もくじ


  幸かふくおか  〜「はかたより」〜    まだ 準備編 (その1)

 1997年(平成9年)2月5日(水)6日(木)。

  親会社の、先代会長夫人のおかげで(社葬)社員旅行中止。せっかくだから福岡で就職活動でもしてくっか〜!
と、通算5度目の福岡行きとなったのである。しかも初の単身赴任、否単身飛行である。

 思い起こせば、初の福岡行きが平成6年夏、関父への結婚宣言(のようなものだけどまだプロポーズしてなかったりする..)その年の12月に早くも結納。3度目は翌年夏、名字が塩川になった美弥子さんと、、、何も知らなかった関おばあちゃんの納骨堂へ。4度目は平成8年9月、引っ越してくるかもよ発言。そして今回、正式に福岡進出が決まって就職活動の開始である。関取り就任後(?)約2年での福岡場所入りに向けての巡業(?)である。

  飛行機の運賃が3週前割引とやらのおかげで、往復3万6千円ちょっと。結構安く手に入ったのはいいんだけど、いつもの事ながら羽田空港までの距離と時間に腹が立った。しかも今回は通勤ラッシュにぶつかったので最悪である。まあ、東京の北のはずれに住んでいたら羽田まで遠いのは当たり前だし、通勤ラッシュが嫌なら時間ずらせばいいじゃね〜かと言われてしまえばそれまでだけど、とにかく大変メンドーなのだ。

 特に今回一番混雑したのは、浜松町駅からのモノレールである。通常羽田へはこのモノレールを利用するしかないというのに、その混雑度、高い運賃(470円)にはうんざりする。独占禁止法で取り締まってほしいものだ。

 最近のトレンディースポットだかなんだか知らないけど、天王洲アイルなる漢字カナ混じり意味不明駅があるんだけど、とにかくそのアイルまでの区間がひどかった。横長座席のすぐ前に立ち運良く吊革につかまれたものの、背中をグイグイおされて両手で前に倒れるのを防ぐのがやっと。しまいにはつり棚のバーに頭をくっつけて必死に堪える。もう壁状態である。こういう満員電車内では吊革につかまるような端の位置に立つよりも、ぎゅうぎゅう押しくらまんじゅう状態を我慢して車内中程に立ち、前後左右どちらさんもよろしくネと、逆に他人を壁にしてしまったほうが楽かもしれない..ということに今更ながら気がついた。でもいずれにせよ、俺にはこの東京の「超満員電車」と「交通大渋滞」は絶対に我慢ならない。この二つが無かったらもう少し長く東京にいたかもしれないなあ..

  なんてことを考えながら、ビッグバード羽田に到着。JASの機体がヨッコラショと浮かんで、手のひらの汗がジト〜ッとしてきた頃には、家を出て既に2時間半近くも経っていた。新幹線のぞみ号なら「東京〜新大阪間」または「博多〜新大阪間」(大阪が中間地点だと言いたかったのだ)の所要時間である。ああアホくさっ。

  やがて機体が雲を突き抜け、ああやっぱり太陽は燃えているんだなあと感じる程の日差しがジリジリする頃、スッチーの「おしぼりサービスタイム」である。椎名誠大先生の本によると「全日本いらないものベスト10」堂々第2位に輝いているが、俺のように離陸時、手のひらジットリ汗ひたい冷や汗付きものの人には大変ありがたいもので、ああとにかく無事に雲の上の人になれたんだなあと、ホッと一息のひとときなのだ。

 そういえば空港で飛行機が動き始めた時、整備士達が数人横に並んで飛行機に向かって手を振ってたけど、ビジネスマンばかりの平日朝の国内線には止めてもらいたい。なんだか、この世からさよならって手を振られているみたいで不気味だ。 で、そんな嫌な気分から解放してくれるのも、この「あったかおしぼりサービスタイム」なのだ。ついでに肩もみサービスやらなんやら色々あるといいのに..

  そして行きは1時間40分、帰りは1時間20分という(福岡に引っ越すと行きと帰りが逆になるな〜と気がついたりして)中途半端な時間を過ごすのには、寝てしまうのが一番よろしいのかもしれないけど、滅多に飛行機なんぞに乗る機会のない俺としては、もちろんそんなもったいないことはせず、あの耳に付けただけで痛くなる、逆さまよだれかけ風イヤホンを装着するのである。しかし何であんなに装着感が悪いのだろう?「イヤ!ホントニ!」とでも言わせたいのだろうか?..なんてくだらないこと言いたくなるのも、そのイヤホンで落語を聞いているせいであろう。滅多に乗れない飛行機で、滅多に聞かない落語を聞く。これ密かな楽しみだったりする。落語のオチで、気持ちをオチつかせる。ついでに飛行機もオチちゃったりして..ゾッ。こいつはオチオチしてられんぞ、なんて調子にのってるのは、春風亭りゅうちょう(字は知らん)の落語が面白かったせいである。結婚式の祝辞なんかを面白おかしく話していて、その中でのなぞかけ。「結婚と掛けてオリンピックと説く、その心は、金まで頑張れ」ワッハッハ〜!それじゃ、ほとんどみんな金まで行けずにコケるやん!..え?そうじゃない?

  成層圏突入、否雲の下の空に入り、眼下に本州と九州の架け橋、関門橋そして北九州のきれいな海岸線を眺めながら、海の中道を横切って福岡空港へ。

 空港に降り改めてビックリ。それにしてもネクタイ姿のビジネスマンが多い。今回は俺もスーツ姿なので、仲間と思われているかな〜。いやいや実は私就職活動中の身でございます。もしかして背中に「仕事探してます」と書いた紙をぶら下げて歩いていたら、簡単に福岡と東京に関係ある企業が見つかるんじゃないかと思う程大勢の、ビジネスマンご一行様であった。仲間にいれてくれ〜。

  時刻はお昼ちょっと前。このあとは昼メシ食って、リクルートでお茶して、夜は酒ば飲んで..と、簡単にはいかないのが世の中くさ。あっ、自然に博多弁が..  福岡空港は羽田空港と違い、市街地にものすごく近い。地下鉄で博多駅まではたった2つ目、10分もかからない。そして中州を潜り、あっというまに天神駅。博多駅を東京駅とすると、天神(西鉄福岡駅)は新宿、渋谷といったところだろうか。福岡のメインステーションである。

  そば屋でカツ丼を食って(就職活動に勝つどん!)「親不孝通り」をぶらぶらして(しかしすごい名前だ)リクルート関西(KRJC)人材センターへ。

  前もって人材登録と担当者とのアポは取っておいた。転職雑誌「ビーイング」九州版等で、福岡の募集状況は分かっているつもりだったし、東京とは違うということは覚悟していたつもりだったけど、思っていた以上に募集企業は少なく、また希望業界を不動産業等にしぼると、もう僅かに数社である(この時点ではリクルートで紹介してもらえる企業にかぎってのことだけど)。

 企業検索等だけでたいして時間はかからないと思っていたんだけど、いきなり「時間があるようでしたらごくごく簡単な、テストを受けてください。中学生レベルですから」と言われ、「簡単な」テストならいいか〜とあっさりOKしてしまった。時間は1時間半程かかるという。どこが「簡単な」テストなんだ?と思ったが、時間はある。しかしそんな余裕もテスト問題と向き合って見事に吹っ飛んだ。国語と算数、否俺にとっては数学、そして「簡単な」性格診断。そう「簡単な」のは性格診断だけだったのだ。最近の中学生レベルというのは、どうやら社会人レベルより上のようである。

  こんなことなら「平成教育委員会」毎週見ておけばよかった〜、と思っても後の祭り。特に「数学」というより「数が苦」に近いレベルの私大文系組の俺には残酷物語。まさかこんな所で冷や汗かくとは思わなかった。気になるテスト結果は、何とか平均レベルよりは上だったようでホッとしたけど、性格診断の方があまりにも納得のいく結果だったので、見透かされたようで少々怖かった。

  そんなわけで、午後はまるまるリクルート。西鉄電車に乗って夕暮れの福岡の街並みを眺めながら、太宰府の一つ手前の駅、五条駅へ。午後7時、というより夜7時だけど、福岡に来ていつも思うことの一つに、日の出、日没時間の違い、東京との時間のズレがある。同じ時間ながら確実に30分はズレている。日が暮れるのが遅い、ということは当然日が昇るのも遅い。「ズームイン朝」の生中継などを見ていると分かるけど、実際に体験すると東京との距離を実感してしまう。

  五条駅からすぐの所に「きみひろ」という和風居酒屋があり、ここで関両親と待ち合わせ。たまたま高校入試とぶつかり、よりによってよくもまあこの忙しい日に来やがったなこの迷惑客め的立場の俺は、カウンター席の一番端に行儀良く座り「とりあえず中生一杯!」といきたいところを我慢して、お茶なんぞすすりながら、BGMのジャズ!に耳を傾けながら、お忙しい関両親を待つ。関さんの為の席取りである(く、苦しい..)。

 10分程してお母さん登場。お父さんはまだ仕事から抜けられないようで、遅れるという。「わあ、やっぱり忙しいんだ、申し訳ございませぬ」。でもビールは先に飲ませて頂きます。つまみはやっぱり地元玄界灘の新鮮な魚である。とりあえず、「地ダコ」の地の字についひかれてブツを注文。これがまずクリーンヒット。そのあとも焼き魚、カキフライ、しめさば、牛肉のレモン焼き等、次々ヒットを飛ばしての打者一巡の猛攻は、お父さんが同僚の先生を連れて登場してからも、そのあとまた仕事の為学校に戻ってからも続いた。「やっぱり忙しいんだ。すみません」。しかしそれにしても旨い。冬の玄界灘に、玄界灘の漁師さんに感謝。乾杯!。

  ファミリーレストラン風のお店で、そばを食べて、深夜10時過ぎ、ようやく関宅に着く。外に出されたまま忘れられていた関家の愛犬「くま」に出迎えられる。といのはウソで、さっさと犬小屋へ入っていった「くま」だった。

  翌日、関家の朝は早い。福岡の夜明けは遅いのだけど、とりわけ関家の朝は早い。というか、お父さんの目覚めが早いのだ。外はまだ真っ暗、福岡の朝6時前。関父の一日は始まる。炊事、洗濯、掃除に育児?否育犬。共働き家庭の父母の役割分担は、昔からきちんと出来ているようで、夜の戸締まりは母、朝の支度は父。と、あうんの呼吸とでもいうのだろうか、当たり前のように、それぞれの役割を自然にこなす。「いやあ、すばらしい」と思うのは第三者であって、例えば、こちらの娘さんを貰っただんな様にしてみれば、実は大変な事なのである。娘はそんな父母の姿を当たり前のように見て育ったわけで、ということは自分の夫にも父のような働きを当然の事のように求める。それを求められた夫は、、、あっ、俺の事だけど、そうせざるを得ないのだ。そうしないと....「うギャ〜ッ」。  清々しい朝の目覚め、久々の朝食。でもやっぱり眠い。朝8時過ぎの新幹線で(えっ?)そうなんです、知らない人の為にちょっと説明しておこう。博多南線という関東一般人には馴染みの薄い、超ローカルBut超便利、超リッチ通勤路線が福岡にはあるんです。

 普通、東海道新幹線の終着駅は九州、博多駅かいなと思われるかもしれんけど、実はそうやないと。博多駅の先に博多南駅という新幹線の車庫駅があるっちゃが。この博多駅〜博多南駅間を地元の人々の為に、運賃220円という普通列車並の料金で乗せちゃおう!というのが博多っ子純情人情くさ!。スピードも普通列車並だけど、10分程度で博多駅に着くのだ。

  関父と博多駅でいったん別れて、俺は一人地下鉄で赤坂駅へ。「ハローワーク」。そう、いわゆる「職安」。生まれて初めて職業安定所なる所へ足を踏み入れる事になったのである。「職安」イコール失業者。イコール会社からつまはじきされちゃいました組というイメージを持っていた俺にとって、あまり気の進まない場所であったのだけど、そんな事言ってられない。でも実際行ってみると「職安」は清潔で、以外と静かな所であった。職探しのおじさん達でごった返しているかと思いきや、廊下は静かに速やかに!とでも言いたげな雰囲気は、図書館のようでスグに馴染めたのである。リクルートよりは求人情報の件数としては多そうだ。  求人情報にざっと目を通し、相談窓口で説明を受ける。30歳前後の女性の担当者は、なんだかすご〜くなまっていた。博多弁にも博多弁標準語系とか博多弁海だか山だか田舎系とかあるのだろうか?だとしたらこの人は確実に田舎系である。知らなかったんだけど、全国どこの「ハローワーク」でもパソコンで福岡の求人情報を検索出来るんだそうだ。「あっ、そうですか。じゃあ池袋のハローワークに行ってみます。さよなら〜!」と言ってしまっては、わざわざここまで来た意味がないじゃないか!ということで色々聞いてみた。自己都合で辞める場合でも、失業手当の手続きをしておけば一時金(準備金)が支給されるとか、在職中に就職先が決まると1円も出ないとか、色々と勉強になった。

  午後2時に天神ビル地下のレストラン街で、関父と待ち合わせ。(実はその前に天神まで歩いて、ついでに中州まで歩いて、映画「パラサイト.イヴ」を鑑賞なさったなんつー事は一応ナイショにしておこうっと。やべっ..) 「玄海なべ」という和食のお店に入る。向かいの「ライオン」という洋食のお店とは姉妹店。どちらも昔から関家御用達のお店だそうで、幼少の頃の三姉妹を覚えているという40才前後のお姉さん(?)が今でも働いていたりする。  あと2、3組でランチタイムもおしまいという時間だったけど、どこの店も満席、行列、相席が当たり前、だけど2時過ぎには「もうランチタイム終了!アイドルタイムだかんね!はい夜までサヨナラ!」「しょうがねえ、立ち食いそば?それとも吉野屋?」なんていう東京のサラリーマン昼めし事情とは違ってゆとりがある。みんな中ジョッキ2杯は当たり前、昼寝でもしていくか〜、というのは冗談だけど、ゆっくり味わって休憩の出来る「お昼」がある。そして、夕方までフリーの関父と、この日の仕事!を無事終えた俺にとって、ビールで乾杯!というのは自然なことなのである。刺身定食をつまみ(?)にお昼のお酒はすすむ。 当然のことながら刺身は旨い!のだけど、こちらでしか食べられないであろう「おきゅうと」「ごまあじ」など注文。ここでちょっと解説。「おきゅうと」は博多の朝の食卓には欠かせないと言うほどメジャーな食べ物だ。見た目は、こんにゃくを薄く細く切ったような感じで、こんにゃくよりも柔らかく、ところてんのようでもある。海藻で出来ているのだ。新鮮さとダシが決め手。酒のつまみとしても、お気に入りの一品である。「ごまあじ」の方は、実は夕べ「きみひろ」で注文し損ねたので、是非とも食べてみたいと狙っていたのだ。あじの刺身(たたき)に、しょうゆだれとたっぷりのゴマを和えたもので、これが「バリうま!」「バリうまか〜!」「ものすげ〜旨い!」。百聞は一舌にしかず(?)。是非とも一度ご賞味あれ。ちなみに「ごまさば」もあります。

  ランチタイムお疲れさまでしたの店長さんも一杯つき合って、否つき合わされて乾杯。博多の飲食事情など聞かせてもらいながら、ほろ酔い満足の昼食でした。  生ビール用の中ジョッキ2個手みやげに(関父です)、ごちそうさま〜。

  天神の駅ビルデパートといえば博多っ子の誰もが知っている「岩田屋」。食品売場を覗き、博多名物おみやげ定番の「辛子明太子」を買って、否買って頂き「ありがとうございます」、関父と別れて福岡空港へ。

  夕方5時過ぎの飛行機で帰路につく。雲の下は夕方でも、雲の上はまだ昼間という、微妙な時間だった。今回の単独博多遠征職探し編を振り返りながら、今後の事を色々と考える。4月10日付で、今の会社を退社する事が決まっている俺としては、やらねばならない事や決めなければならない事など、問題は山積みであり、よく考えてみるとワープロなど叩いている暇は無いのだ!という事にやっと気が付いたので、そのへんの事はまた今度。

  帰りがけ「千曲」に「辛子高菜」を届けて、今日はゆっくり眠るとするか..。                                    

                                       「し組」福岡通信