もくじ


 幸かふくおか  〜「はかたより」〜 その5(その後)


『冬の蚊』
「冬の蛍」或いは「冬の花火」なんて題名だったら、小説や映画にもなり易いのだろうけれど、「冬の蚊」ではパン!と一発手を合わせておしまいである。だいたい「冬の蚊なんているの蚊?」「生きているの蚊?」「ハエじゃあねえ蚊?」「ホントに蚊蚊?」と「いるいる蚊!」「えっ?イル蚊?」「いやいや蚊ですヨ蚊!」「あ〜そうです蚊」てな具合で、いるんですわ、福岡には「冬の蚊」が!11月も終わるというのに。正確には、嗚呼哀しき晩秋の蚊といったところ蚊。 蚊の人体攻撃戦法というのは全国共通のようで、夜中人間様がぐっすり寝込んだスキに攻めてくる。しかも酔っ払いの吐く二酸化炭素が大好きというのだから、何考えてんだかホント頭にくる。「クオ〜ン!」と耳のあたりめがけて、さながら戦闘機のようにすっ飛んできた。「ん?」何か違う..そう、音の勢いが関東地方の蚊と少し違うような気がするのだ。「ク〜ン..クア〜ン..」ちょっと控えめに人間様の様子を伺いながら攻めてくるのが、関東軍攻撃一蚊ヘリコプター部隊。一方こちらは急襲軍(九州軍)攻撃一蚊戦闘機部隊といったところ。これには「蚊蚊ア天下」と言われる群馬県出身の俺も驚いた。「これでも蚊!まいった蚊!」 蚊の有名な憧れの作家椎名誠氏によると、蚊にもいろいろ種類があるらしいが、関東と九州では種類が違うのだろうか。この勢いの差は何なのか?姿形は似たように見えるけど。山で見かける大きな凶暴吸血蚊とは違うしなあ..シーズン最後まで生き残っている、最強の蚊「スーパー蚊ー」ってやつかいな? ムムムム!!ムを四連発したところで、遂に理由が分かったぞ!蚊というのは人間様の血を吸って生きているワケで、蚊にも性格があるとすれば、その性格は吸った血によって変わってくるのではないか?蚊が飛行機や新幹線で全国を移動するというのは考え難いので、当然自分の生まれ育った地で血を吸って生きていくワケだ。ということは「蚊にも県民性がある!」ということだ!うわあ!大発見!!つまり種類が違うのではなく、蚊の性格、県民性が違うということだ!! なるほど福岡の県民性を持った九州蚊は、人間様を急襲し血を吸収するのだ!?蚊蚊蚊蚊。理由が分かったら眠くなった..「クオーン!チクッ!」うっ!..


『とある晩の出来事』
悲しい事態になりました。今、僕は春日原の居酒屋「熊ちゃん」で飲んでいます。一人酒です。女房に逃げられたワケではありません。それじゃあ悲しい事態とは言わないのです。いやいや、でどういう状況なのかというと..うっ、今、モルツと書いてあるビールグラスの中に、涙が一粒こぼれおちました..聞いてください。順を追ってお話し致します。夜9時過ぎ、一日のお勤めを終えた僕は、いつものように通勤用スクーターで13キロ程離れた自宅へ向かいました。雨が降っておりましたので、買ったばかりの自慢のカッパを着込みました(誰に自慢するというワケでもありませんが..自己満足です)冷たい雨に打たれ、なんで自分はこんな夜中に雨の中バイクで走らなければいけないのかと思うと、この時点で既に涙がこぼれおちそうな状況ですが、ここはグッとこらえた若干31歳でした。10時近くやっと我が家に辿り着きました。水分を含んで少し重たくなったカッパを引きずるように外階段を上りました。ポッケに手を突っ込み部屋の鍵を出そうとした時、自分の体がブラックホールへ吸い込まれていくような感覚に襲われました。「鍵が無い..」どうやら会社に忘れてきたらしいのです。「ピンポーン」インターホンを押してみたところで何の応答もありません。妻は会社の飲み会とやらに出掛けているのです。その事を思い出した時、今自分がどういう状況に置かれているのかが理解できました。と同時に、遠くでクレヨンシンちゃんのモノまねでカラオケを歌う妻の陽気な歌声が聞こえたような気がしましたが、恐らく気のせいでしょう、そう思うことにします。唯一救いだったのはビニール傘が一本、玄関の外に出ていたことです。今の僕にとって一杯のかけそば以上にありがたい一本のビニール傘です。この傘のおかげで、僕はカッパを脱ぎ雨の中外を歩くことが出来るワケです。とりあえず玄関の前でじっとうずくまり、寒さに震えながら妻の帰りを待つというホームレスのような体験はしなくても済むのです。「あっそうか!」いいことを思い付きました。妻は最近PHSを買ったのです。僕の携帯電話は普段は着信専用のつもりで使っているのですが、今は非常事態なので仕方ありません。「プルルル..」留守番電話サービスとやらに切り替わりました。僕のSOSは届きません。何のためのPHSでしょうか。家の前に止めてある妻の車に乗れたらどんなに幸せだろうかと想像するとくやしくて、十円玉でキーッと傷を付けてやろうかとも思いましたが、きっと後でバレると思ったので辞めときました。仕方なくトボトボと雨の中を歩きながらいろいろなことを考えました。そういえば東京に住んでいた時もこんな事があったなあ、鍵が無くって。でもあの時は居酒屋「千曲」もあったし、近所に植原達もいたし、だいたいふろ場の窓から泥棒みたいに侵入できたもんなあ、ああニャンコのミーコは元気だろうか?まだ僕のこと覚えているかなあ?あ〜そうそう、ミーコといえば、こんなこともあったなあ。1、2週間程姿が見えなくて心配していたら、大家さんから「ミーコは車に跳ねられて死んじゃったよ、可愛がってくれてありがとう、庭に埋めてやったよ」と聞いてショックを受けていたら、数日後の雨の夜、妻と一緒に帰宅すると「コーポさつき」の階段下にミーコらしき猫がいて、でもすごく痩せていたしまさかと思ったけど、僕の前をタッタッと階段を上って折り返しの所で手すりの隙間から「ニャオ」とこっちを覗くそのしぐさで「あっ!ミーコだ!」って..僕も妻も涙が出るほど嬉しくって、すぐに大家さんに電話しながらシーチキンの缶詰食べさせてあげて..ううっ、あの時も雨の中で僕の帰りを待っていたのかなあ。なんでい!今の僕の状況と一緒じゃねーか!チクショウ。だけど僕の待ってる人はしばらく帰って来ないと思われ、とにかく今自分は異国の地「福岡」で一人ぼっちなんだと実感させられる状況なのです..というワケで、一人酒なのです。さらに夜は更け11時をまわりました。閉店時間は1時らしいけど、客は僕一人になってしまいました。家の留守電には「戻ったら携帯に連絡を下さい」とメッセージを入れてあるけど、念のためもう一度妻のPHSに電話してみます。ルルル..ピッ「ハイ!」「ハイ!?」つ、つながった!でも何だか様子が..「あ、塩川さんの旦那さんですね」ありゃ?「いま、ちょっと奥さん電話に出られなくて..」はあ?○×△..状況が全くつかめないけど、どうやらここからたった数百メートルの店にいるようです。そういえばそんなこと言ってたっけ、今更ながら思い出しました。ここまで来てやっと事件解決の糸口を見つけ、僕のとるべき行動はおのずと決まりました。まず目の前にある湯豆腐と焼き魚を大急ぎでたいらげ、店を出て、レスキュー隊員気分で両腕を直角に曲げ腰にあて「タッタッタッ」とさっそうと現場へ向かうのです。残念ながらこの後のことは某Mさんの名誉の為書けませんが、なかなかどうしてあらまあどうして分かるでしょ男の子でしょネこっち向いてのムーミンなのです。???