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1st
International Conference on Nuclear Risks
NURIS 2015
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福島第一事故のあと、事故記録から原発事故は「べき分布」になると証明した論文を千葉工科大の荻林先生とまとめたが、日本では査読者の意向に沿わない論文
は没になるだろうとはじめから英文でとりまとめ、海外の論文誌に投稿したが、ここでもなかなか査読まで到達しないうちに3年が経過してしまった。
たまたま、ケルン在住の望月氏にウィーンでNURIS2015なる原発のリスクに関する国際会議が開催されると聞き、応募したところ、新参者ながらかろう
じてポスター・セッションで発表する機会が得られた。ポスター・セッションといっても、司会の采配の下にスライドを使って15分間の口頭発表と質疑応答を
行った。
たまたま、ウィーン観光していた2015/4/15福井地裁の樋口英明裁判長が高浜再稼働の即時差し止め刈処分という判決を出した。「再稼働の可否を決め
る新基準が甘すぎて人格権が侵害される」とした。ならばウィーン観光を兼ねたとはいえ、わざわざ自腹切ってでかけることもなかったのかなとも思った。しか
し川内原発の差し止め訴訟は
却下となったので、司法は官僚無誤謬説にたち、行政
官ともども国家を不当に乗っ取っていることが明らかになった。無駄ではなかったと思いたい。
以下は会議の速報である。全プレゼンテーションはNURISのサイトからダウンロード可能である。

会場となったWilhelm-Exner-Haus
第一日 2015/4/16
原子力業界にとっては部外者であるのに15分間の口頭発表はできたし、参加者の反応
も分かった。月末までに提出すれば論文も収録してくれると会長のWolfgang
Renneberg氏に直接確認できた。向うからは「日本は遠いので誰に参加してもらえば良いのかわからず苦労し
た。旅はどうだったか」と気を使う言葉があった。地震で配管が破損していたという仮説を発表した田中氏は「たのまれたのでやってきた。論文を書けなんて聞いてな
い。いつまで出せばよいのか聞くなんてこまったことをしてくれた」とご機嫌ななめ。
透明性確保のための報告書作りで査読の大切さが議論になったが、日本ではどうかと聞かれた佐藤氏は「日本では論文書くときは査読者がどういう話を聞きた
がっていることを知らなければ論文なんてかけない」とかなりきわどい表現をした。私も同じ思いで日本語で書くことをはじめから断念して英語で書下ろし、捏
造だと言われないために参考文献リストのほうが本文より長い論文を書き。3年かけてようやくウィーンでデビューすることになったのだ。
ポスターも折角作って持ってきたからと、壁に張り、コーヒータイムの時に議論を吹っかけて、「おれもそう思っていたんだよな」と大方は合点してくれた。事
故による死者数ではなく、補償金の根拠となる人々が住めなくなる面積の指標として放射性物質の放出量。すなわちベクレルまたはキューリーで表現される放出
量と
の関数として確率をまとめたところがミソだと説明すると、放出量と汚染面積との関係はどうなっているのかと質問がでた。ならばと主催者の夕食会には参加せ
ず、放出量と汚染面積との関係に関して同じ質問がでたときのために予め分かりやすい表をスライドに追加した。
日本では政府とパブリックの対話はどうしているのかと言う質問に佐藤氏は、「権威主義的な現政権は何もするつもりはない」とつれない返事。米国の規制委
員会の委員長を務めたヤッコさんが前の席に座っていたので私は「政府とパブリックの対話は裁判所を通じてやってます。」とはなしたところ、「それはア
メリカも同じだ」というで、「いや日本はアメリカのやり方をコピーしたんです」というと苦笑いしていた。
ところで佐藤さん、と田中さんには有名な原子力調査室の澤田さんという女性ともう一人上澤さんという若い数学者が同行していた。多分主催者が原子力調査室
に頼んでこの2名を推薦してもらったのではないかと推察している。資金は寄付金だとか。
私としてはGEに勤めていいた佐藤さんの頭の中は殆ど米国人で、私も似たような経験があるので気持ちが良い。田中さんは千代田の社長をした関さんとは大学
の同期だという。
明日の私の話しは田中さんの仮説を一部矛盾するところがるので事前了解を得た。
第二日2015/4/18
原子力資料室の上澤さんが昨夜私のHPを読んでいたら、この会議にも参加しているプリンストン大のM. V. RAMANAに言及されてますね」と言われて???
そういえばそもそもこの
問題にとりかかろうとしたときに望月さんに教わってBulletin
of Atomic Scientists 1 9 April 2011掲載の彼
の論文を読んだことを思い出した。早速「あなたの論文をよんだのがこの道に入るきっかけになった」と自己紹介した。最後の解散会の時にやってきて私の発表
は聞けなかったが、もう一度その話をしてくれという。今回発表した論文はBulletin of Atomic
Scientistsには断られたことを話したら俄然興味を持って、論文送ってくれといわれ、名刺をもらった。
さて私の発表だが直前に
係りから中国からの発表者と交代してくれないかと言われた。その理由は別室の発表とダブっていたため。プログラム作成者のチョンボ!!
その中国人
のテーマが核融合の確率論的安全解析の話だったので、これをうまく使い、私は原子力は門外漢だが、LNGプラントの基本設計では当然確率論的安全解析をし
た。システムとしての信頼性をあげるための多重化の効果が数量的に明確になり、設計ツールとしては有効なのだが、正規分布をつかうので、どうしても100万
炉年に1回などという非現実的な楽観的な数値しか出ない。実際にはプラントを動かすには運転員、保守担当者、中間管理職、メーカー、トップマネジメント、
規制当局の役
人、政治家が絡んでシステム全体は複雑系となる。複雑系は確率分布はべき分布(パレート分布)に
なるはずだし、実際の事故確率は数千炉年に1回程度なのでおかしい。そこで
経済物理学の荻林先生と組んで本研究を開始し、べき分布であることを確認したので報告するとスタートできた。結果は福島クラスの事故は2,900炉年に1
回、日本に50炉あるとすると58年以内に1回発生するのだ。チェルノブイリクラスですら14,500炉年に1回、日本に50炉あるとすると290年以内
に1回発生するのだ。100万年に1回など電力業界の大ウソなのである。
ところが日本製のポインターとスライドコント
ロールが一体となったものは小さすぎてポインターを使おうとするとスライド交換ボタンも押されて、画面が頻繁に変わってしまい苦労した。
田中氏の事
前の合意を得て、中性子計測管の炉外でのシールの有無がBWRとPWRの運命の分かれ目だったこともBWRとPWRの確率分布が一直線にならない理由だと
話した。結論は今
後チェルノブイリ級は今後30年間に発生しないとは言い切れない。私は30年は生きられないが、今後もこの図の穴埋めをしてゆくつもりだというというと、
のけぞる人がいた。
質問は時間
が無くて飛ばした確率の求め方、放出量の分母となる発電量はどうやって計算したのかという実務的なものであった。論文はポストコンファランス論文集に投稿
するからそちらを参考にしてくれと宣伝しておいた。帰りがけに、組織委員長にしつこく論文集印刷を確認した。4月末日必着とのこと。
さてこの会
議の参加者の30%は各国のNGOと規制当局ではないだろうか?日本の規制当局はいなかった。澤井さん率いる5名は無論のこと、米国、ヨーロッパ各国から
主として、廃炉、使用済み燃料処理に物申
すNGOが沢山参加していて、半分は女性。なかなか元気で弁が立つ。なかでも変り種はものすごく怖そうな日本では見かけない巨大な3歳の犬を護身用に連れ
歩く若い細身のMs. Kendra
Ulrichで
あった。質問といって話し出したら止まらない。実際には意見を表明しているのだ。学者というより運動家(アクティビスト)カルフォル
ニアのMHIの蒸発缶のチョンボの質問と見せかけて宣伝している。隣にいたので、カルフォルニアに住んでいるのかと聞くとワシントンDCだという。現在は
グリーンピース・インターナショナル、アムステルダムでエネルギー・キャンペイナーをしている。そして
6月には日本グリーンピースの招きで来日し反原発運動の指導をするんだとか。犬の方も事前検疫のための専門家を雇ったとか、金持ちの娘なんだろうな。FB
では Antioch University New England M.S. Environmental
studies卒。その後、グリーンピース・ジャパンにしばらく居て、2018年にはStand.earthの活動となっている。
ドイツのペブル型ヘリウムガス循環炉はガスゆえに使う金属材料がおおくて高くつき、活放射線を帯びるよ
うになり、ペブルが割れて廃炉は困難を極めている。
オーストリアにも原
発が2基があったそうだが、1基は1度も運転せずに、廃炉にすることに決まっているそうだ。使用済み燃料の一時保管法について当局側の参加者とNPOが侃
侃がくがくの議論を
していて面白い。当局側の発表者に質問をぶつけた人に当局側が「あなたはドイツからいらしたのですか?」などととぼけて聞く。皆自分の庭の事は気になる。
私は中立な立場だがどうみてもNPOの言い分が正しいように見えた。
スエーデンの5cm厚の銅容器を粘土層に埋める構想、直径25cm、深さ5kmの縦抗を掘削してそこに収納という代案は面白いが実証できない。
ピストナー氏のPartitioning
and
Transmutaion(パーティション化と焼却)の話を聞いたが、プルトニウムとマイナーアクチニドを分離するなどちうことは六ヶ所村を動かすという
話になり、大体うまく動かないし、金がかかり過ぎるように思える。木下さんの熔融塩炉によるプルトニウムとマイナーアクチニドの焼却構想も、コストという
壁が立ちふさがっていると思う。
日本政府が原子力をあきらめきれない理由の一つにVurtual Nuclear
Weponsという概念があるという話もでていた。
もう一つ、私が属した
LNGの国際コミュニティーは全部で3,000人規模で30年間メンバーの入れ替えはなかった。原
発コミュニティーは小さく感じた。
帰りがけにNURIS 2015の代表の Dr. Wolfgang Rennebergに
Post
Conference Proceedingsに我々の論文を掲載してくれるように依頼した。
帰路、地球物理学の学者と一緒になったが毎年、ウィーンの国連都市で開催される地球物理学会に参加しているという。なんで日本の原子力規制当局の職員はこ
ういう場に出てこないのかとも思う。井の中の蛙になっているのでは?
後日談
帰国すると追っかけるように米国の技術雑誌社から投稿しないかと声を掛けられたが、調べると金をふんだくられそうでやめた。
ポスターセッションで一緒だったMr. Ilya ZhuravlevからETH Zurich, Department of
Management, Technology and Economics, SwitzerlandのSpencer Wheatleyが「Of
Disasters and Dragon Kings: A Statistical Analysis of Nuclear Power
Incidents &
Accidents」という類似論文を4月15日に発表しているのをみつけたと知らせてきた。
興味がある方はコーネル大学の
アーカイブからダウンロードできる。
こちらは3年前にまとめているのに出口がわからずウロウロし
ているうちに先を越された。これをだれか経産省に届けてほ
しいものだ。そうすれば経産省が4月末に発表した原発が最も安い電源というのは真っ赤なウソであることが分かるはずだ。
ただSpencer
Wheatleyは変数として事故被害額をUSドルでまとめているため、福島第一が史上最大の事故となっている。私の論文は放射性物質の放出量を変数とし
たからチェル
ノ
ブイリが最大となる。そして私の論文は別の関係式を導入して放射性物質の放出量と事故被害額を関連つけているのでもっとフレキシブルに対応できるのが特
徴。
隣家でフジTVが制作したテラスハウスのロケ地に殺到するファンを整理する守衛と話すと、善良なるこの守衛殿は政府のいうことはやむを得ないと思っている
ことが
分かった。私の義務として彼が理解できる程度にべき分布について解説し、そこから原発の原価計
算をやさしく解説する本を書かねばならないと思い立った。
ガラス製品をコンクリートに落とした時、大小のかけらに割れる。そのかけらの大
きさを両対数目盛の横軸にとり、かけらの数を縦軸にプロットすると直線となる。これは「べき分布」という。地震の規模を発生確率も同じ。岩盤
ですらストレスが溜まれば、いつかは破壊されて大地震を起こす。ネパールの惨事をみれば明らかだ。
共著者の荻林先生は経済物理学の手法で人間社会の個人の行動をC++でプログラムを書いて自由に泳がせ、経済現象は「べき分布」になることを証明してい
る。それと
おなじことが生じるはずだ。トマ・ピケティをまつまでもなく個人資産と人口の関係もパレート分布になるし、戦争の頻度と死者の数もそうだ。
なんと原発もガラスや地震を起こす岩盤と同じことになる。なぜそうなのか?それはそれを企画、設計、運転するのも人間、製作するのも人間、規制するのも人
間、法律を作るのも人間だからだ。人間のすることは頼りなく出たらめで、身勝手だ。要するにガラスのように脆い。たとえば東電内部で津波の危険を予測
した人たちがいたが情報を上にあげて、対策をたてようという人はついに現れなかった。事故後は規制委員会が津波対策や予備の発電機をおくことは要求したが
本質的な対策は何もしてない。ご都合主義なのだ。だから再スタートすれば必ずどこかが事故を起こす。特に日本が危ない。社会がガラス化し、ストレスもます
ますため込んでいる。原因が津波ではないことだけは確かだ。規制委員会はそのためだけに存在したことがやがて明らかになるだろう。
タイトルは「ガラスの原発」とでもしようか。
ところが友人達にこの本を書く構想を披露したところそんなものだれも読まないから意味がないといわれた。とはいえ、「憲
法と原子力」で考察したように政治はもう一度事故がないと変わらないだろうと予想される。
このように事故確率で攻めることは手詰まりと感じていたところ、思
わぬ援軍がシリコンバレーのイーロン・マスクから届いた。テスラ社が家庭用10kWhのリチウムイオン電池を10
年保障で42万円で市販すると発表した。
電池単価42,000yen/kWである。2025年までには更に2000$/10kWhにするという。パナソニックの技術で成し遂げた。パナソニック
の経営者は経営の才がないこ
とがわかる。そうすると「事故賠償額を算入した原発発電原価は再生可能エネルギーに勝てるか?」のスライド20に書いてあるようにPV
と組み合わせて電気料金が現在の30円/kWhより安くなる。
これで決まり。経産省がウソ八百御託をならべようと、原発が安いどころかオフグリッド運用できる屋根付き住宅地の家庭は自家発より高価な電力を購入しなく
なるだろう。したがって電力網
不要となる。街から電柱がなくなってようやく日本も西洋なみになって観光立国が可能となる。そういえばウィーンの住宅地に電柱あったか撮影した写真をみて
みたら、路面電車の架線以外一切なかった。まー!やっぱし日本は後進国なのだと再認識し
た次第。原発なんか無論不要。
安倍首相に告ぐ。そもそも、化石燃料をタンカーで運ぶというオールドパラダイムに立つから、ホルムズ海峡やスプラトリー諸島の砂の長城が問題になり、貿易
収支が問題となるのだ。代わりにPVを日本列島の1.8%に敷き詰めればエネルギー輸入は不要となるのだ。水素エネルギーなんて全く無意味。二次電池にた
めればいいだけ。エネルギーを買うために無理して中国と製品
価格競争を行う必要はない。もし三本目の槍である
技術・産業革新をしたいなら、まず原発という旧式仕掛けを廃棄し、命がけで再生可能エネルギーに賭けなくてはならない。そうしないと新技術と新ビジネスは
生まれない。
今の産業構造を温存し、ダメな経営者を退陣させず、日銀に札を印刷させ続けたって、すでにPV製造コストでは中国に負けた。これから
イー
ロン・マスクは中国に蓄電池工場を建てるだろうから日本の出番はまったくなくなる。極東の失敗国家となるのだ。首相の怠慢として弾劾されることになるだろ
う。
April 19, 2015
Rev. April 16, 2020