読書録

シリアル番号 1204

書名

エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実

著者

アニー・ジェイコブセン

出版社

太田出版

ジャンル

サイエンス

発行日

2012/4/17

購入日

2014/08/19

評価



2014年の和田さんの水墨画展に集まったとき、加畑さんに頂いた。帰りの電車の中で読みだすといままで知っていることも書いてあるが殆どが軍事機密の ベールの向うにあって知らなかったことがほとんど。米国のヴァネバー・ブッシュのリードの下に始まったマンハッタン計画から最近のドローンにいたる冷戦期 の軍事技術開発の実験場となったエリア51の全体像が把握できる良書である。

報道調査ジャーナリストの著者が2007年までに軍事機密を解かれた過去の全てを関係者にヒアリングして書いたものだ。事実が詳細にこれでもかと繰り出さ れ、読破するには時間がかかる。これぞまさに文系の博覧強記型記 録だ。

そもそも軍事とはゲームである。ゲームに勝つには手の内を全部さらすわけにはゆかないという本質的な命題がある。そこで軍事機密という仕掛けが必要とな る。問題は何が機密であると誰が決めるか。大統領にすら秘密にするという暴走も実際には生じてくる。敵に勝つためにはどんな兵器やそれを運ぶ乗り物を開発 すればよいかを決めなければならない。そして敵は何を用意しているかの情報を手に入れなければならない。

この本は組織の末端にいた人間に徹底的にインタービューして漏れ出でてきた事実から全体を推察するという手法をとる。なぜかというと組織のトップにいた人 間は殆ど死に絶えていることと、たとえ生きていても口は割らないからである。

ルーズベルトは、国立標準局長官リーマン・ブリッグズに命じてS-1 ウラン諮問委員会を設け、シラードが提案した問題を検討した。アメリカ国防研究委員 会 (NDRC) 議長のヴァネヴァー・ブッシュと副大統領ヘンリー・A・ウォレスとのミーティングで、核兵器開発プロジェクトを承認した。プロジェクトの実施にあたっては 「陸軍マンハッタン工兵管区」と名称が付けられた組織が行うこととなった。責任者はレズリー・リチャード・グローヴス准将を任命。実際の開発は物理学者の オッペンハイマーが担当した。オークリッジ、ロスアラモス、ハンフォードで開発され、プルトニウム型がニューメキシコ州アラモゴード砂漠のホワイトサンズ 射爆場において人類史上初の核実験「トリニティテスト」が実施された。これが「マンハッタン計画」といわれるものだが、その後、核兵器は「原子力委員会」 担当となり、現在はエネルギー省(DOE)管轄となっている。何が秘密であるかは専門家が決めるものとされ、大統領にすら報告されないものがある。ト ルーマンはヴァネヴァー・ブッシュらに教えられるまで何も知らなかった。

これだけ用心したにもかかわらず、ロスアラモスにはスターリンのスパイがいて原爆の製造法はもれてしまう。

ヴァネヴァー・ブッシュがかかわったプロジェクトにS-4(シグマ・フォー)というものがある。これはロズウェル事件といわれる墜落したソ連製空飛ぶ円盤ま たはUFOのリエンジニアリングがある。UFOは実際にはソ連がドイツのヴァルター社のホテルンVという無尾翼機をパクッたものだという。三日月型の無尾 翼機である。最近、ドイツの玩具の無線操縦機FPV Raptorが市販されているが、外形はホテルンVという無尾翼機にそっくりな型をしている。これにカメラを搭載して金門橋、グランドキャニオ ン、カレル橋、マッターホーンなど撮影した動画に音楽伴奏つけたものは楽しめる。

それに搭乗していたとされる 宇宙人のいわれるものを調査した極秘のプロジェクトがあったという。場所はエリア51といわれるネヴァダ核実験場内のグルーム湖にあった。 当然、ヴァネヴァー・ブッシュがかかわった機密研究としてこの他にもS-2,3があったはずであるが、何の公開情報もない。多分毒ガス・生物兵器に関する 研究を推察されるが、これも何の情報開示もないし、これからもないだろう。エリア51で行われ、「モラルを完全無視した人体実験や生物実験を行っている」 ことを隠ぺいするため、宇宙人説が出たともいわれる。

ヴァネヴァー・ブッシュはレイセオン社(ヨットの計器や自動操縦装置も) を設立したが、このほかにも国防契約社EG&G(エドガートン、ゲルムシャウセン・アンド・グライヤー、現在はURSの一部門)などが実際の実験 を担当している。ヴァネヴァー・ブッシュの後任にMIT総長であった。アイゼンハワーの科学顧問のジェームズ・キリアン(James Killian)がいるが彼は科学者ではなく、経営学者だった。だから宇宙船から爆弾投下は不可能と信じて、反対ばかりしていた。科学顧問は議会に対して責任を取る立場ではなかった。

冷戦時代以降において、イスラエル軍の鹵獲ミグ23など、いろいろな形で獲得した少数のソビエト製航空機の恒久的なリバースエンジニアリング及び訓練の本 拠地として報道されている。ミグ23などは日本のゼロ戦と同じで操縦性が優れていただけと判明。米軍機が撃墜され内空中戦の仕方が開発された。

エアリア51はこの他、新型飛行機向けの開発、テスト及び訓練段階の間に使用される。これまでに、U-2、OXCART / A-10 / A-11 / A-12 / SR-71、及びF-117など偵察機やステルス機の試験飛行を行っている。ただ技術的にはより高く、より高速に、より航続距離を長くという量的改良であ まり面白くない。初期の頃はU-2がロシアや中国でよく撃墜された。フルシチョフ撃墜されたパワーズは有名だが。1963/11/1に台湾の台北近くの桃園(たおゆあん)秘密基地を飛び立ったCIAのU-2が中国の核施設上空で撃墜され、拷問を受けた。というわけで撃墜されないようにより高空を飛べるOXCART / A-10が開発されたのだ。

冷戦期の286発の地下核実験も全てネヴァダ核実験場で行われており、エリア51の西にあるユッカ・フラットは陥没クレータで月面のようなあばた面であ る。なかでもセダンクレータ最大のもので地下200mのシャフトで爆発させたものだが直径400m深さ100mのクレーターになっている。エリア20 にあるスクーナー・クレーターで宇宙飛行士の訓練ように使われた。google mapで良く見える。





ネヴァダ核実験場のジャッカスフラッツでは原子炉の熱をロケット推力に使う実験をしていたが水素タンクの液位計の故障で水素がきれたのに炉を止め なかったため炉心がメルトダウンし、実験場を汚染させてしまったという事故もあった。ネヴァダ州だけで日本全土に匹敵する大きさでネヴァダ核実験場は関東 平野より大きいから汚染なんでだれも気にしない。ここは米国人でも許可なしには立ち入りできないし。警告なしにはいれば警備員に射殺されても合法。所詮原 子力なんて汚染物質が核兵器より3ケタ多く、日本には使えない代物だということがわかる。そのうちに気がつけば米国に民生用原子炉はなくなるだろう。

事故時の所長の吉田氏が「全世界で原発は400とか500ある。400基で平均で20年運転していれば、世界中で8000炉年くらいの運転経験がある。そのなかで色んなトラブルをしているが、今回のような電源が全部枯れてしまうということが起こっていない。そ こが我々の思いこみだったかもしれない。逆に。自信を持っていたというか」といっているが、2011年の福島事故までの世界の発電炉の累積運転炉年は Safety of Nuclear Power Reactors by World Nuclear Associationによれば8000炉年ではなく、もっと多い14,500炉年だ。この間にメルトダウンによる放射性物質放出事故は10件。したがって累積事故確率は1,450炉年に1回ということになる。良く事 故確率は100万年に1回なんて聞こえてくるが、これは確率密度分布のことで累積事故確率は3ケタ多い。原子力関係者も政府もいまだこれが理解できないよ うだ。確率の教科書には書いてあるのだが。

プルトニウムは肺 に入ってしまえば命とりだが、胃にはいっても排せつされてしまうので大した危険はない。ネヴァダ核実験場の警備員でも風下にいただけで、死なないで済んだ人も居る。

大気実験で強力な電磁波が地上の電力系統を破壊することがわかり、また地中貫通型爆弾(バンカー・バスター)としても原爆は特に花崗岩には全く無力だと分 かったのもネヴァダ核実験場である。代わりに宇宙配備兵器として開発されたものはタングステンやチタン、ウラン からなる 9m x 0.3m diameter のRods from Godジェームズ・キリアンは宇宙からは落下させることができることがなかなか理解でき なかったようで、宇宙配備兵器には反対していた。

ドローンは人工衛星経由で遠隔操縦しているため、衛星が破壊されれば役に立たない。2007年、中国は高度850kmを周回していた中国の全長1.8mの 小型衛星を自国の弾道ミサイルで破壊する実験をした。米国は対抗処置として7ヶ月後の2008/2北大西洋の米軍艦(レイクエリー)からSM-3レイセオ ン・ミサイルが地上246kmで2.27tonのアメリカの人口衛星を破壊した。

米国の最新の秘密兵器X-37Bは15月宇宙にとどまって、この基地に帰還した。


Rev. October 21, 2014


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