読書録

シリアル番号 1232

書名

ドイツ帝国が世界を破滅させる

著者

エマニュエル・トッド

出版社

文芸新潮社

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

2015/5/20第1刷

購入日

2015/06/7

評価



文春新書

まえから新聞広告でタイトルが過激だと思っていたので近くの書店で衝動買い。エマニュエル・トッドはフランスの人口動態学・経済学・歴史学者でエマニュエル・トッド本は

2003年の「帝国以降 アメリカ・システムの崩壊」と

2010年の「世界の多様性 家族構造と近代性

をすでに読んでいるのでその研究上の発想とわかる。

EUが単一通貨のユーロを採用し、それぞれの国が自国通貨の発行権をうしなったこと。並びに東ヨーロッパに低廉な労働力があることの幸運が重なりEUでは 製造業の強いドイツの一人勝ちになってしまった。そしてそのドイツはウクライナの労働力と市場がほしくなり、ロシアと対立しだした。

ドイツは軍事国家ではないが、その工業力故、新しいドイツ帝国が勃興し、ロシアと潜在的戦争状況に入っている。戦後、アメリカとソ連がドイツの力を制御し てきたが、両者の力は衰えた。ドイツの他に日本、スェーデン、ユダヤ、バスク地方、カタロニア地方が同じ体質を持っている。

アメリカが凋落した結果、サウジアラビアがジハード勢力に財政的援助を与え、困ったアメリカはイランに接近していることを見てもわかる。

これから出現するリスクはドイツとアメリカの対立となろう。これを防止するのはロシアだが、もしロシアが崩壊すればとんでもないことになる。

1930年代、ヒトラーは同盟国として中国か日本かと迷い、結局、蒋介石を選んだ。

アメリカとドイツは同じ価値観を共有していない。大不況のストレスにさらされたリベラルな国、米国はルーズベルトを選び、権威主義的で不平等な文化の国ドイツはヒトラーを選んだ。

日本は資源という面からロシアに接近するのが論理的だがドイツとロシアの紛争が阻害している。

日本とドイツは権威の構造に直系家族の長子相続文化がいまだのこっている。これが現代の産業社会で強みになった。

主権国家の債務が返済されることは絶対にない。輪転機を回すか、債務のデフォルトしかない。どちらがいいかといえば輪転機はハイパーインフレを貧者を苦しめる。デフォルトのほうは金持ちからの借入金をチャラにするのでより好ましい。



とここまで読んだところで2015/6末に突然ギリシアが破たんした。EUとギリシアは単一通貨だが、政治的に統合したわけではないから財政は別である。 国家として負債は40兆円に達し、ドイツが債務帳消しにしないかぎり持続性はないように見える。ドイツ国民はこの負担」を快くおもうだろうか?

2015/8のFTの記事で欧州がギリシア州を含む連邦制になるためには米国の連邦形成史が参考になるだろうと指摘している。

米国では連邦と各州の財政の利害調整ができず南北内戦になったが、ようやくそれを克服してはじめて連邦準備制度ができて通貨統合ができた。欧州は順番が逆だった。欧州はこれから財政の連邦化をしなければならない。

エマニュエル・トッドはドイツの直系家族の長子相続文化がこの財政の連邦化への動きに唯一の障害になると指摘しているわけだ。

日本政府と沖縄の問題や原発問題もここに帰着する。自民政権はますます、中央集権を強め、憲法の基本的人権を制限しようと歴史に逆行しようとしている。

なぜか?日本もドイツと同じ直系家族の長子相続文化の意識がまだ残っているからではないか?ドイツ人とそっくりで国民がそれを疑問とも思わない。

そもそも天皇制がこの直系家族の長子相続文化の象徴だ。日本人がこの思想上の壁を超えない限り、日本の将来はないとおもう。天皇問題がタブーであることはなにも右翼がのテロが怖いというより自分の精神上の予定調和がみだされるのが怖いからなのでは?

Rev. August 5, 2015


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