読書録

シリアル番号 1077

書名

最高裁の暗闘 少数意見が時代を切り開く

著者

山口進、宮地ゆう

出版社

朝日新聞出版

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

2011/1/30第1刷

購入日

2011/02/28

評価

朝日新書

2011年2月7日東慶寺座禅会で「おれの悪口が書いてあるから読んでコメントくれ 」と才口氏から手渡される。出たばかりの本らしい。その後、巨済島だ、鬼怒川合宿だ、登山だと方々駆け回っていそがしく、読む暇がなかった。ようやくしなければならぬことが一段落したので読んでみる。

悪口うんぬんというところは雲隠れしたことを言うらしい。倒産弁護士という経歴をもっているので切った張ったはなれている。婚外子の相続分を定めた民法の規定が合憲か違憲かの訴訟の時のことである。才口氏が主任となって大法廷で審議することになった。才口氏は無論違憲派。違憲判決したら影響はどのくらいになるか法務省に問い合わせたところ4-5万人が対象になるだろうという資料がでた。この資料を15名の全裁判官にまわしたところ合憲派で内閣法制局長官出身の津野は資料を撤回せよと要求。違憲派は一旦見てしまった資料は返せないと抵抗。合憲派を敵に回しては元も子もなくなる。才口氏は調査官に資料を撤回するよう指示して雲隠れした。合憲派は主任が雲隠れしたと怒ったが資料は撤回されて内心ホットする。こうして内閣法制局のメンツを保ちつつ、合議を重ね多数派工作をした。結局、違憲派が多数となり、最高裁が政府における内閣法制局の長年の独裁を骨抜きにしたということのようだ。まあこれは上手くいったが 、どうしても少数派になって負けてしまうことがある。このときは捕捉意見とか反対意見を文書として残せる。これが後世に影響を残し、次第に主流の考えとなり、法を変えるという力を持つので、大事にしなければならないというのが本書のテーマ。才口氏は5年間の任期期間中捕捉意見を6件、反対意見を4件書いている。

さてこの本の後ろに米国の例がでてくる。米国でも意外に男女は同一賃金ではない。グッドイヤー社での差別の補償を訴えて最高裁まで争い僅差で負けたリリー・レッドぺパーという女性の話は感動的だ。女性判事のギンズバーグが痛烈な反対意見を書いてくれたのに元気つけられ、それから10年間、ロビー活動してオバマ大統領にリリー・レッドぺパー平等賃金法を立法させたという。勝利の瞬間に長年苦楽をともにした夫をガンで失う。

裁判制度導入の原動力は司法制度改革審議会の会長だった京都大学の佐藤幸治教授だという。

才口氏は最高裁判事に任命されたときに自分の法律事務所は閉鎖した。退任後はJALの後始末をしていたが、今月総勢500人のメガ・ローファームの顧問になった との挨拶状をもらう。


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