読書録

シリアル番号 1139

書名

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

著者

ジェームズ・R・チャイルズ

出版社

草思社

ジャンル

技術

発行日

2006/10/26第1刷
2006/11/22第2刷

購入日

2013/04/17

評価



原題:Inviting Disaster  Lesson from the edge of Technology by James R. Chiles
鎌倉図書館蔵
著者はハーバード大卆の米国の技術評論家

エールフランスのコンコルド墜落事故(2000)
左主脚のタイヤが滑走路上にあった金属片にぶつかる→タイヤの破片が燃料タンクに激突→漏れ出した燃料が左翼エンジンの空気取り入れ口に流れ込む→左翼エンジンの主力低下→左へロールし激突

海洋石油掘削装置オーシャンレンジャy-沈没事故(1982)
ODECO(Ocean Drilling and Exploration)設計、MHI広島建造のセミサブリグは嵐の高波が支脚の一つにあるバラスト制御室のガラス製の舷窓を破り海水が制御室に流れ込み 電子機器を水浸しにする→電磁スイッチがショートし全てのバラストタンク弁が開となる→バラストは船首寄りとなるため船尾のバラストポンプを稼働さ、 NPSH不足で船首の海水を吸引できずバランスをますます失う(中間タンクから移動すれば可能なるも運転員は知らず)→ついに4隅にある描鎖庫上部の開口 部から海水が流れ込んで沈没。

スリーマイルアイルランド原発事故(1979)
復水脱塩装置の樹脂ペレットが固着してしまったのでこれに圧縮空気を注入して水が流れやすくなるようにしていたとき、100ccの水が空気 系に逆流してしまった。この水が制御システムに誤信号となりすべての給水弁が自動的に閉→一次冷却水系の圧が上がり、加圧器の先駆弁付圧力逃がし弁開とい なり、固着開→水位計誤指示で緊急冷却ポンプ絞る→炉心メルトダウン

これを救ったのはブライアン・メーラーという男で同僚にたのまれて救援に駆け付けた。かれは先駆弁付圧力逃がし弁の元弁(電動弁)を閉じることを提案した。安全弁は並列にいくつもあるので同僚は合意。そうすると一次系の圧が回復した。

チャールズ・ペローの「ノーマルアクシデンツ」はのような相互作用をする複雑なシステムは使わないという決断以外に事故は防げない。ペローと対照的な研究者は高信頼性組織をつくればリスクは回避できるとしている。しかしこれは幻想だ。

スペースシャトル・チャレンジャー事故(1986)
モートン・シオコール社製のブースターのOリングは気温が低い時、内部の70気圧の高温燃焼ガスが漏れやすく、担当者のボジョレーは打ち上 げは延期すべしという意見をだしていたが、政治的にスケジュール優先で見切り発車して失敗。これを暴いたのは事故調査委員になった物理学者ファインマンだ。

ちなみにこの固体燃料はシオコール社の 創立者のジョセフ・パトリックという化学者が開発した合成ゴムが基礎になっている。そもそもシオコールはギリシア語の「硫黄」と「接着剤」の合成語でこの 合成ゴムは始めは航空機の燃料タンクが銃弾でぶち抜かれてもガソリンがもれないようにする内貼りに使われた。この合成ゴムとアルミ粉末と過塩素酸アンモニ ウムを混合したものが燃料である。モートン社は米国最大の食塩製造業者。

英国巨大飛行船R101墜落事故(1930)
チャ レンジャー事故と同じくプロジェクトは一旦動き出すと誰にも止められない。その例の一つが英国政府の国家プロジェクトである。中心人物はクリストファー・ バードウッド・トムソンだ。第一次大戦で水素を使う飛行船は使えないことが判明していたが、ドイツのツエペリンの成功をみて、英帝国を維持するために飛行 船開発は重要だと認識された。しかし、R101は浮力不足のまま急いで出発し、初飛行で墜落してしまう。以後飛行船は使われなくなった。

米国海軍の近接信管搭載魚雷マーク14の失敗(第二次大戦中)
近接信管の原理は魚雷が鋼鉄製の船の下を通過するとき、磁場の変化を検知して起爆する。しかし、ターゲットの船を沈めるのがもったいないと充分な実験をしなかったため太平洋戦争の初期にほとんど起爆しなかった。

これと対極となるのが容赦なく機器をテストすることにこだわったのがポーランド移民だったハイマン・G・リッコーバだった。だから原潜は成功した。

ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡研磨失敗(1990)
ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡研磨担当はパーキン・エルマー社であった。鏡面の精度測定につかった反射光学系をつかったヌル補正装置の無光沢塗料の 一部がはがれていたため、そこからの反射を計測していしまい、精密物差しの長さと矛盾が生じた。そこでワッシャで物差しの長さとの矛盾を解消した。これが 鏡面の狂いの原因であった。

アメリカン航空DC-10の操縦系故障とそこからの生還(1972)
DC-10の後部貨物室は外開きで、ドアが完全にロックされていないと飛行中に外れてしまう。これにより貨物室が負圧になり床が落ちて、 床下に設置された操縦ケーブルと油圧システムを切断して操縦不能におちいることが容易に想定された。パイロットのマコーミックは事前にその危険を知り、 シュミレータ訓練でエン ジンスロットルだけで操縦することをひそかに練習していた。はたせるかな彼は自らと客の命を救うことになる。

チャールズ・ダーウィン「知識よりも無知のほうが自信を生むことが多い」

アポロ1号の火災事故(1967)
船室の壁厚を減らすために窒素のない減圧純粋酸素雰囲気にしていたため、端子に接続を忘れた電線のショートで火災が発生。人間のミスはゼロに出来ないので設計思想に問題があった。以後純粋酸素雰囲気は使われていない。

バリュージェットDC-9の酸素漏れによる炎上墜落事故(1996)
初期の頃、旅客機の非常用酸素発生器はステンレス製キャニスターの中に塩素酸ナトリウムを充填しておき、キャニスターの先端につけた安全ピ ンを抜くとバネが雷管をたたいて塩素酸ナトリウムに点火するする仕掛けだ。このとき、キャニスターの壁温は270°Cに達する。このキャニスターを多量に束ね て貨物室で輸送中にピンがはずれ、貨物室のタイヤに引火して火災が発生して墜落。全員死亡。

チェルノブイリ原発事故(1986)
核分裂物質が溜まった燃料で低負荷運転をすると制御棒での制御が、難しくなる。それと制御棒の先に黒鉛がついていて、制御棒を押し込むと返って出力が増える

英国航空機の操縦席窓ガラス脱落事故(1990)
フロントガラス交換時にサイズが一回り小さなビスをつかったため、飛行中にフロントガラスが飛んでしまった。機長は窓から吸い出されそうになったが、かろうじて乗員に足をつかんでもらって一命を取り留める。

英国海軍潜水艦セティスの沈没事故(1939)
バラストタンクに注水しても潜航しないため、艦首の魚雷発射管が空かしらべたのだがテストコックがペンキで詰まっていたため空と判断して装填扉を開いたところ海水がどっと流れ込んで水深45mの海底に沈没。殆どの人間が二酸化炭素中毒で死亡。

アポロ13号の危機の原因となった酸素タンクの異常(1970)
機械船の酸素タンクのタンクヒーターを65Vに変更したとき、サーモスタットは28Vのままにした→デタンクオペレーションのための注入管が タンク設置時外れたため酸素ガス注入ではデタンクできないことを発見した。→しかし修理せず、タンクヒーターを使う。→サーモスタットがショート→絶縁被 覆のテフロンが焼ける→月への飛行中タンクヒーターが使われスパークし、タンク爆発 

バーミングハム市のフットボール競技場二階席崩落を防ぐ(1960)
計算ミスで主トラスの強度不足になっていることを図面で気が付いた人のおかげで、惨事が避けられた。

ニューヨーク市シティーコープビルの強度不足に気づき補修(1978)
工事の構造設計顧問のウィリアム・ルメザイラが工学部の学生の質問にこたえるために設計計画書を検討しているときに接合部が溶接ではなく、 ボルトになっていることに気がついた。これでは強度不足である。そしてハリケーンがボルトを引きちぎるこも予想された。ビルはすでに完成し入居者が決まっ ている。急き全て溶接した。

IBMブラジル・スマレ工場の屋根崩落を未然に防ぐ(1971)
鉄骨を高強度ボルトでくみたてた工場屋根であったが調べるとボルトは普通鋼製であることが判明し、すべて溶接するまで工場から退避させた。

ニトログリセリン
イタリア人でトリノ大学のアスカニオ・ソブレロはニトログリセリンを発見したがこの物質は不安定で、自然に爆発した。ノーベルの貢献は@不 安定さの原因はニトロ化した製品に酸が残留していて、これがニトログリセリンを変質させて、爆発にいたることを発見したこと。ノーベルはこれを精製するこ とで安定性が増すことを発見した。A雷(雷 酸水銀、シアン酸水銀)を銅管に詰めたものを起爆剤に使うことに気が付いたこと。B珪藻土にニトログリセリンに吸着させると安全なものになる。これをダイ ナマイトと命名。現在はニトロ化反応器はバッチ式から連続式になっている。ニトログリセリンは管内を流さない。気泡が断熱圧縮で温度が上昇し、起爆剤にな るからだ。工場は自動化できない。たてものは木造で釘の頭はすべて覆ってあり、すべて破壊されることを前提としている。

テキサスシティー港湾での硝安肥料の大規模爆発事故(1947)
ニトログリセリンは危険だということを誰でも知っているが、肥料として使われる硝安はだれも爆薬とは思わない。ところが量が2,700トンに達するとこれが爆薬に化けるのである。ガルベストンの 対岸テキサスシテイーの北スリップに停泊したリバティー型輸送船グランカン号のハッチを開けると硝安をおいた木製のパレットが燃えていた。沖仲士が放水し ようとすると船長はハッチを閉め、蒸気を送れと指示した。荷物には硝安の他に穀物など炭素系の物質が含まれていたのである。そしてついにはこの貨物船は大 きな穴を残して姿を消していた。同じような事故は世界各地で発生している。この本を読んでいるとき、テキサスのウェイコで硝酸工場が爆発している。

ヘリによる架線作業
ヘリコプターのほうが送電線より静電電圧が低いので30cmの距離で放電する。

ボイラーの安全弁を閉め切って危機を脱した英国油送船ペトレーヌ号(1918)
近くにドイツ潜水艦が浮上し、甲板砲を発射しはじめた。機関長は安全弁を閉め切石炭を燃焼室に投げ込んで、ボイラーに無理強いさせて逃げ切った。

ミネアポリスでのオートマチック車暴走事故(1998)
オートマチック車はシフトロックという電気回路をもっており、ブレーキを踏んでいないとギアをPからRやDに入らないようになっている。しかし、後つけで電子装置を追加するとこの回路が誤動作し、Dに入るようになる。

北海油田掘削プラットフォーム、ハイパーアルファの爆発事故(1988)
掘削とガス精製をしていた水深145mの北海のプラットフォームにて保守係がスタンドバイのコンデンセートポンプの安全弁をとりはずし、工 事完了まで当該ポンプはうごかしてはならないと昼シフトの運転係に連絡した。ところがこの連絡は夜シフトクルーに伝わっていなかったため、スタンバイポン プをうごかして安全弁をはずしたところいかた油が噴出し、プラットフォームは焼け落ちた。

イースタン航空機の計器電球切れがきっかけで起きた墜落事故(1972)
航空機の墜落事故に共通することは@そのとき、機長が操縦していた、Aそのとき便は定刻より遅れていたことBコックピットの権威勾配がきつく副操縦士が権威に弱く機長に進言できないこと

インド・ポバール殺虫剤工場の毒ガス漏出事故(1984)

北軍兵士が満載されていた蒸気船爆発沈没事故(1864)
煙管ボイラーの蒸気でピストンを往復動させるミシシッピ川の川船のボイラーが蒸気漏れをおこしたので鉄板1枚を追加して補修したが安全弁の設定を下げ忘れて、かつ水補給が不足して水位がさがり爆発し、2000人の北軍捕虜の命が失われた。

ほか多数の失敗

最終章:最悪の事故を食い止める人間
@鉄道レール1本の材料となるブルームを束ねる木材不足で危険な荷積みを強要された船長は港湾当局者に通報して、指導させた。それをしなかった船は殆ど沈没した
A欠陥のある技術は通常の自然条件で機能しても異常な条件下ではだめになることがあるということを知る人間でなければだめ。リコーバーはこの点天才であった。
Bリーダーに自分の決定に責任をもたせるには彼自身がそのリスクで自らの命も失うかもしれないと思う立場にならなければダメだろう
C事故の原因は企画・設計の段階で生じる。「地獄の火消し」と称された会社が安全コンサルタントになった理由はそこにある。ポヴァール事故も中間製品であ るイソシアン酸メチル(MIC)をタンクに蓄えないように設計すれば済んだことだ。あるいはまったくMICを経由しない反応工程を採用すればいいわけ。
D常に代案を考えておくこと。4駆はトラブルから脱出するためにのみ使うこと。潜水艦セティスの沈没事故で実は45mの深さでは人間は脱出用フードをか ぶって無呼吸で浮上できるのだ。とはいえどのようなバックアップをもってしても高い信頼性を持つ組織など考えることも無駄だろうし、そもそも十分に安全と はどういう意味なのか理解できない。ということで偶発的な核戦争を防止することなどとても考えられない。なぜなら一触即発の引き金に指をかけたまま、一度 もその指をうごかさないなどということはありえない。
E原潜の父リコーバーがスリーマイルアイランド事故後、組織運営上の教訓として7つのルールを上げている。なかでも悪い知らせがとどいたら真正面からそれ を受け止めて上層部にあげることと放射能の危険性を重く受け止めるべき、幹部社員は頻繁に現場に足を運ぶべきと指摘している。こうした原則で運営されてい ない場合は不吉な未来が待っている。
F長時間のうちには確率の低い事故も起こる。こうして英国の飛行船は終焉を迎え、1966年の高速増殖炉フェルミ1号炉の事故で米国の高速増殖炉は終焉を迎えた。
Gモートン・シオコール社製の担当者のボジョレーのしたように上司に警告メモを渡すだけでは不十分。
Hコンピュータをつかっても危険を判断するものは設計できない。やはり自由に討論できる数人のグループが一番だろう。
I最後の最後まであきらめないこと
J情報を封印しないこと
Kマシンとの共生



Rev. May 1, 2013


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