読書録

シリアル番号 1227

書名

「原発」、もう一つの選択

著者

金子和夫

出版社

ごま書房新社

ジャンル

技術

発行日

2015/3/7発行

購入日

2015/03/29

評価



著者からの謹呈本。

著者はトリウム熔融塩炉開発しようとしているトリウムテックソルーション取締役会長の金子氏(信州松代出身)

トリウム熔融塩炉構想は、確かにトリウムの資源量は多いが、原理的に核分裂反応であることにかわりはない。軽水炉のようなウラン酸化物燃料棒ではなく、 常時フッ化物熔融塩にフッ化トリウムやフッ化ウラン233が熔融しているわけだからメルトダウン事故は起こさないとされるが容器や装置がメルトダウンすることに変わりはない。しかもウラン233は強烈なガンマ線を放射するし、核 分裂生成物のうち、キセノン、クリプトン、ヨウ素などは常に熔融塩から蒸発して出てくるわけで、この封じ込めに苦労するだろうことが予想される。オークッ リジではオフガス系のフィ ルターに臨界量のフッ化ウランが蓄積し、その部屋が水没したとき、危うく臨界になる危険があったなどのヒヤリハッと事件を経験している。

崩壊熱のような制御できない発熱の冷却法、そして熔融塩の固化防止、容器材料の腐食、核分裂物質の廃棄問題など軽水炉と同等かもっと難しい問題が山積して いる。いわば常時緊急事態で運転するわけで、大勢の人間がひしめいている日本では使えない技術だと思っている。この考えは森永先生の考えであり、森永先生 がわたくしの前で故古川先生に明確に表明された見解だ。

化石燃料枯渇後は国土の1.8%にPVを設置するだけで再生可能エネルギー日本の電力は賄える。「自産自消」が可能となる安価な家庭用電力は総発電量の14%に達する。これは今後も増加傾向で、再生可能エネルギーの「自産 自消」によるオフグリッド運用が増えれば高価な核分裂反応は不用となると考えている。環境保護の点からも人道的にもそれが望ましい。

以上はこの本を紐解くまでの事前知識。読み始めると、最近の進展が紹介されている。すなわち

@Reactor in Reactor(R in R)構想
使用済み燃料から核分裂物質を乾式で除去したプルトニウム、マイナーアクチニドをフッ化物にしたものをフッ化物熔融塩に溶かし込み、カプセルに封入してこ のカプセルをハルデン炉に装架し中性子照射実験を行いプルトニウム、マイナーアクチニドの消滅実験をする。多分ハルデン炉に装架するだけなら金を支払えば 可能。しかし試験済み燃料棒を冷却し、容器に格納して海上輸送することが護衛船なくして可能なのか、そして仮にここまでは可能としても、試験済み燃料棒を 切断し、内容物の分析をどこで行おうと考えているのだろうか。この本では全く不明である。民間の資金はすぐ底をつくだろう。

AF3R構想
目的は@の延長で余剰プルトニウムと、超ウラン元素を燃焼し、後世に負担になるこれらを減量し減容することにあるとい う。ここでそもそもプルトニウムを焼却しなければならないという理由が分からない。米国のようにそのまま、中間貯蔵し、最終処分場が確保できた段階で捨て ればよいだけのこと。何もリスクと金をかけていじくりまわすことはない。

20%に濃縮したプルトニウムーウラン235をつかったばあい、臨界に持って行くためにR in Rを13本束ねて200KWくらいの核分裂反応炉にし。黒鉛減速で臨界にする。

R in Rは下部プレナムに特殊継手で接続。下部配管は地下のドレイン・タンクにフリーズ・バルブ経由で接続。いざ反応が暴走した時はこのフリーズバルブが高温で溶けるて燃料をダンプすることになっている。R in Rにヘリウムガスを注入することによるオンライン希ガス回収。というものだが日本のどこでこのシステムを動かすのか??

循環熔融塩が700℃以上になったら温度フューズが融けてダンプするというが配管中の熔融塩が流動化していることが前提。だが小型プラントでは局部的に固化して温度フューズには熱が伝わらず、結局、 黒鉛に囲 まれた空間にあるカプセルから燃料はダンプされず、核反応を停止できず、カプセル自体に穴が開くメルトダウン事故が発生する。この様なトラブルは熔融サルファープラントや熔融塩を使う集光式太陽熱発電プラントではおなじみのものだ。違いは強力な放射線の存在である。核 分裂生成物がフッ化熔融塩にとけているから決死の覚悟で詰まったものを何とかしようとしているうちに東海村の2人の作業員のように死んでしまう。こ の炉はまさに福島第一の廃炉の現場のような状況になるのでは。遠隔操作のロボットを投入しても強い放射線で制御回路の半導体がいかれてすぐ故障して動かなくなる。素子を鉛で防護すれば重くて動かない。

Bトリウム熔融塩炉の国家レベルの開発
ここは既知の故古川博士の構想でトリウム資源の有効利用。国家が乗り出さないと始まらない。20年の予定。トリウムは資源量が多いがガンマ線を放射するフッ化ウラン233に変換されて、ウラン235より扱いにくい炉ではある。マジにやるの?

自国産の 再生可能エネルギーで電力が賄えるようにするには蓄電技術の開発に力を入れればよいことで、何も非人道的な核分裂反応に拘ることはないと思う。米国では ゲーツなどの資金提供のベンチャーがリチウムイオン電池より安価になつ定置型ナトリウムイオン電池の開発をしており、日本でも住友電工が大船でバナジウム イオン・レドックス・フロー電池を開発している。どうしてもウランが好きと言う向きにはウラニウムイオン・レドックス・フロー電池を開発されたらいかがだ ろう。

私の読後感は多分政府の文官たちは核の傘コンプレックスがあるため、プルトニウムを生まないトリウム熔融塩炉開発話には乗らないだろう。核分裂物質の処分問題など考えたくもない問題を背負い込むことは避けるはずだ。

いずれにせよ2015/4/21にホテルニューオータニで開催される環境政策フォーラムの定例研究会で金子氏と内閣府原子力委員会プロジェクトリーダーの木下氏の講演を聴くことになっているので、また補足できるかも。

この本でいままで知らなかったことを学んだ。それは米国大統領のジム・カーターは若い頃海軍の技術将校で原潜を開発したリッコーバー提督の部下だった人だ という。1952/12のカナダの試験炉の事故のときは海軍の技術者として事故処理に当たり、被曝の体験をしている。これでスリーマイル事故の時カーター 大統領が事故炉の運転司令室まででかけた理由も理解できた。

Rev. April 12, 2015


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