読書録

シリアル番号 965

書名

ルービン回顧録

著者

ロバート・E・ルービン、ジェイコブ・ワイズバーグ

出版社

日本経済新聞社

ジャンル

自伝

発行日

2005/7/25第1刷
2005/9/15第3刷

購入日

2008/7/14

評価

原題:In an Uncertain World, Touch Choices from Wall Street to Washington by Robert E. Rubin, Jacob weisberg

友人T.H.から”ルービン回顧録 "よかったので一読を薦めるとのメールをもらった。

Greenspan 回顧録の姉妹扁と言う感じです。1990年代の長期に亘るアメリカ経済の反映を演出した中心人物が、一人は財務長官として他の一人は FRB長官として政府の経済政策立案・実施の背景を回顧しているのですから、扱っている大事件 (メキシコ経済破綻・アジア通貨危機・ロシア経済破綻等) が重なる上に、ラリー・サマーズを含めた三人のリーダーは、価値観を共有し毎週朝食を共にしてこれらの事件に対処したという訳ですから内容が似て来るの当然。これら2冊の違いはルービン回顧録の方がより”私”色が出ている点で、彼の物の見方・問題分析方法・解決の為の対処法がより鮮明に書かれている。小生がこの本に興味をもったのはこの点で、Wall Street の戦士 (金儲けの権化)がどのようにして国の経済の舵取りをうまくやれたのか、という事を知りたかったのがこの本を読んだ動機。結果は平凡なもので、ルービンはその任をまっとう出来る能力 (知識・見識・理解力・Coordination・指導力・熱意)を持っており、理解ある上司 (クリントン大統領)・同僚 (サマーズ・グリーンスパン 等)に恵まれたということだが、下手をすると自慢話あるいは嫌味な表現になりがちなのをサラリと書いているのはさすがです。特に、本のタイトルになり、著者ノートの真っ先に出て来る言葉: ”私はこの世に確実なものは何もないと信じている” という考え方が問題分析・政策立案に当たっての基本になっていることが繰り返し書かれているが、その徹底振りは見事。

一読をお奨めします。貴ご意見聞くのを楽しみにしています。小生は1990年代の大半(7年余)を Bechtel で過ごし、メキシコ経済破綻・アジア通過危機等の渦中にあってプロジェクトを追いかけていたので、当時やりあっていたBechtel S.F. の連中の意見の背景が判った、ということもあって面白く読みました」

そこでさっそく有隣堂で買い求め、田舎に帰った4日間で1/3程読んだ。株等を買ったり売ったりするのは精神を擦る減らす行為だと思っていたのだが、ルービンは冷静に対処できる性格だったようで不思議だ。ゴールドマン・サックスで裁定取引(アービトラージ)部門で成功し、トップまで上り詰めるのだが、彼の決して熱くならない性格が適任だったようだ。

私は株を買っただけで夜も寝れなくなる。いくら確率がどうのこうのと準備しても深層心理的に心配になり、不眠症になります。だから株はやらない。ましてやアービトラージなんて。今住んでいる鎌倉の土地を買ったときは十二指腸潰瘍になった。ルービンは安眠できるようで、理性が納得すれば夜も安眠できるようでうらやましい。

ルービンは物事を断定せず確率に従って判断する手法で成功するのだが、翻訳は蓋然性などと訳すので理解しにくい。

チームを率いるリーダーとしては、意見を述べる自分と司会に徹する自分を峻別し、メンバーに充分意見を言わせることが、一旦方針を決めたあとチームが一丸となって協力できる環境を作れると考え、その通り行動したこともなかなかできるものではない。

政治の世界に身を投じるにあたての秘訣は「政治を自分の利益のために使おうとしない」こと、「うまくゆかなかったらいつでも身を引いて読書と釣りで充分静かで自由な人生を送れる」と思っていることだという覚悟が見事。政治を自分の利益のために使おうとせず、いつでも身を引くためには最低限の資産を蓄積することが必要で、彼はそれを民間企業で蓄積してから政界に入っている。人生設計が見事だ。日本の政治家とか高級役人のキャリアもこうあってほしい。「恒産なきものは恒心なし」だ。頭がよいだけでのボッと出の東大卒が、中央官庁にはいってエスカレータに乗って年取っても国を導くリーダーにはなれないことは証明済みだ。

ところでルービンはユダヤ人だがルービンと組んだサマーズはポール・サミュエルソンケネス・アローという2人のノーベル経済学賞受賞者を伯父にもつ。

Rev. November 30, 2008


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