◆ A.I. Artificial Intelligence ◆

製作:アンブリン / スタンリー・キューブリック
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジュード・ロウ、 ウィリアム・ハート
2001/06/30 公開作品

(* 内容についての記述があるので、映画を観てから読むことを勧めます。)
かなり前から映画館でちびちびと予告編が流れていたので、 興味をくすぐられて観たい気持ちになっていた。 人間に近い少年ロボット、デビッドの物語。 ここ数年のロボットブームにマッチして、話題性も高い。
スタンリー・キューブリックが長年暖めていた企画を スピルバーグが引き継いで実現した、という背景については直前に知った。 キューブリックなら、一筋縄ではない内容だろうということが予想できるが、 それに対してスピルバーグはストーリーを感動モノに仕上げてしまいそうな 予感がした。

結論を言うと、70 点くらいか。
少年ロボット・デビッドが主人公であるが、「ロボットは人間とは違う」 ということをエピソードとして積み上げていくストーリーのせいで、 デビッドに感情移入がしにくい。 デビッドの思考回路は単純で頑固で、人間の柔軟な思考にははるかに及ばない。
ラストでは急展開しスピルバーグ味のファンタジーが涙を誘い、 盛り上げようとはするのだが、全体としては感動に至らないストーリーである。 予想されたことではあるので、まぁそれはそれでいい。
それよりは、ロボットが作られ社会に入り込んで行く未来について、 深刻な課題が沢山予見されており、そのへんを考えさせるという点で 重要な映画であると思う。

愛をプログラムするとは?
この少年ロボットは「愛」をプログラムされた初の製品、という設定だが、 愛とはいったいどういうプログラムなのか? 人間にさえ答えにくいそれは、 どのようにデビッドに実装されていたのか考えてみる。
まず、ここで言う愛は、親子の愛である。デビッドが派遣された家庭での、 母親モニカに対する子供の愛であって、男女間の愛のことではない。
デビッドに向かって、ある呪文を唱えることで、彼女は愛の対象として 「刷り込まれる」。

 [program 1] 対象者(母親モニカ)を完全に信用する。
 [program 2] 対象者を喜ばせ、悲しませないことを目的とする。
 [program 3] 対象者からケアされることを欲する。
 [program 4] 対象者のそばにいることを欲する。

こんな感じだろうか。人間の親心を満足させる、親心の裏返しの行動である。
しかし、冷凍睡眠から目覚めた本物の子供マーティンが現れると、 デビッドの立場はあっという間に不安定になる。 子供間での母親の愛情の取り合い、そして意地悪、嘘。 当然のことながら、実の子供の方が優先される。 モニカに捨てられるに至って、デビッドは全く混乱してしまう。 そういう状況に対応するようにはたぶん作られていないのだろう。 モニカのそばにいて可愛がられたいのに、そばに居てはいけないというのだ。 前記プログラム [1] [2] と [3] [4] の間で矛盾が生じる。 激しい葛藤。 そして、時間が経ってもそれは解消されないまま続く。 人間と違って、時間が経てば次第に感情が薄れるということがなく、 何千年も彼女を求めつづける。

ロボット製作の動機。
ウィリアム・ハート演じるロボット会社の製作者は、 彼の亡くなった子供に似せて デビッドを作った。 これは天馬博士が事故死した彼の息子・飛雄(トビオ)に似せて 鉄腕アトムを作ったのに似ている。 失った大切なものの代わりになる何か。 人間に何か思い切ったものを作らせる強い動機というものは、 いつもそういう類いのものだろう。

ロボットの安全性。
SF の歴史上とても有名な、 アシモフの「ロボット三原則」 というものがあって、 ロボットは人間を傷つけてはならないことになっているが、 ロボットの意図ではないにしろ事故的にロボットが 人間を危険にさらしてしまうことがある、ということが示される。 プールでデビッドは自分の身の危険を感じパニックに陥り、 マーティンを殺しかける。 それが原因で、モニカはデビッドを手放す決心をする。
人間並みに複雑な思考を持つようになると、ロボットが絶対に間違いを起こさない、 と保証することはほとんど不可能に思える。 それは現実でもロボットが作られたなら将来の重い課題となるだろう。

ジュード・ロウ演じる男性型セックスサービスロボットが、 お客の女性が殺されているのを発見し、動揺して逃亡する、 という場面があるが、これも変な話だ。 ロボットは意図的に人間を殺すなんてことはできないように プログラムされているだろうし、その死体を発見した状況や そこに現れた男のことを記録しておけば簡単に無実を証明できるだろう。


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2001/07/29 T.Minewaki
2002/05/12 last modified T.Minewaki

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