高速増殖炉「もんじゅ」見学記

 

2010年9月24日、ECHOR会主催者の石井さんが高速増殖炉「もんじゅ」の見学会をアレンジして下さったので参加させてもらった。石井さんは東電 の原子力開発研究所副所長を勤めた方である。若き頃、日本原子力開発機構の大洗研究開発センターに出向し、ナトリウム循環ポンプを研究 していたという。一般見学ルートでは立ち入れない心臓部まで見せてもらえるチャンスと思って参加させてもらった。明電舎OBで送電網の避雷器の専門家の小林氏も同行した。

新幹線米原乗り換えの特急でJR敦賀駅に到着。日本原子力開発機構の出迎えの車で「もんじゅ」に向かう。途中、関西電力の美浜1-3号原発 (PWR)の前を通る。1991年には2号炉の蒸気発生器U字型伝熱細管が流体振動によるフレッティング疲労(摩擦疲労 fretting fatigue)が原因で破断し、MHIが熱交換器を交換したことがあった。2004年には3号炉の2次系低圧蒸気配管がエロージョン減肉で破断し、5名 の死亡事故をだした曰く付きの原発である。このとき885トンの冷却水が漏出している。この量は2次系冷却水全体の約8割に当たる。補助給水ポンプが稼動 し、冷却水の補充が行われたが、1次系と熱交換を行う蒸気発生器の水位は約3分の1まで下がり、冷却材喪失事故一歩手前であったという。

トンネルをくぐると白木地区に入る。トンネルの入り口で日本原子力開発機構の警備員が詰める関門がある。警備員は地元採用という風情だ。白木地区は 山に囲まれた陸の孤島でこのトンネルがなければ海からのアクセスしかなかった。いまでは専用の立派な漁港を持っている。そもそも「もんじゅ」は関電の美浜 1-3号と敦賀1-2号原発 (BWR)に囲まれた白木地区が生き残るために誘致したのだという。

エムシー・スクエア

まず一般見学コースとなっている研修施設のエムシー・スクエア(E=mC2をもじって)に立ち寄る。 ここから「もんじゅ」を遠望できる。記念撮影。

記念撮影

高い煙突状のものは建屋換気筒。中央ドームは格納容器。1次系と2次系中間熱交換器(2パスの縦型管板型、実証炉ではポンプ一体型1パスの縦型管板型)は すべて格納容器内に収容。格納容器の廻りの補助建物には3系列(実証炉では2系列)の2次系が収納されている。格納容器手前の補助建物屋上に設置された3 個の箱の中には2次系ナトリウムー水熱交換器(スパイラル型、実証炉では直管2重伝熱管としてナトリウムと水の直接接触を避ける)の安全弁放出ドラムが格 納されている。3系統の緊急ディーゼル発電機も用意されている。

「もんじゅ」遠望 

エムシー・スクエアでは眼鏡をかける3Dハイビジョンを見る。内容は手前に木の枝が飛び出る映像と奥行きのある映像の差は分かったが内容がどういうものであったのか記憶はまるで残っていない。3Dハイビジョンなどに期待する向きもあるが 内容がなければ意味はない。

いただいた資料には過去の高速増殖炉開発の歴史と今後の予定が次ぎのように書いてある。

1977年、高速実験炉「常陽」初臨界

1994年、280MW原型炉「もんじゅ」初臨界

1995年、ナトリウム漏洩事故

2010年、運転再開、軽水炉の新設リプレース開始

2013年、本格運転

2025年、500-750MW実証炉

2050年、1.5GW実用炉で新設軽水炉のリプレース開始

高速増殖炉は当初はプルトニウム生産が目的であったが、時間の経過とともに軽水炉で副産するプルトニウムもたまり、核兵器解体でだぶつくプルトニウム239やウラン235より 高速増殖炉で作るプルトニウム239はコスト高となってしまった。

軽水炉は熱中性子を使うため、超ウラン元素(マイナー・アクチニド) やプルトニウム238や240など偶数番のアイソトープを副産する欠点がある。一方、高速中性子を使う高速炉は兵器級プルトニウム239を高濃度で生産し、マイナー・アクチニドを燃すことができる。「もんじゅ」 で兵器級プルトニウム239 を生産することは核拡散防止上できないので、プルサーマルで発生するマイナー・アクチニドを燃して放射性廃棄物の減量をすることを目的にするという。

エムシー・スクエアの展示品

<プラスチックモデル>

まず設計時に作ったプラスチックモデルを見る。現今ではこのようなものは作らない。3D CADですましてしまう。ナトリウム2次系は3系列用意されている。

<ナトリウム漏洩事故>

次に1995年10月40%出力運転中に発生した2次ナトリウム系の漏洩事故の原因となった熱電対保護管(ウエル)が展示してあった。2次系のナトリウム 配管が格納容器から出たすぐの所の温度計の保護管が段付部で折れ、ナトリウムが流れ出し、空気と反応して燃えた事故である。保護管の両側に出来る対称渦 (渦が円柱の両わきから交互に発生するカルマン渦ではなく、円柱の両わきに同時に生じる渦。対称渦は円柱の振動と同期して放出されるが、下流部で直ちに合 体して、交互に配列するカルマン渦の如き配置となる)によって振動し、応力集中のある段付部が疲労破壊したものである。

対策としてはウェルの段付部をなくし、テーパーをつけ、挿入深さを減じた。コンクリート床は全て鋼板を敷き詰め、2次系配管を収容している補助建屋も不活 性ガス封入とした。(格納容器は当初から不活性ガス封入)たったこれだけの修正をするために高速増殖炉を継続すべきかの議論に5年かけ、原子力長期計画が 確定したのは2000年。この間に東海村の 再処理プラント火災、スーパーフェニックス廃炉、JCO臨界事故などが相次ぎ、逆風が吹いた。その後の4年は許認可の行政手続と最高裁行政訴状に費やし、 実際の工事は179億円かけて2年、確認試験2年と合計14年かかっている。現在日本原子力開発機構の職員350名、アウトソーシング350名、三菱、東 芝、日立3社計400名が働いている。

<ナトリウム循環ポンプ>

三菱重工製のナトリウム循環ポンプの実寸大のカットアウトモデルが展示されていた。 縦型片持ち単段遠心ポンプである。インペラー近くはナトリウム・ベアリング、その上に潤滑油を使うベアリングがある。カーボンと超硬金属を対にしたメカニカルシール 上下2個が潤滑油ベアリングを守る形でスリーブに取り付けられている。本質的に軽水炉の循環ポンプと同じ原理である。

ナトリウム循環遠心ポンプの実寸大のカットアウトモデル

長期間停止している間にナトリウムの純度が下がり、ベアリングに固着して、再スタートができなかったことを経験している。アルゴンガスでシールして いるとはいえ、運転中にナトリウム酸化も進むだろう。不純物が析出して運転中に固着すると冷却材損失という事態になる。当然制御棒を落とし、残る2系統 (実証炉は1系統)で空冷で崩壊熱を除去することになる。

ところで実証炉は1次ナトリウム循環ポンプと1次/2次熱交換器を一体化してコストダウンするという。 この一体型はポンプ振動で伝熱管がレッティング疲労することが危惧される。ならばそのコンセプトの試作機を「もんじゅ」に装着して予備実験するのが開発を スピードアップさせる方法だとおもうのだが、その計画はないらしい。2025年の実証炉でつまづいて、結局2050年の商用炉投入は実現できないのではな いかとの予感がよぎる。

実証炉では自然循環による崩壊熱除去システム(DHRS)を採用するという。これなら循環ポンプが止まっても崩壊熱の除去はできる。

電磁ポンプも展示されていた。リニアモーターのように平べったく展開したコイルの中を扁平で薄いステンレス製のダクトが埋め込まれている。石井さんによれば電磁ポンプはクリアランスを小さくできないため、効率が低く、ほとんど加熱器といっていいものだったという。

<蒸気発生器>

蒸気発生器のカットアウトモデルがあった。スパイラル・ワウンド型である。混合冷媒を使う天然ガス液化器と同じ構造である。チューブバンドルは青色のマン ドレルに巻きつき、黄色のサスペンダーで吊り下げられている。冷却水はチューブ内を流れるうちに加熱されて水蒸気になる。チューブの出入り口は全てシェル 上部鏡板に溶接されたチューブシートに繋がっている。水はバンドルの外側環状部を通って下部に至り、ここからコイルに入る。ナトリウムは上部からシェルに 入り下部に抜ける。チューブの太さは19mm程度だが 、コイル上部のサポート無しの距離が長い。ここでチューブが振動してフレッティング疲労があるのではと質問したらシェルサイドのナトリウムの下方流速が遅 いので40%負荷では問題な かったとのことであった。

実証炉では伝熱管にピンホールが発生したときナトリウムー水の直接接触を避けるため、直管密着二重管型を採用してスパイラル・ワウンド型は採用しないい。 それは良しとしても、不思議なのは実証炉で採用予定の直管の二重管型の試作機も「もんじゅ」に装着されていない。いきなり実証炉で試すらしい。この1本に 絞って突っ走るという国家研究の方式の 金と時間の無駄は六ヶ所村のガラス固化炉の失敗で学んだとおもうのだが、直らない。

蒸気発生器

<炉心構造>

核燃料はペレットをステンレス製の被覆管に納めたものである。これにステンレス針金を緩やかに巻きつけてスペーサーとし、ステンレス製の六角形のラッパ管 に232本納めて燃料集合体とする。こ の六角形のラッパ管108本と六角形の制御棒案内管をバンドルして六角形の蜂の巣状の炉心とする。制御棒は制御棒案内管に常にとどまり、中で上下するだけ である。炉心にウラン235とプルトニウムからなる燃料を入れ、周りにウラン238からなるブランケット燃料を装填する。これが高速中性子を浴びてプルト ニウムに変わるのだ。

この燃料は4年に1回のサイクルで順繰りに交換する。現在のステンレス製の被覆管は4年もたないので次世代高速増殖炉には粉末冶金法で製造するスーパーODS鋼(Oxide Dispersion Strengthened Steel)の使用が予定されている。

原子炉の重い鋼鉄製(パチンコ玉が充填されている)の遮蔽蓋(固定プラグと呼ぶ)には少し小さい回転蓋(回転プラグ)が偏心位置に組み込まれている。制御 棒駆動装置、燃料交換 装置など炉心上部機構はこの回転プラグにぶら下がっている。燃料交換はこの回転プラグを回転させて制御棒駆動装置を炉心から周辺にずらす。これに交代して 燃料交換機が炉心の上に移動することになり、使用済み燃料集合体を取り出して炉内中継装置 (furnace relay device)上に運び、使用済み集合体を炉内中継装置の中に下ろす。炉内中継装置は別の小さな回転プラグに乗っている。新しい燃料集合体を炉内中継装置 から取り出して、炉心の空きの位置に挿入するという作業を繰りかえす。劣化した制御棒は制御棒案内管毎、同じ操作で交換する。(1本引き抜いても臨界には ならない)この1サイクルは90分かかる。この重い回転プラグ方式は 大洗の常陽、フェニックスにも採用されている高速増殖炉の標準的な方法だという。

実証炉は小型化のために 大回転プラグと偏心位置に組み込む小回転プラグの偏心位置に炉心上部機構をぶら下げる方式であった。しかしまだ大きいので、偏心位置に組み込む単回転プラグに切り込み付き炉心上部機構を偏位置にぶら下げる方式を採用するらしいが、まだMHIによる試設計段階のようだ。

制御棒駆動装置の下面には炉内温度分布を測定するための多数の温度計がぶら下がっている。常陽の回転プラグを回したとき、 炉内ラック上に突き出たMARICO-2の試料部から外れたハンドリングヘッドが、炉心上部機構内にあるMARICO-2の保持部に接触し、炉心上部機構 の下端の整流版を変形させたことがある。不透明なナトリウムのため、視認によるフィードバックが出来ず、リスクが残るところだろう。制御棒駆動装置がスク ラム信号を受けても、制御棒が機械的に引っかかって落ちないという可能性は否定できない。炉内中継装置を落とした事故はこの危惧を抱かせる。加えてホウ酸 溶液のバックアップもない。制御棒は複数あり、1本位落ちなくても、余裕はあるのかもしれないが、気がかりである。ただ実証炉では電磁石で制御棒につけた 永久磁石を吊り上げる方式を取り、高温で永久磁石がキュリー点を境に強磁性から常磁性低下する特性を利用した自己作動炉停止機構(SASS)を採用すると いう。制御系が作動しなくとも反応は自動的に停止する。SASSは常陽で実機テストしているという。

炉内中継装置は燃料棒交換時に高温のナトリウム液と空気の接触を防止するためのコンテナーである。この2010年8月26日に長さ12m、重さ3.3トン の炉内中継装置がグリッパーからはずれて炉心近くに落ちる事故があった。ナトリウムは透明でないためどのような損傷があったのか確認に手間取った。原因は グリッパーを開閉する カムを回転させるピンが折れたためである。グリッパーは炉外に引き出せる部分であるから修理して吊り上げ作業を2ヶ月遅れで開始したが2010年10月 13日に吊り上げ加重異常で作業を中断した 。

炉内中継装置は直径46cm、高さ12mの円筒状。内部に燃料を通す案内管が外側と内側の二重になっていて、内側は5本の筒を縦に重ねた構造。外側は2本の筒をピンでつなぎ合わせている。 調査では、先端に鏡を付けた器具を案内管の中に入れて内面を観察。上から2番目と3番目継ぎ目部分の外側の上部の筒が落下の衝撃で変形し、直径が1cm膨らんでいた。原子力機構はグリッパー(つかみ具)を使用した方法で引き抜くことはできない」と判断。 別の回収策として、回転プラグのスリーブと呼ばれる部品を外し、中継装置と一緒に引き抜くことにした。炉内に空気を入れないように大きなさやを作ってスリーブ毎引き抜き、新しい スリーブも含め、交換することになり、大規模な工事が必要となる。2年遅れの2012年が運転再再開日となるのはない か。停止中も維持費は一日当たり5,500万円である。壮大な無駄使いである。民主主義国は金くい蟲として全て実質撤退している。民主党よどうする。

炉心下部には炉心メルトダウン時、再臨界回避のために平皿を設置。

ナトリウム取り扱い研修棟

ここでは金属ナトリウムが燃料集合体を通って溢れるさまをみることができた。水銀のように見える。むろん不活性ガス存在下での実験。

六角形の燃料集合体を通って溢れる金属ナトリウム

次に常温のナトリウムの塊を空気中でナイフで切断する経験をした。固めのチーズを切る手ごたえである。切るとたちまち表面が酸化して曇る。このナトリウムを空気中で加熱すると溶けて着火し、激しく燃えて、酸化ナトリウムの黄色い塊になる。これに水を注げば苛性ソーダ となる。

燃えるナトリウム

ホンダエンジンのエギゾースト・バルブ軸にはナトリウムは封入されていて、ヒートパイプとして弁座の冷却をしていたと図解と実物が展示されていた。

保守研修棟

燃料取り扱い動作学習モデルを動かして立体的に燃料交換法を学んだ。炉内中継装置から取り出した燃料集合体は水洗してから保存される。

格納容器内部

「もんじゅ」構内に入るゲートには武器を持った警察の車が常時待機している。構内は撮影禁止のため会議室にカメラと携帯は置いてゆく。

原発建屋内の格納容器内に入るには柏崎刈羽原発見学と 同じく、靴と靴下を交換し、白衣を着て線量計を持ってゲートをくぐらねばならない。ドーム状の格納容器内部は巨大だ。これだけあればナトリウムが全て気化 したとしても封じ込めは可能だろう。しかし実証機では小さな格納容器に大きな炉を詰め込んで価格を下げないと、コスト的に実用化は難しい。ナトリウムー水 熱交換器を2重管にする とか自己作動炉停止機構以外、特段の安全策が盛り込まれるわけでもなく、冷却系も3系列から2系列に減るため、実証炉は「もんじゅ」より危険な炉となるか もしれない。

床に穴が開いていてそこから覗き込むと原子炉の上端が見える。燃料交換のため、回転プラグを回して制御棒駆動装置は脇に移動してある。当面の急務であるつかみ損ねた炉内中継装置の回収の準備をしているのか大勢の作業員が働いていた。

交換燃料棒を運搬する機器用の巨大なレールが格納容器壁を貫通している。運転中はレールを取り外して搬入口は閉じる。

格納容器内を出て、着用していた靴、白衣、手袋を脱ぎ捨てて、手を洗う。線量計は0mSvであった。許容線量は胸部X線診断1回分と等しい0.05mSvである。ポケットに忍ばせていた放射能検出警報器の最低警報レベルは0.1レントゲン/時間(1mSv)であるから、最低警報レベルは許容線量の20倍であり、何の警報もださなかった。

エレベーターで下がって、中央制御室と、燃料交換用の大仕掛けの機器類を制御する部屋を見る。いずれもコンピュータ中心の制御となっている。9月2日、東 電福島1号で定期検査中に隔離時冷却系ポンプのタービンガバナーの信号ケーブルを指示間違いで取り外したため、試験中オーバースピードでトリップした。こ のような制御系のミスが一番怖い。今後も繰り返されるとしてシステム設計しなければならないのではないか。

外から見えなかったが中央制御室には各所に設置したカメラでナトリウム火災を大型スクリーンで視認できるようになっているという。

 
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最後に向井所長も加わって懇談した。所長の頭痛は国家予算が減って東芝、日立、三菱への支払いが遅れることだという。所長に研究開発では複数のオプションを同時平行で試験 する方式を採用すれば、開発費と時間が節約できるのではないかとの質問をしたが、返事を聞く前にお開きになった。

詳しい解説は高速増殖炉を参照されたし。

懇親会

駅前ホテルのルートイン敦賀駅前(Hotel Serial No.487)にチェックインしてすぐ案内をしていただいた日本原子力開発機構の理事I氏との懇親会に出かける。

懇親会では地方の首長は表向きは原発には厳しい姿勢で臨むが、本心は交付金が欲しくて原発を誘致する。そして固定資産税が減価償却でなくなれば使用済み燃料保管税なるものを発明して資金を得ようと智恵をしぼるという意外な事実を聞いた。

燃料再処理プラントと高速増殖炉の運転が大幅に遅れているのを見ていると「政府の核燃料増殖方針は見せ掛けで、コスト的に安い米国式のウランのワンスルー 利用が本心ではないかと疑ってしまう。首長も暗黙の了解で、使用済み燃料保管税なるもので収入を確保できれば任期中は過ごせると考えているのではないか」 と聞くと、それほど不真面目ではありませんとのことであった。

原子力委員会は文部科学省の管轄から内閣府の管轄になってからサポートする官僚の数が減り、力を失ったという。

石井氏の研究仲間だった人も懇親会に参加予定であったが、経産省の新任大臣へ説明するために炉内中継装置をつかみ損ねたグリッパーの構造の3次元図面を至急作れと命令されて残業し、参加できなかった。

役人の悪口はここで俄然熱を帯びる。送電網のサージコントロールの専門家のK氏は「避雷器はヒューズと同じように壊れることによって落雷を遮断する。この 避雷器の官庁立会い試験に関し、不勉強な中央官庁の官僚が避雷器の試験法なる通達書を書いた。地方の役人はこれを 文面通り守ろうとして高価な避雷器を壊してしまい困ったことがある」と物事の本質に気がつかない役人の愚行を笑った。関東地方の夏の積乱雲の落雷は5クー ロン程度のエネルギーだが、冬の日本海の1,000m位の高度の雲で横に流れる落雷のエネルギーは200クーロンに達する。横に流れるだけエネルギーを集 めるためだという。

懇親会ののち、K氏と夜の散歩にでて「気比(けひ)神宮」まで往復をした。さすが官幣大社、なかなか立派であった。「気比の松原」は既訪のため、翌早朝には総合知学会に参加のため、トンボ帰り。

2日まえの22日、富津岬突端の明治百年記念展望台で 風に吹かれている時、NHKの森本健成アナが女性ディレクターとやってきた。日曜日放映分の「おはよう日本」 で放映するイイダコ釣りの録画撮りをするのだといっていた。朝7:00TVのスイッチを入れたが尖閣列島で体当たりをした中国人船長を釈放したという ニュースがトップニュースとなり、富津岬の取材はぶっ飛んでしまった。森本健成アナは女性アナの朗読をただ聞くはめになっていた。 後で聞くとイイダコ釣りは前日の23日だったそうだ。

感想

遠い昔、原型炉といわれた「もんじゅ」はもはや過去の遺物となり、博物館展示程度の意味しかなくなった。まず世の中の風向はプルトニウム増殖炉から超ウラ ン元素の燃焼減量炉と目的が変わった。コストダウンのためにと実証炉は新しいアイディアのてんこ盛りとなり、実質的には新原型炉としか見えない。原型炉と しての「もんじゅ」が仮に上手くうごいたとしてもその成果は実証炉に利用できないのである。実証炉はどうかというとその構成要素は元祖原型炉である「もん じゅ」ではテストされず、今だコンピュータの中にあるアイディアにすぎない。仮に2025年に実証炉が完成したところで、「もんじゅ」と同じ運命が待って いるような気がする。

塩野七生が「日本人は選択肢を一つしか持たない」というがまさに名言。こうして「もんじゅ」にしても実証炉にしても選択肢を一つだけもって一生懸命ガンバルしか能がないため、金と時間がいくらあっても足りない。そのうちに太陽エネルギー利用に追い越される運命にあるのではないか? 電源別発電原価のトレンドに整理したように少なくともサンベルト地帯に立地する集光型太陽熱発電のほうが新型原発より安価な電力を生み出せる時代になったきた。 プルトニウム・サイクルがPVに負ける日は必ずくるだろう。

日本の再処理は「ウランとプルトニウムの共抽出(混合抽出)」だから兵器はつくれないと説明されている。日本のマスコミは不勉強で報道しないが、原子炉級 プルトニウムの50%/50%混合物の臨界量は兵器級プルトニウムの5.6倍にすぎないといわれる。ならば共抽出物11.2kgで粗製原爆が可能となる。 にもかかわらずウランサイクル構築のため、原子力級プルトニウムの再処理プラントを六ヶ所村に建設することは日米協定下で 共同研究という名目で特別に黙認されている。ちなみに韓国は再処理プラントの建設の了解はいまだ得られていない。 ウランサイクルを目的とした六ヶ所村の再処理工場は軽水炉の濃度の低いプルトニウム回収目的で設計されているため、高速増殖炉の廃燃料の再処理には容器の 規模が大きすぎて臨界事故発生の可能性があって使えない。別に専用のプラント(リサイクル機器試験施設等)が必要となるが、現在のところそのような再処理 プラントを日本は手にしていない。

もんじゅなど高速増殖炉はプルトニウム239の濃度が70%以上の兵器級プルトニウムを作る能力がある。兵器級プルトニウムは2kgあれば原爆を作れる。 混合抽出しても数kgで兵器になる可能性があるのだ。常陽やもんじゅの再処理共抽出物はより高性能な核兵器製造可能であるということになる。このような理 由でプルトニウムサイクル構築のため、大洗に建設しようとした専用処理プラント(リサイクル機器試験施設)の建設は核拡散条約に合格する製品がつくれない ためか、建屋建設後10年も止まっている。公式発表は高速増殖炉の湿式法再処理の要素技術はまだ要素技術開発中であるとし、2015年までに要素技術開 発、2025年までに実用規模建設としている。プルトニウムサイクルが構築可能かは不明である。実験炉の「常陽」が製造した60kgも燃料棒のまま大洗に 保管されているだけだ。

仮りに核拡散防止条約に合格する再処理が可能としても高速増殖炉の炉心燃料に使うプルトニウム富化燃料は白金族など貴金属を多く生成するので硝酸に溶解せず、未溶解汚泥を発生させ、液ー液抽出をするピュレックス法では収率低下のため、増殖比が1以下になる可能性もある。 (詳しくは高速増殖炉参 照) 仮に当初の目論見通り、増殖比=1.2が達成できるとしても。核燃料を倍増させるためには4回転させてようやく2倍のプルトニウム239を得ることができ るだけだ。そして1回転に炉内4年、冷却と再処理に4年、計8年かかるので32年必要となります。世界の一次エネルギー全てを原発で賄うためには10倍に しなければならない。そのためには13回転させなければならない。即ち104年必要となる。このように増殖炉路線は破綻しているのではないかと思われる。 そこで酸化物燃料を還元して電解で分離する乾式再処理構想がでてくるのだが、まだアイディアの段階にすぎない。

そこででてきたのが「もんじゅ」で軽水炉が作ったアクチニドを燃すという新たな目標である。これは米国でも目標にかかげていて、放射性廃棄物を減量すると いうことで結構と思うが、政府が国民に当初説明していた目標は増殖であるし、マスコミも破綻した増殖目的しか報道しないので大部分の国民はまだ未来のエネ ルギー源確保のためと理解している。しかし実際には 打出の小槌がゴミ処理プラントに化けたのだ。もんじゅは今後廃棄物処理プラントとして使った資金の回収をするハメになるのだろうか?いずれにせよ建前とホ ンネが乖離していて、文部科学省研究開発局原子力研究開発科はいずれ頓挫する研究に無駄な税金を要求し続けている。結果としてマスコミも共謀したことにな る。そして民主党の事業仕分けなどこれを仕分けることができず茶番劇にすぎないことが分かる。 民主党の存在意義は失われた。

文部科学省研究開発局原子力研究開発科作成の予算説明書によれば2009年までの建設費と維持管理費は9,000億円(内運転停止中の維持管理費 2,300億円)、今後も毎年200億円必要となる。2013年の本格運転まで性能試験をする予定だがこの間の発電量を関電に売ったところでたいした収入 にはならない。したがって予定通りであと400億円はかかる。総額1兆円だ。失敗すれば元の木阿弥。文部科学省研究開発局原子力研究開発科は4名の天下り 役人を守るため だったとしてその責任を取らされるのであろう。

October 2, 2010

Rev. February 19, 2014


その後、2011年2月、燃料環境課の課長の自殺死体が発見されたという。

肝心の引き抜けなくなっている炉内中継装置をスリーブ毎に引き抜く工事はいまだ邪魔になる配管類を切断する工事を2011年の春に行うというスローペースである。これは役所の給料泥棒のような行為としか見えない。 早く間違った国の原子力を変える必要がある。もれているところは福島原発の放射能だけではないのだ。

April 4, 2011

我々が見学した2010年9月24日の直前にもんじゅの落下して引き上げられなくなった炉内中継装置の引き上げが10ヶ月と17億円かけてようやく 2011年6月23日に回収できた。小林圭二・元京都大原子炉実験所講師の「もんじゅは軽水炉と比べ事故の調査、復旧に膨大な労力がかかる。これでは今 後、商業炉として実現するはずがない」との指摘の通りだろう。

June 28, 2011

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