読書録

シリアル番号 976

書名

源氏物語の男君たち

著者

瀬戸内寂聴

出版社

日本放送協会

ジャンル

評論

発行日

2008/4/1

購入日

2008/8/29

評価

ミセス・グリーンウッド蔵書

源氏物語が書かれて今年でちょうど1000年という。時代は変わっても、男たちの欲望は変わらない。源氏ブームを巻き起こした第一人者、瀬戸内寂聴が権力と色情に生きる男たちの性格や心理を読み解くという表紙をみて半日で読破。

源氏物語は66代天皇である文学趣味の高い一条天皇(980-1011年)の心を中宮彰子(しょうし)に引き付けるために紫式部のパトロンの藤原道長に依頼されて書いたとされている。一条天皇の時代は道隆・道長兄弟のもとで藤原氏の権勢が最盛に達し、皇后定子に仕える清少納言、中宮彰子に仕える紫式部・和泉式部らによって平安女流文学が花開いた。

紫式部の夫藤原宣孝(のぶたか)は結婚後3年で死去。

さてフィクションの世界に入る。

瀬戸内寂聴は「主人公光源氏が父帝の妻で義理の母に当たる人と夢のような逢瀬の時を共有していたことを作者は直接書かない。どんな時、どうしてそのめくるめく渇望の愉悦と悦楽の盃を飲みほしたのか。作者も光源氏も口をとざして語らない。恋の醍醐味は秘めごとにこそ尽きる。源氏の君も藤壺の女御も、あの世までその秘密をかくし持って行った。

唯一それらしいことをほのめかすシーンがるだけである。あるとき女たちが自分のうわさをしているのを立ち聞きする。『でも、人目につかない適当な所には、結構、しげしげお忍びでお通いになっていらっしゃるそうよ』なとといっているのを聞くと、胸深く秘めている秘密も噂にされているのではないかと、どきりとする。

とだけ紫式部は書く。ここで読者は藤壺との遂げられた逢瀬を知るのである。

源氏の君が若い頃に自分が皇族なのに臣下に下されてしまったことで、それをあえてした桐壺帝に全く怨みをもっていなかったとするほうが異様である。母である桐壺の更衣を、愛情のコントロールが出来ず、過度に偏愛したり、重病になっても自分の欲望のため更衣を里邸に帰すことを許さず、手遅れで死なせてしまったことも、長じた源氏の君が人の口から聞かなかったとはいえない。それも雪がつもるような静かさで源氏の君の心に積もっていた感情かもしれない。

父の寵妃を犯すという源氏の君の心の底に父への怨みが全くなかったとは考えられない。紫式部はそういうことは一切書かないで、筋を運んでゆくが、書かないでも深読みすれば、そうとしかかんがえられないような人物設定をしている」

と解説されるとなるほど、紫式部は作家として優れていたと思わせられる。「作家は嘘八百の作り話をさもあったかのごとく書かねばならない。これは日常生活では勝気で、上昇志向で嫉妬深く、賢いのだが表面上はおとなしく、控えめで、貞淑、しおらしく、嫉妬深くなく、才能を隠すという韜晦を通しきる油断のならない性格であった。ひとがよく、ざっくばらんで正直なお人よしの清少納言はいいたいほうだいの随筆はかけても小説は書けなかった」と断定するのだ。

源氏物語は若い頃、文学全集のひとつとして蔵書としたが未読であった。


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