読書録

シリアル番号 1147

書名

「たえず書く人」辻邦生と暮らして

著者

辻佐保子

出版社

中央公論新社

ジャンル

評論

発行日

2008/6/1再版

購入日

2013/06/30

評価



妻の蔵書

友人小笠原から辻邦生の「時の扉」がシリアを詳しく書いていると教えてもらった。

これを読まずして水村との交換書簡「手紙、栞を添えて」を読んで辻と はなんと退屈な人かと思った。その後、辻の妻の辻佐保子が書いた『「たえず書く人辻邦生と暮らして』を読み、病が辻の無気力の原因と知った。すでに実質遺言状 も書いた過去の人だったわけ。毎日新聞に連載された「時の扉」の裏話も書いてあるが、夫についてシリアには同行していないので挿絵画家の苦労話だけし か書いてない。シリアとはその位遠い。

辻が旧制松本高校の学生だったころ、理系でないと徴兵延期の特典は無いと死に物狂いで数学を勉強したという戦後ちゃっかりと文科に転科した。友人のドクトルマンボウは医者になったのだから同じようなものだ。

佐保子が辻の日記の一部を暴露しているが、そこに「心の暗部に犯罪者を、殺人者を、泥棒を、好色漢を、ならず者を、裏切り者を飼い慣らしているのを はっきりと感じる。こうした心の闇が深く広いので小説が書けるのだと思うことがある。・・・こういう闇の負担が人一倍重いことが、たしかに文学の仕事に僕 を駆り立てるのかもしれない」とあった。やはり作家はこういう衝動に駆られていないと、いい作品は書けないのであろう。


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