■セブンアイ
 
GK・春名真仁


 十勝沖地震で釧路市内の映像を見ながら、なぜかふと、釧路出身のアイスホッケーGK・春名真仁(前・日光アイスバックス)のことを思い出していた。随分会っていないが、GKというポジションへの興味から、サッカーを含む様々な競技のGKに話を聞いた『ゴールキーパー論』(講談社現代新書)を書いた際、彼に登場してもらった縁である。だから、その3日後、携帯の着信に彼の名前が入ったときは、偶然に驚き、何かあったのだろうかと胸が痛かった。職業柄、どうも悲観的になる。

「春名です、随分ご無沙汰してしまってすみません。お元気でいらっしゃいますか」
「何かありましたか?」
「いえ、報告です。北米リーグに行くことになりました。10月9日に出発します」

 悪い話どころか、彼が夢の入り口にたどりついたという嬉しい電話である。米国には、MLB(野球)、NBA(バスケット)、フットボールのNFL、そしてアイスホッケーのNHLと四大プロスポーツがあり、春名はNHLの下部組織、野球で言えば1Aに相当するリーグ、UHLのクアッドタウン・マラーズ(イリノイ州)への入団が決まり、トライアウトを兼ねて向かうという。

 アイスホッケーのGKには、「蝶」(バタフライ)と呼ばれる、独特の「構え」の形がある。ひざを内側に入れて立つために、左右線対称になることから付けられたもので、春名は柔らかな膝と反射神経をバタフライで生かし日本代表も努め、それが、この構えの創始者、アレール氏(カナダ)の目に止まった。釧路で育った少年は、10キロ以上にも及ぶ重い防具を身にまとうことが「本物の男に近づけるような気がして」と、GKに憧れ、いつかNHLでと夢を抱き続けた。

 下部組織とはいえ、NHLへの延長線上にあり、しかも、給料の支払いは週給で試合ごとに入れ替えのある厳しい世界である。
 GKとは何か、と聞いたことを思い出す。
「カナダに短期留学した時、GKは家を守る男だ、チームという家族を守るため侵入者(得点)を許すな、と叩き込まれました。好きな表現です」
 30歳の挑戦は、野球やサッカーのように華やかではない。しかし、心から祈りたい。日本から舞い降りた蝶が、その美しさ、激しさで本場のファンを魅了することを。

(東京中日スポーツ・2003.10.3より再録)

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