■セブンアイ
 
「岡崎朋美」


photo: Masujima Stadium
 もしも活動を休止していなければ、いや、彼らが活動をやめるはずはないのだが、ニュースを聞いて、アムステルダムの本部も狂喜乱舞しているだろうと思い、小さく噴き出してしまった。11月27日、スピードスケートの浅間選抜で、岡崎朋美(富士急)が単種目の五百メートルではじつに5年ぶりとなる復活優勝を果たした。女子スピード界を牽引するトモちゃんも、33歳である。

 アムステルダムに本部があるのは、「トモミ・ファンクラブ」。といっても支部はないが。海外を転戦するようになったころ、彼女の笑顔や人柄、何よりもアスリートとしての強靭さと美しさに、スケート王国・オランダで、オランダ人の男性と女性数人によるファンクラブが結成された。欧州での大会でも、彼らは岡崎を追っかけて国境を越え、リンクで手作りのプラカードとメガホンを持って声援を送る。何度か取材させてもらった。レース後、リンクを一周する際に、差し入れのお菓子や花束を渡す程度で、話せなくても、写真を撮れなくとも、岡崎がどんな不振にあえいでいても、笑顔で声援する、そういう人々の集まりである。

 本場にこんな愛すべきファンを持つ岡崎と、10月、今季初戦となる全日本距離別選手権(長野)で久しぶりに話をし、しかしいつも通り心を打たれた。
「たまには来てくださいよ、寒い方にも」と怒られてから、改めて、幾度となく経験してきた開幕戦は、今年はどんな気持ちだったのか、と聞いてみた。アテネ、アテネと騒いでいたら、さ来年はもうトリノ五輪である。

photo: Masujima Stadium
「心臓が口から飛び出すと思った」
 岡崎は、茶目っ気たっぷりに笑い出した。
「人前で滑る感覚って、独特なんですよね。視線に足が震えて、心臓がバクバク鳴り出す。今年は五輪プレシーズンですから、余計にプレシャーがありましたね」

 取材をしていると、結果や記録だけではない、背筋がゾクっとする「何か」を目撃できることがある。33歳のベテランの足が、普通の国内初戦でがくがくと震えている。そんな初心を見た開幕戦を、腰の手術にもケガにも勝利し続ける鉄の女の、あの真っ青な顔を、私は忘れられない。

「たまには、いいこともあるのですね」
 いいことは、たまに、かもしれないが、見ている方は、いつも、いつでもあなたに惹きつけられて、トリノで五輪も、もう4度目。

(東京中日スポーツ・2004.12.3より再録)

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