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書 名:星からの帰還 著 者:スタニスワフ・レム 訳 者:吉上 昭三 発行所:早川書房 ハヤカワ文庫 SF 定 価:500 円(税込) 1977年6月15日 発行 1986年2月28日 7刷 ISBN4-15-010244-9 C0197 P500E |
映画「惑星ソラリス」の原作「ソラリスの陽のもとに」の
著者スタニスワフ・レムだ。
いいという噂を聞いてしばらく本屋で探してみたが、
「ソラリス…」以外の本はほとんど見かけない。
手に入りにくい本ということらしい。
これは SF 好きの友人が持っていたものを借りた。(Thanks to K.S.)
レムの素晴らしいところは、卓越した想像力。未来の未来まで見通す、 その的確な洞察力にはマイッタ。この作品にしたって 1961 年の作品だよ。 TVがやっとできたかどうかという時代に、こんなことまで 想像してたなんて、いやはや…
舞台は未来、有人宇宙探査が行われた 10 年後。探査機にとっては 10 年であったが、帰還すると、地球では 127 年の年月が流れていた (亜光速飛行のせいだ)。 つまり浦島太郎状態となった彼らが、そこで直面した世界とは…
● 未来の技術
地球の宇宙空港に着くと、とにかくわけわけらない世界になっている。
自動的に盛り上がるふわふわの椅子やテーブル、空間に直接浮かび上がる
「火文字」ディスプレイ、何層にも重なり構造の全くわからない建築物、
加速度を全く感じさせず自動操縦で走る高速の交通手段、サービスする
各種のロボット。舞台に入り込むことができる立体の劇場。…などなど。
● 未来の社会
争いは*全く*なく穏やかで、事故もなく、安全で平和な社会。
通常のサービスは無償で手に入れることができる。
レクリェーション設備も良く整備され安価に利用できる。
野生動物はすべて絶滅した。
● 未来の人間
貧弱な体型に穏やかな心。皆若々しく寿命も長い。
人間間に争いを無くしたものは、出生直後に行われる「ベトリゼーション」
というある種の義務的医療処置によるものであった。人間の攻撃本能を
コントロールする技術は高度に発達しており、他人を傷つけることに
対して大きな嫌悪感を抱くように感情が操作されている。
しかしその代償として、人間は「挑戦」や「競争」の精神を
無くしてしまった。もう誰も宇宙探査に飛び立たない。
作品中に描かれるこれらのことは、そのまま(1999 年の)現代社会にも 共通する問題が多い、と感じる。 主人公の苦悩は僕らの苦悩でもある。 人間の本質的な矛盾を突いているのだろう。
科学技術は発展して、人間の性質そのものに対しても操作を 加えるようになるだろうということ。 人間の性質そのものを変える仮想の医療処置「ベトリゼーション」は 「遺伝子操作」にそっくりだ。
平和がなによりも重視され、その代わりに冒険とか挑戦とか競争が 無くなるだろうということ。 それは(現代からみれば)とてもとても退屈な世界だろう。
百年先の未来は予想もつかない ということ。 技術革新はもちろん、そこでは人間の感情や社会規範さえもが 変わってしまっていて、そこにいても決して馴染むことはできないだろう ということ。
宇宙での人間のような 知的生命体との遭遇確率は ほとんど無いだろう ということ。
T.Minewaki / minew@post.email.ne.jp