読書録

シリアル番号 1224

書名

日本電力戦争 資源と権益  原子力をめぐる闘争の系譜

著者

山岡淳一郎

出版社

草思社

ジャンル

ノンフィクション

発行日

2015/2/26第1刷

購入日

2015/02/22

評価



著者にいただく。

福島事故後直後に出版された「原発と権力」 に続くその後の進展を取材し、メディアにもでていない事実が書かれている快著だ。これを紐解くと、日頃、不思議と思っていたいくつかの疑問が氷解する。真 面目に事故後3年間の報道された出来事と報道されなかった政府奥の院の動きが詳細にまとめられていて価値ある本だ。ケルン在住の望月さんには日本の電力事 情についてなぜとよく聞かれるが、ここに回答は殆ど書いてある。そして原発を動かしているすべての国の思惑がバランスよく整理されている。加えて戦前から の電力事業の発展と政府との関係も詳細に記述されていて、これ一冊をもては今後電力はどうなるべきかおのずからみえてくるだろう。

これ読んで私も知らなかったことが沢山でてくる。たとえば;

@米国の電力業界がシェールガスブームで原発への関心を失っているのにオバマが急に人為的温暖化防止政策に熱を入れ始め、天然ガス 発電は合格、石炭火力は失格になるような厳しい線を引きいた。そして日本が原発から手を退かないようにトモダチ作戦を仕掛け、原発輸出に援護射撃をするのを不思議に思っていた のだが、 シカゴ原子力人脈で動いているであろうと推察するところは説得力があった。私もシカゴからルート66をハーレーでロスまで走り、途中フェルミ炉があった傍を通過し、原発が開発されたロスアラモスの周辺都市アルバカーキーを通過したので良く理解できた。物理学者ファインマンがリンパ腺結核と闘う妻のいるアルバカーキーからロスアラモスに通ったものだし、後日マイクロソフトもここで産声を上げる。

世界初の原子炉CP-1はフェルミが実験を指導した。それはシカゴ大学のフットボール競技場スタッグ・フィールド(Stagg Field)の観客席下にあったスカッシュ・コートに黒鉛と金属天然ウランを積んだものだ。これが臨界に達し、5Wの出力を2分間臨界を保持して制御棒を 落としたときに原子炉時代は幕をあけたのだ。原子炉の研究はその後、ルート66沿いのアルゴンヌの森にアルゴンヌ国立研究所が建設され、そこで行われるよ うになる。皮肉なことにアルゴンヌの森では今はリチウム・イオン電池の研究を行っている。

A資源エネ庁が電力自由化するといいながら、エネルギーのベストミックスを論議するという矛盾した言動を不思議に思っていたが、著者によれば原発を拠点に コマンディング・ハイツ(203高地)を確保したいと考えているとのこと。しかし私は資源エネ庁は甘いと思っている。自由化すれば電力会社経営はコストが 全てになります。事故補償金だってコストだ。技術によりバッテリーが安くなればPV+バッテリーによるオフグリッド運用が可能になるわけで電力網は意味を なさなくなるからだ。原子力なんてだれも見向きもしなくなる。203高地だってあの愚鈍な乃木でも落とせた。イーロン・マスクが米国で巨大なリチウムイオ ン電池工場を建設中で、これでEV車とPV+バッテリー・オフグリッドを狙っているという。彼らが成功すれば日本の電力は第三の敗戦となること必定。

PV+バッテリーによるオフグリッド運用についてはHidden Cost of Nuclear Powerに書いた。これはカルフォルニアの元フルアー社の友人の質問に答えるため英文で書いた詳細な発電単価計算である。日本語で簡潔にしたものは機械学会4月号に投稿したが、追補したものが「国家の大計」だ。

B政府がLNG価格高騰に言及しながら石油火力に関てはだんまりを決め込んだことに言及されたのは良くやったと思った。原発が停止したため、不足した電 力を補うため、停止していた石油火力を不当に高価な原油を使って再稼働したことが電力価格高騰の大きな原因だ。だがこれは化石燃料が悪いのではなく、原 発の比率が大きかったためだ。全ての原発が止まった時の穴埋めが大変だったということにすぎない。日本のマスコミは不勉強だから原発の比率が高かったったことが問題なの に、化石燃料が高騰したのが悪いとしたのはお門違いと指摘したのは著者の手柄だ。

C朝日の船橋某に代表される菅降ろしに同調されていないところも評価する。菅が浜岡を止めた時、米国のCSIS (ISISではない)が原発擁護のためにプライスアンダーソン法を日本にもと圧力をかけたとしっかり書いているところも評価する。

Dところでコスト等検討委員会が公開した計算書が

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/archive02_shisan_sheet.html

にあるとは知らなかった。先にあげた私の計算とこれを比較すれば政府のウソが一層明確になるだろう。

E森永先生とジイサンの逸話もしっかり書いてある。

F最後にトルコへの原発輸出のチキンゲームの話は刺激的だった。問題はメルトダウン事故時の保証が発生することだ。これをふくめれば原発輸出は割に合わない。

G最後にフランスですら2030年に再生可能エネルギーを32%をにすると決めたとは知らなかった。そうすると日本だけが異様な姿で立ちすくんでいることが見て取れる。

以上拾い読みの感想だが、大変勉強になる本に仕上がっている。これからじっくりと読み直してみよう。


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