを教えられると、自分たちだけではなかった、という妙な安心感も湧いてきます。
洋服に不適当な英文があふれているということは、投書欄でもよく目にするところです。「朝日新聞」の声欄でも、「青年の胸にデカデカと「SEX INSTRUCTOR」」(1989.08.31)、「Tシャツの胸に、ピンクのハート模様、その上に黒の横文字で“Are you interested in this part?”」(1989.10.07)、女の子のセーターに「男の人が女の子の頭に短銃を突きつけている絵と「BITCH」の単語」(1996.06.27)、あるいは、英文で「あばずれ」(これも「BITCH」か)と大書されたTシャツを娘から取り上げたという話(1996.07.02)。
これは日本人の恥でもあるかもしれないけれど、同時に英語文化圏の人の恥でもあるわけです。願わくは、香港に日本語の野卑なことばが輸出されて、Tシャツにプリントされてないことを。
▼関連文章=「烏龍茶の惹句」
|